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74.題名?……特にないです。

お待たせしました。


どうぞ。


「……あの、陽翔、様?」


「……どうしてご主人はそんなに離れてるの?」



 ダンジョン内へと突入して直ぐに。

 皇さんとルオからそんな声がかかる。


 同行していると言うには確かに、少し距離を置いて歩いていた。


 

「ふふっ。新海君はあれだよ、照れてるんだよね、女の子ばかりだから」


 

 最後尾を任せていた赤星が、前を歩く桜田、そして皇さんとルオの頭越しにからかってくる。

 ははは……何を言っているのやら。



「……普通に戦闘面での配慮だ」



 だってヘイトが一番最初に集まるのは俺なんだもん。

 そうだ、それ以外の意味なんてない。



「ははっ、そうだね、ゴメンゴメン。二人も、あんまり距離自体は気にしない方がいいよ?」 

 

 

 赤星の分かってますよと言わんばかりの即座の謝罪に、少々モヤッとするも。

 それ以上はこの話を広げる意味もないと口を噤む。

 

 だが、それ以上広げようとする奴が、この中にいて――




「――えっと~。それは分かったんですが~。私達ぃ~、そもそも同じチームで良かったんですか~?」


「……桜田、疑問には答えるから、その間延びした話し方やめてくれ」


 ブってるのか何なのか知らんが、一々イラっとしてたら進む話も進まない。

 俺は視線を前に固定しながらも、手短に今回の経緯を話して聞かせる。


 

 

 俺とラティア達のグループ。

 そして志木達のグループ。


 それぞれ普段は別々で活動している。

 それが今回混合のチームとして活動することになったのは、このダンジョンの特徴が大きく関わっている。



「――? 私達が今潜ってるのって、本命のダンジョンなんですよね?」


「うん……2つ攻略して、もっというと順序もキチンと踏まえた上で攻略する必要があるらしいね」


 桜田の質問に適宜、赤星も混じってくれて簡単に説明していった。

 


 親ダンジョンと子ダンジョン。

 厄介な性質だがこれが今回一度きりであれば、普通に俺たちのグループが4人で親ダンジョンを担当しただろう。 


 そして子ダンジョンの方は志木達、つまり探索士アイドルの彼女らに任せて。


 だがこれは別に一回だけの特別な変異種などではなく。



「この先も、同じ様なタイプのダンジョンが出てくるかもしれませんからね」


「そそ。だから、私達よりダンジョン攻略に長けてる新海君たちがいてくれる今の間に、練習しとかないとってこと」


「あ、そういうことですか……」



 皇さんや赤星のフォローもありながら。

 桜田が大体納得してくれたようで良かった。


 まあこれは俺たち自身にも言えることだ。

 今後俺やラティア、リヴィル、そしてルオの4人でいる時に親子のダンジョンと出会うかもしれない。

 

 その時にパーティーを分ける経験がないと、ちょっと攻略するのに二の足を踏むことになるからな。

 メンバーの数に余裕がある今、俺たちも分ける経験をしといた方が良い。


 最も、志木なんかは他にも色々と俺には想像もつかない思惑もあるんだろうが……。



「ま、今回は俺がいるから、一番先にモンスターに狙われることはないはずだ。そこは安心してくれ」



 それ以外は軽々に請け負えないが、初めての即席パーティーだし。

 これくらいは大丈夫だろう。


 そんなちょっとした気遣いからだったのだが――



「おぉぉぉ……新海先輩は頼りになりますね、流石! 花織先輩のパートナーなだけあります!!」


 

 桜田が、意味の分からない返しをしてきた。



「あれ!? リツヒ!? だ、大丈夫!?」


「…………」 



 ちょっ、何か背後から凄い気配がするんだが!?

 ルオの言葉からするに、まさか皇さんおこなの!?


 おい、桜田、お前が変なこと言うから!!



「……バカなことを言うな」



 この話はこれで終わりだと短く切ったのだが。



「えぇぇ? でもでも! 花織先輩、新海先輩には結構気を許してそうって言うか~、対等の相手として肩の力抜いて接してるって言うか~」


 ええい、それで自分はちょっと目敏いんですと可愛い女子アピールしてるつもりか!

 

 んなもんあれだよ!

 単に志木が俺のこと童貞ボッチと見抜いてて、変な気を使わなくていいって黒かおりんモード全開で来てるだけだ!

 

 深い意味なんてないんだよ! 

 言っててこっちが悲しくなってくるわ!!


 

「うわっ、リッ、リツヒ!? 何か凄い凍えるような気配してるよ!? 大丈夫!?」


「…………」


 ほらぁぁ!!

 もう皇さん背後で激おこじゃねえか!!



「それ以上変なこと言ってると……志木にチクるぞ」


「ひぃぃぃぃぃ!? ゴメンなさいゴメンなさい! ちょっと調子乗ってましたもうしませんですからどうか花織先輩への告げ口は何卒何卒ご容赦ください!!」


「うっわ、ちょ、変わり身早っ!?」

  

 早すぎて怖いわ!!

 志木も志木で、こんなになるまで桜田に何したんだよ!?


「これをお納めください先輩! 特に意味もなく作ってたんですが黙っていて下さるなら差し上げます!!ですから、どうか、どうか花織先輩の耳に入れるのだけは!!」


 怖い怖い怖い!!

 ってかお前、隊列崩すなよ!!


「分かったから、さっさと赤星の前まで戻れ!!」  


 縋りつくようにして手に持っていたものを受け取ると、桜田はホッとしたようにして大人しくなった。




「あ、あはは……ゴメンね、まああれは完全にチハが悪いから、志木さんを恨まないであげて」


「……はぁぁ」



 まあ赤星にそう言われたら必要以上に気にするのもな。


 ただ、この手渡された物はおそらく……。





桜田(さくらだ)知刃矢(ちはや)公式ファンクラブ会員番号:0  新海陽翔』




 ……コイツも作るだけは作ってたのかよ。





「――はっ! ルオさん、私は一体……」


「……(ブ、ブルブル) 何も、何も無かったよ! うん!!」



 ……志木だけでなく、皇さんも皇さんで、怒らせたらダメだな。




 俺はそのことを固く誓いながらも、前方の様子の変化を感じ取っていた。 



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「あれは……」



 先頭にいて一早く察知したその姿は、大きなかぼちゃのような頭をしたゴブリンだった。

 そしてその体はボディービルダーなのかと見紛う程にムキムキで、人の体など一捻りしそうだ。



「えーっと……うん、“ホブゴブリン”だね」



 手で庇を作り、遠くを覗くようにしたルオは直ぐに、そのモンスターに当たりを付ける。

 相手は一方、単体でのっそのっそと歩いており、未だこちらには気づいていない様子。


 だがホブゴブリンか……。


 普通のゴブリンとは違うモンスターがいきなり現れたということからも。

 やはりこのダンジョンが一筋縄ではいかないことを感じさせるな。



「……強いん、ですか?」



 少し緊張した様子の皇さんがルオに尋ねる。

 尋ねられたルオはちょっと首を捻り、悩まし気だ。



「うーん……別に?」



 ……え?



「えーっと……じゃ、じゃあ気を付けるべきところとか、印象深い特徴とかは?」



 赤星が慌てたように皇さんの問に続いた。

 だが、それでもルオは何でそんなことを聞くのかと言わんばかりの表情。



「特に無いかな?」


「…………」


 そのルオの反応を見て、俺は何とも言えなくなる。

 ……ルオ、お前最近何か有名な炎上系の動画でも見たか?



「……えっと、ルオちゃんでしたっけ? 何か朝ドラとかにでも強い憧れが――」


「それ以上はよせ、桜田!!」



 ルオが他者を再現するドッペルゲンガーだということが。

 他人を演じる俳優という職業と通じる部分があって重なってしまい、余計に想像してしまう。



「兎に角――油断はいけないが、ルオの印象に残らないくらいなんだろう。なら予定通りだ」



「――グォォォ」



 ほらっ、あちらさんも多分俺のヘイトの有効範囲に入ったっぽいし。



「じゃあいくぞ――」   



 俺は手短に纏め、駆けだした。



 他のメンバーに注意が向かないよう、【敵意喚起(ヘイトパフューム)】を最大限に活用する事も忘れない。



「グゥィィ!!」



 口を大きく開き、唾液を飛び散らし、声を上げる。

 俺達の存在にようやく気付いた。


 そして思惑通り、俺へと憎悪ともとれる視線を向けたかと思うと――



「なっ!?」


「……えっ!?」


 

 ――皇さんの方を、向いた!? って、あれっ!?




「ギィィィッ!?」 


「な、何だ、今度は!?」 

 

 いきなり裏返ったような声を上げて叫んだかと思うと、まるで皇さんの視線から逃れるように一歩後ろに下がったのだ。

 

 その後はやはり俺へのヘイト値がちゃんとグングン高まったのか、俺へと向き直る。


 ……何だ?



 ただ、戦闘は既に始まっており――





「――やっぱりそこまでだったね」




 それはお互いにとって、だった。




「ギィッ――」


 大口開けて、何かをしようと溜めに入るその瞬間、ルオがホブゴブリンの頭上にいた。

 比較的広いダンジョン内にて、ルオは一瞬にしてその距離を詰め、あそこまで飛び上がったのだ。



「しぃっ!」



 軽く息を吐くくらいの気楽さで。

 モンスター頭上のルオは、振り上げた踵をその脳天に叩きつけた。



「ガグッ――」


 汚らしい物を見せるなとでも言うように、ホブゴブリンは口を強制的に閉じられた。 



 そして勢いは止まらず、ホブゴブリンは顔を地面とキスすることになって、更に空中へとバウンド。

 あの小さな体のどこからそんな威力が生まれるのかと不思議になる。


 

「追い打ち、行くよ! 二人とも!」


「分かってますよ!!」


「はい!!」 

 

 ルオの先制の一撃に一拍遅れて、赤星が後ろから桜田と皇さんを叱咤する。

 それに呼応するようにして3人が一気にホブゴブリンへと追撃した。


 うっわ、やっべ、俺何もしてねぇ!


 

 ここで【火魔法】の詠唱を始めるのも白々しいし。

 

 何の恨みもないが、ここはホブゴブリンタコ殴りに参加させてもらうことにする。



「うらぁぁぁ!!」



 参加してる感を出すためにも、何かそれっぽい声を出しておく。


 俺の前では、既に赤星と皇さんが連携を取った攻撃を決めていた。

 

 宙に浮いたホブゴブリンを、赤星が顔目掛けてナイフの柄を叩きつける。

 その勢いでまた少しだけバウンドしそうになったところを、今度は皇さんが顔面に肘鉄を食らわしていた。

 

 ひぇっ!!

 

 

「トドメです!」


「っ!! ぜあぁぁぁ!!」


 

 顔面に集中砲火を受けていることを無意識的にでも察知したのか、桜田が敏感にその波に乗ろうとする。

 桜田が持っているのは少女が持つには不釣り合いの大きなハンマーだった。


 

 志木グループの系列会社が手掛けた試作品と聞いている。

 だがあれでも決着をつけられそうなので、俺はタイミングを合わせて、ホブゴブリンの“股間”を狙った。


 そう、見るからに大ダメージを与えそうな急所だ。


 そこを同時に攻撃すれば、攻撃範囲の広そうな桜田がトチったとしても問題ない。

 

 


「ギギギッ――」



 俺の蹴り上げと、桜田のハンマーの叩きつけが同時にクリーンヒットして。

 呻くような、息を吐くだけの声が一瞬漏れ、パタッと手が地に落ちた。



「…………やったん、ですかね?」



 おいやめろ、フラグになるだろ。

 だが、桜田がホブゴブリンの顔前で手を振っても、一切反応はなく。



「……ふぅぅ」



 軽く一息。



「終わったね! 言ったでしょ、そうでもないって!」


 軽快な足取りでルオが近づいてくる。


「……だな」


 まあルオの一撃がかなり効いたんだろうとは思うが。


 それでも、普通のゴブリンより明らかに強そうなホブゴブリン相手に、一切攻撃をさせず圧倒した。


 

 思った以上に、この5人での戦闘は上手くやっていけそうだ。  

すいません、感想の返しは明日以降にまた行おうと思います。


ちょっと日中色々頑張る必要があって、体力的に早めに休みたくなり……すいません。



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― 新着の感想 ―
[良い点]  0号会員証コンプリートした事! [一言] >「これをお納めください先輩! 特に意味もなく作ってたんですが黙っていて下さるなら差し上げます!!ですから、どうか、どうか花織先輩の耳に入れるの…
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