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73.こっちのダンジョン攻略は心配ないようです!

ふぅぅぅ。


これで第三者視点は終わりです。


前話と比べて結構疲れました。

戦闘回だったからかな……。


とりあえずどうぞ。


「んっ!――」


 真っ先に動いたリヴィルは、その片腕に導力を集中させた。

 瞬きする間にあらゆる色に変化するその靄は、リヴィルの腕に纏われ、巨大な導力の腕を形作る。


 丁度ラティアの【デーモン・ハンド】から着想を得たものであった。

 闇をその腕に纏い、悪魔の巨腕がもたらす一撃とするように。

 

 リヴィルも、あらゆる物を貫く導力を纏った、巨大な腕としたのだ。



「ギャゥン!!」



 灰色の毛並みをした大柄のレッサーウルフは、モンスター達の中で一番に反応する。

 その鋭利な牙で、最も脅威だと判断した人間――リヴィルを噛み殺そうと駆けた。



「へぇ。意外と早いね――」


 

 そんなことを告げながらも、だが、リヴィルは一切表情を変えない。

 自分が噛み殺される未来など全く頭にないと言わんばかりに。


 それは傲慢からくるものでも、決して自身を過大に評価していることから来るものでもなかった。


 

 純粋な力量差。

 それを一瞬のうちに、しかも無意識的に認識。

  

 更にラティアをはじめ、守る者がいるという事実が、リヴィルに油断の一切を許さない。


 

 叩き潰す。

 完膚なきまでに。


  

「んっ――」 



 軽くその巨人の右腕を振るった。

 

 ジワッ――何かがマグマで一瞬にして溶ける、そんな音がした。



「ギィャ――」



 襲い掛かろうとしたレッサーウルフは、真っ直ぐリヴィルに向かって跳ねたはずだった。

 しかし、突如、視界が回転する。

 

 そして一瞬にして胴体より下の感覚が無くなった。

  

 何が起きたのか理解できず意識が失われる中、ただ反射のようにして自分の下肢へ目を向ける。

 

 

 

 ――血が、溢れていた。



 

 自分が食い殺すはずが、自分の胴体が完全に消え去っていた。

 恰も、巨大な生き物の顎に体全てを食い千切られたかのように。





「――私も、行きます!!」




 リヴィルの一撃に心強さを覚えながら、ラティアも自分のすべきことをなしていた。

 彼女に求められるのは、本来なら強力な魔法による一撃で、一気に片を付けること。


 ただ、今回は別の戦い方を選んだ。


 この今のパーティーだからこそできる、これもまたラティア本来の戦い方だと言えるもの。



「リア様! カオリ様! 1匹の警戒をお願いします!! 2匹は私が――」



 素早く状況を見極め、前にいる二人へと念のために牽制を頼む。



「了解! かおりん、行くよ!!」


「分かりました!」



 逆井と志木はこれに瞬時に反応。

 リヴィルの攻撃により、一瞬委縮したレッサーウルフへと駆ける。


 レッサーウルフ達は2人の接近に対して、我に返ったように吠えた。 

 残った小オークはまず何としても一番の脅威たるリヴィルへと当たろうとする。


 が、この戦況はやはり一気に勝敗が着くことに――

 



「――【チャーム】!!」




 ラティアの体から、薄桃色の幻想的な霧が噴出する。

 それは瞬く間に一つの矢のように纏まり、そして小オークへと一直線に飛んでいった。



「フゴッ!? フギィッ――」



 命中するや否や、その表情が一変する。


 ただでさえ赤茶色かった小オークの顔が、血が沸騰でもしているかのように真っ赤に変わった。

 そしてラティア唯一人しか見えていないという様にトロンとした目になり、鼻息も荒くなる。

   

 明らかにラティアに対して発情していた。



「――“攻撃”を」



 ラティアはそんな最も不快になる視線を受けながらも。

 表情を変えず、短く、ただそれだけ告げる。



「ブホォォォ!」



 すると、小オークは何が何やら分からないままに、仲間であるはずのレッサーウルフの1体へと殴りかかったのだ。



「ギャンッ――」



 真横から、全く警戒していない場所からの一撃を受け、その小柄なレッサーウルフは吹き飛ぶ。

 そして岩壁にぶつかり、力なくダラっとずれ落ちていった。



「良しッ!――はぁぁぁ!!」



 逆井は今の数秒の間で、ラティアが何かをして1体減らしてくれたことを理解。

 一番厄介そうなオークも襲ってこない。

 

 この勢いに乗り、自分も最後のレッサーウルフを倒そうと意気込む。


 

「ギィィ!!」



 低い唸り声をあげながらも、決死の勢いで噛みついてくる。



「ならっ!――」



 逆井は、噛まれるならそれはそれでいいや、と割り切った。



「梨愛さんっ――」



 志木が自分のことを心配しながらも、攻撃のための短い剣を手にモンスターへと迫っている。

 その勢いを無駄にすることはない。

 

 案外冷静に考えられている自分に感心しながらも、逆井はその長い脚を生かし、大きく蹴りを放っていた。


 その脚に、レッサーウルフは迷わず噛みついた……が。





 ――しなやかなのに、硬い。



 

 レッサーウルフは確かに捉えたと思ったものの、自分の牙が肉を通る感触が全く無い。


 逆井が履くブーツに、その牙は遮られていたのだ。




「そのっ、ままっ!!――」



 噛みつかれたものの、無自覚ながら信頼を寄せていたそのブーツに守られていた逆井は。

 勢いを止めることなく、レッサーウルフを、向かってきていた志木の方へと蹴りつける。


 

「ちょっ!? っ!!――」 



 流石に焦ったような表情を浮かべるも。

 志木は逆井の意図を瞬時に理解。


 蹴られて凄い勢いで飛んできたレッサーウルフを、その勢いを利用し、短剣で串刺しにした。



 純粋な力でもモンスターと対峙することができる彼女らの能力に加え。

 逆井と志木の咄嗟の連携により、そのレッサーウルフは一撃で絶命することになった。




「ふぅぅ……」



 逆井の意図を一瞬で汲み取れたこと。

 そしてそれに体がちゃんと反応してくれたことに、志木はホッと息をつく。

  

 その後緊張を解かずにサッと志木が振り返ると、残った最後の一匹――オークはリヴィルの手によって葬り去られた後で。


 ラティアのこと、そしてラティアと交尾すること以外何も考えられず無防備になっていたオークを倒すことなど、リヴィルにとっては欠伸をしてしまうくらいに簡単なことだった。



「いやぁぁ、このメンバーで初めての戦闘だったけど、意外とアタシら、行けるね!」



「ええ……そうね。勿論ラティアさんとリヴィルさんの功績が大きいけれど……」


 でも、自分達も戦えることは戦えていた。

 足を引っ張ったという感じでもない。


 だから志木は、戦闘自体はこの後も無理なく安全に行けるだろう、そう思った。



 ただ……。



「……ラティア、お疲れ。大丈夫?」


「リヴィル? ええ、勿論! 私は今回魔法も使っていませんから。殆ど完勝と言っていいでしょうね!」



 リヴィルがラティアのことを気にかけたように。

 志木も、ラティアの様子が少しだけ気になった。


 別に嘘をついているという感じではない。

 この後に何か起きるという嫌な感じでもない。



 ただ、ただ何かほんの小さな欠片程度だけども、胸に違和感が――





「――ラティアちゃん、無理しちゃダメだよ? やっぱ新海以外の奴にキモい目で見られるの、気分いいもんじゃないっしょ? しかもモンスターのオスっぽかったし」





 そこで、逆井が大胆にラティアとの距離を詰めて、直截的な言葉で彼女を気遣った。



「……いえ、勿論気持ちいいものではありませんが、ご主人様がいらっしゃらない今だからこそ積極的に使っていくべき、磨くべき能力ですから」



「無理しなくていいからね? アタシも頑張るし! 何ならアタシとリヴィルちゃんの二人で無双しちゃうからさ!!」

 

「……ありがとうございます、リア様」



 志木はそのやり取りを聞いて、ああ、なるほどと違和感が溶けていくような気がした。


 ラティアの能力発動の過程を見ていた志木とは異なり。

 逆井は能力そのものではなく、オークがラティアに下賎な目を向けて発情する様を見ていた。

 

 それでも、逆井の気遣いから出た言葉が、志木自身に巣食いかけた違和感をなくす切っ掛けとなったのだ。



「……私はいいけど、それだとカオリが抜けてるよ?」


「あっ! ……あ、あはは、ゴメンかおりん! わざとじゃなくてさ!!」  



 リヴィルのツッコミに、素で間違えたというように謝り倒す逆井を見て。

 


「ふふっ……」



 ラティアから、小さくだが、自然な笑みが零れる。



 ――ああ……、もうちょっと色んなことを知らないとな……。



 志木はそんなことを思う。



 リヴィルがあの青年のことをとても想っているように。

 ラティアもまた、一人の男性を想い、慕う少女なのだと。


 だからだろう、あの能力は確かに強力ではあるが。

 要するに心理的な負担が大きいのだ。 

  



「……もう! 酷いわ、梨愛さん!! 全く――」



 志木は表面上は怒った風に見せながらも。

 自分には未だ不十分な面を素早く察知してくれる逆井を頼もしく思ったのだった。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



 この後更に3度、計11体のモンスターとの戦闘があった。


 ただ4人の連携は先ほどのように見事に上手くいき、苦戦らしい苦戦は一切なく。

 その戦闘と戦闘の間隔が短く、多少息が乱れるくらいだけで。


 あっという間にダンジョン内のモンスター達は駆逐された。




「――おっ、やっぱりここがゴールっぽいね!」


「ええ、どうやらそのようね」




 そして彼女たちがたどり着いた先には、青い球体の結晶だけが浮かんでいた。



「これは……」



 ラティアには見覚えがあった。

 志木達と初めて会って、その後潜ったダンジョンで似た物を目にしていたのだ。



「恐らく“魔法石”ですね、これを壊せば“親ダンジョン”の攻略も可能になるかと」



 それを聞いて、素早くリヴィルがその前に立つ。

 


「お願いできるかしら?」


「ん――」


 志木の頼みに軽く頷き、リヴィルは気負うことなくその腕に導力を纏った。

 そして一突き。



 パリンッと呆気なく結晶は砕け散る。


 

 すると、ダンジョン自体に何か変化が起こるわけではなかったものの。

 


「あらっ――」



 志木の持ち物の中の“ある物”が、光り出した。



□◆□◆Another View End◆□◆□  

   

補足しておくと、ルオを助ける際もチャームは使ってますね、ただあれは主人公の指示でもあります。

それにルオは同性ですし……。

心理的抵抗はグッと下がってるんですね。


で、後次回は主人公たちのチームです。

なので視点も主人公視点に戻ります。



さて――

ご評価いただいた方は1104名になりました。

ブックマークは8566件に!


三連休だったからでしょうか、この間にかなりブックマークをしていただいたという印象です!



少しずつでも止まってしまうことなく増えていくことを実感できると、やはりやる気に繋がります。


本当にありがとうございます!


今後もご声援・ご愛読いただけましたら幸いです!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白くて毎回楽しく読ませてもらっています。 これからもよろしくお願いします。 [気になる点] う~ん、なんで主人公のパーティーを分けちゃうかなー・・・って感じです。 この小説を読んでる自分…
[一言]  魅了……男所帯でロックブーケに挑んでしまった悲劇かな? > 「……いえ、勿論気持ちいいものではありませんが、ご主人様がいらっしゃらない今だからこそ積極的に使っていくべき、磨くべき能力です…
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