72.Aチーム、意外と上手くやっているようです!
主人公がいない方のチームですので、第三者視点になります。
そしてちょっといつもよりは短めに。
三連休なので、こういうちょっとでも余裕があるときに、普段やらない第三者視点みたいなことを少しでも書く機会を設けておきたかったんです……。
すいません。
ではどうぞ。
□◆□◆Another View ◆□◆□
「……やっぱり出来て殆ど間もないからかしら、中もかなり狭い印象ね」
新たに生まれた方のダンジョン――彼女らが“子ダンジョン”と呼称する場所の中へと入ったAチームの面々。
志木は圧迫感を覚える洞窟状の周囲を、油断なく見回している。
彼女は逆井と共に中衛を担っていた。
「ですね。分けて正解だったと思います。9人で入ってもただ場所をとっただけになったでしょうから」
一方、その志木の言葉に同意したラティアは最後尾。
先頭にて前衛を担うリヴィルや、自らの敬愛する主人と攻略してきた数々のダンジョンと比べても、かなり狭めだと感じた。
「まあこれくらいなら集団の戦闘でも問題ないと思う」
一番前で、モンスターとの接敵も一番最初になるはずなのに、何の気負いもなくリヴィルはそう告げる。
「おぉぉぉ……やっぱ凄いね、リヴィルちゃん。カッコ良すぎ! 女の子にもモテたりしない?」
そんなリヴィルの背中を眺めながら、逆井は素直に感嘆の声を上げる。
普通とは隔絶した美貌。
同性ですら見惚れる、そんな容姿をしているリヴィルだ。
その上でサラッとこういう言葉が出てくるところもまた、彼女の魅力を一層引き上げていた。
ただ逆井のその言葉に、リヴィルは思い当たる節でもあるのか、苦い顔をする。
最前列にいるため、3人からは見えない。
仮に見えたとしても、普段から主人に変化に乏しい表情と評されるリヴィル。
その顔は一瞬にして元に戻っていた。
「フフッ……買い物の時、リヴィルが男性だけでなく、女性にも声を掛けられるところを良く見ます」
そこで告げ口をしたのはラティアだった。
ラティア自身は別に面白がったわけではなく、ある意図の元、実例を挙げたのだ。
「へぇぇ……まあ、言われると納得だわ。リヴィルさん、とても美人だもの」
ラティアの言葉を受け、志木が純粋に思ったことを口にする。
自分の容姿が相当に優れている物だということを、志木自身も客観的に認識していた。
その志木から見ても、リヴィルは他とは一線を画す美しさをしていると素直に思う。
女優やアイドル、モデル、どれでも通用するし、その第一線で活躍できるだけのものであると。
「……私は、マスターが少しでも喜んで、気に入ってくれれば、それで十分だから」
志木の感想に答え難そうにしながらも、リヴィルは言葉少な気にそう告げた。
ラティアはそれだけでも十分満足だと感じる。
このメンバーは志木を自らの主人に置き換えれば。
あの温泉街の外れにあったダンジョンで、ボスを倒すために組んだパーティーメンバーになる。
つまり、自分とリヴィルと逆井の3人は一度組んで、ダンジョン攻略をしたことがあるのだ。
対する志木は確かにラティア自身と面識はある。
しかし、リヴィルとまともなコミュニケーションをとるのは、おそらくこれが初めて。
だから、少しでも会話の糸口を作れればと思っていたのだ。
「……そう。リヴィルさん、彼のことをとても想っているのね」
そしてラティアの想像以上に、志木はリヴィルのことを知って、そして理解してくれた。
自分達には色々と辛い過去がある。
話せないことも多い。
そんな中で自分達を知ってもらう上で、何が一番重要かと言えば。
それはやはり、自分達がどれだけ主人のことを想っているかというその一点だった。
それさえ実感として理解してもらえれば、おそらくそれだけで事足りる。
他の細かいことはおいおいでいいのだ。
「…………」
リヴィルはそれには答えなかった。
しかし、その沈黙は空気を悪くするようなものではなく。
不思議と心の距離が近づくような、そんな柔らかい空気を作る物だった。
「はぁぁぁ。新海め……多分今後も増えるんだろうなぁぁ」
「……フフッ」
志木は、その逆井の呟きには聞こえていないフリをした。
あの、色んなことに気を回すくせに、変なところで鈍感な青年のように。
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彼女たちは警戒しながらも、5分程また歩いた。
特にモンスターと会うこともなく、今のところ順調に進んでいる。
「……そういえば梨愛さん、あなた、見ないブーツを履いているのね」
志木が、隣で足運び軽く進んでいる逆井を見て、そう尋ねた。
何か深い意味があったわけではないが、緊張しっぱなしも気疲れするだろうと。
だが聞かれた方の逆井は、その指摘にドキッとする。
「えっ!? あ、いや、うん! えーっと……」
「……?」
その逆井の慌てように、変なことを聞いただろうか、良く分からないといった風に、志木は首を傾げる。
一方、二人のやり取りを後ろで見ていて、ニヤリとしたのは勿論一人しかいない。
「その水色のブーツ、探索士の制服ですか? それと、とても似合っていますよ?」
ブーツの件については白々しくも、しかし、似合っているという点においては本音を告げるラティア。
実際に逆井自身が素材もいいとあって、大胆ながらも清楚さを失わせない色合いをしたブーツを、見事に履きこなしていた。
「そ、そう? え、えへへ……」
照れる逆井に、ラティアはしれっと追撃を放つ。
「ですが……探索士の方が皆さん履いているというわけではないですよね? リア様だけがお持ち……――何か……そのブーツと合わせるセットの上下があったりして」
この時、彼女の主人がよく心の中で評する“黒ラティア”なるものが、一瞬だけその表情に現れていた。
知っているくせして、それを全く感じ取らせない――この淫魔の少女は、偶にこういう所が無自覚にだが、あったのである。
「あ、あはは……ラティアちゃん、凄いね、まあ、そうなんだけど」
逆井は恥ずかしそうに頭を掻いて、アンダーウェアを少し引っ張った。
そしてその中を覗き見て、戻し、また照れたように笑う。
「一応下に着てるんだ。折角貰ったものだからさ。でもやっぱりかなり恥ずくて……“もう一回”誰かに見せるとなるとね」
ラティアは敏感に、その一言を聞き取った。
その一言だけで、逆井と主人との間にどういう感じのやり取りがあったかを察し、満足げに頷く。
目的の物は美味しく頂きました、後はもう十分ですと言わんばかりに、ラティアは引き下がった。
「…………」
この一連のやり取りを無言でいたリヴィルは、決して聞いていなかったわけではない。
というかかなり興味津々で耳を側立てていたが、単に口数が少ないので聞くに徹していたのだ。
そしてチラッと後ろを振り返ると、ラティアが満足気な表情をしている姿が目に入った。
――ああ、多分なんかマスター絡みなんだな……。
リヴィルの直感は当たっていた。
そして、その鋭い直感は別のところでもちゃんと働き、異変を敏感に察知する。
「――3人とも、敵」
短く、それだけを告げた。
リヴィルの言葉に反応し、3人は瞬時に切り替えて迎撃の態勢を整える。
「……へぇぇ、狭いとはいえ、やっぱり結構いるんだね、モンスター」
逆井が口にした通り、彼女らの前に現れたのは4体ものモンスターだった。
1体はかなり小柄ながらも人の子供ほどはある小オーク。
そして残り3体は大小差はあれど、同種の魔獣、レッサーウルフだった。
「ですね。とはいえ、これだけ進んでようやく出てきたんです、意外とゴールは近いかもしれません」
油断なくモンスター達へと視線を向けるラティアは、主に逆井と志木へ向けてそう告げる。
同数ということで、もしかしたら緊張・不安があるかもしれないとの気遣いからだった。
だが二人は怖がることもなく、特に志木はラティアからかけられた言葉の真意すら読み取り、更に頭を働かせていた。
「……なるほど。つまりゴールに近い場所を守っていたから、今まで出会わなかったと?」
そこには出来立て・産まれたてほやほやのダンジョンであるということが、もう一つの根拠となっていた。
生存本能のように、要は生まれて直ぐに、一番守らなければならない場所の近くを、優先的にモンスターは守るのではないか、と。
「なら、余計やる気出てくるね! よっし、後ろは任せてリヴィルちゃん!!」
二人のやり取りを頭の中で必死に追いかけながら、それを理解し、逆井は気合を入れる。
その頼もしい言葉に、振り返ることはないものの、リヴィルはしっかりと頷き返す。
「ん。じゃあ、一気に行くから――ッ!!」
そして、モンスター達が襲い掛かってくる前に、駆けだした。
混合チームの初の戦闘が、始まる。
次回で多分Aチームの第三者視点は終わらせられると思います。
その次に主人公たちですね。
うーん……ラティアが順調に小悪魔として暗躍しております。
主人公め、どんどん苦しめばいいんだ(ゲス顔)。
さて――
ご評価いただいた方が1100名を超えました!
本当にありがたいです。
ブックマークの8533件とともに、少しずつでも増えていることを確認できるとやはりホッとしますから。
日々色々と考えてしまい、焦ったり悩んだりすることも多々ありますが。
そういう中でも書き続けていると発見もあったり、出来るようになってい来たこともあったりと、確実に自分の血肉となっていることを実感します。
それもやはり自分のやる気・奮闘だけでは続かなかったでしょう。
皆さんのご声援・ご愛読いただけている事実があって初めて、継続する力となっていると思います。
本当にありがとうございます。
今後もご声援・ご愛読いただけましたら嬉しいです、よろしくお願いします!




