71.同時の攻略進行に備えよう!
今日は、突如として不定期に訪れる“書きたくないよ症候群”に襲われました。
生活リズムとか、今の作品のランキングとか全く関係なく、「今日は梃でも動かねぇぜ!」と言わんばかりの筆の遅さ……。
すいません、感想の返しは明日以降にさせて下さい。
誤字等の直しはしておきますので。
ではどうぞ。
「2つになった……分裂かな?」
無性生殖みたいなことだろうか。
志木の言葉を聞いて、率直に思った感想を口にする。
「分裂……無性生殖か。――ダンジョンってそもそもオスとかメスとか、性別って無いのかな?」
純粋な疑問を抱いたらしい赤星が、俺の言葉を拾った後にそう言った。
「え~あったら嫌じゃない? 『うふふ、私ダンジョンなの~!』とか『俺、ダンジョンなんだぜ!』とか言うってこと?」
逆井は逆井で、良く分からない感覚で話しているが……。
「「…………」」
うっ……。
ミラー越しに、リヴィル・ラティア二人の視線がこちらに向いていることを察する。
“それについてはマスター(ご主人様)、詳しいでしょう?”と、2人の目が雄弁に語っていた。
いや、ダンジョンの性別の話はしてもいいけどさ。
でも元々はダンジョンが一瞬で2つになったって話でしょ?
それは二人の方が詳しいんじゃね?
「…………」
そう思って俺も無言の視線を送ると、リヴィルが振り返り、後ろの席のラティアと視線を合わせていた。
「ダンジョンがダンジョンを食べることがあるのなら、その食べたダンジョンを吐き出す、みたいなこともあると思ったのだけれど……」
少しざわついた車内を気にしながらも、志木が自分の感じたこと、推測を語って聞かせる。
それを踏まえた上で結論が出たのか、リヴィルが控えめに手を上げた。
「あのさ――」
志木が一早くそれに気づき、笑顔で発言を促した。
「あっ、どうぞ。気づいたことや知っていることがあれば、遠慮なく教えてね? 勿論ラティアさんやルオさんも」
その優しい声音からも、3人のことを凄く気にしてくれていることがわかる。
……ふむ、なるほど、ラティア達に対しては白かおりんで接するんだな。
俺にだけは黒かおりんとか……酷い。
横暴だー!
俺にも白かおりんのアイドルスマイルを要求するぞ―!
「……ん? 何かしら? 今リヴィルさんが発言してくれるところなんだけど」
「いや、何もないッス」
ヒェッ!?
怖っ!
どうでもいいこと考えてるのバレた!?
エスパーかよ!
くっそ、こっちに向けてくるのは同じ笑顔のはずなのに、目元が全く笑ってねぇ。
俺、あなたのファンクラブの会員で、しかも0番なんでしょ?
“笑顔なんて誰でもできるもん! 貴方に見せる笑顔なんてこれで十分だもん!”ってか。
まあ、別にそれでいいけども……ぐすん。
新海陽翔、頑張ります!
「……はぁぁ、ごめんなさい、話が逸れました。――それで、リヴィルさん」
軌道修正を図り、改めてリヴィルの発言を聴く姿勢に。
「う、うん――」
志木の雰囲気の変化に少し戸惑いながらも、リヴィルは数瞬の間沈黙し、頭の中を整理する。
そしてゆっくりとその口を開いた。
「えーっと。断言はできないけど……聞いてる感じだとさ――ダンジョンが、“子ダンジョン”を産んだって可能性、あると思う」
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「――到着しました」
車が止まった後、椎名さんは地図と目の前の光景を確認するように見比べていた。
暫く車内で情報共有する時間が続いて。
俺達はようやく目的の場所へと到着したらしい。
志木から聞かされた話では、どうやら彼女の祖父が所有する土地らしいが――
「ふあぁぁ……広いところだね……」
「……ですね、自然豊かで、別荘も置いてあるそうです」
車外へと降りていくルオと皇さんが仲良く話す声が聞こえてくる。
確かに、目の前に広がる光景は、感嘆の息が漏れる程に綺麗な緑で溢れていた。
市街地からは随分離れることにはなったが、空気も澄んでいて車内でさえも気分がいい。
他のメンバーも次々に車外へと降りていく。
俺も降りようかな、とドアに手をかけた時、声がかかる。
「……花織様は言及されませんでしたが、志木会長が休暇の際、花織様やご家族と過ごせるよう私費でご購入されたようです」
何かを調べるために視線をスマホに落としながらも、椎名さんが隣でそう呟いた。
……へぇぇ。
お爺さんが自分たちとの時間のためにと買った土地に、モンスターなんて出て欲しくは無いだろう。
――ってかそうか、何で椎名さんがそんなこと触れるのか一瞬図りかねたが。
公私混同したくないから志木自身はそこには言及しなかったけど、椎名さんはその気持ちを汲んだってことかね。
できる従者だねぇぇ。
でも、それをなんで俺だけに言うのか。
日曜日なのに朝早く起きて、あんまり働き過ぎたくはないけど……。
「……じゃあ、なおさらダンジョン、早いとこ攻略しないとっすね」
俺はドアを開け、降りる間際そう告げる。
すると、椎名さんはやはりこちらを向きはしないものの――
「……お気をつけて」
と返してくれたのだった。
……ウっス。
今度は声には出さず、そう心の中で呟いた。
さて、行きますか……。
そう格好をつけたようにして出ていこうとする――
「――あ、それと、後ろのもう御一方を起こしてあげてくださいね」
「…………」
無言で一歩戻って。
後ろの座席へと視線を投げる。
既に他の7人は降りて準備を進めている中。
最後尾の俺から見て一番左。
アイマスクとヘッドホンをつけた一人の少女の姿が、何とか視界に入った。
「――すぅぅ……すぅぅ……んっ……すぅぅ……」
見事な爆睡である。
マジか……。
「はぁぁ……」
俺は一度車を降りて、外に出る。
そして後ろのドアを開け、わざわざまた再び車内に入った。
中を進んでいき、ヘッドホンを取り、ペチペチとそいつの頬を叩く。
「おい、起きろ、“桜田”。もう目的地着いたぞ」
ついでにアイマスクも取り上げる。
そういえば最初からずっと寝てたのか、コイツ。
図太い神経してんな……。
「……すぅぅ……んぁ? えぇ、あに? チハちゃん……寝不足だから、まだ寝てたいんだけど……」
「後にしろ~。でないと、志木の雷が落ちんぞ~」
期待はしていないが、適当に効きそうな言葉を選んで脅してみる。
すると――
「――ひぃっ!? ゴメンなさいゴメンなさい!! 今すぐ起きます何なら24時間目覚め続けます靴も舐めますですからどうかどうか“アレ”だけは勘弁してくださいぃぃぃぃ!!」
「うわっ!? えっ、怖っ!?」
一息に謝罪の言葉を並べ立てて、桜田は文字通り飛び上がる様にして車外へと出ていった。
その姿は必死そのもので、俺の存在すら目に入っていなかったくらいだ。
……えぇぇ、“かおりん”名前出すだけで効きすぎだろ。
桜田に何したんだよ、志木の奴。
「……花織様を下手に怒らせないことですね」
椎名さんから多くは語らないながらも、ありがたいお言葉が届く。
「……肝に銘じておきます」
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
停車した場所からそれほど離れていないところに、件のダンジョンの入口はあった。
そしてそこから10mも離れていない草の絨毯の上にて、皆は集合しているようだ。
「うっわっ、ダンジョンの入口の穴二つありますよ!? っていうかあのエロ美少女さんとクール美人さんと可愛らしいボクッ娘の美少女誰ですか!?」
「……チーちゃん、ずっと寝てて全く話聞いてないんだ」
追いつくと、桜田が寝起きでも元気に騒いでいるところで。
ダンジョンの入口だけでなく、ラティア達の存在にも驚愕していたのだった。
そういえば誰一人として紹介してなかったな……。
「――ですね、大きさの違いが如実です。明らかにあちらが新しい、つまり産まれたばかりのダンジョンということでしょうね」
「ええ。私が見た時も、右側にダンジョンが新たに出現したの。だからラティアさんの言う通り――」
目の前では既に志木がラティアを連れて確認作業を進めていた。
入口は隣接するようにして芝生の真上に二つあって。
そして左側の入口は右側のものに比べ二回りほども大きい。
「――ダンジョンがダンジョンを産む、か……全部が全部そうじゃないにしても、面倒だね」
赤星が俺に近づいて来て、入口両方を警戒した視線で捉えながら、そう告げる。
「それが事実だったらな……しかも“子”の方のダンジョンを潰さないと、“親”のダンジョンを攻略することはできないと来た」
先ほどの車内でのリヴィルとラティアの情報はそう言うことだった。
つまり、ダンジョン自身が、新しいダンジョンを産むことがあると。
それらは便宜上、元のダンジョンを“親ダンジョン”と呼び。
新たに生まれた方を“子ダンジョン”と呼称するそうだ。
ゲームとかでもよくあるが、例えば魔王が直接支配・運営するダンジョンがあったとする。
そして四天王みたいな幹部もダンジョンをまた、それぞれ持っていて。
それらのダンジョンを攻略する、あるいは攻略して得たキーアイテムを得ることが、魔王のダンジョンへと入ることができる条件だったりする。
今回のことは、その場合と似たように考えることができて。
要するに子ダンジョンを攻略しない限り、親ダンジョンの攻略はあり得ないと言うことだった。
「うん……戦力を分散する必要が出てくるね。今回もだけど、今後も……」
「……だろうな」
赤星の言いたいことは、つまり。
これに限らず、今後も同じような親子関係のダンジョンが出現した場合、対応を考えないといけないということだ。
今回こそ入口の大きさから、どちらが親ダンジョン子ダンジョンかが明らかだが。
もし見た目で判断できない場合が出てきたら?
片方に戦力を集中して、親ダンジョンだった場合、また戻って子ダンジョンに入り直すことになる。
それはそれで堅実かもしれないが、時間が限られている場合、その方法は取れないのだ。
それに今回のように子ダンジョンが親ダンジョンの真横にとどまっている保証はどこにもない。
それも踏まえて、多分今回は二つに分けて、同時に進めていくということになると思う。
「――皆! 話し合った結果、今回は二つのチームに分けて攻略を進めることにします」
その後。
幾つか事務的なことや懸念なども話し合った結果、やはり二チームで同時にダンジョンに入るようだ。
9人全員で子ダンジョンを攻め。
その後親ダンジョンをまた皆で、という選択肢もあるにはあった。
ただ、今後また同じことが起こった際、今のように万全な状態で攻略を進められるわけではない。
「規模から考えて小さい方担当は4人、親のダンジョンには5人を割り振りたいと思います」
そのためにも、2チーム同時進行で攻略していく方法を試したいと。
……まあ、志木的には、公私混同をできるだけしたくないという気持ちもあるんだろう。
他のメンバーの拘束時間は少ない方が良いし。
戦力が最大で危険が少ない今回のうちに、同時攻略を試して探索士として情報を集めたい、と。
「まあその方が良いかもね、リツヒやボクは小柄だからいいけど、多分9人で行っても大所帯過ぎるんじゃないかな?」
「……ですね、ぎゅうぎゅうで狭かったら、そもそも動き辛いでしょうし、大勢の利点を生かせないかと」
傍らでは、子供らしく素直な感想を述べあうルオと皇さん。
確かに彼女らが言うような面もあるだろうなぁ。
「……ねえラティア、チームを作るとして、どれくらいの人数が一般的?」
うぉっ、リヴィル、それをラティアに聞くの!?
ラティアの過去的に、それはちょっとキツくないか――
「ん~、普通多くても1チーム6人程、じゃないですかね?」
と思ったが。
特に気にした様子はなく、細くて綺麗な指を顎に当て、普通に答えていた。
……何だ、大丈夫っぽいな。
「――じゃあ一応小さい方をAチーム、大きい方をBチームとして……」
そうして一人で心配して、一人でホッとしていると。
志木が次々とメンバーの名を告げて行った。
「――じゃ、よろしくね、リヴィルさん、ラティアさん」
「うん、よろしく。モンスターは基本私が潰していくから。カオリとリアは、ラティアを守ってくれれば大丈夫だから」
「うっわ、相変わらずリヴィルちゃん男前っ! ……アタシ今回も殆どやることないかもね」
「いえ! リア様とカオリ様に守っていただけるとなると、とても心強いです! よろしくお願いしますね?」
Aチームはラティアとリヴィル。
そして志木と逆井の4人だ。
この4人が、子ダンジョンの方を担当してくれる。
「――うぇぇぇ……私が何で本命の方のダンジョン担当なんですか? 颯先輩は兎も角、こういうの、梨愛先輩や花織先輩の方が適任なのに」
「ハハッ、チハ、大丈夫だよ。新海君もルオちゃんもいるし、ね ?」
「……まあ桜田がモンスターに一番最初に狙われることはない、ということは保証しといてやる。勿論赤星もだし、皇さんもだ」
多分ヘイトは一番に俺に向くだろうからな……。
「……その、よろしくお願いします、陽翔様、ルオさん」
「うん! 任せてよ! ご主人とボクがいるから、大体のことは何とか出来るから!!」
Bチームは俺とルオ。
それに桜田と赤星、そして皇さんの5人だ。
本来なら俺とルオはある理由から別チームにするつもりだったが。
リヴィルが「小さいダンジョンくらいなら、多分一人でも対応できるよ」と言ってくれたので、予定変更。
多くの事態に対応する必要があるBチームに二人で入ることになった。
「じゃあ皆! 休憩を挟んで、攻略に向かいましょう!!」
「「「おぉぉぉぉ!!」」」
志木の掛け声に、皆揃って大きな声で答える。
……流石は志木だな。
俺と違って普通に主人公っぽい……。
そんな変な感想を抱きながら、俺も攻略へと備えるのだった。
次話以降は本文の通り、2チームに分かれて行動していくので視点を変えることになると思います。
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更にブックマークも8500件に! 後1500件ですか……決して無理な道のりではありませんね!
何とか今日のみたいな“書きたくないよ症候群”が長くは続かないよう、無理目にでもテンションを上げて行きたいです。
テンション上げる音楽ガンガンに聴いて、早めに寝ることにします……。
ご声援・ご愛読いただき、本当にありがとうございます。
今後もまたご声援やご愛読いただけましたら嬉しいです!
よろしくお願いします!!




