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68.お前は逆井を殺す気か!?

お待たせしました。


ではどうぞ。


“貴方に伝えたいことがあります。下記の日時場所にてお待ちしております”


 あの後無事、皇さんを送り終え。

 

 何の変哲もない俺の学園祭は終わりを告げた。


 そしてその後の平日を何事もなく消化し終える。

 ただ、授業はいつもよりも少なかったはずだが、いつもよりも気苦労の多い1週間になったと思う。



 そして明日は休日となる金曜日の夜。

 あの会員カードのことはとりあえず棚上げし、俺は一緒に入っていた台紙を眺めていた。



“……もう、黙っていることなんてできません! 直接お会いして、お伝えするしか!”



「……はぁぁ。全く、志木め、何を企んでるんだか……」



 一見恋する乙女の恋文のように見えなくもないが、そうとってしまうと志木の掌の上で転がされることになる。


 大体、別に可愛らしいピンクの便箋に書き連ねられているわけでもない。

 そして極めつけは、俺が黒かおりんという裏の顔を知っているということ。


 それらから判断して、これが恋文のはずがない。

 そう確信しているために、俺は女子からの手書きの贈り物だというのにも関わらず、一切胸が高鳴らずに、平常心でいられた。


 むしろ疑念100%マシマシで裏がないか慎重に目を通すほどだ。



“……貴方のことを慕う、綺麗で可愛らしい女性達がいることも知っています。そこに彼女たちもお連れ下さい。そこで全ての決着をつけたいと思います!”


 挙句はこれだ。

 

 これも一度目にしただけでは、単に想い人の傍に別の魅力的な女性がいることを知っている、と。

 そして自分は負けないんだ、それだけあなたのことを想っているんだという決意表明に見えなくない。


 でもこれ、要はラティア達もその場にできれば連れてきて欲しいということだろう?

 つまりダンジョン関連で大事な話があると。



「何だろう……カモフラージュか何かかね……」



 志木は特に世間、そして世界からも注目を集める一人となっている。

 キーワードみたいなものは使わず、漠然とした表現をするのも、念には念をということなのだろうか。  

 


 そんな考察をしていると、机に立てかけるようにして繋いで置いていたDD――ダンジョンディスプレイから音声がした。



『――新海君、OKです!』


「ん――」



 俺は言葉少な気にそれだけ答えて、同じく傍に置いていた、新品のボイスレコーダーを準備。

 そして再生ボタンを押し、画面に向かって“どうぞ”という感じで掌を差し向けた。


 それから一拍程空いて、声が挿入される――






梨愛(りあ)、お久しぶりです。私は元気ですが、そうですね……梨愛の手が届かないくらい遠い遠い所にいて、ちょっと口では言えないような目に遭うこともありますが、毎日が楽しいです! こちらの方がむしろ今まででは味わえない刺激的な経験も沢山――』



「――お前は誰かに寝取られでもしたのか!?」



 俺は問答無用で織部にツッコミを入れ、ボイスレコーダーの停止ボタンを押した。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



 危ねぇぇ。

 織部め、逆井に致命傷でも与えたいのだろうか。


『ネトッ!?――そんなことありません!! 何を言い出すんですか、ま、まだ誰の物にもなったことすら、その、無いのに……』



 いや、何でそこで尻すぼみになっていくんですかね……。



「織部なら直ぐに良い奴見つかるだろ……ってかそうじゃなくて。――あのな、ただでさえ逆井は最近クソ雑魚メンタルで弱ってんだぞ? そこに追い打ちかけるような内容の音声送ってどうすんだ」


 ライブの成功自体には喜んだだろうが、一方で学園祭の劇に出席できなかったことを気にしているとも赤星から聞いた。


『でも、新海君が言ったんじゃないですか! 異世界にいるとバレてしまう決定的な言葉は避けた方が良いって』


「いや、言ったけども……」


 それでも内容がマズ過ぎるだろ。

 

 逆井は初心な癖してビッチギャルっぽい感じで通しているからな。

 そういう方面に対する知識だけは持ってるはずだ。


 そんな逆井に今の録音内容を送ってみろ。


 親友の生存を知って喜びに浸る暇もなく、上げて落とす寝取られ報告っぽくなってんだ。

 終盤のジェンガメンタルな逆井じゃあもう呆気なく崩れ落ちんぞ。



『むぅ。じゃあどうすればいいんですか』


「何で怒ってんだよ……」


 あぁぁ、これはいつものパターンか。

 宥め役のサラもいないし、流したほうがいいか……。


『怒ってませんよ、フン。どうせ私は良い相手なんて見つからないムッツリのドスケベ淫乱な痴女ですよ……そりゃいつまで経っても自薦なんてないですよね』


 そこまで言ってないのに。

 それに自薦って……。

 

 織部、容姿も性格もかなり良いんだから、潜在的に織部を好きな奴は結構いると思うんだけどな……。 

 それこそ立石とかじゃないけどさ。



 異世界で、いい男との出会いが無いのかねぇ?






「――織部、確かに使う言葉は選んだ方がいいだろうが、織部自身が生きていると知らせることが主眼なら、それほど難しいことはない」


 あの後また少し取り乱したものの。

 自浄作用が働いて直ぐに冷静さを取り戻した織部に、俺は整理した考えを伝える。



『……でも、生きている“だけ”の報告だと、なんだか味気なくないですか?』


「そこは工夫のしようだ。例えば……」



 俺は少し考える間を空け、頭の中で適当に文章をこしらえる。



「“ニュースで良く取り上げられていますよね、シーク・ラヴ。親友としてとても誇らしいです”――これを言うだけでも、織部がつい最近まで生きているという証拠になりうる」


 これらの情報は俺がネットニュースを見せたり、あるいは口頭で伝えたりと色々だが。

 それでもこれなら嘘にならず、かといって織部が異世界にいるなんて情報が洩れることもない。



『ああ、なるほど! 確かに……』



 その一例だけで、織部は自分で前のめりになって考えだした。

 まあ、そもそも織部は地頭だって普通に俺よりいいだろう。

 

 こっちにいた時の成績だって、常にトップクラスだったし。


『――じゃあ、こんなのどうです!? “シーク・ラヴのホームページで、歌、ちょっとだけ載ってましたよね? 聴きました! やっぱり、梨愛は歌が上手いですね……”とか!!』


「いいんじゃないか。織部がつい最近もどこかで生きていると示すことができると同時に、逆井を励ますことにも繋がる」


『ですよね! ですよね!! じゃあ、えっと――』


 自分でボイスレコーダーへと入れる内容を考え出した織部を見て、俺はホッと一息つく。

 

 うん、後はもう大丈夫だろう。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆ 



『マジ死ぬ! ダンスの練習とか、収録とかで目が回る! その上にかおりんからの招集! ダンジョン関連ってのは分かるけど、体が足りない……』


 織部とのやり取りを終え。

 風呂上りにリビングで件の逆井とメールをしていた。


 一見すると落ち込んでない様にもとれる。

 しかし、このメール、何と――




「――逆井が……意味の通る“絵文字”を使っている、だと!?」



 このメールの最後、本当に目が回っている絵文字が貼られていたのだ。

 逆井と言えば、意味の分からない絵文字を連発することで定評があるというのに。


 

「これは、逆井、かなりテンション下がってるな……」


「フフッ、それがお分かりになるんですから……ご主人様に心配されて、リア様も嬉しいと思いますよ?」


 ラティアは向かい側に座って、俺がメールするのを楽しそうに見ていた。


「……えぇぇ、そうか?」 


「ええ、そうですよ」



 ラティアは確信を持っているという風に微笑んでいる。

 むぅぅ……。



「ご主人様が気遣いの言葉一つ送って差し上げたら、リア様はそれだけで元気一杯になると思います」


「それは流石に無いと思うんだけど……」



 ラティアの意図するところは、純粋に逆井を元気づけたいということなのだろうが。

 俺の言葉で元気に、ねぇぇ。



「……『体調は気を付けた方が良い。ライブとか、探索士自体の活動とか、逆井が最近頑張ってることは知っている。体は大事にな』っと」



 とりあえず無難な内容の文章を打ち、送信する。



「フフフッ、直ぐに返信、来ると思いますよ?」



 何でそんな楽しそうに予言するんすかね、ラティアさん。

 ちょっと黒ラティア感出てますよ?



「……そんな直ぐ来るかねぇぇ……」



 ――って、うわっ!?



「……来ましたね」


 ラティアは自分の想像が当たったからか、凄く嬉しそうに微笑んで俺を見る。

 見惚れる程にそのラティアの表情は魅力的で……って違う違う!

 

  

 あっぶねぇぇ。

 これは罠か、何と狡猾な。


 ラティアめ、大胆な侵略こそしないものの、日々こういった細かいことで俺の心の防衛を削りに来ている。


 策士め。

 手強い、非常に手強い相手だ。


「えーっと……」


 意識を変えるためにも、逆井から瞬間移動の如く届いた返信内容を確認することにした。



『え!? どしたし新海!? その、えと、あんがと……。嬉しいけどさ、ちょっと調子狂う。――あっ、もしかして、何か下心とかあったり? ニシシ、しょうがないな、今日はサービスしとくか!』



 そのメールはやはり絵文字が使われており。

 それは何故か人面を持つリップクリームが、味噌を自分に塗りたくっているものだった。



「……意味不明、だと!?」


「クスッ……」


 ラティアは何かを言うことはないものの、何があったのかはお見通しだとでも言うように小さく笑っていた。


「むぅぅ……――ん?」


 唸りながらメールを睨みつけていると、添付ファイルがあったことに気づく。


 開いてみると……。


「……こんなん送りつけてくるくらいに元気らしい」



 開いた写真が写るスマホ画面をラティアに向ける。



「……中々セクシーな一枚ですね」



 写っていたのは、裾を噛むようにして服を捲り上げている逆井の姿。

 そしてスマホを持っていない手で、小さくパンツを下げていた。


 なので、その綺麗なおへそが丸々、そして薄紫色の大胆な下着がチラッとだけ写っているのだ。


 ラティアの言う通り、確かにセクシーショットなのかもしれない。

 


「まあ、こんだけ元気なら大丈夫だろう……」



 織部のボイスレコーダーの件もある。

 逆井の元気が少しでも出たのなら安心した。



「『体調に気を使えと言った側からへそを出すな。お前、そんなことしてたら腹冷やして、おばあちゃんが使うような腹巻して寝る羽目になんぞ?』っと」



 先ほどと同じように、俺のこのメールに対してもすぐに返信が来る。

 早いな……。



『最近は可愛い腹巻も出てきてるし! 新海こそおじいちゃん見たいに情報の進化に取り残されてない?』



 くっ、大きなお世話だ。



『ニシシ……そんな新海に良い物をあげよう! ファンなら土下座で唾液ナイアガラ号泣物の超レア! ――明日さ、久しぶりに時間あんだよね、どう?』


 何を言ってるかは分からんが、要するに凄い物をくれるらしい。


「どうってなんだよどうって……」


 まあ丁度いいか。

 

 ボイスレコーダーのこともある。

 それに偶然知ってしまったとはいえ、逆井の誕生日もかなり近いし。



 俺は幾つか頭で予定を思い浮かべながら、返信のメールを打っていく。


 そうして場所や時刻など事務的な内容の往復を行い、明日の予定を固めていったのだった。

恐らく次話ぐらいからダンジョン関連のお話が入ってきます。


それと、もしかしたら、もしかしたらですが、1日更新を休むかも……。


感想の返しはお昼ごろにできそうです、しばしお待ちを!


そういえば頂いた感想が200件になりました!

有難くどれも目を通させていただいてます!


直ぐに返せるかは分かりませんが、送っていただけると嬉しいです!


そしてブックマークの件数も8400件になりました。

10000まで、少しずつ近づいていることを実感しております!

勿論10000になったらどうなるのかと言ったら、具体的に何かあるわけではありませんが、嬉しいことは嬉しいんですよ!


ご評価いただいた方も1061名になっております!

こちらも評価いただいたポイントだけで10000まで着実に接近していて、嬉しい限りです!


眠い目をこすりながら、疲れた頭に鞭打ちながらで、偶に休みたくなる時もありますが。

こうして色んなことでご声援・ご愛読いただけていると実感でき、続けることができています。


本当にありがとうございます!


今後も是非、ご声援やご愛読を頂けましたら嬉しいです!!

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― 新着の感想 ―
[一言] > 「――お前は誰かに寝取られでもしたのか!?」  全く同じことを考えてて一瞬心を読まれたのかと思ったわ。うーん……例の幼馴染(無)からしたら寝取られに感じるだろうな? > 『最近は可愛い…
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