表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/416

67.友達が出来て、良かったね……現地人の俺より早いじゃないか……。

すいません、ちょっと夜中(もう朝?)ということもあって頭が回ってないので、本文中含め、良く分からないことを口走ってたら申し訳ありません。


ではどうぞ。


 ――prrrrr……prrrrr……



 電話!? 

 こんな時に――って、椎名さん!?



『……良かった、繋がりましたか。――そろそろ時間となりますが、どうですか、御嬢様は楽しんでいらっしゃいますか?』


 幸か不幸か。


 今最も話すべき相手であると同時に。

 今最も話したくない相手である椎名さんとの電話。



 俺は通話口を手で押さえながらも、どう話すべきか必死で考える。



「シッ……」


「あっ――むぎゅっ」



 目の前ではリヴィルが自身の赤面物の恰好を棚に上げ、口に人差し指を立てている。

 ルオはその意図を瞬時に理解し、俺の邪魔をしないよう両手で口を塞いだ。


 そして今、皇さんはちょっとバタンキュー状態。

 この状態だけをただ伝えると、俺が椎名さんに殺される未来しか見えないな……。

 


「……楽しんではくれたと思います。ところで、この後皇さんを送りたいと思ってるんですが、どこに向かえばいいですか?」


 声を抑えながら、椎名さんの呼吸、間、その一つ一つを聞き漏らさないという決意で臨む。

 クッ……何か俺が物凄くいけないことをしている気分になる。


 だがここで冷静に思い出そう。




 

 客観的状況→現在女子トイレ内。

 さらに声を出したくても出せないような状況にいる女性3人と共に、一つの個室トイレに籠り中。

 椎名さんが一番大切に思う主人たる皇さんは軽く意識を失っている模様。

 





 ……うん、ダメだ、俺がクソ野郎にしか見えない。




『……この後、御嬢様は学院――月園(つきのその)女学院に一度お戻りになり、そこからまた別の場所へと移動されるご予定です』


 一瞬考える間のようなものが挟まったが、椎名さんは直ぐに何でもない様にこの後の予定を教えてくれた。



「そうですか……あそこの……」


 初めて俺が志木、そして皇さんと出会ったあの場所か。

 


『……この後も学院まで御嬢様をエスコートして下さるのでしたら、今から大体1時間後までにお連れ頂ければ構いませんが』



 大体1時間!

 アバウトだな!


 微妙な時間、だが不可能ではない。

 おそらくタクシーを前提にしているはず。

 

 なぜこんなにも配慮というか、俺に都合の良さげな提案を――



 ――はっ!



 今の電話の相手は本当に椎名さんだろうか!?

 俺は目の前で言わザルポーズを続けるルオを見てハッとする。


 そうだ、こんなに俺に優しい椎名さんなんて最早椎名さんじゃない。

 別に能力やスキルが無くても、人に変装・変声することは可能。


 かの有名な名探偵もそうして博士の科学力を利用し、次々と大人たちを騙してきたじゃないか。


 これは椎名さんであって椎名さんではなく、別人が俺を――



『――えっ、何ですか? 何か言いました? 死にたいですか?』


「いえ、何でもないです……」


 やべぇ……このドスの利いた声、直観力、そして躊躇なく言葉でこのように抉ってくるのは、間違いなく椎名さんだ。


 すんませんした……。


『はぁぁ……学園祭を楽しんでいただけたのなら重畳。ですが、帰るまでが遠足だとも言います――ここまで言えば、いくら鈍感系主人公のあなたでも分かりますか?』


「……ウっす」


 なるほど。

 

 祭りが終わる切なさというか。

 まだ終わりたくないな、帰りたくないな、みたいな雰囲気がお祭りにはあるんだと思う。

 

 そう言うもの自体も皇さんにはちょっとでも味わって欲しい、経験させてあげたいという感じかな? 



「椎名さん、あの学院の敷地内にあるダンジョンなんですが――」 



 それなら、ちょっとだけ逸れるかもしれないが。

 俺はその時間を少しでも長くとってあげることができるように、あることを尋ねた。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「――ふぅぅぅ……」


 周囲を眩く照らした光の収束に伴い、奇妙な浮遊感も無くなっていた。

 

「誰も……いなさそうだね」


「……だね」


 リヴィルやルオと共に辺りを確認すると、想像に反してその場には誰もおらず。

 あるのはダンジョンを攻略する際には大抵目にすることになる、あの台座だけだった。 



 そう、俺たちはあのトイレの個室箱詰め地獄から、テレポート機能を使って攻略済みダンジョンに転移したのだ。

 DD――ダンジョンディスプレイを空中にて消失させ、俺は背中の温かみが未だちゃんと残っていることを確認する。



「ん、んん……」



 ずれ落とさないように持ち上げる動作をすると、丁度おんぶしていた皇さん本人が声を上げた。



「あっ! 起きたかな?」


「……だね」


 ルオの言葉に反応し、リヴィルが皇さんの顔を覗き込む。

 大丈夫そうだと確認し、リヴィルは俺に頷いた。



「そっか……それはいいけど、二人とも、早いとこその格好何とかした方が良いぞ?」



 ルオは良いとして、リヴィルはもう着替えないとどうしようもない。

 服を着ているはずなのにかえって卑猥になっているとはこれ如何に。



「はーい……リヴィルお姉ちゃん、あっちでパパっとお洋服、交換済ませちゃおう!」


「えっ、ちょっ、遮蔽物もないのに!? マスター普通にそこにいるんだけど――」


「ああ、大丈夫、後ろ向いておくから……」


 俺の言葉を信用してくれたのか。

 それとも一時の恥を受け入れてでも、早いとこ自分の服を着たかったのか。

 

 リヴィルはルオに引っ張られて、この広く開けた場所の角まで向かっていった。

 俺は自分の言葉通り、そこから対角線上になる角の方を向く。


 少しして衣擦れの音が響き始めるが気にしない。



「――皇さん、大丈夫? 起きられる?」



 別のことに集中しようと決め、俺は背中の皇さんに声をかける。

 少しグズるような仕草を見せたものの、段々と意識が覚醒してきた。



「……あれ、ここ、は?」


「おはよう……さっきの公園から一気に移動して、ここは今、攻略済みのダンジョン内」



 いきなりだろうから、“攻略済み”という安心させる要素もいれて、手短に情報を伝える。



「ダンジョン内……あれっ、え!? それよりも、あの、陽翔様!? わ、私……」


「えっ、あっ、ちょっ危ない危ない!」



 いきなり背中での運動量が増した皇さんを宥め、落ち着かせる。

 なに、俺の背中、そんなに驚く程不快だった?

 

 ルオには好評だったんだが。


 ううむ……。


「も、申し訳ありません! いきなりのことで、ビックリして――」


「いや、それは良いけど――大丈夫? もう立てる?」


「えっと…………はい」


 ……何か結構考える間があったな。

 何だろう、ちょっと体調的に違和感でもあったんだろうか?



「あんまり無理しないでも大丈夫だよ? 時間は結構余裕あるだろうし」


「あっ!! そうです、自由時間が――」



 焦りを隠せない様子の皇さんを、ゆっくり地面へと降ろし、俺はそのことに答えた。



「落ち着いて。さっき椎名さんと連絡して、学院入口まで送ることになったんだ。それで、ここ、“あの”学院付近のダンジョン」


「……え」 


 一瞬思考が止まったように口を半開きにする皇さん。

 だが、ここまで来たら全て教えてしまった方が早い。



 このダンジョンへと寄る可能性を椎名さんに伝えたことや。

 志木グループと皇グループの共同管理となっているので、志木へと話を通してくれることになったことなども、皇さんに質問される前に伝える。



 勿論椎名さんには少し怪訝に思われたものの何か追及されることはなく。 

 最終的には皇さんが、ゆっくりと学院へと戻れるということを約束したからだろう。

    


「――だから、今の時間、見てみるといい」



 そう促すと、俄かに信じられないといった様子だった皇さんに、俺のスマホ、腕時計全てを見せる。

 勿論皇さんも自身が携帯していた腕時計を見て確認していた。



「……これなら、外に出るまで1時間かかったとしても、間に合います」



「ははっ、20分もかからないだろうけどね。でも、そう言ってもらえるとこっちとしても安心だよ」



 ふぅぅ、と安堵の息を漏らしながら、俺は腰を下ろす。

 ちょっと肩の荷が下りた感じだ。


 後は本当に皇さん一人でも徒歩で行けるだろうし。


 勿論送り届けるという任務は最後まで遂行するつもりだったが、最悪の事態は避けられた。





「――あっ、ご主人! そっちも終わった?」


 どうやらあちらの着替えも済んだみたいだ。  



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「はぁぁ……やっと落ち着いた、かな?」


 ルオと共に戻って来たリヴィルはなんだかかなり疲れた様子に見えた

 普段では中々そう言う表情の変化に乏しい分、こういう事は珍しい。


 ちゃんと自分の体のサイズにあった服を着られて随分落ち着きはしたが。


「ははっ……お疲れさん」


「ん、マスターもね……」


 お互いに労い合う。

 今日は確かに疲れる一日だった。



「あ、えっと――」



 一方、近寄って来たルオを見て、皇さんはどう応じればいいのか困惑していた。

 ああ、そうか、丁度ルオがルオの姿に戻ったときに、目を回してたんだもんな。



「丁度いい。時間も余裕ができた、改めて自己紹介しとけばどうだ?」


 俺がそう促すと、俺やリヴィルの疲れた様子とは反対の、元気一杯な笑みを浮かべてルオは頷いた。



「――ボク、ルオ! 最近ご主人にお仕えすることになったんだ! よろしくね?」


 ボクルオか……何かポケ〇ンにいそうだな……。

 うん、どうでもいいね。


 その屈託ない笑顔を向けられ、皇さんはなおもどうすればいいか戸惑っていた。


 ルオ自体が嫌だとか、怖いとか、そう言う感じではなく。

 改まって自分と同年代の相手と普通に接するということが、あまりなかったのかもしれない。


 御嬢様同士ならともかく。

 相手はルオだ。

 

 これも、今までにない経験なのではないだろうか。


「「…………」」


 そんな様子を、俺とリヴィルは黙って傍で見守っていた。

 こういうのは外野から口うるさく言われてどうこうするものじゃないだろう。



 中々一歩を踏み出せずにいた皇さんを見て、それでもルオは気を悪くするでもなく。

 



「――ボク、土曜日のライブ、見たんだ!」 


「……え?」



 更に一歩、踏み出して手を伸ばしたのだった。



「同じ年で、体が大きいわけでもないのに、あんなにも沢山の人を楽しませて、喜ばせてた……ボク、凄く凄く感動したんだよ! ――君に!!」


 その嘘偽りない言葉が、一直線に、真っ直ぐに、皇さんへと届く。

 


「わた……しに?」


「うん! 凄かった!――君さえよければ、ボクと友達になって下さい!」


 後は、皇さんが手を差し伸ばす、ただそれだけだった。


 皇さんは数秒、自分の手を見つめる。

 

 それは躊躇いのため、という感じではなく。


 自分がどういうことを成したのか。

 その手が、声が、体が――皇律氷という個人が、何をすることができたのか。


 

 それを自らに問いかけ、再確認するような間だったのだろう。



「私、も――」

 

 

 皇さんの心はもう決まっていた。



「日々、自分の殻を破るのに、精一杯で、出来ないことも多くて……でもルオさんを見て、とても驚きました」


 そっと上がっていく手は、同じ高さまでくる。

 そしてゆっくりと、その距離を縮めていった。



「自分一人の理想に近づくことさえ悪戦苦闘の連続なのに。ルオさんは別の人になって、そして別の人になり切ってしまいます。そんなあなたのことを、もっと、知りたいです」


 距離は無くなる。

 互いの掌が重なり、握り合う。

  


(すめらぎ)律氷(りつひです――良ければ、私とお友達に、なってください、ルオさん」


「わぁぁぁ! ――うん、うん! よろしくね、リツヒ!」



 ふぃぃぃぃ。


 良かった良かった。

 学園祭自体も楽しんでもらえたが。

 

 これでおそらく皇さんの中で、学園祭の思い出は良い物として今後残っていくことになるだろう。




 ……ですので、椎名さんへのお言葉添え、何卒宜しくお願い致します。



 

 いやマジで、皇さんから言ってもらったら多分あの人に小言を言われることもないだろうし。



「……良かったね、マスター」


「……だな」



 少々ハラハラしながら一緒に見守っていたリヴィルと胸を撫でおろす。

 後はもうゆっくりと外に出て皇さんを送り届けるだけだ。 

 

 ほぼほぼミッションコンプリートと言ってもいい。



 なので、俺は安心しきって、全身の緊張を解いた。


 今日ルオとリヴィルが来る原因となった封筒の中身を、今のうちに確認しておくことにする。




「えーっと……何々……」



 

 中からは確かにカード状の物が1枚出てきた。

 それと、そのカードの下に隠されるようにして、同じ大きさの1枚の厚紙が。

 

 何か書かれているようだが、先に目に入った文字は、カードの方だった。 




志木(しき)花織(かおり)公式ファンクラブ会員番号:0  新海陽翔』




 そのカードはかなり趣向を凝らしていて、角度を変えると絵が変わり、2種類の志木の表情を楽しむことができた。


 一つは何かとても恥ずかしいことを前にしてか、顔を真っ赤に染めて目を逸らしている志木。

 そしてもう一つは、目を瞑って相手を受け入れるように、唇を小さく突き出している志木。


 

 う~む、なるほど。

 ファーストキスを前にして恥じらい、しかし結局は好きな相手とのキスがしたくなってせがむ様に目を閉じる。


 物語性を感じられる、マニアには堪らん一品となっておりますな……。











 ――えっ、誰これ、ナニコレ?

すいません、感想の返しは多分お昼か、あるいは翌日以降にまとめてということになります。


評価に関しても、そしてブックマークに関しても。

していただけている事実を今日も実感しております。


というより、そうでなければ多分もう寝てました。


「書こうかな、どうしようかな……」と迷っていた時に、丁度評価をしてくださったところだったので、何とかこの時間になってでも書く気になりました。


本当にありがとうございます。


この作品の場合、投稿・更新が途切れると露骨に色々と下がるので……。


今後もご声援・ご愛読いただけましたら幸いです!!


お休みなさい! そしておはようございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] > ……うん、ダメだ、俺がクソ野郎にしか見えない。  トイレだけにな! > ボクルオか……何かポケ〇ンにいそうだな……。  波動とか使いそう。 >  一つは何かとても恥ずかしいことを前に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ