6.溢れ出る程の何か……いや、変な意味じゃなく!!
またまた評価をしていただきました!
ブックマークも増えているようで、嬉しい悲鳴が止まりません!
そして確認した限りでは、65位に一時ランキングが上昇しておりました!!
読んでくださっている読者の皆さん、本当にありがとうございます。
私達の冒険は、まだまだこれからですよ!!
……大丈夫です、打ち切りじゃないです。
「えーっと……」
ラティアへの自己紹介を明るく済ませた所悪いが。
「あの、一応、初対面、だよな? “俺”」
そう、顔を知っている、というだけの関係性。
俺はそう思っているからこそ。
なぜ逆井がこんなにも俺に対してフランクに話しかけてくるのかが分からん。
ってか俺の名前を知っていること、同じ学校だと知っていたことすら驚いたぞ。
「うん? そだっけ……」
俺の指摘に、逆井は記憶を確かめるように首を傾げてみる。
「……ずっと柑奈に話聞いてたから、てっきりもう会ってたと思ってたけど」
その名前が出たことに、逆井が俺を知っていたこと以上の驚きが。
「え!? 織部から!?」
俺の反応に、逆井は慌てて手を振って、言葉を繋ぐ。
「あ、ああ違うよ!? 柑奈がいなくなっちゃう前の話。二人で話す時、良く話題に出てたーってこと!」
「ああ……そういうことか」
俺は今、話を理解し、あえてそう返事した。
――逆井は勘違いをしている。
俺が驚いたのは、織部が異世界にいて、俺以外でも連絡を取っている人物がいたのか、という驚き。
それは俺の早とちりだったわけだが。
おそらく逆井は俺の驚きを、失踪した織部が見つかったのかと、それに反応したと思っている。
なので、俺はその勘違いを正さず、“なんだ、織部が見つかったわけじゃないのか”みたいな落胆を装った。
……ただ、話さなくていいのだろうか。
コイツは――
「――確か逆井は……織部と親しかったよな」
俺がそう探りを入れると、先程までのはじけるような笑顔に、明らかに見てわかるような影が差した。
一瞬の間だったそれは、直ぐに元に戻ったが。
「えっと……うん!! も、もう!! 今頃何してるんだか、帰ったらただじゃおかないんだから!! 恥ずかしい恰好させて悶えさせてやる!!」
だが、俺たちを心配させまいと気丈に振舞うその姿が。
逆井が織部の件をずっと引きずっていることをかえって感じさせた。
「――ってか、てか!! アタシのことはいいの!! ニシシッ、新海、話を逸らそうったってそうはいかないよ!!」
それこそあからさまな話題転換だったが、俺はあえて突っ込まない。
逆井もこれ以上深く言及されることは望まないというように、笑顔を浮かべた。
そして――
「コノコノ!! こんな可愛い子に“ご主人様”なんて呼ばせて、新海も隅に置けないな!! いくら払ったんだ、言ってみ?」
「――ちょ、ギブギブッ!! く、苦し……」
へ、ヘッドロック!?
か、顔に何やら物凄く柔らかな物体が押し付けられて――い、息が……。
「――だ、ダメです!」
「うぉっ!!」
ラティアが再び割って入ってくれて、解放された。
ふぅ……何とか死因が乳圧による窒息死となることを回避できた。
流石にそんな診断書を書かれたら不名誉過ぎるぜ。
…………まだ頬に温かな感触が。
「――私はラティアと申します!! ご主人様のご厚意により、お仕えさせていただいています!!」
ラティアが両手を大きく広げて逆井の前に立ちはだかった。
通せんぼするラティアは、逆井に対して警戒する犬のようだ。
ただいかんせんラティア自身が可愛すぎるためにほぼ威嚇になっていないのだが。
「あはは、ゴメンゴメン、ラティアちゃんね!! りょーかい」
警戒するラティアにこれ以上攻撃(?)する意思はないと示すため、両手を上げて降参のポーズをする。
それを見て、ラティアも矛を収めるように、ゆっくりと上げていた腕を下ろした。
「よっぽど懐かれているんだ……新海はやっぱりモテるんだねぇ」
最後、なぜそんなことを呟いたのか分からなかったので、鈍感系主人公スキルを発動して聞き返してやろうかと思った。
だが――
「――キャァァァァァァ!!」
突如、喧騒に包まれた街中でも聞き取れる程の悲鳴が上がり、俺の“え、何だって?”が発動することはなかった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「早くぅぅぅ!! 安全な場所まで避難してぇぇぇぇ!!」
直ぐに動いた逆井の張り上げるような声は、しかし、パニックに飲まれた人間たちには届かない。
それどころか。
迫りくる現実の恐怖に、叫び声があちこちから飛び交い、それにかき消されてしまう。
「な、なんだ!? アリか!?」
「へ、変な鎧を着てやがる!!」
「うぁぁぁ、コンクリを噛み砕きやがった!?」
逃げ惑う人々から漏れるぶつ切りの情報。
それらから判断するに、モンスターが出た、ということか。
「モンスターがどっかにいるってことか……」
「――ダンジョンから、多分溢れたんだと思います」
俺のその呟きに応えたのは、隣にいたラティアだった。
「溢れた!? やっぱり、ダンジョン内のモンスターって外に出てくることがあるのか!?」
一度、全世界に流された映像で、それを見たことはあった。
ただ、それ以降ではモンスターがダンジョンから溢れたということは確認されなかったが。
「“地球”では全てのダンジョンは管理されているわけではない、ということでしたよね?」
ラティアの質問に、俺は直ぐにうなずいた。
「管理されていないダンジョンがあるのでしたら、そのようなことも珍しくないかと――」
「――うわぁぁぁ!! 穴の中から、また出てきたぞ!!」
「ッ!! ――今そっちに行くから!!」
ラティアの言葉が全て紡がれる前に、また叫び声が上がる。
そしてその悲鳴を耳にした逆井が、その方向へと駆けだした
「――おい!!」
俺が声を上げるが、逆井は振り返らなかった。
クソッ。
「えっ、ご主人様!?」
同じく駆けだそうとした俺に、ラティアから静止の声が。
「ラティアは逃げててくれ!! 兎に角、あの群衆と同じ方向へ!!」
ラティアの過去を聞いていた以上、これからの行動に彼女を付き合わせるつもりはなかった。
「で、ですが!!」
「俺はあいつを追う!! 可能ならダンジョンの中覗いてくるよ!! 別に、俺一人で攻略してしまっても構わんのだろう!?」
不安気な表情で一杯のラティアを安心させるように、最後は多少お茶らけたように告げて再び走り出した。
逃げてくる群衆に逆らうようにして進んでいるので、中々前に進まない。
くっそ、まるで人がゴミのように――
「ご、ご主人様ぁぁ!! ――わ、私も!!」
「――って、ラティア!?」
普通に逃げてくれるものと思っていたラティアが俺を追いかけてきた。
ってか普通に追いつかれた。
「――御言いつけを守らなかった罰は後程お受けします。あの、それで、上からなら、進み易い道を探せるかと!!」
ラティアは捲し立てるようにそう言って、最後に、捨てられてしまうのではないかというくらいに不安げな表情をした。
「……ご主人様と、一緒に、いたいんです。ダメ、でしょうか」
「……ああ、そうだな。いや、悪かった。置いていく方がダメだったな」
俺は直ぐにそう謝罪する。
逃げてもらった方が安全だろうと考えてのことだったが。
ラティアにとってはまだ知らないことばかりの世界。
そこで独りきりにするというのはマズかった。
「よし!! じゃあ一緒に行こう!! ――よっしょっと」
「ひゃぁ――」
ラティアの可愛い悲鳴が上がる。
これ以上の問答は時間のロスだと思い、俺は思い切ってラティアの股の間に頭を通した。
――とうとう頭がおかしくなりよったかとか、こんな場面で犯罪に走りやがったとか思ったやつ、後で体育館裏集合な。
「――どうだ、これで見晴らしが良くなっただろう!?」
俺が肩車したラティアに声をかける。
「はい!! えっと――」
ラティアは高くなった視界を利用して2,3秒程、周囲を見回した。
そして、ある一点を指さした。
「あ!! あそこに、穴があります!! 恐らくダンジョンの入口です!!」
目的地を見つけたことで興奮したように声を上げるラティア。
「グフッ――」
――だが、そのために力が入ったのか、抱えていた脚にも力が籠められ、顔がサンドイッチ。
その柔らかい太ももに挟み込まれる。
「も、申し訳ありません!! だ、大丈夫ですか、ご主人様!?」
直ぐに気が付いたラティアは膝を開くようにして力を抜く。
「ふ、ふぅ……だ、大丈夫、大丈夫」
危なかった……。
おかげで、太腿に挟み込まれたことによる圧殺みたいな死因を書かれなくて済んだ。
気を取り直して、俺たちは逆井が向かったであろうダンジョンへと、足を進めた。
「――さあ、行くぞ!!」
「はい!!」
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「ッ!!」
ダンジョンの入口にたどり着くまで、俺たちが騒がれていたモンスターと遭遇することはなかった。
――だが、穴に飛び込んだ先では、既に戦闘が行われていた。
「逆井!! 無事か!?」
そして、既にその結果はほぼ出ていた。
ダンジョン内にできた地面には何人もの人が倒れていて、それがどういった状況かを如実に表している。
大きく口から血を吐きながらも、かろうじて意識だけは保っていた逆井も、その一人だった。
「にい、み……?」
コイツに死なれては俺が困る。
俺が駆け付けたのも、偏にそれが理由だった。
織部との協力の内容は、確かに必要なものを送って欲しい、というのが主なもの。
だが、織部の親友が死んだ、なんてことになったら。
それを、何かの拍子で織部が知ってしまったら。
――そんなことにはさせない。
「無事か!!」
「にいみ……にげ、て」
「――ギッチィィィ」
金属がぶつかり合ったような、不快な音がした。
そちらに視線を向ける。
「……確かに、アリ、だな」
そこには、1mはあろうかという巨体に、鎧を纏ったようなアリのモンスターが、所狭しと並んでいた。