66.良かれと思ってのことが裏目にでることって、あるよね!
この子のお話は、書いてる私としても頭がこんがらがります。
もしおかしな部分があればご指摘いただければ幸いです。
勿論、関係なく感想を送っていただくのでも大歓迎ですが!
「来てみたは良いが、全く見当たらず、よもや場所を間違えたかと思ったよ」
教室に突如姿を現したシルレは、そんな気易い態度で話しかけてきた。
……まあそりゃ、目当ては俺だろう。
ただ、このシルレが、俺の知らない何らかの方法でこちらの世界へと来た“シルレ”なのか。
それともその姿をしているだけの“ルオ”なのか、この一瞬では見分けがつかなかった。
「うっわ……あの先輩、あの美人と知り合いかよ……」
「え? 誰あれ……誰か知ってる?」
「多分2年の人だと思うけど、でもうちの2年で男子ってもう立石先輩か木田先輩しか知らねえし……」
距離を取ってコソコソと話している店員役の生徒の視線が痛い。
「えっと……その、“お兄ちゃん”と、知り合い、ですか?」
……特に目の前で警戒感を露わにしている皇さんが、なんだか怖い。
ここで直ぐに対処しないと――って、そうか!
一発で相手がどちらなのかを判別する方法を、丁度この時、今閃いた。
俺は余裕を失っていない風を装って、その言葉を告げる。
「ああ済まない。手間を取らせたみたいで。ところで……――“カンナ”は元気か?」
つまり、俺が口にしたのは本物なら知っていなければならないもので。
そしてルオであったなら知っていないはずの情報だった。
さて、どっちだ……。
「“カンナ”……――済まない。知らない名だが」
「……そうか、いや、何でもない」
じゃあ今目の前にいるのは“ルオ”か!
他にも“カンナ”さんはいるかもしれないが。
俺とシルレの会話の文脈で“カンナ”と出てくれば、間違いなく織部のことを想起するはず。
その織部とルオは会ったことが無く、この反応。
だからルオで確定だ。
ふぅぅぅ。
まあ7・8割くらいの感覚でルオだとは思っていたが。
これで確信が持てた。
「じゃあ……“もう一人”は?」
これも隠語というか、これだけで通じるはずだが、さて。
ルオは一瞬だけ考える間のようなものを空け、頷く。
「……ああ、彼女か。服が、な」
そう言ってルオは自分の着ている黒一式の服装へと視線を向け、苦笑い。
「……もしかして、それ、借りたのか?」
ルオはこれには面白そうに笑う。
シルレの美貌と相俟って、周囲を一気に釘付けにするような仕草だった。
「フフッ。今もトイレの個室に籠ってると思う。私の元の服を着て、な?」
それを聞き、一気に頭が痛くなる想いだった。
うわぁぁぁ……それって――
「――えっと、あの、結局、どういうこと、なのでしょうか?」
ルオの突然の来襲に警戒感を剥き出しにしていた皇さんが、困惑したように尋ねてくる。
「ああっと、ゴメン。えっと……どう説明すべきか……」
本物のシルレのことを話しても、それはそれで異世界側のことを話さないといけなくなる。
かといってルオ自身のことを話せば、それもそれで説明しなければいけないことが多い。
人の注目が集まっているこんなところで、長々と話せることではないしな……。
俺はこの場は端的に述べるにとどめて、一先ず3人でこの場を後にしようと決める。
「――まあ、彼女も“協力者”の一人だよ」
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「……そうですか、あの人も、ラティア様と同じく……」
あの後、手短に集合場所だけを伝え、俺と皇さんはその場を先に離れた。
ルオは教室内の生徒たちの相手をして、それから時間差で動くことに。
もう既に自由時間の方も残り少なくなってきている。
それでも皇さんは俺とルオが合流する場についてくると言うので、そのまま二人で校門を出た。
「ああ、後、これから合流場所にももう一人いるから」
ラティアが電話で話してくれた内容からすると、リヴィルと二人で来たはず。
なのに、俺に会いに来た時はルオ一人だった。
ルオ本人もリヴィルが別場所で待機中だと、名前は出さずに言ってたし。
「……ラティア様だけでなく、あんな綺麗な方に、それに、もうお一方……」
何だかルオに会ってから、皇さんの気分が沈んでしまっているように見える。
先ほどまではあれだけ楽しそうにしてくれてたのに。
うーん……。
「えーっと……何か気になることでもあった?」
流石に全てを語ることはできないけれども。
できるだけ不和の原因となりうるものは取り除いておきたい。
そう思って尋ねてみるも、しばらく皇さんは口を閉ざして話してくれなかった。
学園祭の騒がしさから遠ざかるにつれて、二人の歩く間にある沈黙が余計に強く感じられる。
「…………その、“陽翔様”のお近くには、美人な女性の方が沢山……いらっしゃいますので」
既に学校外にいるために、呼び方は戻していたものの。
梳くと指がそのまま流れるくらいサラサラそうな黒髪――ウィッグは着けたままで。
小さく蚊の鳴くような声をして。
皇さんは、それだけを絞り出すように告げた。
「……あーっと、まあそう感じる部分があるのは否定できないが、一つだけ」
俺は困ったように頬を掻きながら、もう一方の手の人差し指を立てて見せる。
「?」
「多分、皇さん、一つだけ誤解している部分があるよ」
「誤解……ですか?」
不思議そうに首を小さく傾げて、皇さんはその言葉を反復した。
「うん……まあ皇さんなら大丈夫だろう――この後すぐにわかるよ」
ラティアやリヴィルの存在については、主に逆井が知ってくれている。
そのおかげで、ラティアやリヴィルは俺以外にもこの世界で少しでも気を許せる相手を見つけることができた。
ルオの【影絵】・【影重】についても、勿論それを知っている人が少ないに越したことはない。
ただ、俺以外にも誰か。
特に、今地球上の最前線でダンジョン攻略に携わってくれている“シーク・ラヴ”の誰かに知っている人が一人でもいてくれると、色々とできることも広がってくるのではないか。
そんな思いで、俺は皇さんを合流場所へと先導したのだった。
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「あっ、来た来た……――おーい! こっちこっち!!」
学校と一番近い駅との中間にある、中規模の公園。
そのトイレ前で、シルレ――の姿をしたルオが既に待ち構えていた。
……生徒をあしらうために、俺たちよりも後に出たはずなのに。
早いな……。
「……え? あれ、あの、えっと……」
シルレの容姿がクールな美人であるにもかかわらず。
今目の前で元気一杯の小学生みたいに手を振る姿を見て、隣で困惑を隠せない様子の皇さん。
ははっ、知らない相手からしたらそりゃそうか。
でも、ルオがその行動をあえてとってるってことは――
「早いな。もう着いてたのか……それで、何かに気づいたのか?」
俺の問いかけに、ルオは満面の笑みを浮かべて頷き、皇さんへと視線を向けた。
「うん! そっちの子――“土曜日のライブ”にいた最年少の子でしょ?」
「っ!? えっ、どう、して――」
未だ変装中なのにもかかわらず、一発で自分の正体を見破られた皇さんは息を飲む。
「えへへ! それで、“ご主人”とも知り合いで、親しそうだったからね!」
ああ、なるほど。
ルオはもう一目でそれを見抜いて、だからこの場で既に自分の正体を明かすよう振舞っても大丈夫だと、そう判断したんだな。
まあ、俺も元々皇さんには教えても大丈夫かも、と思っていただけに丁度いい。
「あっと! そうそうこれ、渡しとかなきゃ……うんしょ」
そう言ってルオは自分の胸――具体的には恐らく下着へと手を突っ込んで、ゴソゴソと何かを探る。
そして、そこから一枚の封筒を取り出した。
「はい! えへへ、これを届けに来たんだった……」
「……確かに、届けてくれてありがとう。……本当だ、志木の名前が書いてあるな」
手渡されたその封筒はラティアが言っていたように、表に志木からの物であることを示す名前が記されていた。
それは良いんだが……。
……ちょっと、生温かいんだけど。
どこに仕舞ってんだよ、どこに。
「え、え? 花織、御姉様? それに、えっと、先ほどから何か、その、話し方が――」
見た目と言動との食い違いが甚だしくなり。
その上自分が慕う志木の名前が出てきて混乱しっぱなしの皇さん。
「わっ! ゴメンね! えっと、ご主人?」
それを感じてか、ルオは最終確認のように俺へと目だけで問うてきた。
自分の能力を見せても、知らせても大丈夫だよね、と。
「ん、問題ない――って言っても、場所は選んでくれよ?」
平日の午後、まだ日があり人が少ないとはいえ。
いきなりこの場で能力を使うのは流石にマズい。
「大丈夫! だからここなんだよ!? ほらっほらっ、早く早く!!」
そう言って、ルオは急かすように俺と皇さん二人の手を取った。
そして目の前にある“女子トイレ”の中へ、ずんずん進んでいく。
「おっおい! ちょっ、場所! 場所が!」
確かにルオについて知ってもらうのに、個室・密室性という意味では適切なのかもしれない。
だが別の意味――男の俺が、可憐な少女である皇さんと、そして美人なシルレの姿をしたルオを女子トイレに連れ込むことになる。
これが客観的に見た今の行動だろう。
うん、問題大ありだな。
だがもう既に俺たちは3人で中に入ってしまい、既に手洗い場の前まで来ている。
幸いなことに、他の女性利用者はいなかったようで、そこだけは安心できた。
「――その声、“ルオ”? はぁぁぁ……ようやく戻って来た」
聞き覚えのある声がした。
おそらく一番奥の個室からだ。
その声に反応して、皇さんが一瞬ビクッと体を震わせる。
ガチャッと掛けられていた鍵が開けられる音がした。
そして続けざまにキィィっと音を立て、個室自体のドアが開く。
「あっ、開いた!!――さっ、時間ないんでしょ? とわぁぁぁ!!」
それを確認したルオは、俺たち二人を更に引っ張る力を強めた。
――って、まさか!?
「はぁぁぁ……結構時間かかった――って!?」
珍しく焦ったようなリヴィルの声がしたかと思うと。
「うわっ!?」
「ひぃゃ!?」
俺たちは3人で、その個室へと突入する形になった。
せ……狭い……。
当たり前だ、男子トイレだろうと女子トイレだろうと。
個室は一人で入る用として基本設計されている。
一度に4人も入ることなど無いだろう。
ルオも入る際の勢いには流石に配慮してか、俺と皇さんも流れの中とはいえ、自分の動きで入れたことがせめてもの救いか。
「ちょ、ちょっとルオ……もう……」
いきなりのことに戸惑いながらも、リヴィルは冷静に判断して扉へと手を伸ばし、何とか鍵まで閉める。
……いや、うん、閉めずに出ればいいんだけど。
ただ、この場面では、リヴィル的にはこれがベストだと思ったんだろう。
他の人が入ってきても、何とか対処できる、そういう状態を作って――って!?
「――おいリヴィル!? 恰好!! 凄いことになってるぞ!?」
「え? ……ッ!!」
狭苦しく、誰かの肌が当たってしまうような中で。
一際目立ったのは、間違いなくリヴィルのその格好だった。
一番近くにいることになった同性の皇さんでさえも、その顔を真っ赤にさせるほどだ。
要するに、ルオがシルレになって、リヴィルの特徴的な黒一色の服を着ている以上。
リヴィルも誰かの服を着ているということで……。
そしてそれはルオが着ていたもの、つまりリヴィル的には丈の合わない服装なので……。
「あっ、あっ、あぅぅぅ……」
「そっか! ボクがこのままだとリヴィルお姉ちゃんが大変だ……――とうっ!」
「ちょっ、このタイミングで!?」
ルオがシルレの姿を解き、ルオ本来のあのハーフドワーフの少女姿に。
だが問題はそこではなく。
「えっ、え!? ――はぅぅぅ……」
押し寄せてくる情報が処理能力の許容量を超えたのか。
きゅぅぅと可愛く縮こまるように、皇さんは目を回した。
「皇さん!? ちょっと、しっかり!!」
こんなところで、戻ってきてくれ!!
「ご、ゴメン、マスター……その、あんまり、見ないで……凄い、恥ずかしい」
リヴィルはリヴィルでスタイルがいいからか、丈の合わないパンツでも何とか履けているが。
それでも下着の方が丸見えだった。
何とかキュートなおへそ丸出しになっているピッチピチのシャツを、恥ずかしそうに下へ下へと引っ張る。
しかしその努力も虚しく、下着が隠れることはなかった。
そして最後に残ったのは。
「えへへ……これでボクがどういう存在か――あれ? 気……失っちゃってる?」
黒い組織に薬を飲まされ、体が縮んでしまった名探偵のように。
衣服の丈を余らせて、キョトンとした、この状況を作り上げた主犯だった。
ただルオはルオなりに、全員がばらけて個室に入るのもそれはそれで時間の無駄だという配慮があったのだろう。
リヴィルの服装も、皇さんへの自分の説明も、一つ一つ片付けていては確かに余計に時間がかかったはずだ。
それに、俺が皇さんの自由時間の残りを気にしている仕草もおそらく感じ取っていただろう。
ただ……。
……あれれ~、おかしいなぁぁ。
皇さんの自由時間が残り5分を切ろうとしていた所で。
これほど混沌とした場が出来上がっていたことに、俺は一人頭を抱えた。
俺自身も、ルオと同じくもっとスムーズに行くと思っていたのに……。
良かれと思っての行動が悉く裏目に出るって、こういう場面のことを言うのかもしれない。
ルオと皇さんの出会い・関係は後々効いてくるので、少し丁寧に書いてます。
そのためにリヴィルはえっちぃことに巻き込まれ、犠牲になったのでした……。
さて――
ご評価いただいた方が1041名になりました!
評価のポイントだけで、もう少しで10000ポイントになろうという所まで迫っております!
おおお……嬉しいですね、こういの!
日々ご評価いただけていることを実感できて、それの積み重ねがここまで来たということです。
ありがとうございます!
ブックマークも8337件に!
少しずつ、少しずつでも、ちゃんと増えております!
こういう日々の塵積が大事です!
やはり夜に疲れた体で書くことが多いので、こうしてご声援・ご愛読いただけているという事実がメンタル面にエネルギーを注いでくれます。
そうでないと、多分「今日は……疲れてるからいっか」と3日坊主になるダイエットみたいに言い訳を作って執筆を滞らせていると思います。
他にも「これはマジで行けるんじゃね!?」という面白そうなアイデアが浮かんだり。
或いは「あぁぁ……他の連載中の物語も、そろそろ書きたいんだけどな……」など、日々、色々な想いに悩まされます。
そんな中、こうして執筆を続けられていること自体が、自信になります。
本当にありがとうございます!
今後も、是非ご声援・ご愛読いただけましたら幸いです!!




