65.変装・お忍びお手の物――二人はある意味似た者同士なのかも!
ヤバい……。
先日の掲示板の手間が酷くかかった分、普通に書いたら凄い楽に感じます!
意外な効果……。
『申し訳ございません、ご主人様……お休みのところ』
2日目の学園祭。
特にやることが無くだらけにだらけ切っていた。
そんな時にこのラティアからの電話だったので、一体何が起こったと驚いたが……。
「いや、大丈夫。なら、二人がこっちに向かったってこと?」
『はい、勿論無くさないよう封筒はしっかりとリヴィルが懐に』
ラティアが家の固定電話から連絡をしてきた用件というのは。
つまり急に封筒が届いたから、どうすべきか判断を仰ぐためだったらしい。
それが志木からのものだったので、直ぐに知らせた方がいいかと気遣ってくれたのだ。
「焦らず家に帰ってからでも良かったんだが、まあそれならそれでいいや――でもそうか、志木が……」
そして直ぐにでもと気持ちが早ったルオとリヴィルの二人が俺に届けに来てくれることになったというのだ。
ラティアが止める間もなく既にこちらに向かっている最中らしい。
『何やら手触りからすると“カード状のもの”だとリヴィルは言ってましたが……』
志木が俺にカード、ねえ……。
「まあ分かった。今日は昨日にも増して自由だから、校門ところで待ってるわ」
後夜祭準備の前に一度だけ出欠確認がとられるが、それまでは本当に自由だった。
ラティアとの電話を切り、椅子から立ち上がり。
休憩所と化している誰もいない教室を出ながら、スマホを操作する。
――すると、丁度メールの着信があった。
……椎名さん?
「昨日の今日だし、何だろ、ちょっと怖いな……――え゛ッ」
メールを開くと、驚愕の内容を知らせる本文が記されていたのだった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
えーっと……あっ、いた!
「――やっ。待たせたかな?」
俺は校門を出て、近くのコンビニに来ていた。
目的の人物の姿を目にし、その背中に声をかける。
「……え? ――ひぃぁ!? え!? はっ、陽翔様!? どうして、え!?」
目深に帽子を被った少女は、驚きのあまり手に持っていた雑誌を危うく落としそうになる。
……優しく声をかけたつもりなのに、そんなに俺、怖かった?
「いや、落ち着いて。椎名さんに言われたんだ。えーっと……“律氷ちゃん”」
店内は人がまばらだが、それでも声かけ事案と思われても嫌だったので。
俺は証拠のメールを開いて、変装した彼女――皇さんの目の前へと持っていった。
『すいません、頼まれて貰えませんか? どうしても外せない用事が出来てしまい。御嬢様が2時間だけ自由時間ができるので、新海様の学園祭にお連れする約束だったのですが……報酬はお支払いします。御嬢様を学園祭へと連れて行っては貰えませんか?』
今日は普通に平日だ。
本来なら自由時間などなく、皇さんも自分の学院に戻らねばならない。
そこを、何とか椎名さんが苦労してやりくりしたそうだ。
全寮制の学院の外へと出られる探索士やアイドル業の時間を逆手にとって。
そんな苦労が理解できるから、この話を受けたのだが――
「――って、あれ? “律氷ちゃん”?」
時間ができたのなら本来は学院に戻らねばならない身。
そしてそれが無くてもダンジョン攻略者の一人としてとても有名な存在である。
皇さんが黒いウィッグを使って変装しているように。
俺も彼女のことを下の名前で呼ぶようにとの指令が下っていた。
学園祭では俺の妹――つまり今日限り“新海律氷”としてお忍びを成功させてほしいと。
なので、その椎名さんの指示通りに彼女を呼んだのだが――
「…………」
……やべぇ。
何か固まってるよ。
とりあえずメールの件は後でおいおい説明しよう。
俺はそっとスマホをポケットに仕舞った。
やっぱりいきなり下の名呼びはキツかったんじゃないっすか、椎名さん……。
「えーっと……とりあえず、時間もないみたいだし、行こっか」
この時間も含めて2時間の猶予だと聞いている。
とどまっても徒に時間が過ぎていくだけだ。
俺は皇さんが持っていた雑誌をそっとラックに戻す。
そして、片手を差し出した。
「…………ぁっ……お、お願い、します……」
こういうことは経験がなくて羞恥心で一杯なのか、顔を真っ赤にしながらも。
皇さんは消え入るような小さな声で答え、俺の手を握り返した。
小さくて、フニフニと柔らかい。
そんな可憐な少女の掌の中に、時々豆のような固い皮の感触を感じる。
……うん。
皇さんも、ただ守られているだけの少女ではなく。
もう誰かを守る側に立っているんだなぁ……。
そんなことを漠然と考えながら、俺は二日目の学園祭のエスコートを始めたのだった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「うわぁぁぁ……凄いです! タピオカ! タピってる、ですね!」
珍しい……。
皇さん、タピオカミルクティー飲んだだけでドヤ顔してるよ。
まあ可愛いからいいけど。
「はは……喜んでもらえたのならよかった」
学校に戻って、幾つか見て回り、俺と皇さんは休憩所としての喫茶店に入っていた。
その頃にはぎこちなさは殆どとれており、楽しい時間を過ごせたと思う。
1年生は出店や喫茶店などの飲食。
2年生は俺たちのように演劇かお化け屋敷などの出し物。
3年生は飲食店か、演劇それともお化け屋敷などの出し物か。
各クラスがそれぞれ自由に決められるようになっていた。
御嬢様である彼女の舌に下々の味が合うのかと心配だったが。
焼きそばとタピオカミルクティーはどちらも初めての体験だったようで。
「……学院ではこんな美味しい物、全然出されません。今日、一緒に来られて、良かったです」
美味しそうに、しかし上品な仕草で焼きそばを口に運ぶ彼女を見て、ホッと安堵の息を漏らす。
先ほどお化け屋敷に入った時は意外にも全く怖がらなかったから、満足してもらえるか不安だったが。
「そっか……」
椎名さんの意図があまり読めなかったが。
やはりどこまでも彼女は皇さんのために動いているらしいことが良く分かった。
多分箱入り娘のきらいがある皇さんに、少しでも外の世界のことを教えたかったんだろう。
メールからは並々ならぬ熱意が感じ取れたしな。
『今日、なんとしても、御嬢様をお連れしないと死ぬに死ねません……でないと、先祖に顔向けできないんです、くっ! 学園祭に、お連れ、したかった……』
とか、何かちょっと大袈裟に感じる部分もあったが。
皇さんに対する忠誠心は本物なのだろう。
「――うん、土曜日のあれ、凄く良かったよ。改めて誘ってくれてありがとう」
その後紅茶を二つ頼んで、残りの時間ゆっくりとここで過ごすことにした。
演劇は勿論、他の出し物を回っていたら時間が流石に足りなくなるからな。
「そうですか……それは良かったです」
他にも人がいる中なので決定的な単語は口に出さないものの。
今要するに、土曜日のライブの感想を皇さんに伝えていたのだ。
アイドルとしてデビューして、今後更に忙しさに拍車がかかるだろう。
直接会えるうちに、伝えておいた方が良い。
「ちょっと、あの衣装は恥ずかしいですが、その、“お兄ちゃん”になら……また、見せても、いいので……」
「あ、ああ、うん……」
兄妹としてこの場にいるという設定上、仕方ないにしても。
やはり皇さんからそう呼ばれるのはくすぐったいというか、違和感があるな。
本人も「あぅ……うぅぅ……」と恥ずかしがってるし。
「あっ、そうそう、これ、あの時のお礼に――」
ちょっと気恥ずかしい空気を変えるために、俺は懐からある物を取り出す。
そして彼女の小さな手をそっと手に取り、その中にプレゼントを握らせた。
……大丈夫だよな?
キモがられてないよな?
こういう場合は強引にでも渡してしまった方がいいとネットで見たし、うん、大丈夫なはず!
「これ、は……? 宝石、ですか?」
「はは、多分そんな高い物じゃないけど――“攻略”に際するお守り、みたいなものかな?」
俺がそのキーワードを口にすると、皇さんもどういう類の物なのかを理解したようで。
「……ありがとうございます、大事に……しますね?」
皇さんは本当に宝物でも抱きしめるように、俺が渡した装飾品――ペンダントを大事に握りしめた。
「ああ、そうしてくれると助かるよ」
織部が新たな町についたことで増えた『Isekai』の商品カタログ。
その中の装備品――魔除けの宝珠という品を、350DPで購入していた。
効果としてはモンスターが近寄り辛くなる、というよくあるものだが。
それとは別に、見た目が赤く綺麗な宝石にも見えるものなので、単なる装飾品としても使える。
だから、この前のチケットのお礼としてこれを送ることにしたのだ。
皇さんの反応を見る限り、下手打ったという感じではないので一安心である。
「――えっ、スッゴイ……」
「うわっ、何あれ……」
「校内にこんな……」
ん?
なんだ……。
ちょっと教室内がざわついてきた。
もしかして、皇さんのことがバレたか?
そう思ってドキドキしながらも、何でもないようにして周囲の様子を見ていると、どうもそうではなく。
何だか店員をしている生徒が次々と教室外の様子を窺っていた。
何だ?
外に誰かいるのか?
「何でしょう……誰か有名な方でも呼ばれたのでしょうか?」
「はは……」
今の日本の、しかもこの近辺で、皇さん以上に有名な人なんてそうそういないと思うけど。
そうしてこのざわめきを怪訝に思っていると――
「わわっ、入って来た!!――」
「おっしゃあぁあ! 美人とお近づきッ!!」
「お一人様ご案なぁぁい!」
「「「いらっしゃいませぇぇぇ!!」」」
いや、回転寿司屋じゃねえんだから。
だがどうやらその相手がこの喫茶店に入って来たらしい。
そして店員をしている男性生徒の反応を見るに、どうやら女性、しかも相当な美人らしい。
「あっ――」
俺はハッとする。
時計を見て、そして椎名さんからメールを貰う前、どういう用事ができたかを思い出した。
もしかして……
だが、その入室した美人の正体は、俺の予想がある意味正解で、そしてある意味ではハズレの相手だった。
「――おっ! ようやく見つけた! 探したよ……」
入口で俺の姿を認めた相手は、黒のシャツに、黒のロングカーディガンを羽織っており。
黒のショートパンツ、そして黒のニーソックスと、リヴィルが着るような黒一色で固めた――
――シルレだった。
“シルレ”と書いてはいますが、誰かは分かりますよね?
彼女と皇さんの邂逅……これは前々から書きたかったので、ここまで来られてよかったです……。
さて――
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