64.演劇は置いといて……。
すいません、お待たせしました。
※掲示板で書かれている部分が入ります。
苦手な人もいるかもしれませんので、一応事前に言っておきます。
『ダンジョンのせいで、日常が一変したんだ!! クソッ、俺たちの平和だった日常は、もう帰ってこないのか!?』
『そんなことはないさ、俺たち、ダンジョン探索士がいるじゃないか!! 皆で頑張ろうぜ!?』
突如として代わり映えしない日常に降りかかった脅威に嘆く人々。
そこに現れたダンジョン探索士という希望。
立石や木田が主役を担う演劇が壇上にて行われていた。
今世界でも耳目を集める二人が出るというだけで、体育館内は大盛況。
二人のセリフ一つ一つに黄色い声援やザワザワする声が上がる。
普通の演劇と違い、そうした静寂とは無縁の様子が、かえってまた全体を盛り上げる要素となっていた。
一方俺はそれを舞台下――普通に体育館の脇の方で見ているのだが……。
「……無料とはいえ、よくこれを客に見せようと思いましたね」
「はは、ははは……」
壁に背を預ける椎名さんに、とても鋭い一言を貰ってしまった。
学園祭当日。
完全にフリーだとマスコミ関連で混乱をきたすため幾らか制限はあるものの。
基本的に来校は一般的に開放されていた。
なので、ウチや逆井のクラス合同の演劇目当てに訪れた人々は物凄い数に。
体育館の中は立ち見客も大勢出るくらいになり、そして内容が内容だ。
ザワザワとした声があちらこちらから上がっており、俺と椎名さんが2人で話していても気にされることはなかった。
「客は学生だけではないのに、この盛り上がり……全体の空気というのは恐ろしいですね」
何だか実感が籠った言い方だった。
まあ、否定できないような演技レベルなんだけどね……。
逆井はやはり忙しくて来られなかった。
立石と木田はいるけど、その内容はもう俺からしたら目も当てられないもの。
セリフは殆どうろ覚えだし。
演技自体も上手いとは言えないしで、もうツッコミどころ満載だった。
それでもウケているということは、求められているのは演劇の質ではなく、唯の客寄せパンダの存在なのだろう。
「――では、私達は有難く報告会と行きましょうか」
椎名さんがここに来たのも、別に学生たちのお遊戯会を見たいわけではなく。
先日のライブのことなども合わせて互いに報告し合おうということだった。
電話でもいいのだが、渡すものがあるとのことで、時間が取れるこの時にしたのだ。
「――ですので、“ダンジョン探索士補助者”制度は要するに、花織様が仕掛けた、戦闘に携われる者を増やそうということですね」
先のライブの終わり間近に発表された、新たな資格。
文字通りダンジョン探索士を補助するための資格で、ダンジョン探索士よりも取得がかなり容易になっている。
現在ダンジョン探索士になれば、禁止が解除されるダンジョン探索。
ダンジョン探索士補助者であれば探索士に帯同することを条件に、ダンジョン探索が可能となるのだ。
更に幾つか条件を満たせば、ダンジョン探索士になることも可能だという。
「ただ、ダンジョン探索士一人につき5人まで、ということですか……」
「はい。あまり背景事情がハッキリしない人や、他国の人間を補助者として雇って何かあった場合、責任を負うのはその探索士ということになります」
必ず地方自治体へと届け出て、どの探索士に帯同する補助者であるかを登録しておかねばならない。
まあ制度設計としては分からなくはない。
『ダンジョンって……何が出るか分からないし、怖い……』
『安心しろって、俺たちが傍についててやるから、モンスターなんてあっという間に蹴散らしてやる!』
「「「きゃぁぁぁぁ!!」」」
周りの観客が黄色い声を上げる。
耳が痛くなる程のものだが、まあウケているのなら特に言うことはない。
「ああ……なるほど、つまりこれを前提として“シーク・ラヴ”の研究生制度も導入した、と?」
俺はそんな体育館内の様子を尻目に。
椎名さんとの会話を続ける。
「はい。今現在いる本生12人――花織様や御嬢様などが、一人につき5人まで研究生の指導を行い、より良いアイドルグループを目指す……という建前ですが」
今現在ホームページにて発表されている内容だ。
椎名さんはそれだけでなく、未発表の情報も俺に教えてくれた。
「今後グループ内で誰が次のCDのセンターになるか、とか。或いはリーダーを誰にするか――そう言った決定事項について、選挙のようなことをしたいと考えています」
「つまり……そういったグループ内政治みたいなことも、ファンを増やしたり、楽しませる要素だと?」
社会は近年、目まぐるしいスピードで変わっていく。
何もしないままファンがずっと応援してくれると考えるのは都合が良すぎる。
だから、色々と売り出す方も考え続けなければならないということだろうか。
「後、自治体と連携して探索士でない研究生は補助者の申請もさせます――つまり、戦える人材を増やす意味合いも勿論ありますよ」
「なるほど……」
「――あっ、そうそう、これを渡しておきます」
突如思い出したようにそう言って、椎名さんは一通の封筒を取り出す。
受け取り、中を確認するよう促されたのでその言葉に従う……と!?
『皇律氷公式ファンクラブ会員番号:0 新海陽翔』
金色に光る一枚のカード。
皇さんが恥じらいながらもにっこり微笑む絵がそのバックにプリントされているものだった。
「ちょ!? ええっ、いつの間にこんなものを!?」
あのライブの後“シーク・ラヴ”とは別に、それぞれ12人のファンクラブも結成されたのは知っていたが。
何でピンポイントで皇さんの、しかも番号“0”って。
「発行費とかは気にしなくていいです……何に使えるようになるかはまだ分かりませんが持っていて下さい」
「えっ、でも――」
「――持っていてください、い・い・で・す・ね?」
椎名さん、あの、貴方の指が俺の肩にめり込んでるんですが。
ダンジョン攻略者でも何でもないですよね!?
なのにこの怪力!!
これが肩ではなく首に行ったらと思うと、俺はもう受け取る以外の選択肢はないように思えた。
……まあ、別に持ってても不都合は無いだろうしいいけどさ。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
その後、しっかりと財布に会員カードを仕舞うところまで見届けた椎名さんはその場を後にした。
互いに報告し合うべきことは報告した、そして渡すべきものも渡したということなのだろう。
こちらは一応生徒としてこの場にいる以上、未だ劇が終わってないのに中座することもできない。
まだ少なくとも10分は残ってる。
この後の暇をどうやって潰そうかと思っていると、マナーモードにしているスマホが震える。
どうやらメールが届いたようだ。
「誰だろう……って、椎名さん?」
ついさっきまで一緒にいた相手なだけに、何か伝え忘れだろうかと心配になる。
だが、どうもそう言うわけでもないらしく――
『この後もまだ退屈な時間を送ることになるでしょう。会員カードを受け取っていただいた礼というわけではありませんが、暇潰しに使えると思います。一読されてみては?』
という文章の下に、URLが添付されていた。
「へぇぇ……珍しい……」
とはいえ、こういう細かい気遣いも出来る人なのだ。
……ちょっと俺には当たりがキツイ時もあるけどね。
俺は有難く、椎名さんの心遣いに甘えることにし、そのURLを押すことにした。
「……ん? 何かのスレ、か? ……ああ、この前のライブの」
どうやら土曜日のライブとか、あるいは探索士アイドルに関するスレのようだった。
自分も実際にその場にいて良かったとは思ったが、一般の反応みたいなものを見るいい機会でもある。
俺はこれを見て残りの暇な時間を潰すことにした。
――――――――
【探索士アイドル】お披露目ライブに行ったんだけど、色々ヤバい【最早神か】
1:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
あれは普通じゃねぇ……探索士だ
2:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
いやそりゃそうだろ
3:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
≫1
何言ってんだ……コイツ?
4:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
俺もあの場にいたぞ!
でも言いたいこと……分かる!
5:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
意味不明なこと喚いてる乙
6:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
≫1
kwsk
7:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
シーク・ラヴのホームページに一部ライブ映像あるから見てこい
それでも結構ビビるから
8:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
あれ見て正気保てるアイドル関係の奴おんの……
9:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
≫7
え……あれなに?
アイドルってあんな高さでバク転できんの?
10:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
≫7
確認した
デビュー……ライブ?
歌上手過ぎねぇか?
何人か転生者おるやろ絶対
11:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
デビューしたてのアイドルってなんだっけ……
12:1
だろ?
ちょっとアイドルに対する概念が俺の中で行方不明
≫9
ああ、颯ちゃんな
ムッチャ運動神経よくて、12人の中でも随一
≫10
どっちだろ?
花織ちゃんか梨愛ちゃんか、中でも歌上手かったのはそのどっちか
13:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
≫8
俺氏、弱小だがアイドル業関係者
最早彼女ら関係なく既に虫の息……
14:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
でもさ、確か1万人規模の会場なんだろ?
デビューでそこまで……
エグイな
15:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
1はどこら辺で見てたん?
ちなみに俺は立ち見だった
16:1
≫15
スタンドの真ん前のかなりいい席だと思う
告白前でいい感じの同僚と行ったんだけどさ……
ライブ自体が凄すぎて、告るの忘れた(涙)
歌までの進行、運びは上手いし
それぞれが個性被ってるって感じでもなく
デビュー曲が凄かったのは言うまでもない感じでさ……
言ってること伝わってるかな?
ちなみに彼女はメッチャ喜んでくれたみたいだけど
17:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
自分も行ったんだけど、皆可愛かったな……
桜田知刃矢ちゃんのあのちょっと背伸びして頑張ってる感じ
お姉さん、結構好きです!
18:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
俺は断然律氷ちゃんprprかな……
あの小動物っぽい感じ、守ってあげたくなる!
19:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
何か良くニュースとかで見たけど……
そんな凄いの?
20:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
≫1
ドンマイ……
喜んでくれたんなら、好感度は上がってるはず
機を待つんだ!
21:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
≫17
分かる!
でも同時に心配にもなる
「きゃわ~! チハちゃん、怖いの~」
これ……五年後絶対に本人の黒歴史になるぞ
22:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
あれだよね、今年ダンジョン攻略した動画を上げてた、あの子らでしょ?
実際に国内の頭痛の種を解決してくれて応援はしてるけど
でもアイドルはちょっと違うんじゃないかとも思う
いや、批判したいんじゃないんだけど、こう……分かる?
23:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
18みたいな特殊野郎じゃない限り、普通は志木ちゃんだと思う。
あれは普通に可愛いし守ってあげたくなると同時に芯もある
MCも上手いし、歌もできる
踏むのも上手そうだし、多分蔑む視線もできる
花織様以外に選択肢なんてないんじゃないか?
24:1
≫21
知刃矢ちゃんは修羅の道を進むと決めたんだ……温かく見守ってやろうぜ
≫22
何となく。言わんとすることは
だからもう彼女らはアイドルって枠に収まらないんじゃね?
それが今回の趣旨なわけで……
≫23
俺は断然颯ちゃん押し
彼女が花織ちゃん押しで……ん?
あれっ途中からどうした!?
既に調教済み!?
26:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
六花さんすんげぇ美人じゃね?
ゴージャスなお嬢様感あるわ、あの人
27:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
白瀬飛鳥ちゃんだっけか?
あの子と花織様がバチバチしてたの結構好き
28:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
逸見六花さんの癒しオーラ半端ない
そこに律氷ちゃん加わると無敵
六花さんと律氷ちゃんのハッピーセットはどこで飼えますか?
29:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
≫27
わかるw
しかも花織様が全く相手にしてない感じが堪らなかった
飛「ふんっ! 私もやろうと思えばダンジョン攻略なんて簡単だけどね!」
花「フフッ、でしょうね……私も飛鳥さんみたく逞しい体でしたらもっと楽できたのに。羨ましい」
飛「ムキーッ!!」
相手にせず煽るとか高等テク半端ないw
30:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
いや、ってか志木ちゃんのこと花織様呼び固定かよw
31:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
1と同じく、普通に颯ちゃん可愛いと思うけどな……
ボーイッシュで、でも多分家では可愛いぬいぐるみとか集めてそう
普段冷静なのに、家に彼氏とか来た時すんごいワタワタしてさ……
32:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
皇さんを愛でたい・守りたいって気持ちは分かる
でもお前ら、それなら覚悟しといた方がいい
URL……
33:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
≫28
「飼いたい」って……
お巡りさん!コイツです!
≫31
妄想乙!!
34:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
URLのリンク先確認した……
皇律志
律氷ちゃんのパパん
超巨大グループを支えるやり手社長
海外の要人とも多数コネクションを持つ
武道を普段から嗜む、たまたま居合わせた銀行で間違って刺そうとした強盗を返り討ちにした経験あり
以下、とあるビジネス番組のインタビューで零したセリフ
お父様「ハハッ。娘が可愛くて可愛くて、あの子と接する時だけはビジネスマン失格になります」
インタビュアー「そうなんですか、エネルギー業界の巨人の舵を取る方が、意外です! ……娘さんに恋人を紹介されたらどうされます?」
お父様「ハハッ……このインタビュー自体、放送NGにしましょうか?」
これが放送されてるってことは、パパんの小粋なジョークだったってことでいいんだよね?
インタビュアー、首になってないよね!?
35:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
その後、インタビュアーと34の姿を見た者は誰もいなかった……
36:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
≫34
良い奴だった……
37:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
≫34
惜しい奴を亡くした……
38:以下、名無しにかわりまして探索士がお送りします
≫35‐37
やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
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「最後はまあネタとして……皇さんの親父さんやべぇ……」
まあ、そりゃあんな可愛らしい女の子が娘さんとなればこうもなるか。
一応調べてみると、確かに火曜の夜10時頃に放送される経済番組で出演があったらしい。
それで、そういうセリフを言ったとある。
皇さんって、椎名さんもそうだけど、親父さんにも形はどうあれ愛されてるんだなぁ……。
「……見た所、やっぱり志木が結構人気っぽいな。黙ってれば普通に可愛いくて綺麗だもんなあ、アイツ……」
大体のスレでの押しの感じは。
志木:3
皇さん:2
逆井2:
赤星:2
それ以外:1
って感じか……。
「やっぱりあの攻略動画とかで露出が段違いだからな……」
『――この国に、俺たちダンジョン探索士がいる限り、モンスターに平和は壊させない!!』
『だな!! マジで今なら負ける気がしねえぜ! 立石っちと俺がぜってぇ守って見せる!!』
「「「うぉぉぉぉぉ!!」」」
おっ、演劇の方も丁度終わりっぽいな。
体育館内はあの土曜日のライブみたいに歓声で包まれている。
ただあの時とは明確に違って、感動ではなく何かその場の雰囲気がそうさせてるっぽい。
……まあトチらなくてよかった。
椎名さんには感謝だが、なんかちょいちょい皇さん贔屓な奴も目立ったな。
あの人、何の意図でこれ見せたんだろうな……。
ま、確かに時間は潰せた。
まだ書き込み自体は沢山あったので、残りは後でまた読むとしよう。
たっぷり12時間以上寝て、気力も充実。
評価も沢山の方にしていただいたということも実感しており、遂に1000名を超えました!
よーし、皆さんにできるだけ色んな角度から世界観を知ってもらいたいなぁぁ――そんな気持ちでやったことないけど、掲示板でも書いてみようかな、とやってみて……
――えっ、これこんな手間かかんの?
やり始めた当初こそ楽しく進められたんですが、だんだんやっていくうちにその進行具合の遅さに軽く絶望。
初めてということもあるでしょうが、書き方も随分省いたものなのに、普段の執筆の多分3倍くらいの時間を要しました。
……今後はおそらく掲示板回はやらないと思います、よっぽどのことでもない限り。
感想の返しはこの後行いますので、後少しだけお待ちを!!
ブックマークも8248件に増えました!
ふぅぅ……。
良かったです……。
本当にいつもいつも主にメンタル面で助けられています、ありがとうございます。
ご愛読・ご声援頂いているという実感が、いつもしおしおになりがちなメンタルにやる気という水を注いでくれます。
今度もご声援・ご愛読いただけましたら嬉しいです!




