63.明日以降に備えよう!
3章のスタートです。
年始ということもあり、話の進み具合はゆっくり目ですが。
ではどうぞ!
“フフッ、フフフフ……ご主人様がいけないんです。私はこんなにも愛しているというのに”
“まっ、待て! 待ってくれ!! じゃ、じゃあ何か!? まさか、この3日間の出来事も、それに今俺が縛られて身動きができないことも、全部――”
“あはっ、アハハハハハ!? 今頃気づいても遅いですよ! 全部っ、全部私がやりました!! ――もう、私、我慢できません……ゴメンなさい、ご主人様”
近づいてくる顔は狂気一色に染まり切っていた。
それを見た瞬間、この後に起こることを想像し、体の全部が、指先一本すら恐怖で動かなくなる。
“――や、止めろ……嫌、嫌だ……うわぁぁぁぁ!! 止めてくれぇぇぇぇええ!?”
生存本能が上回ったのか、叫び声だけは喉が引きちぎられそうな程に出てくれる。
が、しかし。
その後、視界は真黒に染まり、俺の人生は幕を閉じたのだった……。
――GAME OVER――
「――あぁぁぁ、残念。えーっと、リヴィルお姉ちゃん、これは?」
自分の膝上に乗せたルオに尋ねられ、リヴィルはしばらく考え込む。
「ん? これは……マスター、これって何ていうの?」
ゲームオーバーが読めない、ということではなく。
この状況自体が良く分からなかったリヴィルは、俺へと更に聞いてきた。
「こっちに回ってくるのか……」
非常に答えにくい。
どうしたものかと悩み、とりあえずフワッとした回答で誤魔化すことに。
「うーん……まあ、要するにヒロインをちゃんと見ていてあげてなかったから、もう一回やり直してねってことだ」
だがこの俺の努力を、ラティアがいとも簡単にぶち壊してくる。
「ですね……18禁版の方では、ここでヒロインの“リルア”がサキュバスの性欲を我慢しきれずに襲っちゃうんです。ご主人様をひたすら。いわゆる“二人で退廃的肉欲ルート”ですね」
いや、“いわゆる”とか言われても知らねえよ。
どこ情報だよそれ?
今俺たちがリヴィングに4人揃って何をしているかといえば、まあテレビゲームだった。
だが普通のゲームと違うのは、要するにこれはヒロインを攻略するギャルゲーであるということ。
そしてラティアが口にした通り、これは元はPCゲームで人気が出たエロゲーを一般向けに移植したものなのだ。
「むぅぅ……難しいな……」
「ふふっ、頑張ってルオ」
主にプレイするのはルオとリヴィル。
最近二人は、ラティアが一番初めにこの家に来たという点に気遣ってか、一緒の部屋で寝起きするよう願い出た。
そこから意外と馬が合うのか、今もこうしてリヴィルがルオを膝にのせているように凄く仲もいい。
ラティアはそんな二人を見守るように傍に控えている。
既にどちらのバージョンも攻略済みらしいので応援に回っているということだな。
俺はというと……。
元がエロゲーで、しかも3人がいる前でということなので。
中々自分でプレイしようという気にはならなかった。
そう言うこともあり、先ほど返答に窮したということだ。
「――ところで3人とも、明日と明後日はどうするんだ?」
俺はスマホの時刻を確認しながら、それぞれに問いかける。
火曜日のまだ15時15分。
普段ならまだ学校にいてもおかしくない時間帯。
だが今日は短縮授業で、午前で既に下校可能となっていた。
なので今、4人でいられる時間を持つことができているわけだが――
「ここは“B”!“メス豚サキュバスはメス豚サキュバスらしく、大人しく俺様に奉仕しろ!”が正解――って、え? ボクは明日もいつも通りだと思うけど……」
何でこのゲームPC版でも人気出たんだよ。
この選択肢で全年齢版だぞ……。
「……本当、このゲーム、どんな選択肢を用意してんだよ――リヴィルは?」
「うーん……学園祭、だよね? マスターが出るわけじゃないって話だし、私もルオに同じく、かな……あっ、ルオ、そこアイテム使った方がいい。“落とし物C”」
そう、明日明後日はとうとう俺たちの高校での学園祭の日だった。
一般にも開放されているので、3人にどうするかを確認していたのだ。
今のところルオとリヴィルは不参加とのこと。
ちなみに“落とし物C”の詳細文は『首輪とボンテージ衣装。学校の俺の机の中で拾った。誰かが自分の机とでも間違えたのだろうか……』とある。
……このゲームの売りでもある“主人公が意味の分からないところで鈍感力を発揮する”を見習い、俺もツッコミは控えようと思う。
「――ラティアはどうするの?」
リヴィルに話を振られたラティアは、選ばれた選択肢に安堵しつつ、視線を空中へと向ける。
……えぇぇ、ゲームの選択肢これで合ってるのかよ。
「う~ん……ご主人様、行った方が宜しいでしょうか?」
「……正直来ても楽しめるかは保証できないぞ? 言ったように俺は特に役割もないし、内容も……なぁ」
演劇でも俺は買い出し部隊。
当日何かあってももう現場で臨機応変に対応してもらうしかないのだ。
まあ出席自体はすることになるが、だからといって俺に何か見せ場があるわけでもなし。
なので、今日の短縮授業で、午後に追い込みをかけている生徒とは違い。
俺は演劇、もっというと学園祭に特別な想いみたいなものは無かった。
「むしろ3人は目立つからな……二人が来ないと決めてるなら、ラティアも明日明後日はゆっくりしたらどうだ?」
3人ともそれぞれが別方向とはいえ極めて優れた容姿・外見をしている。
もし来たら来たで大騒ぎになるかもしれないしな。
「そうですね……分かりました。では、私達は3人とも家でゆっくりしたいと思います」
これで本格的に明日明後日はほぼ通常営業ということになった。
ま、この数か月の間、イベントイベントの連続だったからな。
こういうことがあってもいいだろう。
「――うわぁ! 凄い、やった! 見たことないアイテムゲットだ!」
「やったね、ルオ。これで攻略に弾みがつくよ。えーっと……“何らかの体液B”か――ラティア、これってどういうのなの? ヒントくれない?」
「ああ、それはヒロインが主人公の衣服を隠し持っていて、毎夜舐めていたことを示すアイテムですね。さぁ、これを使ってどうヒロインをおびき出せばいいでしょうね?」
……このゲーム、なんで全年齢版の移植に漕ぎ付けられたのか、本気で不思議になって来た。
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『へぇぇ……とうとう梨愛もアイドルデビューですか』
「親友としては感慨深い物があるか、織部」
『ですね。新海君の話を聞く限り、お客さんや一般の反応も凄く良かったようですし、何だか不思議な気分です』
俺は今、DD――ダンジョンディスプレイを使って、織部と通信をしていた。
まあ色々な報告も兼ねて、主に逆井の近況を伝えておこうということだ。
土曜日のライブの後。
世間の反響は凄かったの一言に尽きる。
ニュースや色んな番組でも報じられたし、海外の新聞などでも取り上げられたようだ。
“シーク・ラヴ”のホームページもアクセスが集中した。
一時それでアクセスできなくなり、リンクが貼ってある防衛省の方にも何か影響が出てしまわないかという懸念が本気で出たくらいだ。
『活躍してくれているのでしたら、それに越したことはありません』
「ああ、まあな――それで、逆井の件について、織部も何か決めたことがあるとか」
俺がメッセージを送ると、織部からそうした趣旨の短い返信が来たのだ。
なので、一方通行的に俺が話し続けるのではなく、織部に先を促した。
『はい……ボイスレコーダーを、用意してもらいたいんです』
なるほど……。
織部のその一言だけで、なんとなく彼女がやりたいことを理解した。
俺は特にそれに異論を挟まず頷く。
『……良いんですか? いつもいつも、お金がかかることばかりお願いしてますし、何か一言くらいあるかと、思ってたんですが』
拍子抜けしたという様にそう織部は告げる。
「その分当初の俺たちの想定通り、ダンジョン攻略の方が順調に進んできてる。そっちで金銭的にやりくりすることもできてきたし、そっちは心配するな」
以前4人でゴーレムを倒したあのダンジョンで見つけた薬草や魔石を、またいくつか買い取ってもらった。
それだけだと1人3万円の分け前だが、それでも十分貰ってる方だと思ってる。
「――それに……逆井のため、なんだろ?」
相場は知らんが、ボイスレコーダー一個なら4,5千円くらいじゃないのか?
それで逆井のメンタル面のケアができるんなら安いもんだ。
『…………はい。ありがとうございます』
まあ、こっちはルオやリヴィルを買った時、色々と情報提供してもらってる。
だからそこまで一方的に何かしているという感じはないんだがな……。
『――そうですか! 明日、そっちはもう学園祭ですか!』
いくつか逆井達のライブに関する記事・ニュースについて話して。
俺達の話題は学園祭のことに移った。
織部はもともと俺とクラスメイトだったし、ちょっと避けた方が良い話題かとも思ったが。
意外とそこはあまり気にしておらず、ノリノリで自分から話題を広げて来た。
『そういうイベント事ってやっぱり学生の花ですよね! 皆、非日常の空気に酔って、普段では中々奥手な人も、自然と背中を押され、そして体育館の倉庫に連れ込まれて、最後はマットで……』
ホームシックということではないが、故郷の話をして色々と思い出したのだろう。
一般論なのか織部の願望なのか分からないことを次々と口にする。
「まあ、それは置いといて――」
置いておかないと、今はストッパーのサラがいないので、暴走がどこまでも続くからな。
「主役の逆井が当日来るかどうか分からん。それにお前の幼馴染の立石も――」
『…………』
「な、何だ?」
織部が突如無言になり、ジト目で俺のことを睨んでくる。
『何でわざわざ“お前の幼馴染の”と頭につけるんです? 普通に“立石君”でいいじゃないですか』
「いや、でも事実――」
『何ですか、彼とは何も無いって言ってるじゃないですか。属性で言ったら“無”ですよ?“無”』
えぇぇぇ。
以前は普通に“幼馴染”っていう属性は肯定してたじゃん……。
ここまで否定されると、いっそ立石が憐れになってくる。
「……わかった。普通の立石も、来られるということだが、果たして演技ができるのかどうか」
殆どクラスでの練習には参加出来てなかった。
あいつ一人での自主練にも限度があるだろう。
明日と明後日、目も当てられない事態になるかもしれんな……。
『まっ、いいんじゃないですか? 失敗も挫折も青春を彩る絵具の一つですよ。放っとけばいつの間にかケロッとしてますよ、きっと』
「うわー、凄い適当」
織部がむしろ生き生きとした無表情なように見える。
凄いな、こんな織部、そうそう見られないぞ。
……ってか何だ、“生き生きとした無表情”って。
「立石はある意味逸材かもしれんな、織部のこんな表情を見られるんだ。奴はもっと高みを目指せる」
『ちょ、マジで止めてもらえますそういうの……』
うわっ、ガチの奴だ!
こっわ!
マジで怖い!!
俺が織部にこんなに押されることがあるなんて……。
「――まっ、まあ兎も角! 何もすることはないとはいえ、俺も明日はちゃんと学校に行くからな、また土産話も持ってくるよ!」
劣勢と見るや、俺はすかさず話を打ち切りモードに。
『あっ、ちょ、新海君――』
それを感じ取り、織部は焦ったような表情に戻るも、時既に遅しだぜ!
「じゃあな、織部! また、うん!」
プツンッと通信が切れる音を確認。
即時撤退に成功。
「ふぅぅぅ……焦ったぁぁぁ。織部の前で立石の話をするのはある意味諸刃の剣だな」
そうして額に浮かんだ冷や汗を拭っていると、織部からメッセージが。
「……良かった、怒ってるわけじゃないっぽい」
そこには『……土産話、お待ちしています』とだけ書かれていた。
「土産話に、なればいいがな……」
明日のことを想像し、少し気分が重くなってきた。
少し見ない間に、評価してくださった方が995名に!!
あと5名で1000です1000!!
おお……。
これで何かが変わるというわけではないでしょうが、でも嬉しいものは嬉しいです。
ブックマークも8193件。
順調に少しずつでも増えております!
これはですね、本当にピタッと止まると不安になったりモチベーションの低下が如実なんですよね。
なので、こうして少しずつでも増えていることを実感できるのは有難いことです。
皆さんに読んでいただけていること、そして応援していただけていること。
本当に嬉しいです、ありがとうございます!
今後もご声援・ご愛読頂けましたら幸いです!




