62.ライブに行こう!! 後半
あけましておめでとうございます!
年内は間に合いませんでしたが、とりあえず。
今年もよろしくお願いします!
早速ですが修正です!
シャルロッ“テ”→シャルロッ“ト”に。
感想でご指摘いただいて、無理して固執する部分でもないので、そのようにお願いします!
普通に今後も出る場合は略称、つまり“シャル”で行くと思うので。
ではどうぞ!
『本日は……』
司会によって紹介された防衛副大臣が、来られない大臣からの言葉を代読するという形でライブは始まりを告げた。
一瞬拍子抜けするような思いだったが、その有難いお言葉自体は意外に早く終わる。
あちら側もこういう場で長々と校長先生じみたことをするのは相応しくないと分かっていたのだろう。
形式だけは整えたかったみたいな感じか。
昨今の国外情勢、ダンジョン情勢が厳しい中、うちの国で走り始めた制度――ダンジョン探索士達が頑張ってくれてます、広報も攻略も引き続き頑張ってね、という内容だった。
そして直ぐに本題へと移る。
『――大変ながらくお待たせいたしました。では! 本日の主役たちに登場していただきましょう、どうぞっ!!』
テレビ番組内でのMC経験が多い大物芸能人の司会者が告げると共に。
ステージの大型モニター付近に設置されたスモークが噴き出す。
「「「「わあぁぁぁぁぁぁ!!」」」」
スモークの中を潜り抜けてくるように、少女たちがその姿を現した。
場内が一気に歓声に包まれる。
彼女たちはそれに怯えたり動揺することはなく、中央のせり出したステージ前まで駆けて止まった。
『いやぁぁ、物凄い声援ですね……それだけ皆さんの期待も大きいということでしょうか!』
登場した彼女たちが整列するのを見計らい、司会者がマイクを通して進行を再開した。
司会者は一番自分の近くにいた、俺の知らない探索士アイドルの少女ではなく。
中央付近にて姿勢良く立つ、一際視線を集める志木へと話を振った。
……まあ、事前に幾らか打ち合わせはしてるんだろうな。
ってか、志木がやっぱりあの中でリーダーっぽいポジションなのか。
『どう? やっぱり緊張とかってあるかな? いや、聞くのも無粋かな』
『フフッ、勿論緊張で胸が今でも張り裂けそうです。ですが、同時にここから見える景色、皆さんの笑顔がとても眩しくて……これからどうなるんだろうってワクワクもしてます!』
…………え、誰あの白かおりん。
滅茶苦茶に優等生で、正統派アイドルっぽいんだけど。
元の探索士の制服を更にアイドル寄りに。
つまり良く言えば可愛らしさを際立たせた、悪く言えば媚びたような衣装で着飾っている。
ダンジョンだとか探索士だとか。
そんな前提知識なしに彼女を見れば、普通に最前線をひた走る超一級のアイドルのように見えてしまう。
……猫かぶりめ。
『…………』
やべっ、何かこっちの方見た!?
ってか殺気の念を放たれた気がしたんだけど!?
『ん? どうしたかな、ハハッ、やっぱり緊張はあるかな』
『……そうかもしれませんね、つい』
……アイツ何なの、何かの能力者かよ。
「――うわぁぁぁ、凄いね、ご主人って、確かあの人と知り合いなんだよね!?」
興奮した様子のルオが、ラティアの横から乗り出してくるようにして尋ねてくる。
「うーん……知ってると言えば知ってるけど、知らないと言えば知らない」
俺が知っているのは、主に黒かおりんの方だ。
白かおりんは穢れなき正統派アイドルっぽ過ぎて、俺は未だに殆ど知らない。
「でもそうだな、凄いと言えば凄い。登場だけで場内のボルテージが一気に上がった。特に志木はアイドルっぽいしな」
「え? あぁぁ、うん! それもそうだけど、何だか自分を隠すのが上手そう! あのお姉ちゃん!」
おおう、そう言う意味か。
ってかルオは一発であれが猫かぶりだと見破ったのか。
まあ、ルオとはある意味共通点があるからな……。
「えっと、何だっけ、あれに向いてると思うんだけど……――」
「“女優”?」
出てこない言葉を、右隣のリヴィルが告げる。
「あ! そうそう、女優さんに向いてると思う!!」
そのやり取りを聞いていて、俺に一番近いラティアがちょっとだけ左にずれて耳打ちしてくれる。
「昨日見たDVDの出演者のアイドルが、今、女優業へと転身して成功しているって話がその時出たんです、私達の中で」
「ああ、なるほど」
3人で上手くコミュニケーションもとれているようだと何だかホッとする。
その後、アイドル達の自己紹介へと移り。
一人一人、司会者に近い方から名前と、チャームポイントというか長所、そして今後の意気込みを述べていった。
『――は~い! キャッ!? 私、皆に心を探索されて、夢中になっちゃう~! 皆の心のアイドル、桜田知刃矢でぇ~す!!』
……桜田、お前それ今後も言い続けるつもりか。
後5年経ったら絶対黒歴史になるぞ。
「「「「うおぉぉぉぉ!!」」」」
えっ、嘘っ、これでウケてる!?
「……一般的には、あれが可愛い仕草、なのかな」
「えーっと……どうなんでしょう?」
リヴィルに聞かれ、ラティアが困ったように俺を見た。
「まあ……一般的には、という留保はつくがな」
無難にそう答えておいた。
『――はは! ウケる……チーちゃん何言ってるか分かんな過ぎ。――チーっス、アタシ、逆井梨愛って言いま~す!』
「あっ! ご主人様リア様です、リア様!」
珍しく少し興奮気味に、ラティアが体を左へとずらして小声で告げる。
知り合いがステージの上に立っていることが不思議な気分なんだろう。
「だな。アガッてなければいいが……」
『――長所は多分誰にでもグイグイ行けるってやつかな……うん! 今後もダンジョンガンマシで行くんで、よろしく!』
ガンガンマシマシの略だろうか。
何となくの意味は通じないでもないが。
『ハハッ、梨愛、それじゃあちょっとスケ番っぽくない? 梨愛も言ってること意味わかんなくなってるよ?』
先に自己紹介を終えていた赤星からのツッコミが入り、場内に笑いが起こる。
動画内でもこの二人のやり取りは行われており、逆井と赤星の仲が良いということは既に多くの人に知れ渡っていた。
『――律氷ちゃん、頑張って!』
最後の皇さんの番になって。
彼女に一番近い、大学生くらいの探索士の女性が応援していた。
逸見六花と名乗った、透き通る声をしているとても落ち着いた女性だ。
その彼女の応援に呼応するように、立見席などをはじめ、客からの応援の声が響く。
『――……えっと、その、ありがとうございます。今後も、皆さんと共に、頑張って、攻略していきたいです』
「「「「おぉぉぉぉ……」」」」
皇さんがやり切ると、何故か場内から感嘆の声が漏れる。
……何だろね。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
『“シーク・ラヴ”か……何だかカッコいい名前だね!』
その後、大型モニターで大掛かりなグループ名発表があり。
司会者がそのことについてメンバー全員にコメントを求めていた。
『ですね! えーっと――』
チラッとだけモニターにも映ったが。
先ほど、スタッフだろう人が志木にだけレジュメのような紙を渡していた。
志木は数秒だけそれを流し読み、戻ろうとしたその人を呼び留め、それを返す。
そして完全に内容を理解したという様に、前を見てやり取りを続ける。
『私達も今知ったところなんですが、結構プロデュースチームの中では意見が分かれたようですよ?』
『へぇぇ!? そうなの!』
司会者一人で回すというより、何だか志木と二人でのMCという感じになって来た。
『はい。探索者ということでしたので“探し人ラヴァーズ”とか、ダンジョンという点を捉えて“迷宮シーカーガールズ”とか』
『うっわっ、全然可愛く感じない!』
逆井のツッコミというか、率直な言葉にまたもや場内で笑い声が漏れる。
まあ確かに、それはちょっとアイドルっぽくないというか、キャッチーじゃないというか。
『――あ、後、まだ売れるとか人気になるかも分からないのに、上層部がマスコットキャラクターとか考えてたようです』
また志木が、先ほど見た紙にでも書いてあったのか、そんな暴露話でテーマを変えていく。
『え!? でも、良くない? マスコットキャラ! 広報の役割も今後担っていくんでしょう?』
司会者が話を広げるように、そして本来の探索士アイドルの趣旨も知らしめるように、上手く言葉を繋ぐ。
『ええ。でもグループ名が“シーク・ラヴ”に決まって、でその“ク・ラヴ”っていう所をとって――』
『まさか……えっ、蟹にしようって、ことじゃないよね?』
察しのいい赤星が嫌な予感がするといった表情で志木にそう尋ねた。
『そのまさかなんです。“クラブ”という語感から蟹を連想して、じゃあ蟹をマスコットキャラにしたら面白そうだって、決まりかけたらしいですよ』
『うわぁぁぁ……あっぶな。蟹って、どうやっても可愛くならなそう』
これには場内の人も完全に同意らしい。
逆井の呟きにドカッと笑いが起こった。
これに対し――
『……蟹さん……可愛いと思うんですが。六花さん』
『ね、律氷ちゃん。私もそう思うんだけど……』
皇さんと逸見さんのやり取りが癒しを生むかのように、穏やかな笑い声へと変わる。
「――蟹? ご主人、蟹って?」
ルオは純粋な顔をしてこちらへと尋ねてくる。
「蟹……そっちの世界に無かったのか?」
「私は似たものを見たことあったけど……」
ルオの疑問に、重ねて質問を返したところ。
リヴィルは異世界でも蟹っぽい何かは見たことあるらしい。
「えーっと……赤くて、挟みのような手を持ってる水辺で良く見る生き物だな。茹でて食べると美味しいんだ」
これで伝わるだろうかと、素早くスマホで検索し、画像を発見。
ラティアに手渡し、それがルオに。
「へぇぇ……可愛くは……無いかな」
「……ですね」
そんな感想を漏らしながら。
ルオからラティア、そして俺へとまた自分のスマホが戻って来た。
それからも楽しい話は続いていく。
案外……上がったりせず、上手く行ってるな。
それが今の率直な感想だった。
俺が初見の他のメンバーは、大なり小なり緊張している様子が見られるものの。
大きな失敗・ミスなんかは今のところなかったし。
そして、とうとうデビュー曲を披露することに。
今後のCDやデジタルデータでの発売日など細かいことをサッとのべ。
どういう想いでこの曲を歌うかなど、簡単に説明していく。
『――それでは聴いてください。私達“シーク・ラヴ”デビュー曲……“キミの心、探索者!!”』
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場内は思わず静まり返る。
誰もが同じ時間を、気持ちを、共有したというように。
そしてその一拍後。
「「「「――うぉぉぉぉぉぉ!!」」」」
耳を抑えたくなるくらいの大きな歓声が沸き起こった。
場内を満たし、外にまで響き渡るくらいの。
あらゆる意味で、観客の想像を裏切り、度肝を抜いたのだ。
志木や皇さん達ダンジョン攻略組を中心にした、とてもレベルの高い歌声。
全員で歌うパートが多かったが、志木と逆井二人にはソロパートも幾つか用意されており、その安定した歌唱力を見せつけた。
更にダンスに至ってはもっと凄かった。
単に一アイドルのデビュー曲。
余程ダンスを売りにするでもない限り、可愛らしい――言ってみればそれらしい踊りさえ踊れれば文句は出ないのだ。
だが、やはり彼女らがその予想の上を行った。
ダンジョン攻略によって上昇した身体能力。
それは単に歌声を高いレベルで安定させ、聴く者の耳に響くような声を実現させるだけではなかった。
その歌声を保ちながらも。
激しい運動量にて、この広いステージ目一杯を駆け巡り。
表現したいことを歌と踊り全てで伝えていた。
そして赤星に至っては、バク転を歌の間に挟むなど、右から左へと走り回りソロを歌う二人よりも目立っていたのだ。
誰かが大きなミスをすることもなく、良い意味で予想を大きく裏切られるライブとなっただろう。
『――私達! これからも精一杯ダンジョン攻略、そして正しい知識の普及活動に努めてまいります!! どうぞ、応援よろしくお願いします!!』
『『『よろしくお願いします!!』』』
挨拶とともに、万雷の拍手が送られる。
これで一応は終わりか――なんとなく場内全体がそんな空気に包まれた。
その時、突如として中央の巨大スクリーンが切り替わる。
『え? あれっ、何だろう……』
『えっと、何でしょうね。私も詳しくは……』
司会者が困ったように志木の方を振り向くも。
志木本人も首を傾げている。
他のアイドル達も互いに話し合って確認する。
とうとうそれが場内の観客にも伝わりだし、ザワザワとした声が大きくなっていく。
「――……何となく、あのお姉ちゃんは知ってそうだけど」
「……だな」
目の良いルオは何かを察したように、志木を見て、俺にそう言ってきた。
やはり見知った俺やルオなどは何となくそれが嘘っぽいと分かり。
「……多分アイツはこれ、知ってるな」
まあ志木が事前に知っているということは、危険なこととかではないだろう。
さて何だろうな、と様子見の構えをとっていると、画面が切り替わっていく。
最初は大げさな演出のように、今回のデビューライブの中身を整理するスライドが流れ。
そしてそれが終わるとドドンという効果音と共に――
『――新資格“ダンジョン探索士補助者”制度! 遂に導入!! それに伴い、“シーク・ラヴ”研究生を応募決定!!』
という文字がデカデカと映る。
その文字のインパクトが消え去らないままに、また別の文字に映り変わり――
『更に!! “男性探索士アイドル企画”進行中!! “男性のダンジョン攻略者 立石総悟 木田旭”共に内定!!』
一気に観客のざわめきは爆発したような歓声へと転じた。
『詳しい情報は随時更新中! 防衛相の公式ホームページや“シーク・ラヴ”公式ホームページへとアクセス!!』
そんな告知とともに、今回のライブの重要部分は終わりを告げた。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「すぅぅ……すぅぅ……」
「フフッ、疲れちゃって、グッスリですね」
「ああ……余程楽しかったんだろうな……」
帰り道。
俺の背中で眠っているルオを見て、ラティアが小さく笑う。
代わると申し出てくれたが、まあ今日くらいは二人にも楽しんだままで帰ってもらいたい。
「だね。実際私も楽しかったし、まだ来てばっかりのルオは余計じゃないかな」
普段表情の変化に乏しいリヴィルでも、今はどこか満足気な顔で隣を歩いていた。
「そっか……なら、今日は4人で見に来た甲斐があったってもんだ」
本当、誘ってくれた皇さんには感謝だな。
今度何かお礼をした方が良いかもしれない。
「――マスター。本当、ありがとね」
「なんだ、唐突だなリヴィル、改まって」
電車を乗り継いで。
暗くなった道を歩いていると、そうリヴィルが切り出してきた。
「いいえ、唐突ではありません……。いつもいつもご主人様には感謝しています」
ラティアも、俺の背中で未だ目を覚まさないルオを気遣いながら、リヴィルの話に重ねる。
「――ご主人様と出会って、灰色だった日々が色づいて……」
「うん……段々、私も、この日常がさ、楽しくて、温かくて、それで、何より大切になってさ……」
……。
「まあ、そう言ってもらえたら嬉しいよ――」
今日まで一緒に暮らしてきて。
彼女たちの人生を買って、一度も悩まなかったと言ったら嘘になる。
本当に異世界からこちらの世界へと強制的に連れてきて良かったのか。
あちらの方が、もっと幸せになる道が、幸せにしてくれる人が、見つかったんじゃないか。
そう考えることもしばしばだった。
だがこうして二人に、自身の口からそう告げて貰えて。
そして背中で幸せそうに安心しきった顔で眠っているルオを見て。
……改めて、彼女たちとの人生を歩めて良かったと、そう思えた。
「これからまた忙しくなるだろうが、3人とも、よろしくな」
「はい!!」
「うん!」
「…………うにゅぅぅ……ご主人、ボクに任せてよ……」
ハハッ、寝言でも答えてくれてるよ。
そうして俺たちは楽しい笑いに包まれながら、家へと帰ったのだった。
これにて第2章終了です。
いやぁ、疲れました。
今後も勿論第3章に向けて頑張っていきますが。
ランキングもまた一気に滑り落ち。
しかし30000ポイントに向けて総合ポイントは順調に近づいており。
更に言うならばもっと書きたいことも、そして他に書いている物の続きが書きたいという想いも燻り続けております。
そんな中余所見をせず、何とか2章終わりまで書き続けることができたのは、やはり皆さんにご声援を頂き、そしてご愛読して貰いました事実あってこそだと思います。
本当に、本当にありがとうございます!!
今後もまたご声援・ご愛読頂けましたら挫けぬ活力となると思います、よろしくお願いします!!




