61.ライブに行こう!! 前半
お待たせしました。
前半後半に分けます。
後半はまだなので、何とか年内に終わらせたい……!!
ですので、感想の返信等は後半を書き終わってからに。
ご了承ください!
「うぇぇ……ちょっと待ってくれ、ルオ……」
来る土曜日。
電車や開始時間との関係で朝早くに起きたために、俺は少々グロッキー気味になっていた。
一方アリーナ内に入場して更にテンションが上がったルオはというと――
「――ごしゅじ~ん! 早く早くッ!」
朝の早さなど物ともせず、興奮した様子で俺たちを待っていた。
すっげぇ、むしろルオ達の方が辛くないだろうかと色々気を揉んでたのに……。
「フフッ、ルオ、あんまり急いでも、開始時間は変わりませんよ?」
「昨日の予習から、凄い楽しみにしてたもんね、ルオ」
ラティアとリヴィルは一歩下がって控えるようにして、そんなルオを優しく見守っていた。
二人も特に早起きして疲れた様子はない。
既にクタクタなの……俺だけかよ。
「――へ~。これはかなり良い席だな、皇さんに感謝しなきゃ……」
チケットの『南側 スタンドD席』と書かれた部分と対比して場所を確認。
俺は彼女から5つ連続した数字の席順チケットを貰っていた。
俺とラティアとリヴィル、そして俺の両親の分を想定して譲ってくれたのだが。
今回はそれをルオと、そして一つ空席として利用することに。
ラティア達3人が並んで座り、一つ空けて俺が座った。
……誰が俺の隣に座るかでちょっと不穏な空気になったからな。
「うわー! あそこ!? あそこにアイドルの人達が出てくるの!?」
真ん前にある手すり部分から乗り出すようにしてルオが中央に設置されたステージを指さす。
昨日3人で留守番している間に、DVDのライブ映像を見てから熱の入りようがかなり高まっていたからな。
親父が以前買ったらしい一世代くらい前のアイドルの物だが、それでも想像と興奮を掻き立てるには十分だったようだ。
……ちょっと衣装が過激で有名だったアイドルのDVDを、なぜ親父が買っていたかは、想像しないようにした。
「だね……まだ開始時刻までは時間あるようだけど」
ルオの右に座ったリヴィルは、椎名さんから貰った素材の買取依頼専門のスマホを見て時間を確認する。
「ですが入場者はもう凄い数です。それだけ注目度が高いということでしょうか……」
ルオの左――つまり俺の二つ右隣に腰を下ろしたラティアは場内全体を見渡していた。
「……だろうな、今日がデビューライブ、それで1万人規模のアリーナがそのお披露目の場所」
なのにもう既に開始前からその席の大半が、客によって埋められている。
俺はそっとスマホを取り出し、いくつかの記事を開いて目を通していく。
『――ダンジョン探索士によって構成されるアイドルグループのデビューライブが、土曜日、〇×体育館にて行われる。収容人数が1万人を超える同体育館。それを、お披露目自体を目的として、しかも単独で行われるということはかなり異例のことであると言えるだろう』
ネットニュースの記事を読み進めながら、頭の中の情報を整理する。
この記事に書かれているように、未だ名前すら決まっていないアイドルグループだ。
そのアイドル達のお披露目ライブに、1万人もの人を集客できるなんて普通は考えない。
でも今も顔を上げて全体を見渡す限りでは、入りはむしろ良い。
関係者も多く招待されているだろうし、チラホラ目にするが外国人もかなり沢山見に来ている。
『――アイドル関係者はこれに関して歓迎の言葉を述べつつも、同時に愚痴をこぼしていた。近年アイドルグループは常に鎬を削る戦場と化している。握手会や感謝祭などファンとの触れ合いの場を可能な限り設けて、継続的に応援してくれるファンを地道に増やしてきた』
1000人規模のライブハウスや2000人程のホールなどで少しずつ力をつけて。
そうした苦労を重ねた結果たどり着けるのが1万人もの規模を収容できるアリーナなどである。
そうしたことを前置きして、記事作成者か、情報提供者のどちらが言ったのか分からないような書き方で、続ける。
『――当日は防衛副大臣が開始に際し、挨拶の言葉を述べるとも聞く。政治の後押しを受けながら、多くのアイドルが憧れ、目指す場へ一足二足飛びに駆け上がることが、果たしていいことなのかどうか』
疑問形にしてはいたが、作成者の意図が透けて見える気がした。
そしてそういうことを不満に思っているアイドルも少なからずいると書いている。
要するに、探索者アイドルがいきなりそうした大きな舞台を使うことが、あまり面白く無いと。
『――折角国民の多くが期待し、頼りに思う攻略者たる探索士たちを、アイドルという畑違いの場へと引っ張り出すのも少し無理があるのではないか? これで当日のライブが上手くいかなかった場合、彼女たち自身の心にも大きな傷を与え、ひいてはダンジョン攻略自体に支障を与えかねないのではなかろうか』
彼女たちを気遣う風の文脈ではあるが、要はアイドル業界を荒らしてほしくない、と。
ふむ、意外にわかりやすいな。
そう言った意見も別にドマイナーというわけではない。
ネットでもそういう批判というか、心配の書き込みは結構ある。
俺はスマホを操作し、動画投稿サイトにて、『ダンジョン攻略 過程』と打って検索にかける。
一番に出てきた動画はやはり、逆井や志木達が東北にてダンジョンを攻略した過程を撮影し、アップロードした物。
詳細を見てみると、再生回数は既に1億回を突破していた。
「――楽しみだね、どんな感じなんだろ?」
「やっぱりすげぇんじゃない? だって見たろ、あの動画。普通のアイドルとはぜってぇ違うって!」
「かもね~。――そういえば、私、断然に花織ちゃん押しなんだ! 正に清楚系で正道行ってる感じが! タッくんは?」
「フッ、勿論、俺の一番の押しは……君さ」
「あ、いやそういうの良いから」
「……すいません、颯ちゃん、ボーイッシュな感じでいいな、と思ってます」
「わかる~!! 律氷ちゃんも小動物っぽくって守ってあげたくなるよね~!!」
ざわめく声の中で、隣のE席へと向かうカップルの会話が聞こえた。
……ドンマイ、彼氏さん。
それはいいとして。
要するに、普通のアイドル達は確かに地道に握手会やサイン会などを開いて。
ファンの人達の信頼を勝ち取って来たのだろう。
逆井達はじゃあ何もしていないかといったらそうではなく。
彼女たちがどうやって未だデビューもしていないのに、これだけ人を集められたのかといったら。
それはあの動画や普段の実績――つまり、実際に命を賭けてダンジョン攻略に貢献したという部分を既に多くの人が知っているからに他ならないだろう。
まあ、だからこそ今回は期待値込みで来てる客を失望させないよう、ライブを成功させる必要があるんだろうが……。
「――ちょっくら売店でも見てくるわ。3人も、行っておきたいところがあったら今のうちに行っといた方が良いぞ?」
立ち上がりながら、俺はラティア達にそう告げる。
……トイレとか、トイレとか、トイレとか、色々あるだろうしね。
「そうですね……さきほどルオを連れて一度行きましたが、始まる前にもう一度行っておきましょうか」
楽しみ過ぎてルオが小さいほうを我慢していることすら忘れ、先ほど「……ご主人、おしっこ……漏れちゃいそう」と羞恥に悶える表情で告げられた時は物凄い焦ったが。
「ん、分かった。じゃあ交代で行こっか。私待ってるから」
「ボクももうちょっとだけ、この雰囲気を見ておきたいから!」
リヴィルとルオは残るらしい。
「じゃ、ラティア、途中まで一緒に行くか」
「はい!」
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「うっわ、すっげぇ混んでる……」
先ほどラティアとトイレの前で別れ、俺は近くで臨時に設置されている物販コーナーを覗いていた。
俺が何か欲しいというわけではなく、どういうものを売っているのかその確認だったが。
簡易のテントの下に組み立て式のテーブルを置いて作られていた場所。
そこにはペンライトやリストバンド、タオルなどの手軽なものから。
『防衛省も公認! ダンジョン探索士制服コスプレ!』などと銘打たれた、上部分のみの衣装などが売られていた。
勿論アイドル達のグループ名は正に今日発表になるので、それらには『探索士アイドルデビューライブ』という文字や今日の日付がプリントされているだけだが。
そうして壁にもたれて物販コーナーを眺めつつ、ラティアが戻ってくるのを待っていると。
「――オウゥゥ!! 何処デスカ? 何処に行けば良いデスカ――」
「ん? 何だ……うげっ、外人のチャンネーか……」
俺のリアクションがバカっぽくなるのも仕方ない。
それだけ視界に入った少女が典型的な外国人っぽい容姿をしていたからだ。
長い金髪で目の色もブルー。
そして何よりこの寒くなってきた秋にも関わらず、星条旗柄の水着?の上にデニムジャケットを羽織っているだけ。
ヘソも出てるし、ホットパンツだというのも見ているこっちが寒くなるほどだ。
……抜群なプロポーションで、魅力的な可愛らしい容姿をしているにも関わらず。
周りが困っていそうな彼女に声を掛けないのは、なんとなく理解できた。
明らかに普通じゃなさそうだし、片言の日本語まで口にしてるし。
要するにヤベェ奴なんじゃねえか、という懸念が、主に周りで鼻の下を伸ばしている男連中に二の足を踏ませていた。
「何処に、何処に行けば――」
声をかけること自体は吝かじゃない。
日本語もしゃべれるっぽいので、余程の問題でもない限り解決はできるだろう。
よしんば俺の手には余る問題でも、それに適した奴を探すことはできる。
唯一つ、ラティアを待ってる身としてはここではぐれると面倒だという思いもあった。
うーん……、まあ声をかけるだけかけて、話を聞くぐらいなら――
そう思って、不安そうな表情であっちこっち見回すアメリカンな少女に声を掛けようとした時だった。
「ちょっと、そこの――」
「Oh! ヘイッ、そこのビューティフルなガール――」
「あっ、ご主人様! すいません、お待たせして――」
俺は金髪アメリカンガールに呼びかけ。
アメリカンガールは丁度戻って来たラティアに声をかけ。
そしてラティアは俺を見つけて駆け寄ってきて。
「「「……へ?」」」
それぞれの対象が別の人に話しかけ、それが自分へと戻ってくる、何とも不思議な三角形になっていた。
「――アリガトございまーす! トイレ?の場所が全然、全く、nothingでわかりませんでした!!」
その後。
胡散臭いルー語少女の目的がトイレに行きたかったとのことだったので。
丁度ラティアが出てきたところを指さして教えた。
戻って来た彼女はやはり胡散臭そうな日本語と英語の混合で、ぎこちないながらも感謝を述べる。
「いえいえ、お役に立てたのなら……えーっと?」
「Oh! ソーリーね! My name is“シャルロット”! 気軽に“シャル”と呼んでくださいネ!」
……Oh! クレイジーなバストね!
自分の胸をドンっと叩いた拍子に、そのアメリカンな胸部がブルンっと振える。
……関係ないけど、天井につるされた丸いサンドバッグみたいなのをガンガン殴るやつを思い出した。
ボクシングかなんかの練習で見かけるやつ。
「……えっと、では、シャルさん」
え!?
急にラティアが腕を絡ませてきた!?
クッ、肘に当たる胸が、それに増してなんて柔らかさなんだ!
「私達は、これにて失礼します」
「え? アウ、えっと、その、もう少し親睦をフレンドリーに……あっ、そこのソウcoolなboyの紹介も――」
何故か慌てだしたシャルロットを見て、更にラティアは強引に俺の腕を引っ張った。
俺もこれ以上ここにいる理由がないし、ラティアが何かしら感じ取ったのなら、それを信じた方が得策だろう。
……それに、肘への柔らかさ、弾力が増している。
ここは双丘に――間違えた。
早急に離脱するが吉。
「悪いな、連れを待たせてる――行くか」
「はい!」
そうして俺たちは足早にその場を後にした。
□◆□◆Another View ◆□◆□
「Oh……シット!! ああ、そう言えば日本語では“嫉妬”……とも言いますか」
周りの目から離れたところで、少女は爪を噛むようにして悔しさを露わにした。
「まあいいデスネー。本命はやはり別――ミス・カオリ、それかミスター・ソウゴ。この二人への接触は後々確実に出来ますからネ……じっくり行きますか」
彼女は見惚れる程に可愛らしい、小悪魔のような笑みを浮かべて呟いていた。
「「「…………」」」
――女子トイレの、他の利用者も普通にいる中で。
「――フフッ、フフフ……」
「えっ、ちょ何あの子、鏡の前で笑ってる……」
「ヤバいって、露出しすぎてて、エロの前に普通に体調面が心配になるレベルなんだけど」
「シッ、見ちゃダメ!! 不気味だから、放っとこう!!」
彼女は気づかない。
普通に怪しまれていることも。
そして、後一歩、何かおかしなことをしでかしたら、不審者として通報されそうなことも。
□◆□◆Another View End◆□◆□
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
――そして、時間となり、探索士アイドルのお披露目ライブが、今、始まる……。




