59.この中に一人、ダンジョン攻略にいらない奴がいる……お前か!?――いや拙者、ただのボッチでござる!!――俺かぁぁぁ!!
長くなりそうでしたので、キリの良さそうなところで分けることにしました。
明日(今日といった方が良いのかな?)も多分更新すると思うんで、勘弁してください。
「――あっ、ご主人様! よかった、二人と入れ違いにならなくて……」
帰り道にある少し大きめの公園に、俺は連れてこられた。
丁度勤め人の帰宅が始まる時間帯。
公園内の人影はほぼなく、特に目立つようなこともなかった。
リヴィルとルオと共に中を進んでいくと、そこではラティアがブランコに腰かけていて。
俺たちの姿を認め、さっとそこから立ち上がる。
「……ダンジョンを見つけたって、二人に聞いたんだが」
話を促すと、ラティアは頷き、直ぐに案内してくれた。
「……あっ、確かにあるな」
赤で塗装された穴ぼこだらけのドーム。
その中に足を踏み入れると、丁度穴と穴の間に、別次元へとつながるダンジョンの入口があった。
外からは中々見づらい位置にある。
ウニョウニョと微妙に伸び縮みしていても見つけるのは難しいだろう。
「んんっ、っしょ――はい、買い物の帰り、休憩に立ち寄ったのですが、その際ルオが見つけて」
「んっ、っと――だね。単なる休憩のつもりが、思わぬ収穫だった」
「…………そうか」
それは良いんだが……ラティアとリヴィルの動きが、その、気になるんだが。
中に入る際、穴を跨ぐように動くので、二人は自然足を少し上げることに。
そして今日、買い物帰りということで二人は外出着なのだ。
ラティアはベージュのミニスカートで、その中がチラッと見えてしまった。
……朝、ルオが勝負下着をラティアから借りていたという一件もあり、嫌でも意識してしまう。
リヴィルは黒のホットパンツで、下着が見えるということはないものの。
足を上げた動作で食い込んだのか、無意識に股の部分に指を持っていき、ズレを直していた。
…………その仕草、ムラっとくるのお分かり?
「――とおっ! シュタッ!」
「うぉっと!? ルオッ!? いきなり上から降ってくるんじゃない! ビビる!!」
一方のルオはというと。
高くジャンプをして、俺たちが屈んで入った一つ上の穴から直接入って来た。
そしてそこにいた俺が受け止めることに。
「えへへ……ごめんなさい」
普通に着地する予定だったのが、結果的に俺の真上に落ちてきたので、流石に済まなそうにする。
……以後気を付けてね。
べっ、別にルオが突如降って来たことにビビったとかじゃないから!!
意外と華奢で、でもフニッとした柔らかい肌してんだ……とかも思ってないから別に!!
ふぅぅヤベッ……変な汗かいた。
抱きとめたルオを地面へと降ろし、改めてダンジョンの入口を見る。
「……じゃあ、これから入って攻略するってことで、いいか?」
3人を見回すと、真っ先に声を上げたのはルオだった。
「うん! ボク、ご主人やお姉ちゃんたちの力になりたいから!! ダンジョン、入ってみたい!」
そう言えば、ルオはダンジョン初、か。
「私も大丈夫です。ルオもこれから関わっていくことになると思いますし、私達皆が揃ってる今回に経験しておいてもいいかと」
「ふむ……リヴィルは?」
「ん、大丈夫と思う。私だけでも大体のダンジョンは対応できるから、ラティアの言う通り、皆いる今、攻略しちゃおう」
いつもながら、リヴィルのこの頼もしさといったら凄いな。
……俺そのうちいらなくなるんじゃない?
「――よし!! 分かった、じゃあ行くぞ!!」
「おー!!」
「はい!」
「うん」
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「あっ! ご主人、“薬草”また見つけたよ!」
「マスター、こっちに“魔石”落ちてる。色的に純度は低いけど……」
ダンジョンに入って5分もせず。
なんと、ルオとリヴィルがそれぞれ、薬草や魔石をどんどん見つけては拾ってきたのだ。
薬草は普段から商品として購入した物は見てきたが。
こうして道に生えていると結構見落としてしまっていたっぽい。
それをルオは何でもない様に見つけてくるのだ。
「えへへ、ボク魔力の濃い山奥で暮らしてたから、こういうの得意なんだ~!」
庭の草むしりでもするみたいにダンジョン内の薬草を摘み取っていく。
そしてリヴィルが魔石を見つけるのが上手いというのもかなり意外な特技だった。
色・形ともに不定形で、素人の俺からしたらどの石が魔石で、どれが路傍の石ころなのか区別がつかない。
「ん~っと。何となく、見ればわかるよ。触ればもっと正確にわかる……慣れ、かな?」
リヴィルは“導力”という生命エネルギーを操る術に長けている分、他のエネルギーの濃淡なんかにもどうやら敏感らしい。
「……凄いですね」
「だな……」
ラティアも俺と同じく二人が素材をどんどん拾ってくることに驚いている。
ただそれだけでなく。
ラティアは二人のそんな様子を見ながらも、ダンジョン内を隙なく観察していた。
「ここまで5分以上は歩いて、そしてこれほど派手に動いているのに、一度もモンスターに会いません」
「……ラティアは、それについてどう思う?」
そう尋ねると、ラティアは一瞬考え込むように下を向いた。
「……先ずダンジョン全体についてですが、かなりダンジョンの活動が活発化してるんだと思います」
その言葉の後ラティアの視線は、今なお薬草や魔石がないか目を凝らすルオとリヴィルへと向く。
「今まではポツポツという頻度でしたが、今はこれほど資源が見つかるんです。ダンジョン自体の生命力が豊富になっている証拠かと」
「ダンジョンが元気だから、その体内にも魔力がどんどん湧いてる、という認識でいいのか?」
「はい。その魔力を草や鉱石が溜めたり、それによって変質したのが薬草や魔石ですから」
なるほど。
魔石は確か……。
異世界での用法の一つに、そこから魔力を取り出して魔道具なんかのエネルギーにするんだっけか。
「ふむ……じゃあ、このモンスターと遭遇しない状況については?」
俺としては楽して先に進める分嬉しいんだが。
一方で会わな過ぎるというのも何だか裏がありそうで怖い。
「今、私が考えられる可能性は3つです」
ラティアはそう言って、先ず右手の人差し指を立てる。
「先ず他の誰かが既に倒したり、攻略済み――ただこれは多分ないと思います。地球では実質的に戦闘に携われる人が現状殆どいないとのことですので」
「……そうだな」
逆井や志木たちから攻略したという話も聞かないし。
「次はそうですね……モンスターの代わりに罠を沢山仕掛けている可能性です」
ラティアは折りたたんでいた細い中指を開き、その可能性もそう高くないという。
「よっぽど高レベルなダンジョンでないかぎり、その設置できる罠の場所は普通ランダムだと聞きます。そしてもしこのダンジョンがそのように高難度ダンジョンだった場合……」
一度、思考を整える間を置く。
そして、軽く頷いた。
自分の考えるところが、やはり一応は正しそうだという結論に至ったのだろう。
「罠だけでダンジョンを構成はしません。モンスターとの併置が普通です。ですが、私達は一度も何方にも今まで遭遇してませんので」
「なるほど……」
今まで全ダンジョンを通して、ダンジョンが仕掛けるトラップというのには遭遇したことが無いが。
ふむ、ラティアの言う通りなら、オールトラップということもないっぽい。
じゃあ……。
そこで、ラティアは薬指をゆっくりと立てた。
そして、ほぼ確信を持った声で、3つ目の可能性に触れる。
「――考えられるもっとも高い可能性、それはおそらく“配分の失敗”かと」
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「なるほど……“配分の失敗”……ね」
俺は少し先にて待ち構える存在を見上げながら、先ほど告げられた言葉を思い出した。
「――gibibibibibi……」
「うっわぁぁぁ……おっきい“ゴーレム”さんだね~!」
高層ビルを見上げて感心するように、ルオはそのように驚きの声を上げる。
そう、俺たちが進んだ先で待ち構えていたのは、そのゴーレム一体のみだった。
以前のボスの間みたいに広い空間に出た訳でもなく。
普通に進路上に、それは突っ立っていたのだ。
人型、というよりは。
ピラミッドを逆さにして、そこに無理やり黄レンガでできた手足をくっつけたようなものだった。
それでも、目とか口とか、顔を構成するパーツがない分、威圧感のようなものはむしろ大きいが。
「だな……ただ、これ1体を生み出したために、他のモンスターを創れないんじゃ、考え物だが」
ラティアが説明してくれた“配分の失敗”とは要するにそういうことだ。
例えばタワーディフェンスとかそれこそダンジョン運営ゲームなんかでキャラ・モンスターを作り出して防衛する、みたいなものがあるだろう。
大雑把な例になるが、初期で1000Pt配布されてて、ゴブリンとか、スライムとか一匹呼び出すのに200ptいる、とする。
一方で、召喚できるモンスター欄の下にいったら900Ptいるけれども、滅茶苦茶強そうなユニットモンスターも。
後先考えずに、“え? 要は防衛できればいいんでしょ? だったら強い奴呼べばいいじゃん”と900Ptのモンスターを呼び出してしまったと。
だが残念、こういう場合上手く作られていて、弱いモンスターをいかに巧みに使って防衛できるかということを問うような勝利条件が設定されていて。
それで900Ptの強キャラを1体呼び出しただけでは絶対勝てないようになってる、みたいな感じだ。
まあ流石にこれは雑な例えになるが、要するに。
「ダンジョンは、このゴーレム出しただけで一杯一杯になっちまった、と」
「……まあ、それならそれで、都合がいいと思うけど」
隣にいたリヴィルが俺の呟きを拾い、一歩前に進み出る。
「だね~! 1体だけなら、ボクも色々考えなくて済むし」
ルオも同じく一歩前に進み出る。
すると――
「じゃっ、行くよ――」
ルオの全身が、一瞬真っ黒に染まる。
ただ再び彼女が視界に映った時には、既に別の容姿をしていた。
【影絵】のストックを使って、【影重】で姿を変えたのだろう。
「――んっ……この姿で出るのは久し振りな、気がするの」
俺たちの中では小柄なルオの、それよりも更に小さな体。
頭に丸みを帯びて曲がる二本の角。
そしてそのお尻には爬虫類の、しかも上位に君臨するような気高く太い尻尾が。
「えーっと……」
その白く幼い顔立ちの少女にどう呼びかけるべきか戸惑っていると、少女――ルオは振り返っていう。
「ふむ……“童妾”は“カリュル”――」
その様に名乗った竜人の少女は――笑った。
「――ふふっ、ご主人、“ボク”だよ? 安心して」
「……はぁぁぁ」
声は完全に別人のそれなのに、口調が一瞬にしてルオのものに戻る。
何だか気が抜けた。
でもそうか、このストックも上手くは言えないが、かなり安定しているように感じる。
要するに、そこそこ大事なストックとして残っていたのだろう。
「――ルオ、その姿は役割的に何を担うものなのですか?」
未だ襲い掛かっては来ないゴーレムを確認しつつ、ラティアがカリュル……と名乗ったルオに尋ねた。
「妾は細かいことは苦手、だがパワーだけなら誰にも負けん!」
口調を相手のそれにするのは、要するにその方が全体の再現率が上がって、それが能力の引き上げになる、みたいな感じか?
「そっか……相手はあれ一体だし、じゃあ今回はパワーアタッカー二人で、一気に攻めようか」
リヴィルの提案に、ラティアも納得したように頷いた。
「それでしたら、私も接敵する前に詠唱を開始したいのですが――」
普通の生物モンスターじゃなく、非生物のゴーレムだしな。
おそらく感知範囲内に入ったら戦闘が始まる、みたいな感じか。
一方で、ラティア的にも魔法の効果範囲はできるだけ近づいた方が有利なのは同じ。
なので、先制攻撃はできると思うが、相手に近づきつつ詠唱できないか、と考えているのだろう。
「……じゃあさ、マスター、ラティアが詠唱始めたら、肩車してあげたら?」
「……なぬ?」
そして詠唱中のラティアを担いで、接近しろと。
リヴィル、それってまさか――
「えっと……俺も、戦闘に参加……」
「一気に片を付けるから、マスターにはラティアのサポートをしてもらって、それで私とルオがダメそうなら加勢してくれたら」
リヴィルはこの戦い、俺を本格的に参加させる気はないらしい。
いや、ラティアをまた肩車するのも躊躇う理由だけど、それ以上に俺不要論が――
「――では、それでいくぞ!!」
おそらく竜人を再現中のルオが、勢いよく掛け声を上げた。
えっ、あっ、ちょ、確かにそれが最善っぽいけども――
「あの、ご主人様……よろしくお願いいたします」
恥ずかしそうに内股をこすり合わせながら、ラティアにそうお願いされた。
ここで“ラティアを運ぶだけなら、抱っことかおんぶでも……”なんて言おうものなら。
きっと“あの、詠唱はできるだけ立った姿勢に近い方が安定しますので……”みたいな反論が返ってくるんだろう。
…………ちくしょぉぉぉぉ!!
感想の返信はいつものように時間を見つけて行うと思います。
おそらく昼頃、かな?
しばしお待ちください!
さて――
総合ポイントが25000を超えましたね!
30000ポイントまで、もう少しのところまで来ました。
継続は力なり、ですかね。
日々モチベーションを維持するのが難しい中、こうして何かの節目節目を迎えられるのは、皆さんにご声援・ご愛読頂いているという事実の積み重ねだと思います。
本当に嬉しいです。
ありがとうございます!
今後もまたご声援やご愛読頂けますようよろしくお願いします!!




