5.相手は――で、デカい!? クッ……何て戦力だ!!
また評価を頂き、更にブックマークも増えて!!
何とランキングにまた入っておりました!!
今見た限りだと77位で記録更新です!!
本当に嬉しい限りです、ご愛読ありがとうございます!!
「……なるほど」
ラティアは、自分の種族を明かした後、自分が今まで辿ってきた境遇を語った。
自分が性的に食われるんじゃないかと冷や冷やしていたが、そんなことはなく。
まあ俺みたいなボッチ野郎、サキュバスだとしても食うメリットがないだろうしね。
それはいい。
「――ですから、私は、ご主人様の足手まといになると思います」
問題はもっと深刻というか、根が深かった。
単なる不幸話をして同情を引きたいとか、そんなもんじゃなく。
彼女は本当に自分が役に立たないものと思っている。
サキュバスであるということに、引け目すら感じている。
ラティアがなぜ、自分がサキュバスであるということを言いたがらなかったか。
……これは、簡単にはいかないかもな。
「……分かった。ダンジョン攻略については、本当に出来たらサポートしてくれる、それだけでいいから、無理しなくて」
俺はあの話を聞いてなお、積極的な協力を求めるなんてことはできなかった。
「はい……申し訳、ございません」
その場から消えてなくなりそうな程、ラティアは体を小さくしていた。
「ああ、いや、どっちにしろ病み上がりなんだから、気にしない――そうだ、テレビ見よう!! テレビ!!」
このままだと重苦しい空気に押しつぶされそうになるので、コミュニケーションスキルのない俺はリモコンを取った。
そして電源がつくと、情報バラエティー番組がやっていた。
「――わぁぁぁ、人が箱の中にいます!! 通信魔法の一種ですか!?」
ラティアはすぐさまそれに食いついてくれた。
ハハッ、通信魔法か。
「まあ、今のところはそういう感じの認識で良いよ」
さっきまでのズーンとした空気は霧散し、二人でテレビを眺める。
テレビは司会の芸人が最近話題のことを取り上げ、それを出演しているタレント達がコメントする、というもの。
『さあ、次のテーマはこちら!!』
画面には、デカデカと2枚の写真が。
その下に『ダンジョン探索士の制服発表!! 機能性を重視したスポーティなものに!!』とテロップが。
「へぇ……」
「ご主人様、こちらの世界の冒険者はこのような軽装で大丈夫なのでしょうか?」
ラティアが画面に出ている男女の写真を見て、純粋に心配の声を出す。
確かに、女性の方は特に機能性を重視しすぎてる感があった。
……っていうかぶっちゃけエロくない?
大丈夫なの?
足の動かしやすさを考慮したのか、ホットパンツのように丈が短いズボン。
一方で靴下の機能も担っているほど薄い素材で作られたブーツが、膝上までを覆っている。
上も肩を出しているアンダーやシャツの割には、肘上から先をすっかり纏うグローブを付けていた。
男も似たり寄ったり。
ちなみに、俺はあれを着たいとは一かけらも思わなかった。
そして番組では、この衣装が少し際ど過ぎるのではないか、との話に。
『幾つもデザインがあって、どれを選んでもいいということですが、どう思います?』
『全部公開されたの見ましたけど、どれもこれも、女性のものはハレンチな恰好にしか見えませんでした!!』
どの話題でも過激な発言をすることで有名なコメンテーター。
作家とのことだが、この女性の作品が大手通販サイトでは……あまり知らない方がいいだろう。
『とは言っても、ダンジョンって、多くの人でチーム組んで狭い空間を行くんでしょう?』
中堅芸人の男性が否定するというよりは純粋な疑問を提起。
『あんまり重装備し過ぎても、邪魔になりません? それに機敏に動いた方がモンスターの攻撃もよけやすいでしょうし、軽装するに越したことは――』
『また!! そういうことがなぜ女性を性の対象としてしか見ていないことに繋がると理解できないの!?』
え、今のそういうことなの?
「え、ご主人様、今の言葉はそういう意味だったのですか!?」
ラティアから純粋な驚きと質問が飛んでくる。
「いや、大丈夫。俺も意味わかんなかったから」
そういうと、ラティアは安堵して胸を撫でてくれた。
異世界から来て言葉・意思疎通に問題がなかった分、少し驚いてしまったのだろう。
その後も。
『講習が3日間の休みに入り、候補生たちはどのような休日を過ごすのでしょう』という話題に移っても、その女性のよくわからない発言が続いた。
それをBGMにして、俺たちはしばし、何でもない穏やかな時間を過ごした。
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「ふぁぁぁぁぁぁ!! ご主人様、凄いです!! 大きい建物が、光が、一杯で――」
横で周りの光景に圧倒されるラティア。
「ああっと、あんまり離れるとあれだから……」
自分でも何を言っているか分からんが、俺も俺で、少なからず興奮しているらしい。
あれから2日後の今、俺たちは電車で駅二つのところ――繁華街に来ていた。
ラティアの服や生活用品を買いに来たのだ。
そして帰りにそろそろ買わねばならないと思っていた織部の注文の品を見に行こう、と。
ラティアがいなければ絶対にできない、というわけではないが、一緒にいた方が俺の精神衛生上、大変楽ですからな。
それに、俺もこんな可愛い子と二人で街を歩くなんて、初めてだった。
だからちょっと落ち着くためにも後ろから見守るようにして歩いている。
俺の運動着のジャージを、少し丈を余らせながら着ているラティア。
見るもの全てが新しく、初めてのものばかりで、興奮しっぱなしだった。
放っておくとどんどん興味の引かれる方へと行ってしまうので、適度に声をかけて散策していた。
今は解放された外の小さなカフェスペースで、腰を下ろして足を休めている。
「凄いですね……私の故郷とは何もかも違います、“地球”」
はふぅぅ――圧倒されたというように息を漏らす。
そんな可愛らしい声を出すラティア。
「…………」
ただ、俺は少し気が気でなかった。
……さっきからチラチラと、道行く人々から見られているのだ。
勿論、その視線の先は、日本人離れした容姿を持つラティア一点に集中している。
俺のあげたダッサいジャージ姿がかえって彼女の可愛らしさを引き立ててしまっているらしい。
ラティア本人はそれに無自覚。
「……人もとても多くて、目が回りそうです……すぅん――」
……こら、疲れたからって、服の首元を引っ張らない。
そしてそれを鼻元に持って行って吸わない。
どういうことだよ、それが一時のリフレッシュになんの?
「落ち着きます……」
なんでやねん。
「――あれ、新海?」
そんな何気ない休日をすごしていた俺たちに、声がかけられた。
「やっぱ新海じゃん!! やバッ、奇遇ってか何でこんな……って、あれ? 誰、この子――」
「お、おう……ウっス」
俺に話しかけてきた相手は、確かに俺が見知った人物だった。
ただ、俺は相手の顔を知っているが、相手が俺の顔を知っているとは思ってもみなかった。
……どもったのはそのためだ、決して俺がギャルっぽい陽キャでカースト最上位の奴にビビったわけじゃない。
無いったら無い!!
「――ご主人様、この方は?」
「あっ――」
ラティアの純粋な疑問の言葉を、しかし。
俺は慌てて止めようとしたが、時すでに遅し。
「“ご主人様”? ――に~ぃみ~。ちょーっと話、聞かせてほしいかな?」
目の前の少女の関心の矛先は、今自分で尋ねた知らない相手――ラティアではなく。
そのラティアに“ご主人様”呼びさせてる危ないボッチ野郎――つまり、俺に向いてしまった。
詰め寄るようにしてくるパツ金ギャル。
だが相手が見下ろすようにして接近するにつれて、ドドーンと胸部が眼前に迫ってきた。
……デカい。
そういえば、夏は毎年爺ちゃんがスイカを送ってくれていたな。
ラティアもいるから、今年は二つ――
「――あ、あの!! あ、貴方はどなたですか!? ご、ご主人様をいじめないでください!!」
いつの間にかラティアが俺と相手の間に割って入るようにして立ち上がっていた。
「あ、ああ!! ゴメンゴメン!! 別に新海をいじめてたわけじゃないんだよ!?」
「……本当ですか?」
ラティアの問いに、相手は大きく頷く。
本当だということを請け負うようにして叩いた胸が跳ねるように上下する。
……そういえば祖母ちゃん、子供のころは鞠遊びが好きだって言ってたな。
今度遊びに行くときには俺とラティアで二つ分用意してもらおう。
「――あたしは逆井。逆井梨愛っていうの」
逆井はそう告げて、屈託なくニカッと笑って見せる。
「クラスは違うけど新海とは同じがっこだよ? 今はダンジョン探索士の候補生でオフ中ってこと。よろしく!!」
ダ、ダイジョウブ。
ダンジョン要素、次回はちゃんと出てくるから。
多分……。