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56.君の、この少女の名は――さて何でしょう!! 後半

どうも。

彼女の問題解決編です。


ようやくここまできましたね。

ではどうぞ。



「――マスター、大丈夫なの、この子?」


「何とか……なりますでしょうか?」


「……何とかするしか、ないだろうな」


 廃神社跡のダンジョンへと場所を移し。



 二人の不安げな質問に、俺はそう答えるしかできない。

 視線を移すと――




「――あれ、今、誰だっけ……“クロエ”が前の前で、じゃあ“ミィ”? でも髪色が白だから……」


 

 混乱したようにブツブツいう女性の姿が。

 これでも大分落ち着いた方で、先ほどは本当に発狂するくらいだったのだ。

 

 今は雪のように真っ白な長髪で、細い幽鬼のような女性の姿をしていた。



「これから……ちょっとした荒療治にかかる。二人とも……頼めるか?」


「うん。マスター、何でも言ってよ」


「はい! 何でもご指示ください、ご主人様!」


 リヴィルもラティアも。

 俺が何を頼むかもまだ伝えてもいないのに、二つ返事で答えてくれた。


 ……はぁぁぁ、こりゃ手抜けないな。



「よし! 今からあの子のベースのストック・人格を引っ張り出して、他は悪いが取り除く――ラティア、【チャーム】を!」


「はい!!――さぁっ、ゆっくり……意識を私に預けて――」 


 ラティアは俺が頼んだ通り、彼女に近づき、そうして優しくフワッと抱きしめた。

 その瞬間に、ラティアの体から薄桃色の幻想的な霧が出現する。



「……あぁぁ、あれ、えっと……何、考えてたんだっけ」


 

 甘い霧に包まれ、彼女はボーっとした表情になる。

 ただ、特別意識の主導権を奪われたというような感じではない。



 本来異性やモンスターを魅了状態にし、支配下にして詠唱のための盾とするのが本筋だが。

 このように、意識に(もや)をかけるくらいの威力はある。

 要するに、思考力・判断力の低下が目的だ。


 そして――




「リヴィル。“導力”で彼女のストックをどんどん削って行ってくれ」


「……ん。わかった」


 一瞬だけ目を瞑ったリヴィルは、しかし、直ぐに頷き返してくれた。

 ……ちょっとは聞き返してくれてもいいんだよ?


 未だにラティアに抱きしめられている彼女に、ゆっくりと近づいていく。

 リヴィルは右腕一点に、変色し続ける半透明の(もや)を纏わせた。



「……直ぐに何とかするから」


 

 そっと撫でるくらいの軽さで。

 リヴィルはその手を、彼女の頭の上に乗せた。


 


 ――バチバチッ




 その接触面から、火花が散るような音が発生する。

 彼女の頭は白髪にも関わらず、その頂点だけ真っ黒に変色した。


 ――影だ!



「……ん!」

  


 リヴィルは地面に力を伝えるように、更に強く頭を押し付けた。

 すると――




 ――バチッ、バチバチッ、バチバチバチッ



 激しく電流が流れたような音が。

 そしてその直ぐ後に――




 ――……パキィンッ



 女性の頭からヒビが入り、真っ二つに割れた。

 まるで人型のチョコに精巧な色付け・塗装を施していたように、割れた中からは真っ黒な何かが姿を現す。



「キャッ!?」


「っ!――マスター!?」


「大丈夫っ、ストックを一つ潰したんだ!」



 ――ただ、それは一瞬のことで、直ぐにまた別のストックがその上に張り付けられる。




「――あれっ……私、なんで、また、っていうか、ここは……?」 


 

 今度は太った40代くらいで、どこかで料理屋でも営んでいそうな雰囲気の女性。

 俺はこの反応を見た瞬間、更に二人へと指示を飛ばした。


「ラティア、そのまま継続して【チャーム】を!! このストックも“導力”継続でいいぞ、リヴィル!!」


「はい!!」


「うん!」










 ――パリンッ





「これで……どれくらい、ですか?」


「はぁ、はぁ、多分……60くらい、かな?」


 正確には73体のストックを、俺たちは潰していた。

 更にこの言葉の正確性を求めるなら、ストックを物理的に潰しているのはリヴィルだ。


 リヴィルの“導力”はどんな防御をも貫く圧倒的な攻撃力を持つ。

 そして俺が先ほど表現したように、あのストックは自分という本体を守るためのいわば殻・防御だ。

 

 そっくりそのまま当てはまる訳ではないが、ストックの耐久値のようなものを削るのに、リヴィルの“導力”は極めて相性が良かった。

 


 これを始めてから、凡そ15分程が経っている。

 1つのストックを潰すのに、10秒もかからない。


 それでもリヴィルはこの間ずっと“導力”を維持し続けていて、流石に疲労感が出始めている。

 動かず、右腕だけを、頭の上に乗せる。

 それのみにとどまっているので、これだけで済んでいるとも言えるが。




「――あれ? えっと……ん? 私……何で、ここに――」



 このストックも……ハズレか。



「――二人とも、継続っ!」


「はい!――っ!!」


「んっ――はぁ、はぁ……」



 俺はまた、彼女の反応を見て指示を継続する。

“反応”とはつまり、彼女が新たなストックを出した際、どのような様子を見せるか。


 それを見るのに、ラティアの【チャーム】が有効に働いてくれていた。


 

 余計なストックを潰すと同時に。

 彼女が持っている核となるベースのストックは残さないといけない。

 

 そうしないと、彼女は自分のアイデンティティを取り戻せない。



 どうでもいいストックは、要はそれだけ中身が薄い。

 逆に、重要なストックならば、それだけ深く、細かく再現がされているはず。


 つまり、ラティアの【チャーム】を受け、思考に制限が働いたような状態で。

 新たなストックが出てきた際――


 ①どうでもいいストック:それだけ再現も希薄。スッカスカだろう→他のストックとそう区別がつかない状態→反応も、同じようになるんじゃ?


 ②大切なストック:それだけ再現されている部分も多く、深い→他とは区別されているはず→なら、反応も他とは違うんじゃない?



「そういう推論で来たんだが――」




 更に5分経って、破壊したストックの数が100を超えても。

 大きな変化はない。

 

 もしかして、俺の考えは間違っていたのか?

 ここまで来ると、そうした弱気な考えが頭を過ってくる。


 どのストックもそう変わらない反応だったのだ。

 だから、どれもそう重要度が変わらないストックだと判断したんだが……。


 クソッ、なら、ベースの人格は――





 ――パリィン




 また一つ、ストックを潰した。

 一度止めた方がいいのか、判断に迷った。




 その時――


 


「――……“ボク”、あれ?…治った、の? でも、あれあれ!? ってかお姉ちゃん、何でボク抱きしめられてるの!? 頭も撫でられてるし!?」


「っ!? ――二人とも、ストップッ!!」



 ――ようやく、変化が訪れた。



 俺は二人に指示し、急いで懐から灰グラスを取り出す。

 そしてキョロキョロと首を動かす少女を尻目に、それを装着した。



 全体的にクリーム色で、その中に赤レンガのような色が所々混じった長髪。

 それをポニーテールにした小柄な少女はしかし、今の状況の訳が分からずあたふたしていた。


 視界が一気に薄い灰色へと一変する。






[Ⅰステータス]

名前:ルオ

種族:ハーフドワーフ

性別:女性

年齢:14歳

ジョブ:――


自己所有権:非所有→所有者:新海(にいみ)陽翔(はると)


[Ⅱ能力]

Lv.38

体力:331/331

力:108

魔力:45

タフ:92

敏捷:100


[Ⅲスキル]

【土魔法Lv.2】【脚術Lv.2】【下半身能力上昇Lv.3】



[Ⅳ装備]

全身:[ストック:ルオ Lv.8]




 なるほど。

 これは確かに一瞬見逃すが、よくよく見てみると違和感のある項目が。

 

 そして、シルレも鑑定系を使うと聞いていたが。


 これを俺が見ることができているのは、紛れもなくこの灰グラスのおかげだろう。

 そうでないと、俺よりも頭のスペック高そうなシルレがこれを見逃すとは思えない。


 

 でもそうか、これでようやくこの子の名前を知ることができた。

 装備のLv.が8ってのが、また凄い。

 

 殆どこのドッペルゲンガーは、この子として生きているんだろうか。

 いや、うん、多分そうなんだろうな……。


 だって、今見ているこの元気そうな幼い少女は、見ていて何の違和感も抱けない。

 ドッペルゲンガーだと知っている俺ですら、何か疑念を持つことさえないのだ。


 うん……。



「…………」


 1分が経ち、視界が元に戻る。

 それと同時におそらく俺の姿が周囲に認識されたはず。


「えっ? あっと……あ、もしかして、“ボク”を買ってくれた人? ゴメンね、ボク、ようやく色々思い出して来たところで、でも一番大事なことが――」


 近づいてきた俺に、少女はあたふたしながら申し訳なさそうに頭を下げる。

 ラティアとリヴィルから解放されたものの、今度は逆に色んな事が一気になだれ込んできて混乱しているようだ。



 俺はその頭に、ゆっくりと手を置く。

 そして――




「お帰り……“ルオ”」



 名前を呼んだ。




『――彼女の正体は、私も知っている。しかし、彼女の本当の“名前”は、誰も――それこそ彼女自身も覚えていない……彼女の“名前”を、彼女自身の世界を、守ってあげてくれ』



 シルレに言われたことを、覚えていたのだ。

 もしまだ忘れているのだとしたら、誰かが呼んであげないといけない。

 そう思ったから。




「…………えっ」


 だが呼ばれた本人は、何を言われたのか一瞬分からないといったように固まる。

 ……あれ、違った?



「えっと……よく頑張ったな、“ルオ”」


「…………どう、して?」 


 ようやく下げていたその頭を、ゆっくりと上げる。

 俺の右手がその上に載っていることは気にせず、だ。


“どうして?”って?

 えーっと、俺が『よく頑張ったな』って言った理由のこと? 


「だって……そうだろ?“ルオ”は“ルオ”自身を守るために、一所懸命、必死で戦ったんだろ? 独りで」


「…………」


「なら、誰かがそれに対して“よく頑張ったな”って言ってやらないと……――」 





「――っぐ、ぅっ、ぇっ……ぅぁぁぁぁあ!!」



「うぇぇぇ!? ちょっ、えっ、何で号泣すんの!? うげっ――」


 いきなり、何の前触れもなくルオが泣き出してしまった。

 そしてなりふり構わず俺の腹筋に頭突きをかましてくる。


 てっ、敵襲ぅぅぅ!?


「ご主っ、人……ご主人……」


「お、おぉ」


 いや、唯の突進だった。

 単にしがみついて嗚咽を漏らしながらも泣いてるだけっぽい。

 

 えっ、でも何で?

 

 どういうこと?


 地雷踏んだんでは……ないよね!?

 あっ、もしかして記憶をなくすのが怖かったとか!!

 ようやく記憶が戻って安心した的な涙か!?


「だっ、大丈夫だ!! 例えまた容量が記憶を圧迫することになっても、同じようにラティアとリヴィルがいる!!」


 もう俺が何もしてなさ過ぎて笑えるけど、でもこの二人がいるから今後同様のことが起きても解決できるはず!


「それに、何度記憶をなくそうが、俺が必ず“ルオ”の名前を呼んでやるから!! なっ?」


 ハハッ、そんだけかい!!

 俺雑魚過ぎない?

 役割ほんと空気と同化することくらいしかないレベル。


「うぁぁぁぁ、ご主人、ご主人、うぐっ、ぇぐっ――ぁぁぁあああ!!」


 ぎゃぁぁぁぁ!!

 アッれぇぇぇ!?

 何か余計に酷くなったぁぁぁぁぁ!?



「……どうやら、一件落着、みたいですね」


 えっ、ラティアさん、そう見えます?

 今目の前で新しい仲間が号泣してますけど!?


「うん……良かった。詳しくは分からないけど、大きな問題は片付いたみたいだね」


 あっれぇぇ。

 リヴィルも?

  

 何でや、目はリヴィルが一番いいはずなのに……。


 


「――ボクを、“ボク達”を守ってくれて、ありが、とう……ね、ご主人?」


「…………おう」



 まあ……とりあえず。





 今はこれで良しとしますか。

ふぃぃぃぃ。

お疲れさまでした。


お読みいただいた通り、3人目の少女の名は“ルオ”です。


ごく簡単に補足すると、要はルオちゃんをベースとしてストックしてるわけですね。

で、彼女自身の鬼気迫る努力が功を奏し、もう殆どドッペルゲンガーの部分とルオちゃんの部分が同化してきてる、と。

だから基本的にはルオちゃんとして生きてきて、これからもルオちゃんベースで生きていく、ということです、はい。


今はルオちゃんベースのステータスしか記載していませんが、今後他のストックを得て、他者のステータスを見る機会もあると思います。


とはいえ、彼女の空き容量・キャパシティーを解放するために100を超える無駄ストックをぶっ潰しましたから、また今後適度に作っていく必要はありますが。


これで2章の重要部分はとりあえず終わりですかね。

後また事後処理的なお話、そして探索士アイドルのお披露目ライブののほほんとした話などを書いて2章は終わりかな……。

もしかしたらダンジョン関連のお話も2章の終盤に挿入するかもしれませんが、まあ多くとも後5話前後で終わるかと。



さて――


またちょっと見ない間に、929名の方にご評価いただきました!

おおぉぉ。

どんどん1000という大台に近づいてますね、これで何かあるというわけではありませんが、何かちょっとドキドキします!


ブックマークは7964件に!

もう後ちょっとで8000になります!


本当に嬉しいです、“奴隷モノ”を前面に扱っているので、もしかしたら忌避されて特にブックマークは全然してもらえないかも……とか書き始めた当初は漠然と思っておりましたので、まさかここまで来られるとは……。

感慨深いものがあります!


本当にありがとうございます!


こうしたご声援・ご愛読頂けているという実感が、作者の執筆の大きなモチベーション・力になります。

今後も是非声援、ご愛読共に頂けましたら幸いです!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公への呼び方主さんかと思ったら違った! (異世界ゲーム更新の間こちらも少しずつ読ませていただいてます)
[良い点] 僕っ娘も( ・∀・)イイ!!しかしロリも欲しいって僕の性癖特殊すぎ……いや、これは性癖ではないはず、僕は女の子を愛でたいだけ……って十分やばいな
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