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53.えっ、特に問題あるようには……ってマジか!?

3人目の少女、購入です!


言いたいこと、伝えたいことが表現できているか、伝わっているか不安ですが……。


とにかくどうぞ!


「…………本当だ、更新されてる」


「へぇぇ……私達も、こうやってマスターに買われたんだね」


「ですね……この子のことも、何とかしてあげたいです」


 俺たちはあの後。

 通信を終え、今度は3人で『Isekai』を眺めていた。


 通信中に去った秘書のハズアさんが、キチンと手続きを終わらせてくれたからだろう。

 その項目には、先ほど見た20数人の中にはいなかった、一人の奴隷少女が追加されていた。



『奴隷少女:3万0000DP(※半額分は既に仮払い済み) 詳細:特殊なスキル所持。※要特殊対応:領主の保有スキルにより詳細を把握。見た目、通常の人族の若い娘――』



 ここまでの文章だけだと、一見すると特に問題ないように思えなくもない。

 話の通り、半分はシルレが持ってくれるということで、必要なDPはつまり1万5000でいいということか。


『――奴隷自身の精神・肉体状態が非常に不安定。通常の販売に適さず。扱いが非常に難しい。領主の助言を元に販売方法を検討。領主自身のスキルをもってしても、本名・ステータスなどの全容が分からず。伝説級の能力等が必要か』


 そして続きがこれだ。

 なるほど、確かにこれは一筋縄ではいかなそうだ。



「……じゃあ、買うぞ?」


「うん」


「はい!」


 二人とも、自分で意識してはいないようだが、返事だけでなく、体にも相当力が入っていた。

 先ほどのシルレや織部の話を聞いてからずっとそうだ。



 この子のスペックが相当に高く、ダンジョン攻略の力になってくれるであろうという期待もある。

 そしてそれと同等かそれ以上に、彼女もまた、自分達と同じなのだ――そういう思いがあるのだろう。


 何か問題を抱えていて、それで 灰色の人生を歩んでいる。

 それを、何とかしてあげたい――そんな風に。






「…………」


「見た目は……特に問題はなさそうだよね」


「……素朴な少女、という感じです」


 購入手続きを進めていく。

 画面の奴隷商人が恭しく頭を下げ、その奴隷を連れて来た。


 容姿は二人が述べたように、どこにでもいそうな、そばかすの可愛らしい10代半ばの少女だった。



 クラスに一人はいる、一番というわけではないが。

 よくよく見てみるとこの子、意外と可愛いなと思う、そんな子。



『間違いありませんか?――そうですか……。既に購入額の半分はお支払いいただいております』


 そうして画面に提示されたのは、やはり想定していた15000DP。

 その支払いを行うと、手持ちを示す額が『47921』に。

 

 とうとう50000を切ったか。

 先ほどまでの通信自体にもDPが必要だったからな……。







「――来るぞ」


「…………」


「やはりこの時は凄くドキドキします……」



 画面と、そして部屋の中央が同時に発光する。

 その光るサークルに、今丁度、画面から姿を消した少女の姿が現れる。


 輝きが徐々に収束して、その全容が明らかになると――






「――えっと、あの、買っていただいてありがとうございます……」


 素朴な感じの田舎感溢れる少女は、おどおどしながらも頭を下げる。

 そして、ハッとなり、直ぐに顔を上げ、自己紹介を始めた。



「あの、えっと、私、“シャーリー”です。何もできない田舎者ですが――よろしくお願いします!!」


「「「…………」」」 


 再び勢いよく頭を下げて見せたその姿は、多少大袈裟なように見えながらも。

“異常”だというまでには思えなかった。


 俺達は一連の動作を観察しながらも、首を捻る。


「特におかしい所は……」


「ない、ですよね?」


「うん……今の所は」


 だが、シルレはハッキリと口にして言った。


『詳しくは購入してもらえれば、分かる』と。


 そして。

『彼女の本当の“名前”は、誰も――それこそ彼女自身も覚えていない……彼女の“名前”を、彼女自身の世界を、守ってあげてくれ』とも。

 

 

「そうすると……」


「あの、えと……何か?」


 目の前で、6つの目に晒され、おどおどするこの少女が名乗った“シャーリー”というのは、違うのだろうか。


 だが、全く嘘をついているようにも見えない。

 じゃあ一体何が――





 ――ザッザザザッ





 瞬間、何かが、ブレる音がした。




「えっ!?」


「何っ!?」


「一体――」




 ――ザザザッ、ザザザザザッ



 耳障りなノイズ音。

 それが突然、鳴り出した。


 不規則ながらも、それが継続的に発生し、周囲を不快な音が包む。


「お、い……」


 驚きのあまり、唖然として声にならないような声を上げる。





 ――目の前の少女の体が、調子の悪いテレビ映像のように、ブレ始めたのだ。





「あれ、おか――ザザッ――しい、な――ザッ――」



 そのブレに合わせるように、少女の声にノイズが重なる。


 そして――




「いっ!?」


「……え?」


「ウソッ――」


 ――少女の全身が、黒塗りになった。


 そして瞬きの後には、別のモデルの写真を張り替えたかのように――




「――えっと……どうも“はじめまして”……“スカイ”です」



 とても内気そうな、前髪で目が覆われている少女が……目の前にいた。

 体形も、容姿も、声すらも……そのどれもが明らかに違っている。



「「「…………」」」


 俺たちは、皆、開いた口が塞がらなかった。

 何が起きたのか……全く分からない。



「――えっ、何で!? 私、別の――あれ!? 私、今、“誰”だっけ……」

 

 そして突如として動揺して、頭を抱えてブツブツと呟き出した。

 

 一瞬の、本当に刹那程の間に、少女が、別人に……なった?

 


 しかし、そんな驚きは序の口だとでも言うように――




 ――ザザザッ、ザザッ、ザザザザザッ




「なっ!? また――」




 目の前の内気そうな少女の体も、また、真っ黒に塗りつぶされる。

 そして、今度こそ、俺たちは目の前の事態に仰天することに――



「……まさ、か」


「……これって」


「思い……出しました――」


 目の前の存在に、というより今起こっている事象そのものに、何か思い当たる節がある――そんなラティアの声が漏れた。

 そりゃそうだ、今、目の前にいる存在は“思い出す”必要なんてないくらい、直近で見ているんだから……。



 また新たに姿を張り変えたような、目の前の女性は、凛々しく、そして綺麗な金糸の短髪をしていて、それで――




「――っとと。……“はじめまして”、かな。私は“シルレ”だ」



 

 そう、今目の前にいるのは、正にさっきまで画面越しとはいえ相対していたシルレその人だった。

 それを目の当たりにして、呆然とする俺達。


 しかし、それは“シルレ”であって、“シルレ”ではないのは明らかだった。


 だって――


「――えっ、何で!? 私、また……今度は“誰”に!?」



 短い時間ながらもこんな動揺する姿を、あのシルレが見せるとは、とても思えなかったから。 

 そして“はじめまして”という言葉が、決定的だった。



 言葉が出てこない……。

 そんな中でも、ラティアだけは、何とか口を動かし、俺とリヴィルに教えてくれる。



「一度だけ……魔王城で、幹部の一人がこれを使ったのを、見たことがあります。これは、彼女は――」



 ラティアが“魔王城”というインパクトのあるワードを使ったことも、殆ど気にならなかった。

 だって――






「――“ドッペルゲンガー”です」





 


 そのことの方が、もっと衝撃的だったから。





□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆ 



『……もう既にご存じかもしれませんが、彼女は“ドッペルゲンガー”です』



 先ほどの衝撃から何とか立ち直った俺たちの元に、織部からの連絡があった。

 それを繋いでみると、織部とサラ以外に、もう一人――秘書のハズアさんがいた。



「……見ました。今、二人が彼女に付き添ってます」



 画面から一時視線を逸らすと、そこにはまた姿がブれ、黒塗りになって別の人物になる少女の姿があった。

 そしてその度に彼女は動揺し、それが返って拍車をかけるように次々に姿が移り変わっていく。

 それを、ラティアとリヴィルが必死に話しかけ、宥め、落ち着かせようと努めていた。



 ……見ていて、とても苦しく胸の詰まる光景だった。




『……では、“シルレ”様の、お姿も?』


「……はい。つい、さっき」


 そのやりとりだけで、お互いが事態の凡そを把握した。


 そして、彼女は沈黙する。


 しかし、それが長く続くことはなく、重苦し気に、口を開いた。


『……シルレ様は、御立場や、一度失敗されていることなど、色んなことがあってご助力は叶いません。しかし――』


「――あなたは、できる、と?」


『……はい。私は領主ではありません。比較的自由に動けます。そして、彼女の人生がよりよくなってくれるよう動くのも、仕事の一つみたいなものですし』



 なるほどな……。 



『しかし“ドッペルゲンガー”……この世界では、現実にいたんですね』 



 俺たちのやり取りを聞いている織部がそう口にする。



『はい……主に魔王やその幹部・四天王などの影武者に使われると聞いたことはありましたが……』



 それを受けて、サラが自分の知っていることを教えてくれた。



「……あれがどういう現象なのかの理屈は、大体は?」



 何とかしなければならない問題とは、まず間違いなく今も目の前で起こっていることだろう。

 それを、シルレは一度、何とかしようとして、失敗したのだ。


 とすると、一度試しているんだから、これがどういう現象なのか、考察くらいはしたはず。



『正しいかどうかも分からない、仮説程度なら』


「大丈夫。お願いします」 

   

 俺が即座に答えると、ハズアさんもまた、力強く頷き返してくれた。







『――“ドッペルゲンガー”は、他者の姿・形・能力全てを自分のもののようにして振る舞い、生きるという特徴を持ちます』


『私達の世界での“ドッペルゲンガー”のイメージとの違いはありますが、想像できないレベルではありませんね……』



 確かに織部の言う通り。

 俺たちの認識としては、要は自分とそっくりの姿をした分身みたいな存在がもう一人いる、みたいな感じだ。


 だから、そのイメージから今ハズアさんが言ったことを想像すること自体は難しくない。

 殺したり乗っ取ったりするのではなく、本人との併存が前提、ということか。



『私自身が直接戦闘したことはないのですが、上級の冒険者となると戦闘する機会もあるようで――』



 この中で一番異世界側の戦闘経験が豊富そうなサラが、思い出しながらも情報をどんどん提供してくれる。



『模倣・コピー・真似――表現はどうあれ、他者の分身のような存在として生きるという特徴上必ず“ドッペルゲンガー”は本人より劣化する、とは聞きますね』


 ハズアさんはサラの補足情報に礼を述べて、続きを語る。



『これはシルレ様の鑑定系スキルで分かったのですが――彼ら・彼女らは【影絵】という固有のスキルを持ち、それを使って対象をストックするんです』


「【影絵】……」



 それは何となく語感でイメージが浮かぶのだが。

 一方それと“ストック”する、という言葉がどうも結びつかなかった。

 

 それを口にすると、意外なことに――



『あっ、それなら何となく私、イメージできます!!』


「本当か、織部!?」


『はい!!』



 何かを説明して役に立てることがそれ程嬉しいのか、興奮したように、織部は話し出した。



『――私“可愛いメイドさんを育成しよう!”みたいなゲームにハマってた頃があって――』


“ゲーム”という単語に、ハズアさんとサラは良く分からないために説明を見守ろうという姿勢に。

 一方の俺は、分かる例えを出してくれるのは有難いが、ちょっと心配になる。


「……おお」


『頭部だけでもヘッドドレスや、髪型だったり、髪色なんかも様々選べてですね、凄く自由度が高いんです』


「……おう」


『それが上半身、下半身と更に項目があって、ブラ、パンツ、ソックス――凄く沢山なんですね、要するに』


 何となく織部の言っていることの想像はできて来た。

 先を促すと、更に織部は例を挙げながら説明してくれた。



『で、ですね! それら一連のパーツの装飾をお披露目会の度に選択して、とっかえひっかえしてたら凄く面倒なんですよ。そこで――』


「ああ、なるほど。一連のコーデみたいなものを、セーブして保存しておける、みたいなことか?」


『そうです、それですよ!!』


 よかった、合ってたらしい。

 RPG物でも最近はそういうのあるよな。

 イメージができてきたので、後は自分でそれを展開していこうとするも、織部の饒舌はとどまらず――

 

『キュート一色に統一したのとか、凄く激しい露出でセクシーに攻めたのとか、もう色々凝りに凝ったんですよ!! えっと……あっ、これですこれです!!』



 織部は単なるスマホをいじりだして、画面をこちらに向けた。

 DD――ダンジョンディスプレイを介しているので、二重に画面越しとなるが、そこには写真が写っている。


 少し見辛いながらも。

 ゲームのステータス画面を撮影したようで。


 ロングの黒髪で、どこか見たことあるようなおりっ――ブレイブカンナさんが、スカートを履いていない煽情的なメイド服姿でいた。


 ……これ、色々と大丈夫か?

 本人の心の奥底の欲求みたいな、そんなの出ちゃってない?


『――でもですね、パーツや、その装飾一つ一つにレベルだったり、必要ポイントがあって――』


 また別の写真へとスライドして、こちらに該当部分を見せた。


 今度は際どい水着の上に、これまた丈が凄く短いメイド服を装備した少女の写真。

 ……これどうでもいいけど、少女自身が織部そっくりなのはスルーした方がいいの?



 切り替えて織部の言いたいことを把握するよう努める。


 写真の横には。

“フォルダ名:お気に入りⅢ”

“Maxキャパシティー:9999”とあり、その下に“使用中カスタムポイント:9889”とある。



 そして見切れていない部分を何とか拾い見て行くと。


“際どいセクシー水着:350CP”

“胸Fカップ:2000CP”

“ロンググローブ エナメル 白:100CP”などの詳細があった。



 ……ちなみに一枚前、先ほどの過激な衣装で固められていたフォルダは“スタンダード・ベース、ストーリー進行用”と銘打たれていた。



「――……なるほど、言いたいことは分かった」 


『え? もういいんですか? まだまだ写真は――』


「いや、これ以上はいい――ハズアさん」



 織部が知らない間に広げている傷口をこれ以上拡大させないためにも。

 俺は織部の例えの説明を区切って、話を元に戻した。




「要するに、“ドッペルゲンガー”も。対象の相手全体を一つのパッケージみたいにして、それを記憶・記録するみたいな感じですか?」


 今の織部の例え自体が、サラとハズアさんには通じないものなので。

 俺は自分で噛み砕いた要約を伝えた。


 数瞬の間、考えるような仕草を見せるも、ハズアさんは頷いてくれる。 

 

『恐らくそんな感じでしょう。そして、それを適宜引き出しの中から取り出して、自分に張り付け、別の自分を演じる――そういうイメージかと』


 それを、ハズアさんは【影重(かげかさね)】と言った。


 なるほどな。

 それで、恐らく先の織部の例えよりも、より“ドッペルゲンガー”の場合は複雑化して。

 

 対象の人間の容姿だったり、年齢だったり、或いは体の大きさだったり。

 それに能力・スキルの強さ・複雑さみたいな項目・要素も絡んでくるはず。



「だから……そのキャパシティーみたいなものって結構重要になってくるはず」


 誰かに話す、というよりは。

 自分自身で理解を確かめるように、そう口に出して頭を整理していく。


 すると――



『……ですね。おそらく、シルレ様は、そこを見誤ってしまったのでしょう』


 

 ハズアさんもまた、俺たちに聞かせるというよりは。

 過去起きた事象を自ら整理するように、ゆっくりと呟いた。




『――あの少女に……自らのストックを作ってみるよう勧め、それで救おうとして……彼女はパンクしてしまったのです』

未だ分からないことが多いかと思います。

“ドッペルゲンガーなのに性別女性で確定でいいの?”とか。

“名前……どう呼べばいいの?”とか。


この少女に関してはリヴィル程は長引かないと思います。

長くても2話以内に決着がつくはず……多分!!


次話で、第三者視点入れます。


しばしお待ちを!


さて――


とうとう評価してくださった方が900名を超えました!

1000名という大台が、しっかり現実味を帯びてきて、嬉しさに頬が緩む思いです!


ブックマークも7876件と、その伸びも堅調です。


何とか今日も合計すると随分と書いた気がしますが、普通に私単体でのモチベーションだとこんなに書けません。

やはり皆さんにご声援、ご愛読頂いているという実感が、私の指を動かす原動力の一つになっています。


本当にありがとうございます!


今後も、是非更なるご声援やご愛読を頂けましたら嬉しいです!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 姿が変わるときの表現にゾッとした。リアルな感じでいいと思う。
[一言]  ドッペルゲンガー……相手は死ぬ! > “胸Fカップ:2000CP” (´;ω;`)ブワッ
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