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52.やっぱり3人目は、君に決めた!!

お待たせしました。


最初らへんの文章で、もしかしたら“あれっ、作者これ間違えてない?”とおもうかもしれませんが、大丈夫です。


とりあえずどうぞ。


「――俺はっ!! 君といたいんだっ!!」


 心からの叫び。

 どんな姿だろうと、君がいい。


 そんな男の求めに、女性は――




「でも、私!! 私じゃないの!! この体はっ!! 私の物じゃないの!!」


 喉が張り裂けるんじゃないかというくらいの悲痛な声で。

 女性に近づこうとする男を拒んだ。

 

 女性の容姿は10代の少女。

 だが、中身は既に死んでしまった20代の女性が何の因果か、乗り移っている。


 だから、外身と中身の違いに苦しんでいた。

 男が求めているのは、この元の体の持ち主ではないのか、と。


 

「だから!? 俺はそんなの気にしない!! 君といたい気持ちに、一片の曇りだってないんだよ!!」


 熱く、強く、ただその一点のみ。


「っ!?――」


 男が一歩、女性に近づく。

 女性は、先ほどとは異なり、男を拒絶する素振りを見せない。


 ただ、半歩だけ、下がる。

 それは男を拒む動作というより、男を受け入れることを拒む自分自身への抵抗――そのように見えた。

 男がまた一歩距離を縮めると、女性はまた半歩だけ、後ろへ。



「二人で――幸せな未来を創ろう」



 女性の葛藤、そして自分を受け入れてくれる雰囲気を察して、男は一気にその距離を詰めた。

 

 これで二人が結ばれてハッピーエンド――






 ――なら良かったんだが。





「ゴメンなさい……――私、やっぱり死にます!!」



 女性は男の手を取らず、3階の窓から飛び降りてしまった。



「なっ!? くっ――あぁぁぁ……ぁぁぁぁあああああ!!」



 何とかその手を取ろうとするも、男の手は、空を掴むだけ。

 間に合わなかった、説得できなかったことを嘆く男。




 そして周囲は真っ暗に。

 誰も幸せにならないバッドエンド。




 

 そこに―― 





「――はいオッケーぇぇぇぇ!! いいよいいよ~!! 細かい反省点は後で指摘するけど、来週の本番もこれで頑張ろう!!」




 制服姿の少女が、丸めた台本を片手に、舞台へと声を飛ばした。

 そんな様子を、体育館の端の方で見ていた俺はというと……。





「……うちのクラスも奇を衒わずに、普通の演劇にすればよかったんじゃねえの?」




 他人事のようにそんな不安を零すのだった。




□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆ 



 来週の学園祭に向け、体育館を使った最後の通し練習を終え。

 やはりウチと逆井のクラス合同での演劇は、あまり明るい未来を描けずに仕舞いで、帰宅した。



「まだ衝撃の最後を迎えるあのクラスの演劇の方が、見ていて面白いだろうな……」



 役者の生徒らはきちんと話の内容を理解することに努め。

 どう体を動かせば上手く表現できるか、練習にも励んでいただろうことが、素人目ながらも分かった。

 

 

 対するウチの方は、もう今から簡単なお芝居に変えた方がまだいいんじゃね、というのが率直な感想だった。

 主要な役を担う逆井や立石、木田が殆ど練習には参加できず。

 代役を立てての通しばかり。


 

 そしてなんといってもその題材がダンジョン物。

 何か、今最も有名になっている3人を出すことそのものが、もう目的みたいになってしまってる。


 うーん……。

 話題作り的にはいいんだろうが、これ、トチらなきゃいいけど……。 



「まっ、俺は俺の役割を全うするだけで、後はなるようにしかならんだろう……っと」


 ちゃんと買い出し部隊のエースとして。

 言われた物はその日のうちに買って学校まで届けて来たので、文句を言われたこともなかった。


 俺は半ば諦観のような心境で、頭を切り替える。

 そして、自室で『Isekai』の海を漁っていた。



 織部が新しい街に着いたので、その商品のラインナップもきちんと更新されている。



「おっ……ポーションもとうとう『ポーションⅢ』になってるな……」


 確かこれだけで75%程の体力を回復できるとか。

 ただその分お値段もお高く、1つ500ものDPが必要に。


「だよな……ん? ほほう……『デモンズソード』とな?」



 1本3500DPと中々のハイプライス。

 剣身は禍々しい黒に染まり、鍔からはウネウネニョキニョキとその先が伸び、悪魔の角を想起させる。


 悪魔対策の武器なのか、それとも悪魔が使う剣なのかは説明がない。


「強そうだけど、どっちだよって話だな……」



 そして色々目を通して見て、ようやく目的の項目に。



『人族 女性奴隷:1万1000DP 詳細:スキル所持。30代後半。特に目ぼしい部分はないものの、ある程度人生経験を積んでおり、労働力にも、教育係にも、他の用途にも耐えうる』



「うーん……可もなく不可もなく、か。でもダンジョン攻略、戦闘要員というよりは、普通に家事労働って感じだよな……」


 他の奴隷についても、どんどん挙げられている項目を読み進めていく。


『人狼族 奴隷少女:1万8000DP 詳細:戦闘経験あり。ただ特別なスキルは保有せず。なお、未だ10代に至らず』


「この子はちょっと……ってか異世界って、やっぱ10歳にならなくても戦闘経験があったりするのか……」

 

 分かってはいたことだが、改めて文字としてそれを表現されると、小さくないカルチャーショックを受ける。


 

『吸血鬼 女性奴隷:2万8000DP 詳細:スキル多数所持。“年齢は500を超えたあたりからは記憶してない”とのこと。※購入に際する注意:今まで主人を8人殺害中。“今後もこの記録を塗り替えていきたい”と意気込みを述べる。文字通り血気盛ん』


「いや、これはダメだろ……」


 戦闘要員かもしれんが、主人殺しのためにしか発揮され無さそうで怖い。








「――ふぅぅぅ……」


 やはり大きな街とあってか、扱っている数や種類そのものも多くて。

 今までで一番時間がかかったように思う。


 その後、20~30分程かけて、更新された20人程の詳細を見ていたが。


 

「悪くはない……悪くはないんだが……」


 どの人も、俺たちがあげた要望を何か一つは満たしてくれていた。

 しかし、一人で複数となるとその数はグッと減り。


 そして該当したとしても明らかな地雷要素が注意書きに記してあって二の足を踏むのだ。




「……やっぱり、織部が間に入る分、シルレの紹介する子を買った方が安全なのかね……」



 ――トントンッ


 控えめなノックの音がする。



「――ご主人様、夕食の準備が整いました」 


 同じく控え目な声で、ラティアが扉越しにそう伝えてくれる。


「分かった、直ぐ行くよ」


 後は食後にするか……。

 

 

 俺はDD――ダンジョンディスプレイを一旦閉じて、1階へと降りていった。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



 豚肉とナス、そして青じそドレッシングを使った、あっさり目のパスタで腹を満たし。

 休憩を挟んで軽く話した後、俺たちは揃って織部との通信を繋いだ。



『なるほど……その二人が、ニイミの今所有している奴隷か』



 事前に話を通していたこともあり、シルレが画面に登場するまでそう時間はかからなかった。

 そして、彼女が秘書を伴って現れると、直ぐにラティアとリヴィルに視線を移す。



「……えっと、何?」


「何か、問題でもあったでしょうか……」


 画面越しとはいえ、初対面の相手にじっと見つめられて、二人は居心地悪そうにもぞもぞする。


 しばらく無言の状態が続いたが、シルレは考えに区切りをつけるように一つ頷く。


『――うん、これ以上はないってくらい、ニイミを信頼していることがわかる。やはり君になら……』


 いや、今ので何でそれが分かんだよ……。


 えっ、何この人。

 なつき度でも判定してくれる人なの?


“ちょっと言い辛いんだが……ニイミ、自分の奴隷にそんなに嫌われていて大丈夫か?”とか言われたら俺どうしたらいいの?

 今後やつあたりで大ダメージ受けることになんだけど。


「――それで、先日の件なんだが……」


 どうでもいい思考は置いておいて。

 とりあえず話を戻すことにした。

 






「――ってわけで、購入自体は紹介してくれるその子を検討しようかと思ってる」


 ラティアとリヴィルとも話したが。

 先ほど『Isekai』で見た奴隷達は、購入を見送ることにした。

 

 この人だという人物がいないではないが、信頼性という面が大きかったかな。

 

 ラティアやリヴィル自身の例がある。

 なので何か問題を抱えていたり、欠点があったりということはマイナス面にはならなかった。



 それに――


『そうか……そう言ってくれると、私としても非常に嬉しい――ハズア、手続きを進めてくれ』


 まだあって3日しか経っていないのに。

 ここまで積極的に協力してくれるのだ。

 

 織部という信頼できる相手を間に挟んでいるとはいえ、こんなことはそうそうない。


『はい、シルレ様――』


 眼鏡をかけた知的な美女は、シルレの指示に従って、部屋を後にする。


『――購入の費用の半分は私が個人の資金で持つ。だからその点はあまり身構えなくても大丈夫だ』

 

 最近積極的にDPを稼いでいるわけではないので、シルレの申し出は有難い。

 だがそうなるとやはり――



「……そこまでするんだ、やっぱりその子、一筋縄ではいかないのか?」

  

『…………』


 俺の言葉に、シルレは直ぐには答えない。

 側で控えているサラが、思う所がある様に画面を見、そしておそらくリヴィルに視線を固定させていた。



『えーっと……私も詳しくは知らないんですが、そのポテンシャルは折り紙付きだそうです!!』


 少しだけ重くなった空気を敏感に感じ取ったのか。

 織部が少しでも場を和ませるように明るく補足する。


『シルレを始めとした“五剣姫”に負けないくらいですよ!? “五剣姫”っていったら、他国にも名を轟かせるほどで――ねぇ、サラ?』


『そうですね……“五剣姫一人と戦うならば、1000人死傷は覚悟せよ”――私の故郷でもよく耳にしました』


 それと同等の可能性を秘めた奴隷の少女を買うのに、こんなに手厚く協力してくれるのだ。


 織部の存在が保証のようになっているとしても。

 やはり何かあるんだろうな、とは思ってしまう。


 騙すとか、搾取してやるとか、そういうことではなく。


「…………」


 俺は積極的に発言することは控えて黙っているラティアとリヴィルを、チラッと視界に入れる。


 多分……その子にも、二人のように何かのっぴきならないような事情がありそうだな、と。



『――……これだけは誓おう。彼女に、最善の場で、最良の人生を歩んで欲しい――その気持ちから来ているのだ』


 シルレは、目を瞑り、静かに言葉を紡ぐ。

 自分の気持ちを一つ一つ掬い上げ、確かめるみたいに。


『詳しくは購入してもらえれば、分かる。……贖罪のようなものだ』


 腹に溜まった澱を吐き出すように、深く深く息を吐く。

 それでも体の中のドロドロしたものは吐き出しきれず、酷く疲れたような顔をした。


『私はまだ“五剣姫”になって半年も経っていない……なのに、どこか、少し、舞い上がっていたのだ――全てを、誰も彼もを救える、そう錯覚して』


 シルレの言葉は漠然としていたが。

 何か良かれと思ってやったことが、返って裏目に出てしまったのだろうということは想像できた。


 そしてその罪悪感から、話題に上げている少女を買って何とかしてくれる人物を見定めていた――そんな感じか。


 

 そのことについて、俺たちが何か言うことはない。

 ――というより、言うことなんてできない雰囲気だった。




『――済まない、少々おしゃべりが過ぎた』


 目を開けたシルレは切り替えるようにして、ハキハキと話し始める。


『何か君たちパーティーに欠けているところがあるのなら、それがどんなものでも、彼女はそれを埋める力になってくれるだろう。ただし――』


 シルレはラティアを、そしてリヴィルを順に見て、最後に俺へと視線を移す。


『それには乗り越えなければならない壁がある。カンナやサラから幾つか君たちの話を興味深く聞かせてもらった。そして実際に目にして改めて感じた――君なら何とかしてくれると』


「……過大な評価をどうも」


 織部とサラの二人が、シルレに何を言ったかは知らないが。

 ちょっとプレッシャーだ。

 

 パーティーの今抱える問題を解決しうる能力・可能性を秘めていても。

 その彼女の問題を解決できないのでは意味がないらしいし。


  

『私は既に間違えた身だ。知っているヒントだけを教えておこう。未だ誰も至っていない答えは、君が導き出してくれ――』


 シルレは俺の瞳を真っすぐ、画面越しでも分かるくらいに真摯に、ただじっと見つめた。

 そして、それを告げた――






『――彼女の正体は、私も知っている。しかし、彼女の本当の“名前”は、誰も――それこそ彼女自身も覚えていない……彼女の“名前”を、彼女自身の世界を、守ってあげてくれ』


次話、3人目登場します!

そして、多分夜中、日を跨ぐか否かくらいにもう1話上げられると思います。


なので、それほど時間を置かず、3人目の少女が出てくることに。


更に言うなら、リヴィルやラティアと比較すると、そこまで問題解決に時間がかかることもないと思います。

まあまた第三者視点を使うことになると思いますが、とにかく、今しばらくお待ちを!


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― 新着の感想 ―
[一言] なんとなく、ヴァンパイアとしてリストに出てきた人が来そうな予感
[一言] > 『私は既に間違えた身だ。知っているヒントだけを教えておこう。未だ誰も至っていない答えは、君が導き出してくれ――』  この先は君の目で確かめてくれ!(最速攻略本並感)
[一言] ロリ希望です。3人目じゃなくてもロリ出してくれると嬉しいです。合法ロリでも可。
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