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50.紹介してもらおう!

すいません、ちょっと流石に疲れました。


とりあえずどうぞ。


『あれ!? “シルレ”!? どうしてここにいるんですか!?』


 織部が驚きながらも声の主の名を呼ぶ。

 どうやら織部の知り合いらしい。



『やぁ、カンナ。君を探しに散歩してたら見つけてね、来たんだ』



 画面に映ったのは、短い金髪をした、若く美しい女性だった。

 鎧をその細い体の全身に着こんでいるのに、その足取りはとても軽い。

 

 他者への慈しみ、優しさが、その凛々しい顔全面に広がっている。

 しかし同時に、幾つもの戦場を生き抜いてきたような厳しさも併せ持っていた。


 

 その女性が足を止め、DD――ダンジョンディスプレイへと視線を向ける。



『――はじめまして。私は“シルレ・ソリュード”。君が噂の、カンナの相棒か?』


『あっ、相棒って!? ちっ、違いますよ!! 新海君は、た、ただ私に協力してくれてるだけで――』



 シルレと名乗った女性の言葉を必死で否定しにかかる織部。


 ……俺って、そんなに否定したい存在なのん?

 つらたんっすわ。



「……協力者の新海です。よろしくッス」



 多分3,4歳くらい年上だろうと思ったので、タメ口はやめておいた。

 これで怒られそうならもっと丁寧にするが。



『フフッ、ほら、カンナが素直にならないから、彼が誤解してしまってるぞ? ――それと、爵位はあるが、彼女のように普通に話してくれて構わない。私も“ニイミ”と呼ぶ。だから、な?』


「……了解」



 とりあえず無難に従っておく。

 織部も特にそこは言及しないし。


 反発する意味もないしな。





『あの、新海君、違うんです! 別に新海君がどうでも良い相手だとか、それこそ幼馴染レベルの無関心な相手だとか、そう言うんではなくて!!』



 いや、フォローしてくれるのはありがたいが……。

 それを具体的な言葉として出すと、余計に立石が憐れになるから。



「それはいい――で、話を戻すが……」



 織部の弁明は途中で終わらせて。

 俺はシルレと名乗った女性に視線を向けた。



「何か、言いたいことがあって、割って入って来たんだろ?」



 織部が俺との通信中に入ってきても、咎めたり隠そうとしないところを見ると。

 彼女は織部からして信頼できる相手なのだろう。

 

 だから、手っ取り早く本題に入ることにした。


 

『へぇぇ……』



 何やら面白そうな物でも見る目で、彼女は俺をじっと見つめて来た。

 ……ちょっ、美人にそんなにじっくり見られると、流石に照れるぞ。



『……後でラティアさんに報告しておきますね』


 ボソッとそう告げる織部。

 なぜにジト目!?


「いや、何でそこでラティア!?」   



 織部、お前やっぱり実はラティアと仲良いだろう!



『フフフッ! いや、悪い――そうだな、では話を戻そう』



 快活ながらも品のある笑い方をした後。

 シルレは改めて、先ほどと同様のことを告げた。




『奴隷の少女をお探しかな?――私に一人、取って置きの心当たりがあるんだが』


 



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



『――あっ、カンナ様!』


 織部とシルレは場所を移動して。

 街の中の一際立派な屋敷へと入っていった。


 そして二人が入った応接室を兼ねた執務室には、サラがいた。

 加えて、そこにいたのは彼女一人だけでなく――


『――あぁぁぁぁぁぁ!』


 シルレが入室するなり。

 小さな丸レンズの眼鏡をした、若い秘書のような女性が大声を上げる。


『もう!! シルレ様!! 一体全体今までどこにいらっしゃったのですか!?』


『悪い、ハズア。ちょっとカンナを探しに外に出ていた』


『“悪い”じゃありません! シルレ様がいらっしゃらないから、その間、私が全て執務をこなす羽目になったんですよ!?』 


『だから悪いって言ってるじゃないか――』



 二人の関係性は既に聞いている。

 というか、そもそも“シルレ”自身がどういった存在なのかを知って初めて意味があるんだが。



「――まあ、流石に街の為政者がいなくなれば、そうはなるよな」


『はは……私は私で、カンナ様がコチラにいらっしゃるものとばかり……入れ違いみたいになりましたが……』


 俺の呟きに反応したサラは苦い笑いを浮かべて返した。


 

 要するに、シルレは織部達が目指していた街の行政上の責任者なのだ。

 そして、それは織部達が滞在する国に5人いるといわれている“五剣姫(ごけんき)”の一人でもあるそうだ。


 ちなみにあのメガネの女性はシルレ姫の秘書で、エルフ、齢は50を超えているとか何とか。


「サラも織部も、もうすっかり歓迎されているみたいだな」


 俺はDDの画面を通して、あちらの室内を観察しながら二人にそう話しかける。 

 

 壁の端には、書類か何かを大量に収納している棚が、隙間なく並べられている。

 執務机や床の絨毯はあまり高価ではなさそうだが、しっかりしていて、それぞれが部屋の雰囲気にマッチしていた。


 

『まあ、あの依頼の件で、ちゃんと貢献しましたからね』


『ですね。あの時は特にニイミ様にご助力いただきました。改めてありがとうございました』


 当初の想定通り難しい依頼をこなし、シルレを始めとした街の人々の信頼を勝ち取ったらしい。

   


『――ああ、その通りだ。勿論カンナとサラには感謝しているが、君――カンナの協力者にも、私は礼を言いたいと思っていた』


 向こうで行われていたお説教はどうやら終わったようだ。

 シルレはスッと真剣な表情になり、綺麗な動作で頭を下げた。


「…………」


『――ありがとう。私は“五剣姫”になり、この街に赴任したばかりなんだ。それでも今回の件が、この街の毎年の頭痛の種になっていたのは知っている。だから、助かった』


『シルレ様、軽々にそのように頭を下げるのは――』


 ずっと腰を折り続けようとしている彼女を、眼鏡のエルフの女性が止めようとする。


『――ハズア。これは必要なことだよ。力を貸してくれた者に礼を尽くす、大事なことだ』


 反論は受け付けないという様に、顔だけ秘書に向け、強い口調でそう言った。


『ですが……』 


 言いたいことは分かるが、でも自分の立場としてそれを諫めないと――そんな秘書の彼女の板挟みが目に見えるようだった。

 少し空気もピリッとしてしまうし。


 ああ、もう!――





「――ふっふっふ……その“礼”として奴隷の少女を紹介してくれるんだろう? 俺はそれさえあれば他はいらないぜ?」



『『『『…………』』』』



 沈黙。

 あれっ、おかしいな、さっきまでの騒ぎがまるで嘘のよう。

 

 DDの通信の不具合かな?



「ふっふっふ……俺はちゃんとした奴隷の少女を紹介してもらえるなら――」



『――いや新海君、繰り返さなくても聞こえてますからね!?』



 あっ、そうなんだ。

 もしかしたら画面がフリーズしちゃったのかと。


「聞こえてるなら丁度いい。何かそういう気持ちを示したいのなら、俺は他の誠意も贈り物もいらない。奴隷少女を紹介してくれ、それ以外受け付けん!」


 あえて尊大に、横暴そうに聞こえるように、俺は画面向こうにいるシルレに言った。


 ……でも何かこれだと、俺が女の子を欲しくて欲しくて仕方ない屑野郎に見えちゃうね。

 まあ仕方ないけど。



『もう……新海君は、全くもう……』


『フフフッ、ニイミ様らしい、ですか?』


 何か織部呆れたように溜息ついてる。

 そしてサラよ……“俺らしい”って、それやっぱり俺が日常的に屑野郎に見えてるってことですか!?

 

 酷い……。



『フフッ、フフフッ――アッハッハッハ! おかしい、凄くおかしい!』


 えぇぇぇ、更に酷い。

 屑野郎だけでなくおかしい奴という認定まで受けてしまった。


 ぐすん。



『あぁぁ、いや、失礼。久しぶりだ、こんなにおかしくて笑ったのは――』



 シルレは一頻り笑った後、目尻に浮かんだ涙を指の腹で拭う。


 ……涙が出る程ですかい。

 俺、道化の素質はあるかもね、はは。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



『――よし。改めて、ニイミ。君に一人、紹介したい奴隷の少女がいる……いいか、ハズア?』


 確認されたエルフの秘書は、織部、そして俺を順に見て、頷いた。


『……はぁぁ。そこは本来、私が口出しするようなことではないですが、カンナ様が信頼を置かれる方、というのは分かりましたから』


 それは実質、肯定したのと同じだった。




『――ニイミ。奴隷を街で扱う際、許可を出すのは私だ』


「……まあそれは何となくわかる」


 彼女は改まって話し出した。

 ……どうやら紹介するにあたって理解しておいて欲しい前提の話のようだ。


『奴隷に落ちる者は色々と理由ある。金だったり、犯罪だったり、或いは戦争の敗者だったり、まあ色々だ』


『……私はちなみに、お金ですね。務めた所の借金を返すために』  


 サラが補足するように、自分の境遇の一端を語った。

 それに目礼をし、シルレは続ける。


『例え身分を落とそうとも、少しでも良い主人に巡り会って欲しい――そういう観点から、私達上に立つものは色々と目を光らせるわけだ』


『中にはやはり裏市場などで奴隷の売買も行われます。ただそのような場での取引は、奴隷のその後の境遇が一切保障されません。いい人に買われるということは幻想に等しいのです』


 エルフの秘書が、行政を担う側の視点を補足する。

 つまり、取り締まる・許可を出す側にもそれなりに事情はあるんだと。



『……そこのところ、新海君は既に二人の奴隷の女の子をメロメロ・トロトロにしている実績がありますからね、安心です』


「……織部さんや、何か言葉に棘がありませんかね? それにその言い方は語弊があると、自分思うんですが」 


『どこがですか? 出版するならノンフィクションで私は出しますが』


 いつに増して織部の口撃が激しい。

 むむむ。


「なるほど、織部は男女が一つ屋根の下で暮らす日常を余すところなく書く、と?」


『なっ、な!? べっ、別にそんなつもりは!? 新海君とラティアさんやリヴィルさんが、その、エッ、エッチなことをしているとか、そういう、ことは――ぅぅぅ~~~~!!』


「俺は別にエロい事なんて一言も言ってないのに……織部ったらムッツリさんだったんだな」


 そう言い返してやると、ほんのり赤みがかった織部の顔が、一気に真っ赤になった。

  

『誰がドスケベのムッツリ痴女ですか!?』


 ……いや織部、“ムッツリ”がそれだと、意味の行方不明になってるんだが。

“ムッツリ”ってなんだっけ、って。 


『新海君がラティアさんに性的に襲われて搾り取られてるところなんて全く想像してません!! リヴィルさんの色香にクラっと来た新海君が責められて果てるところも全然、これっぽっちも妄想なんてしてませんから!!』


『…………カンナ様、あちらで一度、落ち着きましょうか』


 サラに手を引かれて、暴走中の織部は一旦フェードアウトした。

 その際、一応織部の方のDDは置いておいてもらったが。




「……悪い、話が逸れたな」


『フフッ、いや、カンナがあそこまで自分を曝け出せるんだ。信頼している証だろう』


 ……そうかね?

 ただ勝手に暴走してるだけのように思えるが。





『――さて、肝心の部分だ。私が紹介する少女は、普段、その奴隷商人に頼んで、売りには出さないでもらっている』


 シルレはそこで言葉を区切り、秘書の女性エルフへと視線を向ける。


『そちらの実務は私が担っています……それだけ、特殊な存在なのです』

   

「……なるほど」


『私や他の“五剣姫”に勝らずとも劣らない程の才だ。それだけに特殊な事情もある』


 初めて、そこでシルレが難しそうな表情をした。

 会って間もないが、彼女ならどんな困難でも笑顔で乗り越えそうな明るい印象があっただけに、ちょっと驚きだ。


『ですので、主人の選定には一際注意を払っておられるのです』


 彼女らが言うには。


 要するに、普段なら必要以上の口出しはせず、奴隷商には包括的に商売の許可を出している。

 

 しかし、その話題の“少女”に関してだけは、更にシルレが認める人物でないと売買の許可ができない。

 

 つまり、実質彼女の個別の許可がいる、ということになる。


「……言いたいことは分かった。だが、そもそも買うかどうかすら、まだ分からないぞ?」


 念のためそう言及しておく。

 買うにしても、やはりラティアやリヴィルと相談はしておきたい。


 リヴィルを買う時、ラティアとボタンの掛け違いがあったことを教訓にしないとだしな。



『勿論だ。それに、あちら側に話を通すのも、数日かかる』


 シルレは当然だという様に頷き返してくれた。


『また後日、改めてお話しできれば』


 やはりそういう所は秘書の役目なのだろうか。



「分かった。こっちも織部には一言伝えとくよ」


『そうしてくれると助かる』




 それで、大体の話は終わった。

 戻って来たサラと織部に簡潔にことの顛末を伝え、一度通信を切る。





「ふぅぅぅぅ……さて――」




 3人目か……どうなるだろうな。


もしかしたら一日投稿をお休みするかもしれません。

すいません。


感想の返しはまた昼頃か、それか時間が取れた時にまとめて行います。



うーんと、あとは……。


――あっ、そうそう!


次の登場人物の纏めなんですが、3人目の奴隷少女を載せたいな、と思ってるんです。

ただ、彼女の特殊事情が絡んで、本当の名前が出てくるのがもう何話か先になるかもしれません。


ですので、次に登場人物の纏めを貼るのは、3人目の少女の名前が登場してから、ということにします。



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― 新着の感想 ―
[良い点] お休みちゃんととってください!お疲れさまです。3人目……どんな娘か楽しみですね!
[一言] > そんなに否定したい存在なのん?  なのんだ! > それこそ幼馴染レベルの無関心な相手だとか、  普通無関心なポジションじゃないけどバキバキフラグ折部さんだし。
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