48.なるほど、そういうことか……。
昨日の前書きにあった“kome”は別に暗号でも何でもないです、はい。
ただの私の何かのミスです。
私にも覚えがなく、見返してみて「あれ、何これ……」となってました。
モヤモヤした方がいらっしゃったらすいません。
「……否定、しないのね」
「まあ、俺もあの場にいたからな。絡んではいるよ」
嘘はついていない。
ただ志木は、こういう腹の探り合いみたいなことは百戦錬磨なのだろう。
このやり取りを楽しむみたいにクスッと笑って更に言葉を続けた。
「ふ~ん……じゃあ以前の貴方の言葉を借りるわ。――あのダンジョンのモンスター、主に倒したのは貴方でしょ」
それは確かに俺が動画を見て、逆井がレベリングの重要な役割を担ったことを指摘した、その際の言葉を一部引用していた。
……ってかよく覚えてたな、言った本人も今思い出したぞ。
「フフフッ、貴方とのやり取りはどれもこれも楽しい時間だもの。全部しっかりと覚えてるわ」
……そういうね、童貞思春期ボッチが勘違いしそうなセリフはさ、やめてもらえませんかね。
「はぁぁぁ……分かった、降参だ」
俺は手を上げて、その意を示す。
これ以上変なセリフを吐かれないためにも、ここらで撤退することにした。
「――確かに、俺がかなり多くのモンスターを倒した。それは事実だ」
「……“かなり”?」
“まだ言っていないことあるでしょ”的な笑みを浮かべられて、流石に諦める。
「……すいません、9割9分くらい。HP換算で言ったら、俺がやりました」
自供する犯人みたいなセリフになってしまう。
何でこう、美人の笑みって凄みっていうか、怖さが感じられるだろうね……。
「……なるほど。とにかく、特別彼らと繋がりがあるわけではないのね?」
極々簡単に。
あのダンジョン攻略の全容を語った。
まあ灰グラスについては触れていないが。
それでも、志木はツッコまずに、それだけで満足してくれた。
「……一応、片方とはクラスメイトだったらしいが」
木田はそうらしい。
クラスメイトへの関心が薄すぎてわからなかった。
だって逆にクラスメイトも俺に対して興味なんかないでしょ。
これがそもそも普通の状態だと思うんだが。
「貴方ねぇ、“らしい”って……」
志木が引いている表情を初めて見た。
……すんません。
「――ま、まああれだ、とはいえ、本当に接点はない。気にしないで大丈夫だ、うん!」
「……はぁぁ、ま、そうね」
志木は溜息混じりながらも、切り替えて本題を語る。
「彼ら――立石君と木田君、の二人が私達と合流したってことは言ったわよね?」
「ああ。ニュースでもやってたしな。それで、『お似合いな、日本の国民的ヒーロー、ヒロインがそろい踏みです』みたいなニュースやってたし」
どこも似たような内容だったが。
それでも逆井や志木達の女子組に男子二人が合流するというだけで、ニュース時間をかなり割いていた。
それだけ関心が高いのだろう。
志木はしかし、それを聞いて本当の溜息を吐くように、うんざりした表情をする。
「……マスコミはもう、仕方ない部分もあるとは思うけど、あの二人はちょっと今後どうなるか心配ね」
「……というと?」
「う~ん、どう言えばいいかしら――天狗、は言い過ぎだと思うけど、自分達の実力を少し、過信してるきらいがある、かな」
志木が言いたいのはこうだ。
対外的には二人でダンジョン攻略を成し遂げたことになっている。
それならば、5人で分散していた自分達とは違い。
二人で経験値を総取りできる彼らはもっと強くてもいいはずなのに。
想像や言動に反して、それほど強くはなかった。
とはいえ、モンスターにダメージを与えること自体はできている。
そこで、ふと疑問が湧いて、俺に疑いがかかったようだ。
「なるほど、痕跡は何も残ってないはずなのにどうして志木に疑われたのかと疑問だったが……」
「フフッ、私だけじゃなくて颯さんも。何となく貴方が関わってるんじゃないかって気づいてたわよ?」
そう言って志木は、クールダウン中だった赤星に視線を向けた。
流石に元陸上部とあってか、ストレッチの開脚が様になっている。
桜田や逆井と輪を作るようにしてそれぞれダウンを進めているものの、話もそこそこ盛り上がっていた。
「意外と彼女、鋭いところあるから――まっ、それはいいわ」
話を戻し、志木は頷く。
「彼らは彼らで凄くグイグイ来るから、貴方が関わってるのなら上手くやらないとと思ってたけど」
「大丈夫、お互い話したこともないから」
最近都会では隣同士に住んでいても、相手が男性か女性かすら知らないこともあるという。
それだけ人間関係が希薄な世の中になってきたのだろう。
それは学校でも例外ではないのだ。
相手に対する関心が薄ければ、それだけ人間関係も薄っぺらい。
俺とその二人はそれだけの関係だということだ。
「ふふっ、なら積極的に仲良くする必要はないわけね――」
「――あの、花織御姉様! そろそろ、その、お時間が……」
更に何か続けようとした時。
既に着替えを済ませた皇さんが、俺たちの元へと近づいて来て、志木へとそう告げた。
「あらっ、もうそんな時間かしら!? ――本当ね、ゴメンなさい。もう行かなくちゃ」
志木は流石にスケジュールがキツキツらしい。
これからもまだ行かなければならないところがあるというのか。
「あっ、あの、陽翔様、本日はその、えと、見ていただいて嬉しくて、それで、来週のライブも――」
皇さんは皇さんで、同じく急がなければならないながらも。
俺に伝えなければならないことも頭の中で渋滞しているのか、言葉が上手く出てこないでいた。
……うん。
「――今日は歌、見せてくれてありがとう。来週も凄い楽しみにしてるよ」
時間に余裕があるのならいくらでも待つが。
今日は皇さん自身が忙しい身。
俺が代わりに言葉を紡いだ。
これで……大丈夫だろうか。
「……あっ、あっ、えと、はい!! はい!!」
「フフッ。さっ、行きましょう律氷――じゃ、今日はこれで」
「陽翔様、皆様、失礼します」
可愛い妹分を慈しむような、そんな表情をし。
そして感謝するように志木は一瞬、俺にだけ視線を投げた。
どうやらこれで良かったらしい。
「――颯さん、梨愛さん、知刃矢さん、ごきげんよう」
「あっ、うん、じゃまた」
「かおりん、律氷ちゃん、またね!」
「失礼します、花織先輩! ――じゃあね、律氷ちゃん!!」
志木と皇さんは、急いでいながらも、優雅な足運びでその場を後にした。
……“ごきげんよう”って、本当に日常で使われることあるんだ。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「――あっ、そだ新海君」
帰りの車内にて。
行きと同じく椎名さんが送ってくれている。
皇さんの方についていかなくてもいいのかと思ったが、二人はタクシーを使うらしい。
……金持ちめ。
「ん? なんだ、赤星」
「これさ、志木さんから頼まれてたんだ。新海君に何なのか聞いてくれって」
そう言いながら赤星が差し出してきたものを、体を捻りながら受け取る。
「これ、は……ダンジョン攻略時に?」
手に取った物には、見覚えがあった。
長方形の薄い板。
それにはディスプレイ画面があって、でもちょっとやそっとのことでは壊れないという印象があった。
どこでこれを、という趣旨のことを尋ねると、後ろに座る3人がそれぞれ答えていく。
「えっとね……東北の方のダンジョン攻略したときにさ、宝石みたいなものがあって、光って、それになったんだけど」
「そそそ!! アタシもその場面見てたんだけど、ブワァァッて感じてさ、光って!!」
「……梨愛先輩、ちょっと意味わかんないです。――えっと、一応5人の共有物ってことにはしてるんですけど、管理は基本、花織先輩が」
「なるほど……」
裏にひっくり返したり、あるいは手触りを確かめてみたり。
自分が持っている物と、外形的相違はないことを理解して、赤星に返した。
「――今どういう機能がついているかは分からんが、今後のダンジョン攻略に役立つお助けアイテムみたいなもんだ。大事に扱った方がいいぞ」
俺がそういうと、後ろから「おぉぉぉ……」という歓声が上がる。
流石に『Isekai』や織部との通信、それにテレポート機能などはついてないだろうが。
俺以外にもDD――ダンジョンディスプレイを入手したということは重要だな。
今後もしかしたら逆井達も、DPを使って何かすることができるようになるかもしれないし。
「――え? 木田ッチと立ゴン?」
「……梨愛先輩、“木田”で“木田ッチ”は分かりますが、“立石”で“立ゴン”はどうなんですか」
桜田……代わりのツッコミをありがとう。
加えて言うなら――
「逆井、お前あの二人を何か別の生物とでも思ってるのか?」
いや、まあ確かにパリピっぽい陽キャで、俺とは別次元の生き物だとは思うが。
「えぇぇぇ!? いいじゃんいいじゃん!! 何かそれっぽくない?」
「ははは……梨愛は感覚が独特だから――それで、立石君と木田君の話、だよね?」
常識人の赤星が笑いながらも話を戻す。
「ああ……志木が少し、気にしててな」
「あぁぁぁ、そういえば――」
バックミラー越しに赤星を見ると、思い当たる節があるのか何度か頷いて見せていた。
「何だか志木さん、あの二人苦手そうだったもんね」
「そういう颯先輩もちょっと“うっ……”ってなってませんでした?」
「ははは……よく見てるね、知刃矢ちゃん」
桜田の指摘に否定しないところを見るに、赤星も極端ではないが、小さく苦手意識みたいなものはあるらしい。
「……花織様は、どちらかというとお嬢様のことを気にしてくださった結果だと思います」
俺の隣で、運転している椎名さんが控えめながらもそう補足した。
「あぁぁぁ……確かに律氷ちゃん、特に木田ッチのこと苦手そうだったしね」
「……あの青年を、というより、お嬢様は御父上と――」
椎名さんは赤信号で丁度止まったそこで。
一瞬だけ、俺に視線を向けた。
「……新海様以外の男性に慣れていらっしゃらないんですよ」
……若干言い辛そうにしたのは皇さんのことを想って、だよね?
俺の名前出すのが嫌だったとか、そうじゃないよね、ね!?
「――……二人とも、悪い奴じゃないと思うんだけどな~。男性陣、女性陣に不評、受け悪いっぽい?」
まあ、逆井としてはそうだよな。
誰相手でも臆せずコミュニケーション取れる奴だし。
「……まあ、志木としては、皇さんや赤星達に害がない程度に付き合っていければそれで、って感じだったな」
「そっか……ま、アタシもそれで別に大丈夫だけどね。がっこでもあんまし仲良いわけじゃないし」
逆井のそんな言葉に――
「「え゛」」
驚きの声を同時にあげたのは、赤星と桜田の二人だった。
「え? 何、ハヤちゃん、チーちゃん、どしたし?」
「んーっと……もしかして、これ、、梨愛、気づいてないっぽい?」
「あの記事読んで、本人と接したことがあれば気づきそうなもんですけどね……」
二人はあえて逆井や、それこそ俺と椎名さんにも聞こえる声でそう話す。
そして念のためと、自分達が見たであろうその記事を検索し、チラッと確認していた。
しかし、逆井は首を傾げるばかり。
「え~!! 何々、アタシだけ仲間外れ!? 酷いんですけどー!!」
……俺はサッとスマホを取り出し、『木田 探索士 記事』と検索する。
すると、おそらく二人が話題に出したであろう該当記事が出てきた。
大手の新聞がデジタル版で出してるもので、『今話題の探索士2人に聞く』と大きく見出しを付けていた。
木田に取材した上で、丁度いいだろうコメントを抜粋してある。
『俺、クラスは違うけど。先に攻略したアイツと肩を並べて。それで、一緒に戦っていけたらなって。そんで、リアルの方でも、二人でその、歩けたらなって』
……なるほど。
木田と同じ学校で。
それでクラスが違う攻略者の女子と言ったら対象は一人だわな。
「もう! どれどれっ、何見てんだし!」
「ちょ、あっと、梨愛! 車内で、運転中だし、あんまり動いたら――」
「――あっ……」
何やら少し騒がしくなったと思ったら。
逆井の呟きが漏れ、直ぐに車内は静寂に包まれる。
……何だ?
「えっと……梨愛?」
「どうかしましたか、梨愛先輩?」
「う、ううん!! 何でもない、何でもないよ!!」
明らかに空元気のように振舞う逆井に。
二人だけでなく、俺も流石に心配になった。
「えと、私達が言ってた記事って別のページだけど……何かおかしなものでもあったの?」
「そこは……もう一人の方のコメントが載ってるだけですけど」
「いや、うん!! だから、何でもない! もう、立ゴンも取材受けるくらい有名人になったか、と思ったら、何か感慨深いっていうの? こうグワっと来てね? それで――」
逆井がまるで言い訳するかのように捲し立てている。
赤星達の開いていたページは別ページだった。
覗き見たんだとしても、木田のコメントを見てその意味に気づいたのではなく。
その開いていた記事に何かあったことは明らかだった。
俺はすぐさま自分のスマホを操作して、その該当ページを閲覧する。
そこには、確かに木田と同じように取材を受けた立石のコメントが載っていた。
そして、それを読み進めていくと、逆井の態度の意味が理解できた。
『――俺は、幼馴染を待ってるんです。大事な、大事な幼馴染の、アイツが帰ってくるのを。俺がその帰る場所になってやれれば。そう思って、頑張ってます。アイツはどこかで今もまだ生きていて、俺の元へと、帰ろうと頑張ってる、そんな気がするんです。アイツが帰ってきたら、一番に先ず、抱きしめてやって、それで、その後、言えなかったこの想いを――』
その後に、記者の補足の説明が付されていた。
『立石君の言う幼馴染とは、今年6月に失踪した“織部柑奈さん(17歳)”を指す。捜索願が出されたが、見つからず、その後、捜索は打ち切られている。今も目撃情報が入ってこないことから、事件ではないとすると、生存は難しいという専門家の見解が――』
なるほど、そういうことか……。
ふぅぅぅぅ。
感想の返しは、昼くらいに時間が取れそうなので、そこで多分行います。
昨日は前書きでもある様に、眠気がピークに来ていて良く分からないことも自分でしていたようで。
後書きも多少素っ気ない感じになりました。
申し訳ありません、眠くて眠くて……。
さて――
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もう直ぐで900名に届きそうです。
そうすると、1000名の大台もそう遠くはないですね。
嬉しい限りです !
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やはり徐々に増えていると実感できると凄く安心します。
今やっている方向性で大丈夫なのか、常に不安に駆られ、悩まない日はありませんから。
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