46.怖い怖い怖い!
すいません、昨日は風邪の初期症状があったため、大事を取って休みました。
グッスリ寝まして、起きたらバッチリ治っていたのですが「え……もう……昼?」と軽く絶望感を覚え。
そしてこれを書いたらもう魔の月曜日に。
……ハハッ、もう知ぃーらない!(ハッちゃけ)
『――……ゴメンなさい、お兄ちゃん、ゴメンなさい』
「……ああ、いや、謝られることじゃないんだが」
俺は今、非常に困惑している。
織部の件が何とか片付き、日常に小休止が入ったところ。
これから先は皇さんから招待してもらった探索士アイドルのライブや。
通っている学校の学園祭がある。
だから、今くらいしか纏まった休みが取れない、そんな時だった。
『でも、私……食べちゃったから……美味しく』
「……そうか」
美味かったのか……ダンジョンは。
折角だからと、赤星と初めて会った後、逆井を連れてボスを倒し、攻略したあのダンジョンに来たのだ。
そして今回はダンジョンを捕獲することを選択した。
選択したら……想像以上にダンジョンの人格みたいなものの話が強烈だったのだ。
「いや、別にいいんだ。それを俺がどうこう言うことはないから」
『ぐすん……でも、お兄ちゃん、“食べたんだよな?”って――』
「あぁぁぁ!! 悪かった!! 聞いた俺がいけなかったんだな、うん!!」
クソッ!
泣くなよ!
俺に子供のあやし方なんてわかるか!!
「ええっと……それで、君も他のダンジョンみたいに、何か特徴があったりするのかな?」
あれから5分程、何とか宥めて泣き止ませ。
この幼い少女のようなダンジョンに、訪れた本題を尋ねた。
『うん! えっとね……うんとね……私、これができるの!!』
明るい声で応えたダンジョンは、今までのダンジョンの如く、台座の上に半透明な紙を出現させた。
「うん? これ、は……」
ただ、そこに書いてあったのは――
Ⅰダンジョン機能展開
Ⅱダンジョン特性とDP交換
「……これは?」
Ⅱはおそらく、今まで俺が≪狂人≫や【回復魔法】の交換などをやって来たものだろう。
なので、分からなかった“Ⅰ”の部分を指さして、ダンジョンに尋ねてみた。
『? お兄ちゃん、ダンジョンマスターさんだよね?』
「ああ、だから君にアプローチできたんだけど……」
『もう……お兄ちゃん、そんなこと言われたら恥ずかしいよ、えへへ』
えっ、そっちが振って来たのに!?
何で照れてんの!?
『それはね? え~っと――うん、先ずは、一回やってみて!!』
……この子、自分の語彙・表現で説明できないから、こっちに投げたな。
「はぁぁ……」
まあいいか、と俺は言われた通り選択してみた。
すると――
<“ダンジョン機能”が解放されました>
「おっ!? な、何だなんだ!?」
いきなり、あの機械音声がまた流れる。
<おめでとうございます! 機能解放に伴い、≪ダンジョンマスター≫に“Lv.概念”が導入されました>
『フフン! お兄ちゃん、驚いてる驚いてる!』
何か悪戯が成功したような声で、クスクス笑うダンジョン。
やはりダンジョン自身は概念としてはどういうことか分かっていて、しかし俺に説明する言葉を持たなかったようだ。
だが、俺はそれを気にする暇もなく、次々と流れる音声に翻弄される。
<“ダンジョン機能展開”では、本来ダンジョン自身が行うダンジョン運営機能を、≪ダンジョンマスター≫のレベル・習熟度に応じてダンジョンマスターに委託することになります>
「委託!? えっ、それって俺がしないといけないってこと!?」
<ダンジョンマスターの≪ダンジョンマスター≫Lv.……“Lv.2”。①モンスター創造Lv.1 ②アイテム等創造Lv.1 が、それぞれ委託可能となりました>
俺の疑問に答える声はなく、ただプログラムされた音声を垂れ流すように、声は無機的に続いた。
<現在、①モンスター創造Lv.1 ②アイテム等創造Lv.1 が、選択可能です。 如何しますか?>
そして目の前の半透明の紙には。
→①モンスター創造Lv.1
②アイテム等創造Lv.1
戻る
という選択肢が並んでいた。
「……一旦戻るわ」
一番下にあった“戻る”という選択肢を選ぶ。
怒涛の音声攻めは一時止んだ。
再び紙には
Ⅰダンジョン機能展開
Ⅱダンジョン特性とDP交換
とあり、一番最初にまで戻ったことが分かる。
「……ふぅ。とりあえず、君ができることを教えてくれ」
俺は、頭を整理する時間が欲しいと、既に経験がある“Ⅱ”を選ぶ。
まるで遊んで貰えて嬉しがる子供のように、キラキラした声を出してダンジョンは喜んだ。
『うん! えへ、えへへ! お兄ちゃんの役に立てる! 他のダンジョンちゃんより! 嬉しいな!』
“①【火魔法Lv.1】:500DP”
“②【業火】:1000DP”
“③ノーマルジョブ≪火遊び人≫:2000DP”
“④中級ジョブ≪焼師≫:5500DP”
俺はそれを見て、そっと手で顔を覆った。
『えへ、えへへ……これでお兄ちゃんの役に立てる。他のダンジョンちゃんより。嬉しいな……』
あれっ、おかしいな。
ダンジョンのセリフは、ほぼ一緒のはずなのに。
この幼女のようなダンジョンの言葉が、何だかヤンデレのそれに聞こえて仕方がない。
――えっ、ってか【業火】って何!? ≪焼師≫って何のジョブ!? つか今さ、無茶苦茶に声低くなかった!?
怖い怖い怖い!!
嘘っ、今“Ⅰダンジョン機能展開”が情報過多だから、ちょっと箸休めしようってターンじゃなかったっけ!?
何でこんなビビらないといけないの!?
「え、えーっと……①だけ、お願いしよう、かな? あはは……」
『へぇぇ……お兄ちゃん、①だけでいいの?』
「――②もよろしくお願いします!!」
即答だった。
いや、クソ怖いんだって、これ!!
だってお前、最初この子『他のダンジョン、食べちゃった』って言ってる子だからね!?
ラティアの文脈で使う“食べちゃった”とこの子で使う“食べちゃった”はマジで違うから!
この子、マジで消化しちゃう奴だから!!
『えへへ! 他にも交換したかったら、いつでも言ってね、お兄ちゃん!』
「ウ、ウっス……ダンジョンパイセン」
『えぇぇ? お兄ちゃん、何それ、おかしいの!! キャハハハッ』
「そ、そうっスよね、あは、あははは……はは」
DPとの交換を済ませ。
このままだと俺が敬語まで使いだしそうになった時。
「――あれっ、先輩、何か話声聞こえませんでした?」
っ!!
誰かの声が、足音が、こちらへと近づいて来ていた。
これは……二人!?
俺は即座に口を閉じ、いつも懐に仕舞っている“灰グラス”を手に取る。
「はぁ? 何言ってんの。君もちゃんとセキュリティチェック受けたでしょ。なのに、ここにアタシたち以外に、誰かが?」
若い女性の、呆れたような声。
「いや、それは分かってるんですけど、でも何か男の声が……」
最初に聞こえた声で、こちらは更に先の女性よりも若い声のように聞こえる。
しばらく沈黙していると、1分もしないうちに階段を降りきったようだ。
流石にこれ以上はマズイと思い、俺は灰グラスを掛けた。
「――でっ、その声の主さんは、一体どこに?」
俺の視界の先に現れたのは、パンツスーツの30代くらいの若い女性と。
「あっれぇぇ……おっかしいな、でも聞こえたんすけど……」
手にビデオカメラを持ち、ボスの間全体を映すように動かしている、スーツに着られているような20代程の男性だった。
彼らの視界の先には、台座と、そして俺がいるのだが。
勿論俺のことは見えていないらしい。
「昼食前にも、誰もいなかったでしょ? ここに誰か隠れられるスペースなんてないのは、君の持ってるビデオカメラでも分かると思うけど?」
「……すんません、俺の……聞き間違いでした」
「ふぅぅ。宜しい。――しっかりしてよ? これ、後で上に提出するんだから」
後ろで長い髪を束ねた女性は、シュッとした若い男性の持っているカメラを強調するように指の腹で叩いて見せる。
「……はい。――でも、なんで俺たち“国交省”がこんなことやってんすかね!? “法務省”と合同チームなんか組んで。“防衛省”マターじゃないんですか?」
何とか自分の失敗から話を逸らそうとするように、男性は慌てて話題を作った。
「野崎君……あのね、これも全部ビデオに撮ってあるんだけど?」
「あ――」
更に失敗を重ねるなんて……と頭が痛そうにしながらも、やれやれ、手のかかる後輩だという表情で優しく教える女性。
「はぁぁぁ……流石に私も全部知ってるわけじゃないけど。一つは省庁間の予算の取り合いが絡んでる」
女性は人差し指を立てて、差し障りない表現で告げていく。
「仕事が増えれば、それだけ予算も増える。どこの省庁も、そこに関心を払うのは最早日常よ」
「……そうすると、後は、防衛相ばっかりに力を持たれるのもなんだかな、ってことですか?」
「まあね……君、考えれば分かる頭はあるんだから、わざわざ何でもかんでも聞かないでよ」
女性のジトっとした目を受けて、気恥ずかしそうに野崎と呼ばれた男性は頭をかいた。
「へへへっ、いや、黒田先輩に教えてもらうの、俺、結構好きで。丁寧で、わかり易いッスもん」
「……はぁぁ。毎回それを言うの、反則だわ……」
その呟き、俺には聞こえてますよ、お姉さん。
そろそろ1分経ちそうなので、俺はDD――ダンジョンディスプレイを取り出す。
そして、テレポート機能を選択し、いつもの廃神社跡へとテレポートすることに。
「――それと、ここはもう“攻略済みダンジョン”と認定して良いでしょう」
「へぇぇぇ。凄いっすね、誰が攻略したか分からないけど、これで――」
全部の言葉が紡がれる前に、俺はその場を離れることになった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「ふぅぅぅ……」
テレポート後の軽い浮遊感が収まるまで、俺は長いため息を吐きながら時間を潰した。
それにしても……。
「もう、あのダンジョンへは行けそうにないな」
既に国の役人が入っていたなんて。
あのアーマーアントや。
県の北にある男子探索士が攻略したことになったダンジョンは、もうダメだと半ば確信していたが。
これで、やはりテレポート機能があるとしても、今後気軽に立ち寄るなんてことはできなくなった。
おそらく人を常駐させるだろう。
そんなところにテレポート機能を使って突如現れたら、鉢合わせて“貴様、何奴!?”みたいなことになりかねない。
“Ⅰダンジョン機能展開”を試す前にこうなってしまったのは残念だが。
まだこれからも他のダンジョンを攻略していけば機会はあるだろう。
「あの男性がビデオカメラで撮影してたのは……現場保存のためか?」
監視カメラでもあったら事だったが、もしかしたらちゃんと検証が終わるまではそういう物は使わずに手動・人力で何とかするのかも。
「まあいいや……――おろっ?」
――ブルルッ
メールが来た。
「えーっと……椎名さん? ――いや、志木か」
メールの着信自体は椎名さんの携帯からだということを告げていた。
しかし、その内容自体は志木からのものとなっている。
志木や皇さんは良く外出するとはいえ、全寮制のお嬢様学園で過ごしている。
携帯の持ち込みも基本認められておらず。
なので、彼女らが俺に何か連絡事項があると、“家と電話します”と学校には言って、必ず椎名さんに用件を伝える。
そしてそこから椎名さんが、俺に一言一句違わずメールを書いて送ってくるのだ。
『“花織様より”:相談したいこと、というか、聞きたいことがあります。今から時間あるかしら?』
メールを開くと、そのように、誰から頼まれたのかを記してある。
既に外にいる場合は、勿論彼女は自分のスマホを使うが。
ちなみに皇さんの直近の用事だと。
『“お嬢様より”:来週のお披露目のライブ、陽翔様がいらして下さるの、とても楽しみで、でも、ドキドキで胸が張り裂けてしまいそうで、怖くなります。どなたか、私のこのドキドキを沈めて下さる方はいらっしゃらないでしょうか……』
という風になる。
……そして添付ファイルを開くと、白い紙におどろおどろしい文字で――
『絶対来い。いや、逆に来るな。でもお嬢様を泣かせたら許さん』との追文があったりもした。
手が込んでいて、色んな雑誌や新聞紙の文字を切り貼りして、この文章を作り上げていたのだ。
この文字……昭和の脅迫文かよ。
これは誰からの文か、流石にわかるよね。
「さて、志木が聞きたいことか……」
何だろうな……。
感想に、“あれっ、塩じゃダメなの?”というナメクジには塩万能説が散見されましたので補足を。
――塩はダメです!
異世界のナメクジは強力な皮膚に覆われており、その皮膚は対外の空気中の目に見えないレベルの水分を常に吸収し続けています。
異世界で、塩で死ぬのは似非ナメクジです!
Aランクの依頼で出てくるようなナメクジは真のナメクジ強者なのです!
他の雑魚ナメクジと同列ではありません、“雑魚ナメクジも、強者ナメクジも、同じナメクジじゃ……”という甘い言葉を信じてはいけません!!(何言ってるか自分でも分からん……)
なので、感想というか、疑問を頂いた方には本当に申し訳ありませんが、塩で織部さんも無双できたんじゃ説は棄却します、すいません!!(※作者も書く際、塩が念頭に浮かばなかったわけじゃないんですが……)
えっと……それで――
ご評価いただいた方が852名で、あれっ、825じゃなくて!?
おおう、1日見ないうちにかなりドドンと増えてますね!!
有難いです、本当に!
ブックマークの件数、7500件を超えました!
ふぅぅぅ。
本当にありがとうございます。
日々メンタルやモチベーションとの戦いでして。
皆さんにご声援・ご愛読頂いているという事実が、その実感が。
その戦いの後押しをしてくれています。
是非、今後もご声援を、ご愛読を頂けましたら幸いです!




