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44.必要な物を買いそろえよう! なお、絡まれた場合の対処方はラティアから伝授済み。

1話だとかなり長くなったので2話に分けました。

次もすぐに上げるので、とりあえず、前半部分をどうぞ。


「――マスター、あんまり離れすぎないで。怪しまれるよ」


「お、おう……」


 

 少し今の状況に慣れずにおどおどしていた俺の腕を、リヴィルが引っ張る。

 そしてそのまま自分の腕を絡めるようにして、密着した。


 その際、肘が当たって、柔らかな膨らみがムニュンと潰れる感触を覚える。


 ……柔らかい。

 着替えたリヴィルは真っ黒な衣装――黒のシャツの上にロングカーディガンと薄めなので、よりはっきりとそれが伝わって来た。


 リヴィルの大胆な行動に驚きつつ、ここで動揺すると一層怪しく見られると思い、表情に出さないよう努める。



「……あっ、あった。ここだな」


「……へぇぇ。こういう場所があるんだ」


 二人で密着して狭い通路を歩いていると、目的の場所へとたどり着いた。



 そこは他の売り場とは別に、他からは隔離されるようにして設けられていた小さなスペース。

 そしてその入り口にはピンク色の暖簾(のれん)がかかっている。


 そこには『18歳未満の立ち入りお断り』との赤い文字が記されていた。


「……行くぞ」


「……うん」


 表情には出ないが、リヴィルも緊張しているのか。

 俺の腕にしがみつく力が少し強まった気がした。

 

 

 ……これからこの場所に入るよりも。

 この女性特有の柔らかな感触をずっと押し付けられている方が、俺は緊張するんだが……。




 そうして、俺たちは二人でカップルのフリをし。

 駅前にある大型ディスカウントショップの、18禁アイテム売り場へと足を踏み入れたのだった。






 

「……うっわ、マジピンクな空間だな」


 世のお父さん方が家族の寝静まった後に見るようなDVD。

 独りで自分を慰めるために使うのだろか、穴の開いた柔らかそうなアイテム。

 女性用か、グイングインとスイングしている謎の棒。


 ……いや、実動販売までしなくても。



 目に飛び込んできた光景に一瞬怯むものの、できるだけそれらは視界に入れず。

 顔から火が出るんじゃないかと思うくらいの、何か良く分からない感情に何とか蓋をして、俺は目的の物を探す。

 



「そうだね……あっ、これじゃない? ラティアが用意してほしいって言ってたの」


 隣で同じように目の前の商品類を出来るだけ見ない様にしながら、探し物をしていたリヴィルが。

 棚の下段にある商品の一角を指さした。

 

 そこには様々な形の容器をしたローションがずらりと陳列されている。 

 そしてその中で――



「――あっ、これか!」


 俺は『お風呂で簡単! スライム風呂』と印字された縦に細長い商品を手に取った。

 



 今、なぜ俺とリヴィルがこんなところでこんな商品を探していたかというと。

 要するにラティアが考えた解決策の根幹が、ローションにあるからだ。

 

『名付けて、“ポーション・ローション作戦”です!!』


 と言っていた。

 ……いや、うん。


 色々ツッコミたいところはあるんだが、仕方ない。

 現に今も織部達は戦闘中なんだ。



 変な疑問なんかは抱かずに。

 俺たちはラティアが考えたことを実行するのに、何が必要かを直ぐに話し合ったのだった。

 


「……うん、多分これで大丈夫」


 リヴィルが商品裏の説明文を読んで、俺に頷き返した。 


「良かったね。時間との勝負だったから、一件目で見つかって」 

 

「ああ、本当にな」


 探せばネット通販でもこの手の商品は売っている。

 ただ、今回はリアルタイムで織部達が戦っているために、明日明後日に届くことになる通販という手は使えなかったのだ。


 だからネットで検索して、周囲半径1km以内にある大人の商品を売っている店を調べた。

 そしてまず、一番近かったここに来たというわけだ。





「ただ、他の商品も買った方がいいよな……」


 リヴィルと二人で買いに来たのに、これだけしか買わないというのは何か怪しまれないだろうか。

 いや、もしかしたら俺の考えすぎなのかもしれない。


 ……ってか相場というか、この手の商品なんて買ったことないから、二人でこれ単体を買うのが普通なのかおかしいのかが分からん。


 ……ええい!



「リヴィル、行くぞ!!」


 俺は暖簾付近にあった数点の商品を掴み、ローションと一緒に抱える。


「えっ、マスター、それ――」


「いいんだ!! ほらっ」

   

 俺に促されたリヴィルは、何かを言うのを止め、黙ってついてきてくれた。

 ……だ、大丈夫だろうか。










「――フフッ、私、楽しみだな」


「あ、ああ……今夜は寝かさないぞ?」


 レジにて。


 リヴィルが言ってきたそれっぽいセリフに。

 俺も何とかそれっぽい返しをする。


「……5点で、その、えっと、合計1万1668円で、ございます」


 バイトだろう若い女性店員が顔を真っ赤にしながらそう告げた。

 ……済まぬ、お姉さん。

 

 だがこれはやる方も恥ずかしいのだ。

 ちゃんとお金も払うから、勘弁してくれ。


 俺はチャラそうな彼氏っぽいフリをしつつ会計を済ませた。




□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「――ふぃぃぃぃ。何とか買えたな」


「うん、そうだね、早く帰ろう」


 ミッションを成功させた余韻に浸りながらも。

 できるだけ早く家に帰らないとと足を進める。


 何か状況に変化があれば、残っているラティアが家の固定電話で連絡してくる手はずになっている。

 スマホには今のところ電話がかかってきていないところを見ると、まだそれほど事態が動いているわけではないのだろう。


 歩きながら、レシートを確認する。


『バスローション:1点』『コスプレ衣装:1点 半額』『ニーソックス 縦縞:1点』『ランジェリー:1点』『網タイツ:1点』


 ……何を手に取ってんだ、俺は。


 良く見ないでパッと掴んでしまったとはいえ、これ、どうしよう……。



 そんなことを考えながら、帰宅の途に就いた時だった。




「――あのっ!!」



 後ろから、声を掛けられた。

 ドキッとしながら、俺は振り返る。

 

 もしかして――



「私、こういうものです!!」



 スーツ姿の、男性だった。

 そして名刺を一枚、素早くリヴィルに差し出す。


 それを見て、一瞬頭が硬直するも、直ぐに再稼働し始める。



 何だ、店の人が追いかけて来たとかじゃないんだ。

 


 ちゃんとお金は払っているものの、やはりちょっと後ろめたい気持ちみたいなものもあった。

 なので、そうじゃないと分かり、一先ず安心する。

 

 じゃあ、一体この人は――


『○×○×商事株式会社 アイドル事業部 スカウト 堀田(ほった)峰敏(みねとし)


 チラッと名刺に視線を落とすと、どうやらアイドルのスカウトさんらしい。

 そしてそれは、リヴィルに対して行われているようだった。

 

 この会社名は俺も聞いたことがあった。

 ただ、アイドル事業をやってるというのは初耳だったが。

 

 でも、アイドルのスカウトか。 


 ……もしかしたら、こういうこともあるかもしれないとは思っていたが、まさかそれが現実になるとは。



「……行こう」


 リヴィルはそれに見向きもせず、俺を促して歩き出した。

 えっ、いいの?


 まあリヴィルがいいならいいけど……。


「あっ、待ってください!! あの、えっと、自分! 今話題の“探索士アイドル”の企画にも一枚噛んでて!!」


 リヴィルの態度を見て慌ててそう口にする、未だ若手感がある30代くらいの男性。

 それでもリヴィルは特に関心を示すことはなく、グングンと歩いていく。

 俺も一応急ぎの理由があるため、ちょっと悪いとは思いつつリヴィルと同様に気にしないようにした。


 

「えっと! それに! あの2番目の攻略者になった男子高校生二人も“探索士アイドル”にする企画、任されてるんだ! ああ、勿論他の会社と合同だけど、でも!!」



 男性スカウトは、尋ねてもいないことをどんどん話しながら追いすがろうとする。 


「俺は! 自分は!! 君なら、貴方なら、探索士アイドルの――いや、アイドル全部ひっくるめても! トップに立てる才能が! あると思う!」


 おお……。

 そこまでリヴィルを評価してくれるとは。


 未だにそもそもこの人が本物のスカウトなのかとか、流石にちょっとしつこいなとか。

 色々と思う所はあるものの。


 リヴィルのことをそこまで言ってもらえるのは、素直に嬉しい。


「あの、少しだけでもいいので! 5分いや、3分でもいい! 話だけでも聞いてもらえないかな!?」


 ……ただ、多分、タイミングが悪い。

 ちょっとどころではなく、物凄く。


 

 今も俺とリヴィルは、帰りを待つラティアや。

 息を潜めて機会を窺っているだろう織部とサラ。

 

 彼女らのために早く帰りたいのだ。



 その場面で話しかけられても、流石に――



「――ねえ、アンタさ」


 

 リヴィルが、とうとう振り返って口を開いた。

 そのことに、一瞬男性が笑顔になる。

 話を聞いてもらえる、関心を持ってもらえた――そう思ったのだろうか。


 しかし、リヴィルは、俺と一番初めに会った時くらいに冷たい雰囲気を全身に纏わせていた。 

“アンタを殺すかもしれない”的なことを言われた、あの時くらいにブルっとする冷気だ。




「しつこい。私、時間ないの」


 

 

 端的にそう言ってのけたリヴィルに、男性は一瞬怯えたように固まる。

 だが、何とか再び動き出し、リヴィルのことを引き留めようとした。


「い、いや! うん、だからほんのちょっと! 1分、1分だけでいい! 俺の想いを、聞いてほしいんだ! 絶対君ならアイドルの世界で輝ける!」


 ……その心意気は凄いとは思う。

 それだけリヴィルのことを買ってくれてるのかもしれない。


 しかし――えっ!?


 リッ、リヴィルさん!?


 急に俺の体にしな垂れかかったかと思うと。

 恰も俺が抱きしめたと見えるように、自分の体を上手く動かす。

 

 そして更に、巧妙に自分の左腕を使って、俺の右腕をとり、腰へと回した。



「そ。でも興味ないから。私が関心あるのは――」



 相手からは見えない位置で、リヴィルが左手を動かす。

 俺の右手が、まるでリヴィルを舐めまわすかのように腰から下へと移動させられた。


 お、おい!?


 黒のホットパンツ越しから、リヴィルの引き締まったお尻の感触を確かめることに。

 かと思うと、今度はそのホットパンツと黒いニーソックスとの境界線となっている太腿を、執拗に撫でさせられた。

 

 ひっ、ひぃぃ!?

 逆セクハラや!!



「んっ――この人との、これからの淫らな生活だけ」


 リヴィルの意図は分かる。

 あえて色っぽい仕草を、声をして見せて、振り払おうというのだろう。


 それは理解できるんだが……。






 ……これ、確実にラティアに影響されとる!



 

  

 いや、良いんだよ?

 悪いことではないんだ。



 でも、でもなぁぁ。


 

 リヴィルがこんなにいやらしいことへの知識を得ていたなんて。

 クソッ、ラティアめ、油断ならない!!

 滅茶苦茶今のでムラムラしたぞ!!


 

「…………」 



 俺たちのその一連のやり取りを見ていた男性は、今度こそ完全に固まってしまった。

 自分の見つけた一等強い輝きを放つ光が、闇に包まれてしまったかのように。


 

 リヴィルはそれを確認して、止めた足を動かした。

 もう家に戻るまで、それが止まることはない。  




 ……いや、勿論1回引っかかった信号では止まったけどね。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] ここまで読んでて気になっていた事が2点あります。 1点目は主人公は自分たちの日常生活に必要な買い物、織部さんに頼まれた物を買う代金(女性物の服や下着は高価だと思うのです)、皇さんたちに…
[一言] > 「んっ――この人との、これからの淫らな生活だけ」 ※2歳児です。
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