42.日常の裏で、事態はお構いなく進んでいく。
昨日あんまり進まなかったので、時系列的にちょっとだけ先に進めました。
大体1週間くらい、かな?
まあ読んでいただければどんな感じかは凡そ分かるかと思います。
では、どうぞ。
「……ここ、置いておくぞ」
俺はわざわざ隣町まで行って買い出ししてきた品々を、適当に床に置いた。
一応声はかけたものの、直ぐに誰かが反応することはない。
というのも――
「――違うって、そこは“遅くなって済まない……ダンジョン攻略にちょっと手間取ってな”って立石君がカッコよく登場するところなんだから」
「そうそう!! なのにモンスター役が必要以上に目立ってどうすんのよ!!」
「え!? でも、台本には“凶悪さを強調”って――」
「言い訳すんな!! だから男子は――」
「ねえ、ここの梨愛が“キュンとときめく”ってシーン、相手は木田君でいいの? 立石君じゃなかったっけ?」
「そこは立石君と木田君本人から要望があって――」
「――ああっ!! もう!! これじゃあ間に合うものも間に合わないじゃない!!『文化祭』の合同演劇!!」
織部がいなくなった後、代わりにクラス委員になった女子が、あまりの忙しさに本音を叫ぶ。
――そう、今は文化祭の準備期間なのだ。
だからどこのクラスも練習だったり準備だったりに忙殺されている。
ちなみにうちのクラスは、逆井んとこのクラスと合同で演劇をやることになった。
題目は“ダンジョン探索士の恋愛物語”。
流行に乗っかれば何でもいいのかよとツッコミたくなる。
しかも、だ。
つい昨日ようやく、北九州にあったダンジョンを攻略した逆井達にも主役を割り振っている。
呆れてついていけない部分も勿論あるが。
こうと決めたら一直線みたいな青春パワーは素直に凄いと思う。
俺にはない部分だしな……。
「――あっ、道具買ってきてくれたんだ、ありがとう新海君」
大道具・小道具ともに統括している演劇部の女子が俺に気づき、袋を手に取る。
「うわっ、重っ!! ちょっと男子ぃぃ!! 運ぶの手伝ってぇぇ!!」
大道具担当の運動部男子が呼ばれて近づいてきた。
そして多くの袋を受け取り、そそくさと持ち場に戻っていく。
「ふぅぅぅ。――それにしても新海君、あれ一人で持ってきたの!? 凄いね、普段鍛えたりしてるの?」
えっ、俺の個人的な話なんている?
そういうのやめて欲しい。
単なる世間話・社交辞令の一つだとしても。
この子、もしかして俺に興味があったり――みたいな勘違いしちゃうから。
「まあ……人並みには。――もう、帰っていいか?」
「あっ……ゴメンね、引き留めて。うん、大丈夫。――また明日ね」
一瞬寂し気な表情をしたようにも見えたが、直ぐに笑顔になって胸の前で小さく手を振った。
「……おう」
「――何だ、新海、お前もう帰りか?」
微妙に複雑な心境を抱えながらも廊下を歩いていた時。
丁度背中から声がかかった。
「ウっス。もう自分の役目は終わったんで……先生は?」
皺が目立つシャツのように、くたびれた表情をしている担任の教師。
40代後半で、娘さんが今凄く複雑なお年頃だということを、授業の度にボヤいている。
「俺か? 俺は……良いんだよ、生徒のお前が気にすることじゃない。それよりも――」
露骨に話を逸らされた気がしたが、別に無理して聞き出したいことでもない。
大人には大人の事情があるんだろう。
「お前、体育の新井田先生に聞いたぞ? 体育の授業、手抜いてるんだって? 勘弁してくれ!」
先生は俺の首に腕を回してきて、暑苦しく密着する。
そして本当に嫌なことを話すように声を落とした。
「……何の事っすか? 心当たりがなさ過ぎて」
「おいおい、あの人この学校長いんだぞ、教師内でもかなり幅利かせてる。怒られんの俺なんだからな?」
うわぁぁぁ。
これマジで嫌だからちゃんとしてくれよトーンの奴だ。
先生、あの体育教師苦手なんだな……。
「……手を抜いているつもりはないッス。でも相手がそう思ってるんなら、そうなんでしょうね、相手の中では」
――嘘である! ガンガン手は抜いている!
いや、だってしょうがないじゃん。
ダンジョン攻略とかレベルアップしてたら、普通に身体能力上がってんだもん!!
いきなり何のとりえもないボッチ野郎が体育で凄い活躍し出したらおかしいでしょ?
クッソ、新井田め、俺が担任を若干苦手としていることを利用しやがって。
だが新井田は新井田で、逆に俺のことを何故か苦手としている。
他の生徒にはガンガン叱り飛ばしたりしてるのに、俺に何か言いたいことがあるときは決まって担任のこの人を介する。
良く分からんが、要するに三すくみの関係を利用しやがったのだ。
俺は担任が若干苦手→担任は新井田が苦手→新井田は俺が若干苦手→最初に戻る。
このじゃんけんのような関係を上手く利用された、今回は俺の負けだ。
潔く撤退しよう。
「……今後はできるだけ気を付けます、では。この後用事があって、急いでるんで」
俺が駆け足に話を打ち切ると、先生もそれ以上引き留めることはしなかった。
「……そうか、新海、一度しかない学生期間だ。その、楽しめよ」
そんな俺を気遣う温かな言葉をかけてくるのだ。
……やっぱりこの人はちょっと苦手。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「ただいま……」
家に帰って来た時には、既にもう5時を回っていた。
普段何もない時はもっと早いのに……。
クッ、帰宅部エースとしてあるまじき怠慢。
もっとタイムを縮めないと……。
「お帰り……思ってたより早かったね」
リヴィルが俺の帰宅に気づいて、玄関まで出迎えてくれた。
……バニーガール姿で。
「……ああ、まあできるだけ早く引き上げてきたからな」
俺としては遅い方だと思ったが、リヴィル的には早い方らしい。
ってか、もう家の中でリヴィル達がどんな恰好をしていようと気にしないことにした。
というより、気にし出したら、俺が持たない。
……主にムラムラ面。
「そう……」
「――ラティアは?」
意識しないように、別の話題を出す。
「上。多分もう準備出来てるよ」
リヴィルは俺に背を向け、2階へと視線を向けた。
その際、燕尾部分と綺麗なお尻についたフワフワ尻尾が可愛らしく揺れる。
リヴィルはスタイルもいいし、何より普通とはかけ離れたレベルの容姿をしている。
……カジノとかにいても、普通に目立つだろうな。
「そうか……」
先生に一つ嘘を吐いたが、用事があるということは本当だった。
「リヴィルは大丈夫か? 俺たちが積極的に何かすることはないだろうが」
何たって、実働部分、つまり実際に問題を解決するのは織部達だからな。
「うん、私も大丈夫。マスター帰ってくるまで集中力高めてたし」
自信ありげにそう返してくるリヴィル。
……その首周りにはイヤホンが掛けてあった。
なるほど……。
「音楽か?」
そう聞くと、少しだけ体に力が入って、顔に熱が集まったように見えた。
だが、直ぐ元に戻る。
……もう流石に慣れたか。
「マスターが入れてた曲も聴いてたよ? うん……あれ、結構好きだな、私」
「そうか、それは良かった。俺も、自分の好きな曲がリヴィルに好きになってもらえて嬉しいよ」
ここで、“ウサギ”を始めとした可愛らしい動物関連の話題を出すのはご法度だ。
本人はそのウサギさんの大人な恰好をしているのに理不尽だと思うかもしれないが、仕方ない。
……あれ?
でも、今イヤホン首にかけてるってことは、つい今しがたまで聴いてたってことだよな?
じゃあ……音楽プレーヤーはどこだ?
その際どい衣装に、ポケットなんてないと思うんだが……。
「? ――ああ……んっ」
リヴィルはそう言って、少しだけ恥ずかしそうにしながら、自分の胸元に手を突っ込んだ。
――大きく露出した胸の上部と、それを隠す黒い布地の境界線。
そこから、俺があげたあの音楽プレーヤーが出てきたのだ。
確かに、ちゃんと見てみるとイヤホンの先がそこに伸びていた。
……その金属ボディーがヒヤリとした感触を肌に与えたからか、少し色っぽい声を無意識に上げるおまけ付きで、だが。
「……いや、どこに仕舞ってんだとは思ったが、別にわざわざ出さなくてもいいから」
「そう? マスターに貰ったものだから、ちゃんと持ってることを確認するかと……持つ?」
「……大丈夫」
もしもそれを受け取って、むしろ冷たくなかったら、俺はどういう反応をすればいいんだ。
人肌の温もりを感じたら、夜寝るに寝れなくなるぞ。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「――あっ、ご主人様」
「座ったままで大丈夫だ。ラティア、準備は良いか?」
俺の部屋のベッドに腰かけ待機していたラティアは、興奮した様子で落ち着きなく帰って来た俺を迎えた。
少し呼吸も荒かったように見える。
やはり、この後のことを想像してあまりリラックスできなかったか。
俺が尋ねると、何度かしっかりと深呼吸して見せた。
「……はい、大丈夫です。色々」
「そうか……」
見た所、確かに少し落ち着きを取り戻したように思えた。
これから本番ということで、頭の中での切り替えも済んだようだ。
「……これから、織部達が連絡してくるはずだ」
今日は、以前から相談して決めていた、織部達が依頼を達成しようと動き始める日。
まだ初日だからそこまで気を張る必要はないが、一応3人で待機しておこうということだ。
一日で終わらない可能性も考えると。
日中家で待機し続けることができるラティアが今回、俺たちの中での参謀的位置に収まるのは妥当だと思えた。
最悪学校を休むことも考えたが、それは織部から事前に『本当に最悪の場合だけで結構ですよ?』と言われている。
なので、どういう感じなのか確かめるという意味でも、今日のこの後の通信はある意味重要だともいえる。
とは言っても、実際に戦うのはやはり織部達だ。
俺たちが緊張し続けても疲れるだけだし、適度にリラックスしてやった方がいいだろう。
そうして待つこと大体30分――
――ビビビビッ
「来たっ!!」
俺はすぐさまDD――ダンジョンディスプレイでの通信を繋げる。
正確な通信時間は流石に現場次第だったので分からず、もっと待つこともあると思ってたが――
「俺だ、新海だ! どうだ、そっちの様子は――」
画面に向けてそう声をかけた俺に、一番に返って来たのは、織部の声ではなかった。
『――ブニュゥゥゥゥゥ!!』
「なっ!?」
「モンスターの声!?」
「っ、アイツだ!!」
画面越しでも分かる、物凄い声量。
ビリリと空気を震わすような叫びに、思わず室内に緊張が走る。
そこに――
『――カンナ様、ご無事ですかっ!?』
サラだ!!
エルフ少女の神官服を着た後ろ姿が一瞬だけ映る。
そして彼女は直ぐに画面の外に。
彼女がDDを繋いだのか!
そして、事態全てを把握する前に――
『ダメェェェェ、新海君っ、見ないでぇぇぇぇ――』
織部の、悲痛なまでの叫び声が、画面の外から飛び込んできた。
とうとうご評価いただいた方が800名を超えましたね!
ブックマークの件数も7400を超えました!
ありがとうございます!
中々モチベーション維持が難しくなってくる時期だと思うので、こうして日々色々な数の堅調な伸びを見ていますと、ホッとします。
ご声援・ご愛読いただけている実感が何よりのモチベーション維持に繋がります。
今後もどうか、ご声援、ご愛読いただけましたら幸いです!




