40.この二人が揃うと……怖いね!
そういえばこの組み合わせはなかったな……というお話です。
物語が急に進みだしてそろそろ息継ぎもしたいところ。
ではどうぞ。
「――フフッ、フフフ……ご主人様、もっと早くお知らせ下さればよかったのに」
ラティアが、今まで見たことないような笑顔を浮かべていた。
表情はとても穏やかなのに、しかし、どこか目が笑ってない。
こんなラティアを見るのは、初めてだった。
原因は、わかる。
わかるのだが……
その原因も――
『――フフッ、フフフ……新海君、もっと早く会わせてくれればよかったのに』
ダンジョンディスプレイの画面の先で、同じような笑みをしていた。
「えーっと……今後俺がいない時のために、だな。ラティアと織部の顔合わせをしておこうと思ったんだが……」
ダンジョンの活動が活発化してきて、俺も忙しくなって来て、いない時もあるかもしれない。
そう思ってのことだったのだが……。
俺はこの重苦しい空気に堪らず、隣にいてくれたリヴィルへと話を振る。
「……今回は、墓穴っぽいね」
……無慈悲な一言が返って来た。
『新海君たら人が悪い。こんな可愛らしい奴隷の女の子を買っていて、私に教えてくれなかったなんて。フフッ、また私をからかったんですか?』
ちょっ、画面越しなのに織部からのプレッシャーが凄いんだけど!?
ひぃっ、ここまで織部が怖いと思ったことはかつてなかったぞ!!
「フフッ、カンナ様、でしたか? 可愛らしいだなんて、私などカンナ様の足元にも及びませんよ。お世辞がお上手でいらっしゃる」
ひぃぇっ!?
く、黒ラティアが降臨してる!!
俺の妄想の世界だけの住人じゃなかったのか!?
織部の言葉に対して適切に返しているのに、クスッと笑う仕草が何故だか怖い!!
『フフッ、ラティアさん、でしたか? そんなに卑下しなくとも。とても女性として魅力的な身体つきをされています。女性の私でもクラクラしてしまう程』
ぅぇっ!?
おっ、織部が鬼部になってる!?
笑ってるのに、笑ってない!!
こわっ、ちょー怖い!!
そんな戦々恐々と震える俺をよそに、二人の笑顔によるお世辞の殴り合いは続いた。
「私が魅力的だなんて滅相もない。以前ご主人様の布団に、ほぼ裸で入り込んだくらいしか、私には誇れる経験はございませんから」
――ミシッ
今、何か変な音しなかった?
だが俺が確認のためにリヴィルへと視線を向けるも、つれない反応しか帰ってこない。
「だから言ったのに。“私やラティア以外あんまり増やし過ぎないでね”って」と言われても何のことか。
『へ、へぇぇ……そうですか』
『……カンナ様、ちょっと動揺してますが』
エルフの少女――サラも向こうで傍観者と化して、事態を静観していた。
……というより、今の織部とラティアの間に割って入ろうとできる奴がいたら見てみたい。
『わっ、私こそ最近一番接した時間が長い異性と言ったら、父でも幼馴染の男子でもなく、新海君、ですからね。中々大きな声では言えませんよ』
――ミシミシッ
ラティア、大丈夫?
血、出てない?
えっ、なんでそんな右手強く握りしめてんの?
……ってか二人とも遠回しに俺のことディスってない?
やっぱり黒ラティアと鬼部なだけあって、普段俺のことそんなに嫌に思ってたのだろうか。
「……はぁぁぁ」
これ、リヴィルさんや。
何だね、その溜息は。
『……はぁぁぁ』
サラさん、君もか。
もう少し俺に温かい対応を希望します。
「クッ……ちょっと待っててください――」
物凄く悔しそうな表情をしたラティアが、いきなりパッと立ち上がり、部屋を出ていく。
そこで何故かドヤ顔をしている織部。
……何でこの二人こんなに張り合ってんの?
本当に良く分からず首を傾げていると、しばらくして、ラティアが戻って来た――って、え!?
『なっ、なっ、何ですか!? そのはっ、はっ、ハレンチな恰好はぁぁぁ!?』
ラティアは、着替えてきた。
――サキュバスの衣装に、だ。
「――フッ、フフフッ……丁度。本当に丁度家事をしようかな、と思っていたところで――」
そうしてまるでその衣装を織部に見せびらかすように、クルッと一回転して見せる。
「特に意味は、ないんですけどね。ですが、仕方ありません。“いつも”家事をする際は、この恰好をするものですから、仕方なく、着替えました」
立ち止まった折り、急制動のために。
堪らずプルンプルンとその胸が上下左右へと不規則に揺れる。
……エロい。
『“いつも”その格好で!? それに、な、なんという……大きさ――クッ!! ちょっと待っててください、いいですか、逃げないでくださいよ!?』
ラティアの巨乳がなせる技を目の当たりにして衝撃を受ける織部。
そしてそんなセリフを吐きながら、ラティアと同じように画面から一旦フェードアウト。
……何だか嫌な予感しかしない。
だって画面の先で“へ~んしん!! ――ブレイブ、メタモル――!!”……何か聞き覚えのある掛け声が聞こえるんだもん。
そしてまたしばらくして――
「勇者なのに……生地の面積が、こんなに、小さい、なんて――」
再び現れた織部の恰好に、ラティアが驚愕していた。
……いやもう、この状況、訳が分からん。
『――フフッ、フフフフ。あぁぁぁ、丁度。私も丁度ブレイブカンナとして、変身の調子を確かめようとしていたところなんです』
対する織部はサッと宙を縦に一回転――つまり、バク転して見せた。
白い太腿がキュッと締まった動きが直に目に飛び込んでくる。
そしてその際、股間の生地部分の食い込みが強くなった瞬間も映って――
……エロい。
「いっ、一回転しただけで、あんなにいやらしい動きになるなんて!? それにあの肌面積の広さ!! クッ、サキュバスとして屈辱です……」
いやもう、本当、君らは何を競ってるんだか。
案外似た者同士で、気が合うと思うんだけど……。
「……はぁぁぁ」
『……はぁぁぁ』
そしてリヴィルとサラが揃って俺をジトっとした視線で見ていた。
……君らも仲いいね。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
リヴィルがラティアを。
そしてサラが織部を一時宥めて大人しくさせた後。
ようやく今回の話の本題に入ることになった。
『――これをご覧ください』
サラは、そうして一枚の紙を取り出した。
古めかしく、こちらの世界では中々見ない紙質。
そこには、俺が知らない文字がビッシリと書かれている。
にもかかわらず、俺は画面を通して、そこに記されていることを理解できていた。
「えーっと……“カンナ・オリベ、サラ・ディーゼ両名が以下のクエストを受注したことを証する”――なんだ、何かの依頼か?」
「ん……どうやら討伐依頼みたいだね。――ああ、これ、毎年出る、“アレ”の?」
リヴィルも俺と一緒に読み進め、先に全体を把握したらしい。
そして依頼の内容に、何か思い当たる節があるような反応をした。
『はい。今、私達は次の街へと移動中なのですが――』
「……なるほど」
サラが語ったことによると。
次の街まで行くこと自体は1週間かからず可能らしい。
ただ、織部とサラは、次の街で大きなことをしようとしている。
織部やサラが今いる国には、5人の姫がいるという。
その一人が治めているのが、次の街なのだそうだ。
『その方に、ご助力いただければ、カンナ様の旅の目的も達しやすくなるかと』
「つまり……そのお姫様の覚えを良くしたいから、その依頼を受けるんだな?」
『そうです』
織部が頷くと、俺の隣にいたリヴィルがあちらの世界のことを補足してくれた。
「カンナやサラが受けた依頼の討伐対象って、その街周辺を毎年荒らすことで有名なんだよ」
「へぇぇ……その前の街とか、別の所にも討伐依頼がかかるほどにか」
「そ。繁殖力もさることながら、特殊な体質を利用した攻撃が凄く厄介で――」
そこから先を引き継ぐようにして、織部が重苦しく吐き出すように、告げた。
『……毎年死傷者が後を絶たないようです。なら逆に、それを上手く倒せれば、功績も挙げられるかと』
「なるほど……分かった。で、俺たちは何をすればいい?」
この話をしたのも、結局は俺たちの協力が必要だと判断したから。
なら、俺たちはそれを受けて、どうフォローすればいいかを考えるだけだ。
俺の言葉を受けて、織部とサラは安心したように息を吐いた。
『基本的には、いつもと変わらず、お願いする物資を送ってもらうことになるのですが――ラティアさん』
「はい?」
織部がラティアを呼ぶ。
その際、さっきのギスギスしたような感じはない。
……まあ流石に、な。
『ラティアさんには、討伐の際に同時進行で、モンスターの特徴の対策を練って欲しいのです』
「……つまり、今回の依頼遂行時は、“DD”の通信は繋ぎっぱなしか」
『……すいません。時間のかかり具合によっては、DPを大きく消費することになります』
「ああ、いや、別にそれを責めてるわけじゃなくて、えっと……――ラ、ラティア、どうだ?」
話を別の方へと持っていくため、指名された当のラティアに尋ねてみた。
「……なぜ、私なんでしょう? 戦闘面ではリヴィルの方が適切では?」
その疑問に答えたのは、頼んできた相手の二人ではなく、リヴィルだった。
「私は倒すことに特化しちゃってる“導力”があるから。どう倒すかっていう考えるのは……むしろ、ラティアの方が得意だと思う」
リヴィルの言葉に同意するように、サラが頷く。
『今回敵にするモンスターは単に力押しで勝てる相手ではないんです。その点、ラティアさんは、サキュバスで、モンスターに対する造詣も深いかと思いましたので』
……確か、サキュバスはモンスターだったり、異性を魅了して戦闘を有利に運ぶって言ってたな。
そういう面で、サキュバスはモンスターをどうしたらより魅了しやすいかとか、考えないといけない種族だということもできる。
なるほど、そう考えると、確かにラティアは適任かもしれない。
「……分かりました。精一杯、頑張ります!」
しばし悩み、考える時間はあったものの。
力強くラティアは頷いた。
「よし! 俺も勿論協力は惜しまないつもりだ。織部達には次の街にちゃんと行ってもらわないとだしな」
織部がどんどん攻略を進めれば。
それだけ俺が異世界から買えるものの種類も増えるのだ。
そう思っての言葉のつもりだったのに――
『――新海君、もう新たな奴隷の女の子をご所望ですか?』
「え゛っ」
織部に何故か責められるような口調でそう言われた。
更に――
「ご主人様……3人目を買うことになっても、偶に……私とも過ごしていただければ、嬉しいです」
ラティアには、辛そうな感情を何とか押し殺して笑って見せた――そんな表情で言われる。
いやっ、これだとまるで俺が節操ナシに女の子を買い漁るクソ野郎みたいじゃないか!!
「織部も、ラティアも、それは誤解で――」
しかし、俺の弁明虚しく。
二人からの良く分からない精神攻撃はこの後も続くのだった。
……やっぱり君ら、案外仲良いでしょう?
「はぁぁぁ……」
『はぁぁぁ……』
そしてリヴィルとサラもね!!
ちょっと疲れました。
感想の返しは随時行っていきますのでしばしお待ちを。
それと、言っていた、登場人物の纏めの更新版です。
もっと長くなってくると、別途1話としてあげることにします。
<第2回>
【学生関連】
新海陽翔:主人公。高2のボッチ。座右の銘は“人気者には理由があるが、ボッチになるには理由はいらない”。背はやや高め。
織部柑奈:異世界に勇者として召喚される。主人公とは協力関係にある。しばしば自己の恥ずかしい場面を主人公に目撃されており、最近悩み中。
逆井梨愛:織部柑奈と親友関係。未だ見つからない彼女の無事を信じて日常を送る。ただ探索士になったり、アイドルになることが決まったりと目まぐるしい日々を送っており、思い悩む暇も中々ない。
志木花織:月園女学院の高等課程2年。北欧系の祖母を持つクォーターで生徒会長も務めており絶大な人気を誇る。ただ主人公には腹黒い一面も既に知られている。逆井や皇と同じくダンジョン探索士且つアイドル。
皇律氷:志木の後輩にあたる中等課程2年。志木のことを“御姉様”と呼び慕っている。主人公に助けられて、その際の行動を見て、初めて抱く想いが芽生えた。
赤星颯:私立高校の2年。幾つかのスポーツ推薦も来ていた程、短距離走の選手として注目されている。ただ、ダンジョン関連で忙しくなるので、この夏で引退した。かなりサバサバした性格をしている。
桜田知刃矢:高校1年生で、赤星の後輩にあたる。直接の繋がりはなかったが、ダンジョン関連でお互いに知り合いとなる。アイドル志望のために週末夜行バスでわざわざ都内のスタジオに通っていた苦労人。更にバイトもこなして家に殆ど入れていた。
【奴隷関連】
ラティア:主人公の初めての奴隷でサキュバス。当初こそ過去のことがあって痩せ細っていたが、今では体力を戻し、女性として非常に魅力的な容姿に育っている。家事全般を最近はこなす。中でも洗濯は譲れない模様。主人公の衣類は必ずラティアが一緒に洗濯をする。
リヴィル:二人目の奴隷。異世界のある国で、過去の英傑の遺物の欠片を元に作り出されたホムンクルス。ラティアとは別ベクトルの美しさ・魅力に溢れている。“勇者”と対比される“導士”というジョブを保有。感情表現に乏しいが、根は優しく思いやりある少女。
サラ・ディーゼ:エルフで神官のジョブを持つ、織部の1人目の奴隷。他にも購入した奴隷はいるが、彼女以外全員が解放済み。織部とは取引をしており、彼女のために今後も付き従う。リヴィルとは過去の出来事で間接的な繋がりがある。




