403.そういう意図で着てるんじゃないもんね……。
単発で短いですが、とりあえずどうぞ。
「分かった。じゃあ、気をつけてな」
『ダンジョンに入ったら、ウチらだけ連絡がつかないから余計ってことですよね。大丈夫ですよ』
翌日の朝早く。
俺よりも遅くに寝たはずの空木は、画面越しに分かるくらい表情に活力があった。
……まさか徹夜明けテンションではあるまいな。
「……本当に大丈夫か? ちゃんと寝たか?」
『えぇぇ~疑ってるんですか? ウチ信用無いですね。……そんなジト目で見るんだったら、こ、今度からは寝てるかどうか、お兄さんが側で監視することですね』
いやいや、そこまでの不信感は持ってないから。
空木はやる時はやる奴だし、子守みたいなマネをする必要もないだろう。
そう伝えると何故か微妙な表情をされたが……。
空木を司令塔、飯野さん・桜田を前衛とした援軍隊が出発した。
ルオとロトワは何かがあった時のための保険、つまり逆井達の隊におけるラティアと同じ役割だ。
「さっ、次はラティア達に連絡だ」
「もう4階層を攻略し始めてるかな?」
欠伸混じりにリヴィルが言う。
「どうだろうな、もしかしたらまだ起きたばっかりかも」
「……今画面を繋いだら、あっちは着替え中だったりして」
やめろよレイネ、不吉なこと言うのは。
知ってるか?
そういうことを言うとフラグになるから、あんまり口にしちゃだめなんだぞ。
言霊というか、そう言う考えをしていると自分でも何だか嫌な予感がしてきた。
リヴィルに通信を繋ぐ役目を任せ、俺は一度DD―ダンジョンディスプレイの画面外に。
『あっ、リヴィル! おはようございます。丁度リヴィルでよかったかもしれません。ハヤテ様が今お着替えなさっている所でして』
「おはようラティア。……レイネとマスターの直感ドンピシャだね。ハヤテも油断ない伏兵っぷりだ」
いやリヴィルさん、油断してたからジャストタイミングで着替えてたんじゃないの?
“油断ない伏兵っぷり”って何だ。
おそらく画面のどこかに、赤星の着替えている様子が映っているのだろう。
画面外から声をかけ、用件を伝える。
「……ってわけで、空木達も出発したから。合流出来たら改めて連絡くれ」
『はい、かしこまりました。私達も準備が出来次第、攻略にかかります』
伝達事項が他にないかを考えていると、着替えが終わったとの声がかかった。
ひっかけをしてからかってくるメンバーもいないだろうが、念のため恐る恐る画面前へと回り込む。
そこには別の誰かが着替え中だった、ということはなく。
だが代わりにラティアや赤星ではなく、皇さんが元気そうな笑顔で映っていた。
……見るからに寒そうな乳ベルト姿で、だ。
「おはよう皇さん。体調はどう? よく眠れた?」
『陽翔様、おはようございます。バッチリです! 睡眠に適した格好で寝ましたので、ダンジョン内でも変わらずしっかりと休息が取れました』
睡眠に適した格好……。
それはアダルティな下着やネグリジェ的な奴?
……とは勿論聞けないわけで。
皇さんも、少しずつ大人へと成長しているんだな……。
そう意識すると、改めて皇さんの精霊装備姿がとても色っぽくえちぃ恰好に見えてくる。
……ダメだダメだ。
いや、実際凄い露出で、異性の目にはとりわけ毒な見た目ではあるが。
皇さんは別にいやらしい目的で着ているわけじゃないんだ、そう言う目で見たらいけない。
それに露出した格好をそう言う目で見てしまうと、織部助長性に繋がるからな……。
「そっか。……今後、男女の混成パーティーとかも沢山出てくるだろうから、着替えや寝床のことも、考えないとだね」
意識を別に持って行く意味で、話を違う方向へと変える。
皇さんが一瞬どういう意図かと考える間があった。
『……あっ、そうですね! 御姉様が目指す先、多くの人がダンジョン探索に関わることになる未来……。御姉様がいらっしゃらない今こそ、課題もしっかり見つけないと、ですよね!』
あぁ、いや、そこまで深い意味で言ったわけじゃないんだけど。
……まあ話が別の方向に行ってくれたんならいいか。
そうして体調チェックも兼ねて皇さんと話をしていると、あちらにいる全員の準備が整ったらしい。
4階層攻略に向け出発する彼女達を見送ったのだった。
□◆□◆Another View ◆□◆□
「楽ちん楽ちん。言われた進路を進めば良いだけだから、快適な旅ですなぁ」
「ちょっと美桜ちゃん、チハちゃんを差し置いてリーダーをやってるんだから、もっとちゃんとしてよ?」
いわゆる待機組・後発隊がダンジョン内へと入り込んで1時間ほどが経過。
一度もモンスターと遭遇することなく極めてスムーズに進むことが出来ていた。
空木をリーダーとして、年長である飯野美洋がサブリーダーのような役割を担う。
そして保険であるルオ・ロトワを除いて最大戦力と期待されるのは、精霊の装備を見に纏う桜田であった。
「まぁまぁ知刃矢ちゃん。……でも私達、本当に歩いてるだけだね。戦闘もないし、何なら道だって先に教えて貰ってるもんね」
普段はシーク・ラヴ一の胸の大きさだけが取り上げられる飯野。
あるいは全ての栄養が胸に行っており、おバカキャラ筆頭になっていると揶揄われることも多い。
そんな彼女も今回は違う。
年下ばかりのパーティー。
しかも危険が伴うダンジョン探索とあっては表情を引き締め、責任感を一層強めていた。
「そうそう。梨愛ちゃん達やお兄さん達の連携の賜物ですね。ウチらは合流するまで楽させてもらう分、その後働けば良いんですよ」
「むぅぅ……まぁ、そうだけど」
自分が諭されたような形になり、桜田は不満気に唇を尖らせる。
桜田も別に、あえてモンスターと戦って危険を冒したいと思っているわけではない。
むしろ空木や飯野の言っていることを本心から理解していた。
ただ逆井や青年達に教えられた地図情報を元に、何ら苦労なく進むだけで良いという状況に、後ろめたさのようなものを感じていたのだった。
「えぇ~っと……あっ、そうだ! ロトワ、ねぇ、知ってる? ご主人って、ボクがシイナお姉さんになった時が実は一番リアクション良いんだ!」
「なんと!? ルオちゃん、それは本当でありますか!? ロトワてっきり、ラティアちゃんかカオリ殿辺りとばかり……」
周りの空気を気遣っての、ルオの発言だった。
そして想定通り、青年を慕う忠犬ロトワが話に食い付く。
だが食い付いたのは、ロトワだけではなかったようで……。
「えぇ!? 先輩、やっぱり何だかんだ言いつつも大人の女性に惹かれてるんですか!? 年下の後輩系女子は対象外なんですかね!?」
「知刃矢ちゃん、もしくはクールな毒舌系美女が好みなのかも! 私年上だけど、椎名さんみたいに知的じゃないよっ、どうしよう!」
地上・外とは違って、緊張が続くことの方が多いダンジョン内。
ずっと力を入れっぱなしでは体力やメンタルが持たないことを、彼女たちはこれまでの経験で熟知していた。
そして彼女たちが今回歩む道のり。
先行している逆井達が道を切り開き、どう進めばいいかも知らされている分、やはり普段よりも随分と楽が出来ているのだ。
だからこそ抜ける時に肩の力を抜いておくのも仕事の内だと、切り替えて話に花を咲かせるのだった。
「お兄さんのリアクションが大きいのは別に色恋的なあれじゃないと思うけど……ああいや、もういっかそれで」
一瞬、否定しようと口を開いた空木はしかし、考え直す。
――別にいっか、どうせ椎名さん本人は聞いてないし。
……と。
「椎名さんマジ伏兵。脱いだら何気にエロい体してるし。絶対後でお兄さんへの想いに気づいてツンデレになるタイプ。あるいはクーデレでも可」
本人が先程言った通り、逆井達と合流した後は目一杯働くことになるだろう。
それを空木は見据えて、自分も乗っかって、今の段階から士気を上げることを取ったのだった。
空木の気遣いあるその意図をこの場の全員が共有していれば、椎名本人へと伝わることもない。
……共有できていれば、の話であるが。
とにかく。
後発の援軍組は、先遣隊や青年達との連携のおかげで、極めてスムーズに進むことが出来ていたのだった。
□◆□◆Another View End◆□◆□
本当ならもう逆井さんがとある集団の仲間入りを果たしていてもおかしくないのに……。
遅々として進まないなぁ……。
こんな進行具合でも楽しんでいただければ嬉しいです。