402.順調だなぁ……。
お待たせしました。
全然話が進まない……。
ではどうぞ。
「これは、4階層の大まかな地図。で、この点々が大体のモンスターのいる位置で……」
一枚の白い用紙に素早く書き込んだ4階層のマップ。
愛の精霊――パコピーから伝えられた情報を元に、俺が今作ったものだ。
『…………』
それを見せられ、逸見さんは珍しく驚きを隠せ無いという表情。
後ろにいる赤星も驚いてはいるが、もう慣れた様子で苦笑していた。
『今、書き写しますね。あっ、写メも念のため――』
ラティアはそれ以上に落ち着き払っていて、淡々と自分の役割をこなしていく。
……まあ、普段からラティアには精霊の存在を伝えてるからなぁ。
『はぁぁ。……新海君、本当に色んなことが出来るのね。今度お姉さんに、夜のベッドでじっくり色んなこと、教えてくれないかしら?』
とても素敵なお誘いだけれども、これを真に受けてホイホイ頷いてはいけない。
逸見さんは大人気アイドルで、誰もが羨み目を引かれる程の美人な女性だ。
年下の童貞男子を冗談で揶揄っているだけだろう。
『…………』
――なのでラティアさん、背後にどす黒いオーラを感じる笑みはやめてください。
笑顔なのにチョー怖いんですけど。
『パコッ! パコは役に立ったパコ? これで皆、ハッピーに愛のパコパコできるパコ?』
先程ダンジョンの情報をもたらしてくれた時と同じ様に、精霊が画面向こうで愉快に飛び跳ねる。
この恐ろしい空気から意識を逸らすのにナイスタイミングだと思いきや、内容が頷き辛過ぎて逆に笑えるぜ。
精霊と会話している場面を見せることになるという意味とは別に。
“ハッピーに愛のパコパコをできるか?”というヤバい質問に肯定してしまうという意味でも首を縦に振り辛いのだ。
ってか何だよ“愛のパコパコ”って。
俺がこの場面で口にしたら即、ドセクハラ判定食らうワードだぞ。
まあ精霊にそこまでド直球な変態思考があるわけないか。
せいぜい“皆仲良く楽しい時間を送れるか”ぐらいの意味しかないだろう。
「ら、ラティア? そっちはどうだ? あたし達はもう夕飯済ませて後は寝るだけだぜ?」
レイネも精霊の言葉を聞き取れる一人なので、分かりやすいくらいテンパりワザとらしく話題転換していた。
……そうやって過剰反応するから、ムッツリ天使って言われるんだよ。
言ってるのは、俺一人だけれどね!
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『では、私達はここで仮眠をとります。待機組にもそう伝えてください』
時間も時間ということで、ラティア達はここで一先ず長い休息を挟むことに。
赤星や逸見さんも、就寝する準備のため一度DDの画面から離れて行った。
一方でこちらも、リヴィルとレイネは先に寝かせている。
「そか。ゆっくり休んでくれ。椎名さん達にはしっかり連絡しておくから」
4階層目の構造については大まかに把握することが出来た。
これで明日、精神的にもグッと楽に攻略を再開させられるはずだ。
椎名さん達との繋ぎも、直接的には攻略に関わらない俺の役目である。
しっかりとこなすことを約束し、通信を切ろうとすると……。
『――パコォォ~! 何か反応が欲しいパコッ! まだパコの頑張りが足りないパコ?』
精霊が焦ったように割り込んできた。
ああいや、さっきまで逸見さん達がいたから返事し辛かっただけなんだが。
『パコッ、まだまだパコのとっておきのお得情報、あるパコよ! ――“リツヒ”って呼ばれてる子、お着替えの時とってもセクシーでパコパコな下着を履いてたパコッ!』
バカッ、ちょっ、そんな情報別に欲しくなかった!
『それを見た“リア”ってパコい子が、“うわっ、すごっ! 律氷ちゃん、アダルトな下着!!”って驚いてたパコォ!』
だから、いらないから!
ってかさっきから“セクシーでパコパコ”とか“パコい”とか、“パコ”を万能語みたいに使うな!
何となく意味が通じてしまうから余計使用しないで欲しいんだけど!!
「あぁ~分かった分かった。十分だから、うん。ありがとう、レイネも喜んでたぞ」
助けて貰っているのは確かなので無下にできない。
若干声を抑え気味にしつつ、精霊の頑張りを労う。
一瞬ラティアはポカンとしたが、それが自分にではなく、精霊に向けられた言葉だと察し、スルーしてくれる。
『本当パコ? ――パコォォォ~!! これで皆パコパコだパコォォォ~~!!』
そして見るに堪えない激しい前後運動を繰り返すハッスル精霊を、俺もスルーしたのだった。
「はぁぁ……ダンジョンにいないのに、凄い疲れる……」
通信を切り、溜息を一つ。
まだこの後に、椎名さん達への連絡が控えている。
それだけでも疲れるのに、それとは別に余計な情報を知ってしまったが故の気苦労もある。
「皇さん……大人の階段を順調に上ってるなぁ」
そっかぁ……アダルティな下着に着替えて寝るのかぁ。
今回のダンジョン攻略は主に、逆井の成長を実感するものだとばかり思っていたが。
皇さん、最近は成長期らしいし、寝る時の衣類くらいは大人なものがいいのかな?
「……椎名さんに、変に勘ぐられなければ良いけど」
スマホで椎名さんに連絡を入れる。
皇さんの睡眠時の服装事情を俺が知っているとバレれば、一体何を言われるか……。
もっと別のこと、例えばボス戦のことだとか、その先に待つ大精霊のダンジョンのことだとか。
そう言ったことに頭を悩ませたい。
なぜダンジョン攻略のこと以外を心配する羽目になるのか。
そんなドキドキ抱えながら、相手が出るのを待つのであった。
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『もしもし? あっ、お兄さんですか、ウチですウチ、お疲れ様です』
相手の声を聞いてホッとする。
だが同時に、かけた番号と出るはずの相手との食い違いに違和感を覚えた。
「っす。ウチウチ詐欺は程々にな。おばあちゃんが悲しむぞ」
『いや詐欺の実行犯なんてやってませんから。……交代で仮眠取ってるんですよ。で、椎名さんが先でウチは後に。ウチ、夜に強いですから』
あらまあ、“夜に強い”ですって奥さん。
空木の夫になる人は大変ですこと。
……ゴメン。
逸見さんや精霊とのやり取りのせいで、何か変なテンションになってるわ。
「なるほど、それで椎名さんの携帯に空木が出たのか。納得。……じゃあ、とりあえず新しい報告あるから」
『はい、ちょっと待ってくださいね……っと』
今通話に使っているスマホとは別に、事前に準備していたPCでテレビチャットを繋ぐ。
画面に現れた空木は服を重ね着し、その上から毛布を被っている。
「……お前、凄い温かそうな恰好してんのな」
『え? あぁぁ……そりゃダンジョン内と違って外は普通に寒いですから。冬ですもん。――お兄さん、それ、律氷ちゃん達の“あの”恰好をディスってますか?』
見た目完全に痴女な精霊装備ディスってねえよ。
お前、知ってるか、皇さんはなぁ、寝る時はちゃんとアダルティな服に着替えて――
『えっ、どうしました?』
「……いや、何でもない」
っぶねぇぇ……。
危うく口が滑って自爆するところだった。
コイツに弱みを握られたら、どんな無茶振りに使われるかわかったもんじゃない。
そうやって軽く言葉を交わして、お互いに眠気を払ってから報告を始めた。
そのおかげか、あるいは本人の言の通り夜に強いからか、驚くほどスムーズに話は進んだ。
『なるほど……これが4階層の概略図でモンスターの位置はこの点々だと。で、ウチ達は明日起きてから出発で良いんですね?』
「そうそう。本隊の逆井達が5階層入ったくらいに、合流できる感じで想定してる」
空木は飲み込み・頭の回転も速い。
また待機組である自分達がどう行動をするのがベストなのか、客観視して考えることが出来ていた。
先遣隊のリーダーが逸見さんだと聞いたが、後発隊のリーダーは空木が適切なのかもしれない。
『ロトワちゃんとルオちゃんは明日に備えてもうグッスリと眠ってますよ。……グヘヘ、うるさい椎名さんも仮眠中。何かやるなら、今がチャンスですぜお兄さん』
……こういうおふざけがなければ、もっと周りからの評価も得られるだろうに。
「ってか俺はそっちにいないんだから、仮に何かやろうと思っても出来ないだろう」
『フフッ、そうやって冷静にツッコんでくれるお兄さん、嫌いじゃないですよ』
他愛無いやり取りを繰り返しながらも、やるべきことはやって報告を終えた。
そして俺も明日に備え、ベッドに向かうのだった。
ですが、ちょっとずつやる気というか、元気は回復してきました。
季節的なことだったのかもしれないですね。
遅れてきた五月病的な?
とにかく、次回ボス戦突入ですので、何とか話は進みそうです。