401.それは俺にも当てはまることで……。
お待たせしました。
すいません、本当に全くやる気が出ずにダラダラしてしまい……。
お話も殆ど進まずで申し訳ありませんが、ではどうぞ。
『……すいません、しんみりするのは無しですよね。梨愛は梨愛で頑張っている、それで良いんですよ』
織部の切り替えは早かった。
逆井の成長を喜ぶ半面、そこに自分がいないことを寂しがったが、それはほんの少しで。
後はもう憂いの無いサッパリした表情で、逆井の精神的成長を喜んでいた。
「……おう。逆井も成長してるが、織部もいい感じなんじゃないか? 何ていうか、他人の頑張りとか努力を認められる。そう言うのって大事だと思うぞ」
純粋に他意なく褒めたつもりだったのだが、織部は不満そうに唇を尖らせた。
『ぶぅ~。どうせ私は、肉体的成長の伸びしろ皆無な、クソ雑魚胸の持ち主ですよぅ』
『か、カンナ様っ! ニイミ様は、カンナ様を元気づけようと――』
サラが割って入ってくれたのだが、それがいけなかった。
織部は再びフワフワした酔っ払いに似た雰囲気を纏い、サラの背後に回り込む。
そしてガシッとしがみ付くと、その手はサラの豊かな胸に。
『クッ! なんてたわわに実ったお乳! この乳が、新海君を父にしようとするアチチなお乳なんですね! その正体、今ここで露わにしてくれます!!』
ちょっと何言ってるかわかんないです……。
ただ織部自身も多分、自分で何を口にしているかはわかっていないんだろう。
酔っ払いの戯言である。
『あっ、カンナ様っ、何をっ!? ――んっ、あぁっ』
憎むべき仇を決して逃さないと言う様に、サラの胸の上を織部の手が動き回る。
織部の指が食い込むようにして、サラの胸をムニュっと変形させた。
サラの声も色っぽく、表情も羞恥やら何やらで……ゴクリっ。
「あっ、隊長さん!」
「……マスター、ラティアには秘密にしといてあげる」
いやいや、お二人さん、今のは不可抗力ですぜ。
また織部が暴走しだしたなぁ~的な感じで見てたらこうなっちゃったってだけで……あっ、聞いてない。
ちょいぃぃぃ……。
『サラ、動くとひん剥きます。スキルを使うとひん剥きます。声を出してもひん剥きます。……分かったら、ゆっくり目を閉じてください』
『どうあってもひん剥かれるじゃないですか!! ――もうっ、カンナ様なんて知りませんっ!』
怒ったサラが織部を上手く振り払い、画面外へ。
織部は言葉通りに、声を出したサラをひん剥く……ことはせず。
逃げていくサラを、やはりちょっと酔ったようなトロンとした目で見ていたい。
画面上で一人になった織部は、サラが走って行った方を見やりながらつぶやく。
『私が危険なダンジョンに挑み続ける限り、サラをずっと付き合わせることに、なるんですよね』
「まぁ、なぁ……」
それは俺たちに聞かせることを意図したというよりも、自分自身に対する問いのように感じた。
だがその問いは同時に、俺も同じ壁にぶつかることを意味する。
俺がダンジョン攻略に関わり続ける限り、ラティア達をずっとリスクの存在する場所に連れていくことに――
「――マスター。私、どこまでも、いつまでも。マスターと一緒にいるからね?」
「あたしもだぜ、隊長さん。……あぁ~あ、これこそラティアが聞いたら激おこ案件じゃねぇか?」
俺が何かを口にする前に、その思考は二人の宣言に遮られてしまった。
ラティアが聞いたら……って、まだ何も言ってないんですけど。
『……フフッ。サラも、もしかしたら同じようなことを思ってくれているのかもしれませんね』
おい、織部、何勝手に良い感じで締めようとしてんだよ。
お前がセンチメンタルな雰囲気出したから付き合ったってのに。
『新海君、厚手がましいようで申し訳ありません。サラとの仲直りも兼ねて、プレゼントを贈ろうと思ってるんです。クリスマスの時期でもありますしね』
何を言いたいのかわかって、それ以上さっきのことに拘るのもバカらしくなった。
「……はぁぁ。わかったわかった。欲しい物のリスト、またメッセージで送っといてくれ。出来るだけ早く揃えるから」
『わぁぁ! ありがとうございます! いつもいつも、ワガママばかりで、すいません。……あの、こんなことくらいでしか、今はお礼できませんが――』
ブツッ、と通信が切れる音。
織部が変身するポーズに入った時点で、DDの連絡を終了したのだ。
「あれあれぇ~、おかしいなぁ~。変なところ押しちゃったのかなぁ~?」
「……マスター、絶妙なタイミングで切るね」
「清々しいまでの棒読みだな隊長さん……」
……あのねぇ、君たちがいる前で織部の変身シーン見せられるって、俺に得る物ないから。
むしろそれで織部の肌や下着を見て何か反応でもしてみろ、二人から軽蔑の眼差しを向けられる未来しか見えないわ。
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その後、抗議の文面も添えた織部のメッセージが送られてきた。
やはり若干正常な思考をしていないのか、所々誤字も見受けられ。
そして贈り物の候補が箇条書きされていたのだが……。
「……織部め、この機に乗じて、自分の欲しい物も混ぜてないか?」
確かにリストの中には慎ましやかながら、女の子が喜ぶだろう衣類やケーキなどが書かれていた。
だがその他にも“女性が縛られている絵があるエッチなマンガ”まで挙げられているのだ。
サプライズのプレゼントだから本人にそれが欲しいかどうか、俺たちが実際に確認しないと踏んでの大胆な策である。
「……まあ良いけどさ」
織部の分かりやすいカモフラは見て見ぬフリをしつつ、またしばらく待って……。
「ふあぁぁ……もう夜だねぇ。ラティア達、まだ頑張るんだよね?」
「だなぁ。でも今日明日じゃないと皆が纏まって時間とれないらしいし、一気に行くつもりだろう」
雑談交じりに時間を潰して、ラティアや逆井達の心配をする。
何も連絡がないと言うことは即ち、それだけ順調に行っている証拠でもあるわけで。
便りの無いのは良い便りだと、まあそんな感じで楽に待っていたら――
「――っ! 来たぞっ!!」
DDに連絡が入る。
今度こそ、逆井達からだ。
織部とは空いた時間を使って連絡を取ったため、余程のことでもない限りは逆井達との連絡に集中できる。
そう言う環境を事前に作ったこともあり、落ち着いて出ることが出来た。
『――あっ、ご主人様。お疲れ様です、今よろしいでしょうか?』
画面に出たのはラティアだった。
ただその後ろには逸見さん、そして赤星が見える。
「っす、お疲れ様。こっちは大丈夫だ。何かあったか?」
『いえ、何か緊急事態が起きた、というわけではないです。今の所大きな障害はなく、順調に進んでおります』
どうやら経過報告だったようだ。
「そうか……それはよかった」
『はい。一度だけ、これは流石にモンスターが集まり過ぎていると感じた場面がありましたので魔法を使用しましたが、それもあくまで念のため、ということで……』
報告によると、想定外の事象もほぼ起きておらず。
突発的な戦闘があったとしてもラティアが介入するまでもなく、逆井達で上手く対処できているということだった。
「流石だね。ハヤテ達、十分強いから、ボス戦までは問題なく行けそうだね」
『ふふっ、ありがとう。ふぅぅ……でも新海君たちがいないと、やっぱり色々大変だね。新海君たちのありがたみが改めてよくわかったよ』
赤星は笑顔を絶やさないものの、流石にその表情には少し疲労の色が見えた。
シルフの装備をしていてモンスターと互角以上に渡り合える戦闘力があっても、そこはやはり避けられないのだろう。
「ここら辺でいつもなら“伏兵だぁー!”ってリツヒやリアが突っかかってくる頃だと思うんだが……」
こぉ~ら、レイネ、変な所を気にしないの。
『? あぁ~律氷ちゃん達は今休憩中よ。飛鳥ちゃんはお着替えもしていると思うけど……』
逸見さんが気を利かせて、そう答えてくれる。
ほらっ、知らなくていいことだって。
特に俺は。
「そうですか。上手く行っているようならそれに越したことはないっす。――で、ラティア。“アレ”の件だけど……」
具体的に何を指しているのかは告げず、曖昧なボカした言い方をする。
だがこれで、ラティアには通じた。
『えぇ~っと……私も“それ”は見えませんので、具体的なことは何とも――』
「――あっ、隊長さん」
レイネが、画面内に入って来た“それ”に気付いた。
レイネ以外――それこそリヴィルや、あちら側にいるラティア、それに赤星や逸見さんも認識できていない“それ”に。
『――パコォォォォ! お待たせしたパコッ! この階層の構造・モンスターの居場所、全て把握できたパコよ!』
感想返しもまた少しずつだけど溜まり始めてるんですよね、はい、分かってます……。
感想返しは何とか明日には頑張ります。
更新も、もう少し気合いが入ればいいんですがねぇ……。