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400.何、二重人格なの?

お待たせしました。


また視点が元に戻ってます。


ではどうぞ。





「ハヤテ達、大丈夫そうだね」


「ああ。むしろチハヤ達の方が心配。ミオなんて退屈過ぎてグダァってなってたからな」



 先ほどあった通信・電話について話し合いながら、夕飯の準備を進める。


 幸い、俺達が慌てないといけない展開にはなっていないようなので、落ち着いて食事にすることが出来た。


 

「ラティアが魔法を使う場面もなかったらしいしな。逆井達、普通に優秀だよ」



 流石は第一線で一番活躍しているダンジョン探索士なだけはある。

 赤星と皇さんには“精霊装備”というプラスαがあるとはいえ、だ。



「うん。――あっ、レイネ、お味噌汁、火つけて。ご飯は私が準備するから」


「オッケー」



 家にいるメンバーだけで、分担しながら夕食の準備をこなしていく。

 手は止めないで、しかし、頭ではダンジョンのことについて考え続けていた。


 

 今回は精神的支柱であった志木には頼れない。

 そればかりでなく、“ボス戦がこの先あるかもしれない”と思うだけで、精神的な負担や緊張感がグッと増す。

   

 そのような、いつもとは違う条件下でも変わらずやれている。

 逸見さんがリーダー役を上手く勤めていることも、その大きな要因となっているんだと思う。


 流石は年長組。

 中高生組とは年季が違うという奴か。



「隊長さん、何か変なこと考えてないか? ……あたしは後で何かあっても知らないぞ?」



 豚肉と一緒にキャベツやもやしを炒めていると、レイネが横からジト目を向けてきているのに気付いた。

 いや、別に逸見さんのことイジってるとかじゃないって、本当本当。



「……ははっ、何のことだか」


「ジー……」

 


 ちょっ、近い近い良い匂い綺麗可愛い!!

 ……レイネさん、そもそも君のことじゃないんだから、うん。


 ……ああいや、その言い方だとじゃあ逸見さんはイジッてたのかってなるな。


 

「……レイネ、火、ちゃんと見ててよ? マスターも野菜、焦がさないでね」  


「わぁってるよ! ったく、隊長さんが……」

   


 リヴィルの助け舟?もあり、それ以上の追及は免れた。

 助かったというアイコンタクトを送ると、リヴィルは無言でほほ笑む。



「……フフッ」



 ……えっ、何ですかその“何かお礼が欲しいなぁ~”みたいな微笑は。


 今日はラティアがいないからって、小悪魔チックな役割りを代替しないでいいんですよ?



「……でもやっぱりマスター、何か変なこと考えて――」


「――よーし! 今日は特別に、俺のおかずを分けてやろう!」



 蒸し返そうとして脅すとは、リヴィル卑怯なり!

 育ち盛りの男子からおかずを譲渡させることが、どれ程の極悪非道な行いか自覚すべきである!

  


「た、隊長さんの“おかず”!?」


「いや、レイネ、流石にこの文脈でその驚きはないんじゃない? ……やっぱりムッツリなのかな?」



 3人だけの我が家の食卓は、その分の寂しさを紛らわす様に、レイネのムッツリイジりで盛り上がったのだった。 



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆   



「……ん? あれ、連絡が来た」


 

 3人で準備した夕飯を食べ終えた頃だった。 

 DD――ダンジョンディスプレイからの音を認識し、リビングに一瞬緊張が走る。



 何かあったのかと思ったが、通信ではなかった。

 メッセージで、緊急性がないものと分かり、力を抜く。


 

「……あっ、逆井達じゃなかった」



 今日明日と、完全に逆井達とのやり取りを想定して待機していたので、その頭になっていたが。



『新海君、大変言い出し辛い内容で申し訳ないんですが……“血”を、送っていただくことは可能でしょうか?』


「……織部からだった。“血”だってよ」



 立ち上がり、シンクの上にある棚を開け、空のペットボトルを手に取る。


 

「あ~」


「そっか……」



 リヴィルもレイネもそれだけで納得したという顔に。

 そして何事も無かったかのように同じく立ち上がり、食器の片づけに入ってくれる。


 俺の分も代わりに洗っておいてくれるのは嬉しいが、その反面、“俺が織部の専属担当”みたいな扱いになってて何だか複雑だ。

“新海は柑奈ちゃん係な!”的な感じだろうか……。

    

 返信すると、すぐに織部からの返事が来る。


 

『ありがとうございます! 血も大切な新海君の体の一部なのに、いつもいつも送ってもらって、オリヴェアさん共々、本当に感謝してます。体の一部をいただいている以上、お返しは私達も体の一部を――』


「…………」

 

 

 いや、ここで等価交換を持ち出さなくてもいいから。


 織部とオリヴェアの血をもらって誰が嬉しいんだよ。

 仮にこっちに送れるとしても、俺、使い道無いから。 


 

 それはともかく。


 まあ“血”を送ってくれと言われた以上、察しは付いていたが、やはりオリヴェア関連だった。


 ……色々と大丈夫だろうか?

 


「ってか、あれか、逆井と通信中にかかって来たら結構面倒になるな」


「それはカンナのこと……じゃないよね?」



 リヴィルさん、幾ら俺でも織部自体をそこまで(わずら)わしくは思ってませんって。


 

「そうじゃなくて……」



 織部と通信中に逆井達から連絡が来たのなら、別にそのまま織部に伝えればいい。

 だが逆の場面、逆井達と通信をしている時に織部から連絡が来たらどうだ?



「あ~確かに。……リアとハヤテ、それにラティア以外はまだ知らせてないんだもんな、“カンナ”のこと」



 そう。

 逆井と赤星、ラティアだけがDDの前で通信をしているのなら、問題ないが。

 

 皇さんや白瀬、それに逸見さんが一緒に側にいたら“あれ? 自分達以外に、誰かDDを持ってる人、他にもいるの?”という展開になる。



「……やっぱり先に、織部の相手をしておくか」



 そのゴチャゴチャへの対策を講じるなら、織部がもう今日明日は連絡の必要性がないくらいに最初から通信をしておくのが手っ取り早い。


 俺は再度、逆井達から今は何も来ていないことを確認。

 そして織部にまずメッセージを送った。


 今丁度、逆井達が行っていること、その意味・趣旨や目的。

 それらを伝えたうえで、織部へと連絡したのだった。 


 

「……何かマスターの言い方だと、やっぱり“カンナ”への面倒臭い感が出ちゃってるように思うんだけど」



 コラッ、リヴィル。

 そんなこと、俺は全然、これっぽっちも思って無いぞ。



 陽翔、織部さん、好きっ!

  


「……隊長さんがまた変なこと考えてる顔してる」



 ……またか、レイネ。

 君のような勘のいい天使は嫌いだよ……。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆  


『こわれりゅぅぅぅーー! りゃめぇぇ、りゃめなのぉぉぉ!! 旦那しゃまの血ぃ、美味(おい)ちちゅぎりゅぅぅぅ!! 舌が、頭がバカになっちゃぅのぉぉぉ!!』


「…………」


「…………」


「ルーネの憧れの上司なんだから、もうちょっと、その、何とかならないのか……」



 俺達の心の内を代弁するように、レイネが何とかオブラートに包みながらそう口にする。


 DDを繋いだ先に見えたのは、ピクピクと痙攣(けいれん)したようにして凄い顔をしたオリヴェアだった。


 

 何も知らず、この場面だけを見せられたのなら、どれだけよかったか。


 オリヴェアの類い(まれ)な美しい容姿。

 トロンとした眼や、半開きになった口から覗くキレイな舌先。


 

 本当、オリヴェアと出会う前まで記憶を消去して、ここだけ見たんだったらムラっと来て、興奮すらしていたかもしれない。


 ……でも、何も知らなかった、何も知らないでいられたあの頃にはもう、戻れない。


 

「あー、織部、えっと、今取り込み中か?」

 


 何かゲームの壮大なキャッチコピーみたいなことを思いつつ、最近更に磨きがかかったスルースキルを発揮。


 

 もうね、俺は息子の部屋にエロ本見つけた母親並みの寛容さよ。


 ……実際シーク・ラヴのメンバーからは、包容力あるオカン的な感じで見られてる説もあるしね。



『あっ、新海君! えへへ……こんばんは! 今日も月が綺麗(きれい)ですね』


『カンナ様……ここ、ダンジョン内――地下ですけど』 



 声は聞こえど姿は見えず。

 サラにツッコまれ、若干機嫌を害したような織部の抗議が入る。



『ぶー。サラ、比喩(ひゆ)なんですから、実際に月が見えてるかどうかは問題じゃないんです! 全く、これだから胸有族(むねありぞく)は……』 


 

 仮に比喩だとして、使い方あってるか、それ……?



『いや、私、エルフ族ですから。何ですか“胸有族”って……』



 カチャっとDDを置く音がしたと思うと、二人の姿が画面に映った。

 織部もサラも、地べたでビクンビクン言ってるオリヴェアはスルーしての登場だ。



 ……あっちもあっちで、オリヴェアの扱いは似たような感じなんだな。



「レイネ、ドンマイ」


「ああ、いや、まあルーネ曰く“日頃はとても尊敬できる素晴らしいお方”らしいから、うん……」



 リヴィルの(なぐさ)めに、レイネも虚しい笑みを浮かべながら答えていた。  


 ……大丈夫、反面教師にして、その分妹さんは立派に育つから。



 俺も何の慰めか分からないような言葉を心で呟きながら、現れた織部と向かい合う。



「……ってか、織部、お前、酔ってないか? 酒飲んでる?」


 

 顔が赤らんでるし、何やらいつになくテンションも高い。

 呂律(ろれつ)も若干怪しいし……。

 


『はぃ? お酒? ハハッ、新海君、私まだ未成年ですよ、飲むわけないじゃないですか。異世界に来たからって、そんなはっちゃけませんって!』



 コイツ、今までの自分の行動振り返って同じこと言えんのかよ。

 異世界に来てはっちゃけてる奴の筆頭だろうが。


 織部って二重人格者なの?


 ……ったく、自分の胸に手を当てて、よーく過去を振り返って――あっ。


 

『……何かぁ、失礼なことを考えませんでしたぁ? ――まあいいですよぉ。今日は無礼講です。梨愛の成長を祝す意味もありますから、見逃してあげますよ』



 ホッ。



『……申し訳ありません、ニイミ様。カンナ様、おっしゃるようにお酒は飲まれてないんですが、ポーションをがぶ飲みされていて……』



 サラがすまなそうに言ってくる。

 がぶ飲みって、自販機によく売ってるジュースじゃあるまいし。


 

「ポーションの飲みすぎで酔うってのはあんまり聞かないけど……いないってことはないね」



 リヴィルの話を聞き、一先ず納得する。

 ……まあリヴィル自身が柑橘系で酔っぱらうという謎体質持ちの代表みたいなもんだしな。


 そういうこともある程度にとどめておいた。



「――で、だな。織部が自分で言った様に、丁度今も逆井達がダンジョンに挑戦中なんだ。しかも大精霊絡みの」


 

 話を切り替えると、流石にスッと表情が普通に戻る。 



『ですか。……梨愛も、私が見ていない所で、成長してるんですね』



 織部は視線を何もない宙に投げる。

 そして感慨深そうに、それでいて寂しさをも交えながらそう呟いたのだった。      

……想定した分より全然進まない。


織部さんが入ると、指はスラスラ動くんですけど、その分話が全然進まない……(白目)



お話換算でとうとう400話、また書籍発売から1か月と色々と節目になりうる日なだけに、もうちょっと進めたかったんですが、すいません。


何とか明日・明後日にもう一話、そして登場人物のまとめでも頑張ろうかなと考えてます。

……その予定、ですので、あんまり期待せずにお待ちください。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「た、隊長さんの“おかず”!?」  ベッドの下に仕込まれてるヤツ! スルーし続けると机の上に重ねて置かれる模様。 >「いや、レイネ、流石にこの文脈でその驚きはないんじゃない? ……やっぱ…
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