399.大丈夫!? 寒くない!?
お待たせしました……。
この一話丸々、第三者視点となります。
主人公は間接的にしか出てきません、ご注意ください。
ではどうぞ。
□◆□◆Another View ◆□◆□
「じゃっ、先行するから。梨愛、白瀬さん。後ろよろしく」
「んっ。ハヤちゃん、気を付けてね!」
「一番危険なのは赤星さんだから。私達以上に、慎重にね」
逆井、白瀬とうなずき合い、赤星が一人、隊列から離れる。
これから進むダンジョンで、偵察の役割を担うためだ。
ラティアが同行しているものの、パーティーの構成は基本的にはシーク・ラヴメンバーで固められている。
斥候は、運動能力が一番高く、足も速い彼女がいつもやっていることだった。
メンバーは基本的にその技術を信頼しているが、ただ今日ばかりは念を入れて安全第一を強調したのだ。
「やはりボス戦、でしょうか?」
「うーん……かもしれないわねぇ~」
赤星を先頭に、距離をおいて白瀬と逆井が並んだ三角形を、隊の中の一つのグループとすると。
その後ろを歩くもう一つのグループは逆に、皇と逸見が横に並び、逆三角形の頂点をラティアが勤めていた。
「ラティア様、今回の様な経験はおありなのでしょうか?」
「……残念ながら、ありません」
最後尾を務めるラティアはそう答えてから、皇と逸見が欲している話しの先を続けた。
「確たることは言えませんが、リア様のおっしゃることを前提とする限りは、守護者――ボスが待ち受けていると考えておいた方がいいでしょう」
「そう……」
ラティアの言葉を受け、逸見が深く思考するような表情をする。
普段青年から脳内でイジられる的にはなっているが、このパーティーの中で一番の年長者だ。
いつもは志木が務めるリーダー的な役割りを、今回は自分が担うべきだと考えていた。
赤星が今前方の安全を確かめてくれている間も、その時間を無駄には出来ない。
そのため、普段は中々見せない真剣な表情を作り、この後のことを様々にシミュレーションしていたのだ。
「あの、六花様?」
皇がそれに気づき、呼びかける。
逸見が率先してリーダーを担ってくれようとしてるのを感じ、一瞬交代を願い出ようかどうかと迷ったのだった。
「フフッ、今日は私がやるから。律氷ちゃんは後衛――しかも代わりのいない魔法係、でしょう? そっちに集中して。ね?」
受験組――特に志木がいなくてもダンジョンをしっかりと攻略してみせる。
皇はその趣旨から、妹分である自分が頑張らなくてはと気を張っていた。
しかし逸見は、皇のそこから生まれた躊躇いすらも素早く感じ取ったのだった。
そこに、人の上に立って威張りたい・他者へとあれこれ指示したいなどという俗な気持ち・考えはない。
隊・パーティーがどう動き、どう戦うかを判断する役割というのは責任重大であり、それだけでとても疲労する役目である。
「……はい、よろしくお願いします」
「ええ、よろしくお願いされました。フフッ」
今回、ラティアはあくまで彼女たちが本当に危ない時の切り札・保険のような立ち位置で参加している。
つまり戦闘になった時、魔法を扱える皇の役割はそれだけに重要なのだ。
一気に戦況をひっくり返せる可能性がある、それを分かっているため、そちらに専念してほしいとの逸見の気遣いがあったのだった。
「…………」
――お互いのことを思い合った、とても良いチームワークですね。
戦闘がまだ始まってすらいないにもかかわらず、ラティアはそれを敏感に察することが出来た。
シーク・ラヴ、そのグループ内でもいわゆる志木派や白瀬派などと呼ばれる派閥が概念としては存在していた。
ただ、シーク・ラヴ全体を引っ張って来た志木。
そしてグループ全員のお目付け役として厳しい一面を持ちながらも、その真面目さ・愚直さ故に愛される立花がいない今回。
ボス戦もありうるという特殊事情も相まって、派閥・仲良しチームなどは関係なく、よりメンバー間での結束を強めていた。
「――お待たせ。この先50mくらい先、モンスター、3体。別の道は今の所見つからないから、戦闘は避けられないと思う。……皆、準備して」
戻って来た赤星の報告を聞いて、全員が今一度、気を引き締める。
受験組がいない中、最初のモンスターとの衝突だ。
この戦闘の出来・不出来で、この後の探索の行方が占われる。
「よし、じゃあ行こっか――六花さん、指示お願い!」
「ええ。いつも通りで行けば大丈夫――さあ、行きましょう」
それを念頭に置き、しかし彼女たちは過度の緊張はしない。
意識的に肩の力を抜いてリラックスする。
逸見の言う通り、いつもの実力を発揮すれば問題ない。
そう信じ、赤星が発見してくれたモンスターへと先制すべく、逆井達は駆け出したのだった。
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「――しかしその後、梨愛ちゃん達の行方を知る者は誰もいなかったのだった」
「えっ、ミオちゃん、さっきお館様が“無事だ”っておっしゃってましたけど……」
「……美桜様。あまり不謹慎なネタが続くようでしたら、その口を塞ぐ協力をいたしましょうか?」
場所は変わって、ダンジョン入り口前。
廃れた工場跡内には、簡易の拠点のようなものが築かれていた。
冬の真っただ中、日が暮れてきて寒さも余計に厳しくなる。
赤外線ヒーターのコードは、乗り入れられている車内にまで伸びている。
「ヒィッ!? い、いやいや、冗談ですって、冗談! 思った以上にウチが働かなくてよかったからもう暇で暇で!!」
その赤い光に手をかざしていた空木は背筋がヒヤッとしたのを感じ、慌てて取り繕った。
「……はぁぁ。待機することも仕事の内ですよ。何なら仮眠でもとって休んでくださっても結構ですから」
「は、はぁ~い」
追及の眼差しが途切れたのを察し、空木はほぅと息を吐く。
「……ミオちゃん、シイナ殿を怒らせたらダメでありますよ? ロトワ内最強ランキング1位のお館様ですら恐れられるお方ですから」
「だねぇ~。椎名さんはウチとお兄さんには特に厳しいから……椎名さん、ボッチを目の敵にしてる説あるよね。同族嫌悪?」
空木が適当なことを言うのに合わせ、ロトワがまた慌てたように周囲を気にする。
椎名に聞かれてはまずいことだという認識は、ロトワにもあるらしかった……。
「そ、それはそうと! 流石でありますね、リア殿! ハヤテ殿もまた素晴らしいご活躍とのこと、お館様も褒めていらっしゃいました!」
「あ~まぁ颯ちゃんと梨愛ちゃんがいるだけでも戦力過剰気味だし、ボス戦以外は問題ないでしょう」
話を変える意味でロトワが提示した話題に、空木はあまり関心なさそうに答える。
「颯ちゃんも律氷ちゃんも、肌面積の多いドスケベな恰好をすればするほど強くなるとかいうスーパーサイ裸人だから。ウチなんかが心配するだけ無駄だよ」
「す、すーぱー? ――えと、ロトワ、難しいことはよくわからないでありますが……み、ミオちゃんの心配は大事だと思うでありますよ! あ、諦めないで!」
ロトワも自分で何を言っているのか、何に対する励ましなのか分からないまま、空木へと言葉をかけている。
空木は空木で、考え事自体が疲れるかのように長く重い息を吐くのだった。
「はぁぁ……。で、今回は梨愛ちゃんがその仲間入りの可能性があるんでしょう? ……強さのインフレは上限がないからまだいいけど、肌面積のインフレは……行きつくところはもう裸しかないと思うんだけどな、ウチ」
空木の目は深く濁っていた。
何だかじわりじわりと、“裸”を重要概念・教義とでもする謎の存在か何かに接近されているような、そんなヤバい感覚に襲われたためだ。
思考放棄して目を濁らせたくもなる……。
「あっ! ミオお姉さん! ロトワに変なこと教えてない!? ダメだよ、後でご主人に怒られるのボクなんだから!」
一時、二人とは離れていたルオが、空木達の下へと戻って来た。
ロトワに聞いてもらっていたのは愚痴とも言えない適当な話だったので、誤解だと訴えていると……。
「あっ、美桜ちゃん! 椎名さんが、美洋さんと温かい飲み物用意してくれるそうですよ!」
その後ろからもう一人、一緒に自分達へと近づいてきていた。
――あっ、ドエロい恰好したドエロ戦士の一員だ。
「? ……あっ、ヒーターだけで大丈夫ですか? 毛布もあるって美洋さん言ってましたけど。飲み物は希望がなければホットココアかミルクティーだって」
――いや、マイクロビキニにその踊り子みたいなヒラヒラした布しかない知刃矢ちゃんこそ寒くないの!?
危うく口に出しそうになったところを、空木は何とか踏みとどまった。
――ウチにエロい気持ちよりも寒さの心配させるとか大したもんだよ! ってか知刃矢ちゃんもそうだけど、特に律氷ちゃん、あれ寒くないの!? 乳ベルト!!
見てたこっちが寒くなるレベルだったよ!!
それが精霊から贈られた凄い装備だとは言え、最早誰もツッコまなくなってしまっている赤星達の過激な恰好。
それにツッコまずにはいられない空木は、しかし、やはり口にすることまでは出来ず。
こうして心の中だけで一人、虚しくツッコみ、理解者を求めるのだった……。
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「ずずっ……はぁぁ、美味しい。ココアはやっぱり森〇。――で、モンスターは……何だっけ? 牛型の奴と、カエル的な奴?」
「後は木のお化けみたいなモンスターが出るって言ってました! リヴィルちゃん、何回か戦ったことあるって!」
空木の確認に、ロトワが補足の情報を付ける。
ちなみにロトワはスティックシュガー3本追加したミルクティーを美味しそうに口にしていた。
「道の方もあえて最短ルート以外も潰してくださっているようですね」
「うん。颯ちゃんが凄く頑張ってるみたい。私達の出番はまだ先そうかな……」
モンスターの情報を確認した後、椎名と飯野の年長組二人がノートPCを使って情報を整理する。
画面に表示されているのは地図作成のために開かれたソフトだ。
そこに、先ほど知らされた情報を出来る限り打ち込み、探索班とは別の、簡易のダンジョンマッピングを行っているのである。
「先輩はDD――ダンジョンディスプレイを使って、梨愛先輩たちとやり取りして。で、その先輩と私達はスマホで連絡を取り合える……上手いこと行くもんですねぇ~」
「ねっ!」
待機班兼、補充要員でもある桜田達は、中にいる逆井達とは直接連絡を取ることはできない。
が、DDを持っている青年とは、同じくDDを持つ逆井が通信を繋いで情報交換が可能だった。
そこでDDを介して逆井達とも、そして地上の通常の連絡手段を用いて桜田達とも通話可能な青年が、インフォメーションセンターの役割を担う。
そうすることにより、様々に柔軟な作戦をとることが可能となるのだった。
「本当は皆で一度にまとまって行ければ、楽でいいと思うんだけど……」
「相手はダンジョンですからね……できるんなら、リスクは分散するに越したことはないでしょう」
飯野の呟きに答える形で、空木も考えを述べる。
それは自分がサボりたいから出てきた言い訳……などではなく。
「それに、お兄さんは“これの本領はもっと別の所にある”って言ってましたから。……ウチ達は出来ること――しっかり待機して体力を温存して、その時に備えましょう」
この先のことをちゃんと考えた上で出た言葉であった。
空木も、何だかんだと言ってはいるが、真面目にやる時はやる女の子なのである。
「……ですね。――さて、軽食も後程用意しますので。それまではまた各自で時間を潰してください。新海様から連絡がきた時は即座に集合をお願いします」
椎名がまとめた内容に、他5人がそれぞれ頷いて答える。
戦闘やダンジョン探索という面では一番経験が浅い椎名だが、この中では飯野と並んで一番の年長者だ。
そしておバカキャラ・バラドルとして活躍する飯野と、どちらがまとめ役に相応しいか……それは論を待たなかった。
空木も資質的にはリーダー役を担うことも可能だったが、そこは年の功として椎名に任せているのである。
「……美桜様? 何か、またいらぬことをお考えにでもなりましたか?」
「い゛っ!? いやいや、今は完全に冤罪だから! ウチ、今だけは本当に、神に誓って何も失礼なこと考えてなかったって!!」
…………。
空木は諦め悪く、必死に足掻くのだった。
――ちょいぃぃぃ!? 何か理不尽な仕打ち受けてんだけど!? うわぁぁぁでも日頃の行いぃぃぃ!! 全然信用されないことに納得しちゃう自分ががが。
□◆□◆Another View End◆□◆□
第三者視点も書いておかないとと今回頑張りましたが、たまには気分転換に良いもんですね。
蚊の件についてはご心配頂きありがとうございます。
アースノーマ〇ト先生に稼働頂いてからは、奴らを目にすることもほぼなくなりました。
……置いた部屋以外はガンガン飛んでやがりますけどね(白目)