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39.ほらっ、逆井、だから言っただろう!? こういう奴がいるんだって!!

※このお話に、一度だけ顔文字が出ます。本当に一度だけですし、どういう文脈で使われてるかは読んでいただければわかりますが、嫌な方もいらっしゃるかもしれません。


よっぽど不評であれば修正も考えますが、まあ流石に1回だけだし、大丈夫だと思うんですが……。


『――そそっ。アタシらがダンジョン攻略した過程をビデオで撮ってんの』


『3時間程前にアップロードしたのだけれど……まだ見てなかったかしら?』


「……スマン、これから見るわ」


 急なテレビチャットで、端的に用件を告げられ。


 俺は何が何だか分からないまま、画面越しの逆井と志木に軽く断って、スマホを取り出す。

 圧倒的知名度を誇る動画投稿サイトに行く前に、軽くネットニュースの項目へ。

 

 その“総合”という項目には、1週間前に見た顔があって。

 それの載った記事が、殆どを占めていた。 


『2番目の攻略者 立石(たていし)総悟(そうご) 学校でも人気者』


木田(きだ)(あさひ) 場を和ませる気遣い 明るい性格』


『立石 今後のダンジョン攻略にも意欲』


『2番目攻略の二人 普段から良いコンビ 活躍を誓う』



「……」


 それらの記事の更に上。

 横に“New”という文字が書かれている新しいものに目を移す。


『3番目となる東北ダンジョン攻略過程 動画でアップロード』

 

「これか」


 一応確認のために記事を読み上げると、待ってくれていた二人が画面越しに頷いた。


『その記事自体は多分1時間経ってないかもだけど……』


『ええ。もう再生回数は100万回は行ってると思うわ』


「へ~……」


 俺は促されるままに記事をクリック。

 サッと流し読んでみることに。




『3日前、東北の○×県内ダンジョンが攻略された。世界で3番目となる攻略で更に国内が湧いたことは記憶に新しい。そして本日なんと。この記事が出る2時間程前に、その攻略する過程を撮影した動画が動画投稿サイトにアップロードされたのだ』


 ふ~ん。

 (公に確認されているレベルで)2番目や3番目のダンジョンが攻略されたってことは連日テレビでもやってたから、そこまで驚くことではなかった。

 

 学校もあの後は普通に再開したし。

 俺はむしろその間は大人しくしてたから、情報を集める暇くらいはあったしな。


 

 記事はその後も、溢れたモンスターを何とかするまでに1週間は見積もっていたところを3日で解決し。

 その上問題の根本たるダンジョン攻略までして見せた女子学生探索士たちへの称賛の言葉が続いていた。 

 

 俺はその下にURLが張ってあるのを見つけ、それをクリックして飛ぶ。


 

「……おお、もう300万回になってる」


 それだけ注目度も高かったのだろう。

 再生前にちょっと寄り道して下のコメント欄を見てみると、英語をはじめとした他言語での書き込みも目立つ。


 まあ投稿動画の題自体は“ダンジョン攻略過程 動画”と簡潔なものだが、それでも得られるものもあると沢山の人に見られているのだろう。



 俺は再生ボタンを押す。

 全部で動画は30分とちょっとだった。




 


 最初、真黒な背景画面に動画説明が白い文字で記されている。


“この動画は、世界で3番目となったダンジョン攻略過程を記録した映像となります”

 

 そしてその直ぐ後にこの動画内で登場する人物の紹介がされていた。

 

“撮影者――前半:桜田(さくらだ)知刃矢(ちはや) 後半:逆井(さかい)梨愛(りあ)” 


 

「ん?」


 俺が知らない名前を見つけて首を捻る。


 確か記事にも載ってはいたが、一応確認しとくか。

 一時停止して、俺はスマホから顔を上げた。

 

 それを見ていたPCの画面向こうの二人が解説してくれた。



『“チーちゃん”ね!――あっ、ちなみに“ハヤちゃん”と被るから“チーちゃん”』


 元々の人物を知らないので、逆井の良く分からない渾名を披露されても反応できない。

 ホテルの一室にあるソファーに腰を下ろしている志木へと視線を向けた。


『知刃矢さんは(はやて)さんの学校の後輩なの。探索士で、私達の班と同じになって』


「ああ……なるほど」


 簡潔な解説を聞き、人物関係を更新する。

 再び動画を再生。

 

 登場人物の簡単な説明が挿入されている。

 

“①赤星(あかほし)(はやて):高校2年生 引退したが、陸上短距離界では有名 動画内で一番の長身”



“②逆井(さかい)梨愛(りあ):高校2年生 過去、中高生に人気の雑誌で表紙を飾ったことも 金髪の少女”



“③桜田(さくらだ)知刃矢(ちはや):高校1年生 アイドル志望、今回の探索士アイドルの話で夢が叶う 小悪魔系美少女を目指してます!! ちなみに颯先輩の後輩ですっ、

☆(ゝω・)vキャピ”



“④志木(しき)花織(かおり):高等課程2年 女子高の生徒会長 いわゆるお嬢様 志木グループのご令嬢でもある 赤みがかった髪”



“⑤(すめらぎ)律氷(りつひ):中等課程2年 動画内最年少。④の後輩にあたる 皇グループ社長の一人娘 色素の薄い髪のお人形みたいな綺麗な少女” 





「…………」



 ……これ、誰が編集に絡んでるか一発で分かるな。

 一瞬イラっとした。



 動画説明欄に目をやると、国とか公の機関のアカウントではなく、個人のアカウントとして投稿されていることがわかる。

 

 当然そのことについても、了承は得ているんだろう。


 


 ……というか、こういう投稿は個人でやってもらった方が、国としては都合がいいのかもしれない。


 

 俺は一先ず③へのツッコミを入れるのは置いておき、動画を視聴することにした。




□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



“――あれっ、大丈夫!? もうビデオ回ってますか!?”


“……桜田さん。あなたは今撮る側ではなくて? あなたが気にするところはそこかしら……”


“あっ、ほんとだ、そうでした~!! テヘッ、チハちゃん失敗失敗……”




「…………」



 説明後、直ぐに始まった動画は、そんな会話から始まった。

 画面には、感情を押し殺したように無表情を保つ志木。   


 その志木との会話相手の声は妙に媚びているというか、癇に障るようなしゃべり方をしていた。



 俺はサッと視線をPCの方の逆井へ。



『あ、あはは……新海の言ってたこと、分かった気がする』


 逆井も俺の言いたいことを察してか曖昧な笑みを浮かべた。

 それで俺の思っていることが間違いではないと理解し、一時満足して動画へと戻る。




 その後、撮影者の桜田以外のメンバー――志木、逆井、赤星、そして皇さんが映り、今ダンジョンの中にいるということが語られる。


 隊列は志木と逆井が前を歩き、その後ろに皇さん。

 そして赤星が桜田を守るようにして最後尾にいる。


 なので、今映っているのは皇さんの小さな背中のドアップだった。

 ……そういえば、皇さんや赤星の探索士の制服姿は新鮮だな。


 特に皇さんは、何というか……ちょっといけないものを見ている気がする。

 


“う~ん、私、つい先週に実地研修で入っただけなんで、本物のダンジョンはちょっと怖いです~”

 

“私も、怖いです。――御姉様”


 桜田の言葉に被せるようにして皇さんも同意し、前を進む志木に言葉を掛けた。

 

 その際――


“チッ……何て庇護欲を誘う自然さ!! 本物は違う――”



 ……ビデオに本音、拾われてんぞ。


“大丈夫だよ律氷ちゃん! アタシらが守るからさ!”


 逆井が声を抑えながらも明るくそう答えた。


“ええ。それに手が足りないんだもの、今いる戦力で戦うしかありません”


 志木も頷きながらも、一言付けたした。

 ……なるほど、今は白かおりんなんだな。


 そうして1分程他愛無い会話が続いた。

 警戒を怠らないながらも、程よくリラックスしての話。

 

 意外に皆仲が良いんだな……。




 動画の再生時間が5分頃になった時――




“――皆、モンスターよっ!!”


 志木の声がして、一気にその場に緊張が走ったのが伝わってくる。


“うっ、うひぃっ!!”


 大声を出すことだけは何とか抑えたが、それでも驚きが漏れてしまったというような桜田の声。

 思わず俺も生唾を飲み込んでしまう。



 彼女らの前に現れたのは、カマキリの鎌、そのものを生物としたようなモンスターだった。

 

 うっすらとうっ血しているような色をしている。

 それが他者を刈り取って来たのだということを連想させた。


 その鎌のモンスターが4体。

 

 ジワリとそれらが距離を詰めようとした時、逆井が動いた。


“――ハヤちゃん、律氷ちゃん!!”


 逆井は自分の持っていたカバンを盾にして、果敢に突っ込んでいった。

 一番前にいたモンスターにぶつかる。


 鎌はカバンを切り裂かず、高い音が上がる。 

 何か中に固い板でも入っているのだろうか。

 

“OK!! チハッ、打合せ通り、自分で自分を守るんだよ!? ――律氷ちゃん!!”


“うぇっ!? ひゃ、ひゃい!!”


“はいっ、颯様!!”


 

 赤星と皇さんが駆ける。

 逆井に妨害されて身動きができないでいる一体を、二人で挟み撃ちにした。


 赤星は俺が渡したダガーを。

 皇さんは拳に小手のようなものを付けている。



 それを、別の1体が邪魔しようと動いたが――



“させない!! くっ――”


 志木がすかさず片手剣でカバーする。

 見事な連携だった。 




“うっ、うわぁぁぁ……すごっ、流石は最初の4人だ……”



 そんな一連の動作を見て、桜田が純粋な感嘆の声をあげたのが拾われていた。










“おりゃぁぁぁ、これでとどめだし!!”



 皇さんと赤星が2人掛かりで攻撃を仕掛け、志木がそれをカヴァーする。


 そして何度がそれを繰り返した後に、逆井がすかさず反転。

 カバンでフルスイングして沈める。



 これを続けて、敵全部を始末し終えた頃には、動画時間が9分を過ぎていた。





「――……これ、一連の流れを考えたの、“志木”だろ?」


 俺が動画を止め、PCの方の本人達に向かってそう尋ねた。



『……フフッ、流石ね。やっぱりわかったかしら?』


 問われた志木は、頷き返して、そして逆井に視線を送る。


『――逆井さんが普通にモンスターと戦えると相談を受けたから、ありがたく利用させてもらったわ』 


 トリックを見破られた後。

 何故か自分の犯行を自慢げに話す犯人みたいに振舞う志木。

 

 ……なるほど、こっちは黒かおりんだな。





 俺は念のため、後半に入る前の残り7分を倍速で視聴するも、やはり確信を強めるだけだった。


「やっぱりな……これ、他の3人、特に赤星と皇さんが体力削って、逆井が美味しいとこを持ってってるみたいに見えるが――」


 そこで、逆井に視線を向ける。






「――敵のHPを殆ど削ってるの、“逆井”だろ」






□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



『あ、あはは……やっぱ新海は分かっちゃうか』


 指摘された逆井は、悪戯がバレてしまったみたいにばつの悪そうな反応をした。


「いや、良くできてると思うよ……加工とかはしてないんだよな?」


『ええ。もっとも、編集やアップロードは基本的に知刃矢さんがやってるけれど』


 動画では“桜田さん”と呼んでいたが。

 志木は、普段は“知刃矢さん”と、そう呼ぶようだ。


「なるほど……まあそれは最初の人物紹介で察したが……」



 今まで見た動画の内容を、改めて頭の中で整理する。

 前半通して、要所要所モンスターとの戦闘部分を基本ピックアップしていたが。

 

 その4回の戦闘――計15体の敵全部、フィニッシュは逆井だった。


 何も考えずに見ていると、良いチームワークをしていて。

 逆井も敵の隙を見逃さず追い打ちをかけているんだという風に見える。

 

 しかし、現実のところ、志木、赤星、皇さんの攻撃はそれほど決定的なダメージを与えられていないのだ。


 HPバーが目に見えるようなゲームとは違い、誰がどれだけダメージを与えて倒しているかなんてわからない。


 そこを利用して、逆井が最後、帳尻を合わせるようにしてフィニッシュを決めているのだ。



「――で、レベリングも上手くいった、と」


『フフッ、それもご覧の通りよ』


 要するに、志木、赤星、皇さんが攻撃を何度も何度も仕掛けているのはレベリングのためなのだ。


 以前、俺がラティア、リヴィル、逆井と共にボス戦をする前。

 逆井に施したのと同様の。


 その証拠に、動画の後の戦闘に行くに連れて、逆井のフィニッシュへの時間が短くなっていっている。

 つまり、相対的に前者3人が成長しているのだ。


 例えば最初はダメージ比率が1:1:1:7だったのが、1.5:1.5:1.5:5.5に。

 そしてまた2:2:2:4に、とどんどん強くなっていっていたのだ。



 それを逆井が敏感に感じ取り、最後のフィニッシュを調整していた。

 ……やるじゃねえか。

 


「今回は、逆井のお手柄だな」


 そう素直に褒めると、逆井は照れ臭そうに頭をかいて見せた。



『へ、へへ……新海達に色々助けてもらってたからさ、何とか使い物になろうって、頑張って……』

 

『フフッ、十分どころか、逆井さんは今一番ダンジョン攻略の戦力になってるんじゃないかしら』


「ああ。表で動き回れる逆井が頑張ってくれると、俺やラティア達もかなり助かる」


 掛け値なしに本音だった。

 俺やラティア・リヴィルが逆井の能力を引き上げて。


 その逆井が志木や赤星に皇さんを強くする。

 そうすると、今度はまたこの3人が他の誰かをモンスターに対抗できるように育ててあげることができるのだ。



 俺の体は一つだからな。

 どれだけ頑張っても手が届かない部分が出てきてしまう。

 その際、逆井達が戦ってくれる能力を持っているというのは本当に助かる。





『――おーい、二人とも、上がったよー!!』


 

 

 

 そこで、画面の外から今までいなかった赤星の声が聞こえてきた。



『――御姉様、梨愛様、お風呂、お先に頂きました』


 同じく皇さんの声も。

 なるほど、二人は風呂に行っていたのか。

 

 っていうか、皆同じ部屋なのね。



『分かったわ、今行くわね――ゴメンなさい。それじゃ』


『新海、来週戻る時には前のお金用意しとくから、そん時に』


「おう、じゃ――」


 そうして二人に挨拶し、切ろうとした時――

   




『――あれっ、お二人とも、どなたかとお話中――』



 ――プツッ





「……なんだ、最後の」



 聞いたことがある声と共に。

 切る寸前、染めた髪をした少女が一瞬だけ画面を通るのが映った。



 ……もう一人いたのか。





「――まあいいや。動画の“後半”でも見ておくか」



 あまり深くは考えず、今のことは流すことにした。

 そうして続きを再生すると――







“――うっ、嘘ッ!! わ、私も戦うんですか!? えっ、えっと……わっ、私!! 一万円札より重いもの、持ったことないんですぅぅぅ!!”


“……チーちゃん、アタシが代わるまで、普通にビデオカメラ持ってたじゃん”




 逆井の呆れたような声と共に。

 画面に映ったのは、先ほど一瞬だけ見た、あの少女だった。




 

「ああ、なるほど、コイツがあのイラっと来る声の主か……」




 その後の約15分間は。

 

 無垢な青少年・童貞が見れば確かにグッとくるようなあざとい容姿・振る舞いをしたこの少女も参戦し。


 

 5回あった戦闘を、逆井抜きでこなしていたのだった。





すいません、ちょっと今日明日忙しくて。

投稿自体はできると思うんですが、感想の返しは明日一括してさせてください。


ちゃんと読んでますから、そこは大丈夫ですよ!!


後、覚えていれば、明日のお話くらいにまた登場人物の纏めも張ります。

……覚えていれば、ですが。

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