397.いや、別に良いけど……。
お待たせしました。
すいません、端的に体調不良でした。
ではどうぞ。
「ラティアちゃん。まだ寒かったら、ロトワのこと抱っこしても良いでありますよ?」
俺とルオのやっていることが羨ましかったのか、物欲しそうな目をしながらロトワは告げる。
「そうですか? ではお言葉に甘えて――フフッ、温かい……これでご主人様・ルオと互角ですね」
ラティアもそのことに気付きながらも、あえて自分がしたいからという体を装う。
何が“互角”なのかよくわからないが、楽しそうに自分の前にロトワを座らせた。
「はふぅぅ……ロトワも背中――特に首から頭にかけて温かホワホワでありますぅぅ……」
そりゃ……ラティアの胸に頭を預けてれば温かいだろうさ。
白瀬と違って実際に存在する乳、実乳なんだからな。
「…………」
「? ……フフッ、レイネもしてあげようか? マスターやラティアみたいに。私が」
リヴィルが揶揄うように告げる。
対面に座っていたレイネは、赤くした顔をプイと逸らす。
「ばっ、バカッ! 誰が、ったく……」
過剰なまでにテレビへと視線を固定させている。
ルオやロトワをジーっと見ていたことを気付かれたくないみたいに……。
……レイネ、イジり甲斐あるカワイイ反応するよなぁ。
「――おっ、チハヤとリツヒのチーム! 頑張ってるぞ! 行けっ、そこだっ!!」
レイネは声の調子がわざとらしく、話を逸らすためのカモフラに必死だった。
フフッ……お可愛いこと。
――はっ!?
いつの間にか黒ラティアの人格とシンクロしたみたいに、クスッと言っていた!
あの腕枕動画の一件以来、ラティアが黒ラティアでいる場面は殆どなかった気がする。
……つまり、ラティアが白ラティアでいる分、俺が黒ラティアを欲している!?
いや……どんな精神状態だよ。
「フフッ。でもハヤテのチームは今の所、独走状態だよ? どんどん候補生たちを捕まえて行ってる。チハヤとリツヒで対抗馬になるかな?」
ん?
手に何かが触れ、意識をそちらにやる。
会話をしていたリヴィルから視線を感じた。
何食わぬ顔で手を伸ばす。
「…………」
スマホだ。
『リ:レイネの記念日、コスプレが重要な鍵になりそうだね。レイネが着たそうなカワイイの』
メモ帳画面が開いてあって、リヴィルがそこに文章を記していた。
……なるほど。
つまり、コタツにより出来た死角を上手く利用しているのだ。
レイネがすぐ側にいながらにして、レイネのことを相談する。
バレる危険と隣り合わせではあるが、これほどまでにアリバイ作りに適した状況はない。
『ハ:だな。レイネが気になってる衣装とかコス、これからドンドン探りを入れて行こう』
「おぉー、逆井の奴、上手く別チームと手を組んだな。挟み撃ちか。こういうのもチーム戦の醍醐味だよな~」
口では他愛無いテレビの感想を述べつつ、コタツで生まれた死角ではリヴィルのスマホを操作。
先に書いてあった文書に続ける形で文字を打ち込む。
リヴィルをチラッと見ると、リヴィルはその視線をラティアへと移す。
えっ、ラティアに渡せって事?
真向かいだから、俺からラティアへは遠いんだけど。
リヴィルが仲介してくれるんじゃないのか……。
コタツの座席はラティア・ロトワを12時の方向だとすると、3時方向にはリヴィル、そして6時の場所に俺・ルオだ。
リヴィルが間に入ってスマホの受け渡しをした方が確実だと思うんだが……。
「…………」
仕方なく、コタツ内を介してラティアへと渡すことにする。
まあ確かに、こちらの方がよりレイネの目に触れる危険性は少ない。
ラティアも俺達が何をしているのかは承知済みだったため、コタツ内の受け渡しは意外にスムーズに運んだ。
お互いに抱きかかえるようにしているルオやロトワが、コタツと相まって更に良いカモフラ役をしてくれる。
ふぅぅ……。
「……フフッ」
……リヴィルさん、何ですかその笑みは。
スリルを楽しんでるだけじゃないでしょうね。
そんなバレるかどうかのハラハラ・ドキドキを楽しむなんて勘弁してくれ。
“どうしてですか新海君!? 一緒に痴女活、しましょう!!”
……脳内に湧いて来た、謎の人物による謎のセリフを必死に振り払う。
ってか“痴女活”って何だ。
“婚活”や“アイ〇ツ!”みたいに言うなし。
主人公らしい勧誘のセリフっぽく言っても、中身がダメダメなんだよなぁぁ……。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「っしゃぁあ! ナイスだチハヤ! ――おっ、良く分かんねぇがミオもナイスアシスト! カオリの足止め頼むぞっ!!」
「何で桜田と空木が共闘してんだよ。空木は志木とペアだろうに……あぁぁほらっ、謎過ぎて捕まった女の子呆然としてんじゃねぇか」
テレビに夢中になるレイネ。
それと上手い事会話を成立させつつ、レイネのお祝い会について話を進める。
『ラ:レイネは案外恥ずかしがり屋ですからね。私達が皆でお揃いコーデをするのもありだと思います』
『リ:うん。ルオの時とは真逆だね。レイネはむしろその方が良いと思う』
『ハ:もしあれだったら、レイネ連れ出して時間稼ぎはするから。あぁそれと、レイネもそうだけど。皆も、受験と被るのは気にしなくて良いからな』
『ラ:分かりました。あまり可愛らしいお洋服や衣装ですと、私も恥ずかしくて少し二の足を踏みますが……お祝いの日ですしね、頑張ります!』
『リ:了解。……私達も多分恥ずかしい思いすることになるから、マスターにも何かカッコいい服、来て欲しいなぁ、なんて』
ラティア、リヴィルの打ち込んだ文章を眺め、思わず渋い顔をしてしまう。
いやいや、ラティアさん。
普段恥ずかしいなんて言葉じゃ済まないくらい、過激なサキュバスコスを家で着用してるじゃないっすか。
リヴィルも、カッコいい服って何だ。
スーツとか、タキシードとかってこと?
……俺が着たところで誰が得するんだよ。
「うわっ……飯野さんと逸見さん、体操服、パツパツだな……大丈夫か、色々と」
一家団欒に気まずさの爆弾をもたらしかねない、いかがわしさトップのペアである。
「ハハッ。でもシイナも、この二人くらいはっちゃければいいのに。意識し過ぎるからダメなんだって」
世のお父さん・青年男子の味方ペアについて、レイネと会話を成り立たせて盛り上がる。
レイネが俺達を怪しんでいる様子はない。
……反対に、ラティアとリヴィルからくる視線がジトっとしていた様に感じた。
……いや、違うから。
レイネの警戒度を下げるための、言葉の綾みたいなもんだから。
『ハ:違うから。俺はパツパツだろうとスカスカだろうと気にしないし。織部がその証拠だ――ってそうだ、織部だ! 織部とか、それこそ妹さんにも一緒の格好をしてもらうのはどうだろう!! レイネも更にやりやすくなるんじゃなかろうか!?』
言い分だけだと嘘っぽく感じるだろうと新たな提案も書き添える。
今まで通り、コタツの地下通路を使ってラティアにスマホをパス。
「…………」
あっ、ラティアがちょっと不満そうな顔しちゃった!
画面とにらめっこしたかと思うと、素早く文字を打ち込みリヴィルに返す。
「…………」
リヴィルも画面を見て、今度こそ分かるくらいのジト目で俺を見てきた。
……ぐすん。
別に、飯野さんと逸見さんの脅威の胸囲に見惚れてたとかではないはずなのに。
これが俗にいう家庭内冤罪と言う奴か!
世のお父さん方や青年男子達よ、共に強く生きよう……。
『ラ:気になさらないのでしたら……もう少し私達とのスキンシップが多くなっても、問題ないですよね? 近頃は寒い季節ですから特に。――カンナ様達に一度伺ってみるというのは賛成です』
『リ:肌と肌で温め合う……夜中に寒くなったら、マスターのお布団に潜り込んで暖をとりたくなっちゃった、なんてこともあるかもね。――カンナのことについては、良いんじゃない?』
画面から顔を上げると、二人が俺からサッと視線を逸らす。
口に出して抗議したい気持ちが山々だったが、ここで、スマホへの書き込みでやり取りをしていたことが裏目になる。
ッ、声に出したら、レイネにバレちゃう!!
「? ……どうかしたのか隊長さん。何かずっとラティアとリヴィルを睨んでたみたいだけど」
「っ!? いっ、いやっ、何でもないぞ、何でも……」
っぶねぇ……。
リヴィルじゃねえんだから、ここぞという時に勘の鋭さ見せてくるなよ……。
滅茶苦茶ドキドキしたじゃないか。
“フフッ、どうですか新海君っ。痴女活の良さ、分かってくれましたか? 体験入部でも良いので、是非これからも――”
また突如として湧いてきた謎の勇者のセリフを、容赦なく途中で打ち切る。
……お前が出てくると本当にややこしいから。
さっきまでの自分のセリフが、本当に声を出せない状況でいかがわしいことしていたみたいな感じの意味にも取れちゃうから。
無言で無実だと訴えながらも、それが聞き入れられることはなく。
またそれ以外にも、脳内で消しても消しても直ぐに蘇ってくるゾンビみたいな勇者を振り払い続け……。
溜息を吐きたくなる程、とても無駄な疲労感を覚えたのだった。
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「はぁ? いや、別に、良いけどさ……」
それは丁度、決着がつきそうな場面に差し掛かった頃だった。
『よしっ!! つりりん、ツギミーを抑えてて!! アタシがかおりんを抑えとくから!!』
『ぬわっ!? ちょっ、ムリムリっ! ――太陽の化身よっ、我の代わりに二人纏めて何とかしてぇ!!』
テレビでは捕獲数争いで3チームがデッドヒートを繰り広げていた。
後半に怒涛の勢いで追い上げた“かおりんと愉快な仲間ペア”。
何とか志木達の優勝を阻止しようと手を組んだ、2チーム。
逆井・光原妹の“陽と陰が交わる所――即ち無ペア”。
そして白瀬と赤星の“紅白ペア”だ。
そんな白熱した展開の最中……。
『本当に!? うわっ、やったっ! ありがとう、新海っ!!』
激戦を繰り広げている当の本人の声が、スマホの向こうから聞こえていた。
「志木と立花は抜きでダンジョン――そりゃつまり、受験組に配慮してってことだよな? 俺に協力を請うって、本末転倒って言わないか?」
『ホンマツテ……えっ、何? 何となく言いたいことは分かるけど』
電話を掛けて来た逆井本人はちょっとムッとしたみたいな息遣い。
だがそこに突っかかってくることはせず、本題を続けた。
『……ゴメン、都合の良い事言ってるって事は分かってる。新海も受験だから、何とか新海が現場に来なくて、かつ力を借りられる……なんて虫のいい方法、無いかな?』
「…………」
逆井がこうして申し訳なさそうに頼み込んでくると言うことは、ただの思い付きとか気まぐれではないのだろう。
ダンジョンに行かないといけない、でも後で危険な目に遭って仲間に心配をかけることも避けたい。
そんな気持ちからの相談事だと察し、茶化すのは止める。
「……無くはない、と思う。さっき言った様に協力はする。そこに二言はない。ただ……訳は聴いておきたい」
『本当!? うわっ、マジで!? ありがとう!! 新海、本当ありがとう! 今度何か絶対お礼するから! でっ、何だっけ? 理由? えっとね――』
話すかどうか、勝手に五分五分だと考えていた。
だが逆井はあっさりとした様子で答えたのだった。
『何かさ、最近声が良く聞こえるんだよね。“熱き炎に打ち勝つ強き者を求む”とか? “強者を倒してのみ、強者としての証と認む”みたいな? つりりんみたいな変なしゃべり方でさ』
この時期なんでどっちにしろ外に出歩くことは無かったと思いますが、やらないといけないこともあったのに何のやる気も出ないくらいでした……。
お腹、胃の調子もあまりよくなく、グッスリ睡眠に使ってようやく回復した感じです。
また、来週の更新予定については明後日辺りにでも活動報告に書こうと思います。




