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394.やはり志木はそっちだったか……。

お待たせしました。


ではどうぞ。



『――どうだ、チハヤ、映ってるか?』



 いつものことながら、重たい容量の動画を解凍して再生。

 一番に聞こえてきたのは、意外なことにレイネの声だった。


 手を振るように左右に動かして、自分の姿・動作がちゃんと映っているかとアピールする。


 

『バッチリですよ~! レイネさんの素敵なお姿は勿論、他の方々のことも~……デデンッ!!』



 画面の外から桜田の声がする。

 やり取りの中身と併せ考えると、桜田が動画の撮影係らしい。


 桜田の声に合わせ、画面がグィっと横に動く。



「うぉっ!?」  


    

 そして画面はズームし、大きな果実を映し出す。

  


『あっ、コラッ! 知刃矢さん!? ちょっと、どこを撮ってるの!?』


『イヒヒッ~! 花織先輩、ナイスバディなのに番組とかだと脇が堅いですからねぇ~。こういう時位良いじゃないですか』



 サッと視線を遮るように、両腕が割って入る。

 抱きしめるように当てられた腕が、形のいい胸をフニュっと変形させた。


 画面が引くと、志木の顔が現れる。

 珍しく羞恥で頬を朱に染めていた。



「あれが志木の……胸、だと!?」



 ゴクリッ……。


 桜田は睨んでくる志木を諦め、次々と同行するメンバーを映していく。

 カメラが動く際に、俺が今いるような洞窟内の景色がチラッと目に入る。


 事前にメールで教えてもらっていた通り、どこかのダンジョン内にいるのだろう。


 

『ほうほう……引き締まったお尻と太もも……画面越しだと更にエッチな絵ですねぇ。流石は颯先輩! 下半身を中心に、美桜ちゃんが凄く好きそうな体つきしてますよ!』


『グヘヘ。知刃矢ちゃん、ウチの好みを良くご存じで。あ~颯ちゃんのお尻と太ももの間に顔を埋めて深呼吸したい。合法的だからと抵抗できない颯ちゃんを、羞恥で真っ赤な顔にさせたい』


『もう……。チハも美桜も、何変な冗談言ってんのさ、ははっ』

  

 

 空木、赤星と順に映し、そしてまたさっきの様にズームしてドアップ。

 照れた赤星の顔から移動した先は、そのスポーツマンらしい無駄のない下半身だ。


 スパッツのようなピタッと張り付くアンダーをはいていて、形の良さがこれでもかと見て取れた。

 膝上まで覆うブーツとの間に出来た絶対領域も、魅力的で思わず目を奪われる。

  


 ……ゴクリッ。




「――っていやいや! 志木はこんな動画を送ってきて、何をしたいんだ」


 

 皇さんと共謀(きょうぼう)して、俺を勉強させないつもりなんだろうか。


 でも、普段はちゃんと勉強の面倒は見てくれてるんだよなぁ……。


 何とか隙間時間を作っては、テレビチャットや電話を使って進行具合や様子を確認してくれる。

 これ以上はないというくらいに忙しいだろうに。

    

 うーん……志木の意図が分からん。

 流石は腹黒かおりん、略して黒かおりん。

    


『――コラッ!』



 動画内、(しか)りつける声。

 赤星の魅力的な太ももとお尻から、画面が引っ張られるようにそちらを映す。

   


『付き合ってもらう立場だから強くは言い辛いが、その、あれだ。そういういかがわしい話は、良くない! うん、良くないからダメだ!』


 

 声の主、最後の一人は立花だった。


 目が(せわ)しなく左右に動く。

 気になる気持ちを隠しきれてないながらも自分の立場上、何とか注意しなくては。


 そんな様子が画面から伝わって来た。

 ふむ……エッチな話題には興味ありありらしい。

 


「立花……真面目系の癖に、かなりムッツリなんだな」



 いや、真面目系だからこそ、なのかな?

 


□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆ 



「……いや、別に問題無いんじゃないか? 立花もちゃんと戦闘に参加できてるし」



 動画内容が直ぐに説明され、実際の戦闘に入る。


 志木と赤星が前衛で、四足歩行する巨大亀と相対する。

 鈍足ではあるが凶暴そうな牙があり、噛みつかれたらひとたまりもないだろう。



『やぁっ!! せぃっ!!』


『ふんっ、たぁっ!! ――今っ!!』

     

『了解っ! ――せぁぁぁっ!!』

 


 それを、前衛二人が危なげなく対処し。

 息を合わせて立花が横から切り込む。


 

『うわっ、硬そう……何あの甲羅(こうら)。ああいうのこそ、知刃矢ちゃんの“物理でゴリ押しハンマー”の出番じゃないの?』


『いえ。今日は私、レイネさんと一緒に撮影係ですから! 皆さんが頑張ってる姿を、ちゃ~んと映像に収めますよ! ――ほらほらっ、美桜ちゃんもどんどん攻撃攻撃!』



 画面外から聞こえる桜田の声に急かされるようにして、空木が怠そうに弓で矢を放つ。



『へいへい……――んっ、そいやっ』


『おおぅ……美桜ちゃん、他人をイジる割には自分も凶悪なフカパイしてますね』



 桜田の驚愕するような声音のセリフに合わせ、画面が一瞬、空木の胸元辺りへと移動する。



『矢を放ったと同時に縦にブルンブルン震えてますよ。耐震構造0の欠陥胸ですね。同性として憎たらしいことこの上ない、裁判所に訴えたくなる胸です』 


 

 ……桜田の謎の解説は置いておいて。


 立花の太刀は傷をつけるだけで精一杯だったのが、空木の放った矢は面白いように甲羅へと突き刺さっていく。

 

 立花の武器が劣っていて、矢じりが殊更に凄い性能……というわけでもあるまい。



『ギャォォォォォォーーーー!!』



 モンスターから悲鳴が上がる。

 


『せぃぁっ!! やぁぁぁっ!!』



 モーションが止まったことを見逃さず、立花が次々と追撃する。


 相手がダメージを受けているかどうかは関係なく、この機会を存分に生かしてやるという気迫が感じられる。


 時折ダメージが通っている攻撃も見受けられ、それだけでも立花の成長が窺えた。




『あっ――レイネさん、あっち、お願いできますか?』


『おうっ、任せとけ!』



 また一瞬画面がブレて、広間に繋がった別の道を映す。

          

 ゆったりとした足取りで、同種のモンスターがゆっくりと近づいてきていた。


 レイネが単身、そちらへと向かい、相手をする。



「あぁぁ、なるほど。レイネは複数体と接敵した時の備えか」



 撮影係を務めている桜田も、仮にもっと状況が悪化した場合は撮影をやめて参戦するんだろう。



 基本のパーティーは志木・赤星・空木の3人のみ。

 そこに育成枠の立花がいて、これを含めても4人だ。


 それでも戦闘に余裕を感じられるし、立花も聞いていた以上に有効な攻撃が多い。


 

 立花だけでなく、志木や赤星、それに空木も。

 その成長を感じさせる、隙の無い戦闘となっていたのだった。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



『お疲れ様ですレイネさん! ……チハちゃんだけ何もせずグータラで、何だか申し訳ない気分ですね。今度家に来てくださった時にお礼も兼ねてご馳走しますよ』 


『お礼って……ハハッ、チハヤ、別に気にすんなって。あたしだって大して役に立ってるわけじゃねえんだからさ』



 撮影係の桜田が、危な気なく戦闘を終えたレイネを出迎える。

   


『えぇ~! 良いじゃないですか、普段お世話になってるお礼も含めてって意味ですよ! でっ、でっ? レイネさん、何か欲しい物とかって、あったりしませんか?』


『は? いや、別に、特にないけど……。何だよいきなり、ははっ、変なチハヤ』



 桜田は一人だけ働いてない感があって若干後ろめたいのだろう。

 自分達に随行して、何かあった時の保険の意味合いで備えてくれているレイネに、とりわけ有難さを感じているんだと思う。



『本当に良いから、気にすんな。あたし達の仲だろう?』


『レイネさん……』



 レイネはそれを気にせず、気さくに笑って対応していた。



「良い子に育って……うぅっ、レイネ、妹さんもきっと喜んでるぞ」



 来たばかりの頃はあんなに(すさ)んでいて“ケッ、ボッチ菌が移る、話しかけんな!”みたいな感じだったのに……。

 


 …………ん?



 いや“……あぁん? んだよ、キョドってこっち見んじゃねえよ、このボッチ野郎!”だったっけ?


 ……ちょっと歴史の年号と英単語の暗記に容量を割き過ぎて、記憶が曖昧(あいまいになってるらしい。 



「……まあいいや」


 

 とにかく。

 レイネが、友人や仲間想いの優しい女の子として生活できているようで嬉しかった。


 桜田もレイネの配慮を受け気を楽にする。

 そして一般的な話題として、最近の流行や、その流れの中で欲しい物を聞いていた。


  

「……ナイスだ桜田」



 本来なら立花を連れてのレベリングを主目的とした動画なのだろう。

 だがここで思いがけず、別の副次的な意味を見出すことが出来た。



『まぁ、強いて言うなら……ちょっと可愛い服が着てみたい、とか? ――あっ、ははっ、ウソウソ、冗談冗談!』


『えぇぇ~良いじゃないですか! 今度、私達が着るようなアイドル衣装、持ってきますから! 一緒に着ましょうよ!!』


「なるほど……レイネはそう言うのが欲しいのか。……どっかで時間取って、探してみるか」


 

 年明けになるが、レイネが地球(こっち)に来て1周年記念が迫っていた。

 だが丁度俺の1次試験と被っているため、お祝い会をどうしようかと悩んでいたのだ。


 レイネがそれを気にして遠慮させるのもいけないから、ただでさえ開くかどうかの意見も聞き辛い。

       

 まして、レイネの欲しい物なんて、さりげなく聞けるタイミングなど無かった。


 

「よしよし……桜田にも何か礼に今度買ってやろう」



 自覚無く、桜田はレイネの欲しい物を聞き出してくれたのだ。

 その貢献に物をもって報いることを決め、満足気に動画の続きを眺めた。


 

 その後もレイネと精霊コンビの斥候(せっこう)で、効率よくモンスターを探し出し、無難に立花へと経験を積ませていく。



「まあ……こんなもんだろう」



 志木や赤星、それに意外にしっかり者の空木がいる以上、この先おかしなことにもなり様がない。

 

 レイネだっているんだ。

 そうして息を吐き、油断していたところに――



『――あの、えっと、颯さんっ……えぃっ!』


『えっ? し、志木さんっ!? うわぁっ――』






 ――かおりんが、赤星に、抱き着いたでござる。





 ……ここから百合百合な動画の始まりですかな?


 

 志木の思わぬ行動に、動画に映るメンバー全員の時間が。

 そして俺の時間が、一時停止したのだった。



 ……やはり志木は“百合(そっち)”だったか。



 相手が赤星と言うことだけあって、こちらも安心して見ていられる。

 むしろ女の子同士だからこそ、遠慮なく激しいスキンシップできる部分もあるだろう。


 これからちょっとエッチなことでも始まっちゃうのではないかとドキドキハラハラしながら、改めて動画の先を注視するのだった。



 

   

志木さんと赤星さんの百合イチャ(!?)があって、次話の途中にはまた次の話に移れるはず……。



今朝に活動報告にも書かせていただきましたが、本日、とうとう書籍版の発売日となりました!


本当にてつぶた先生が描いて下さったイラストは、どれもこれも全て語彙力が無くなってしまう程素敵なものばかりです!!


何卒宜しくお願い致します!!


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― 新着の感想 ―
[一言] 遅ればせながら電子版買いました! 自分もクール系だからリヴィルはヒンヌー系だと思ってたので表紙を見て誰だ・・って思ってましたw そして主人公普通にイケメンでしたね・・・これは許せませんよ・…
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