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392.何がしたいのやら……。

お待たせしました


ではどうぞ。



「っっ!――」


「……んぁ? んっ、んんーっ――」



 設定していたアラームが鳴る。

 部屋の外、何か人の動く気配を感じた。


 右腕が何だか少し痺れている。

 いつもと違う感覚で、若干混乱する頭をゆっくりと覚醒させる。


 ベッドではなく、敷布団の上にいる自分。


 ……あぁ、そっか。

 あの後ロトワを寝かせて、ラティア対策のために一緒に客間で寝たのか。


  

「っっ!! ――おっ、おはようございますご主人様っ!」


 

 それを理解すると直ぐに声が飛んでくる。

 未だ眠っているロトワを挟み、ラティアの動揺したような顔があった。



「お、おっす。おはよう……」



 一瞬何に対して慌てているのか分からず、ただ挨拶を返す。

 ラティアもまた同じく布団の中にいて、丁度起きたばかりなのだろうかと推測する。


 

「あっ、あ~。えーっと、嘘、もうこんな時間? うわー大変です、寝坊しましたー。早く起きないと!」

     


 何かに言い訳するかのように棒読みして、ラティアは慌てて起床。

 俺とロトワを残し、客間を出て行ったのだった。


 …………。

 

 本来ラティアとロトワだけが寝ているはずの客間に、俺が忍び込んで一緒に眠っている。

 これで一騒動を起こし、ロトワとの夜更かしから少しでも目を逸らせれば、と思ってやったのだが。



「……当初の予定とは大分狂ったが、結果オーライ、なのかな?」 



 だがラティアは驚いた様子こそあったものの、特に怒ったり、そこについて触れてくる素振りはなかった。


 ……と言うか、ラティアも寝坊、したのか?


 そうなってくれればベストだなぁ~と思ってたが、本当にラティアが寝坊するなんて……何か怪しいな。



 その俺の直感を証明するように、その後のラティアの様子はかなりおかしなものだった。




 食事の時も。



「……あのさ、ラティア。勝手に客間に入って寝ちゃって、悪かった。夜遅くで頭が回ってなかったのもあるけど、余りに寒すぎて、ちょっとロトワ湯たんぽが恋しくなったっぽい」


「あっ、いえいえ! ロトワと一緒だと、私がご主人様で温かいですよね! もう枕がご主人様の腕で至福の寝心地と言いますか!」


「フフッ、フフフ……ラティア、意味わかんないこと言って、マスターがぽかーんとしてるよ」

 

「ひゃわっ!?」

 


 

 洗い物を手伝った時も。



「いやぁ~やっぱこの時期は水も超冷たいからな。食器を洗う時、お湯、全然使っていいからな」


「…………」


「あぁ~えっと……ラティアさん? 俺の腕、ずっと見てますけど、何かついてます?」


「ひゃぃ!? い、いえいえっ!! ご主人様の(たくま)しい腕を見てばかりなんかいませんよ!?」  




 皆が白熱していたゲームに参加した時もそうだった。



「やったぁ! ご主人、ボクとチーム、しよう! リヴィルお姉ちゃんとレイネお姉ちゃんを返り討ちだ!」


「勉強があるから、本当に一戦だけだからな? ったく、やれやれ。――仕方ない……身の程知らず達に世界の広さを教えてやるのも、人生の先輩たる俺の務めか」


「ハハッ、隊長さん、腕まくりまでして本気だなっ! 良いぜ、あたし達でコテンパンにしてやるよ!」



 コントローラを巧みに操作して、嫌らしいプレイを続ける。

 リヴィルよりも意外なことにレイネの方が上手かったため、そちらを真っ先に潰しにかかった。



「うわっ、ちょっ!? おい、リヴィル、ヤベェ、やっぱ隊長さんエグい、助けてくれ!」


「っ! こっちも、ルオに邪魔されて……! レイネ、最低でも相打ちに持ち込んで!!」


「…………」


「フッフッフ。貴様らは起こしてはいけない竜を起こしてしまったのだ――って、ラティア? えっと、その、近い、んですけど。腕とかコントローラー、顔に当たっちゃうから」



 ラティアはいつの間にか、くっつくくらいに俺の腕へと顔を近づけていた。



「はっ!? す、すいません! あの、えっと、ご主人様のコントローラさばきがとてもお上手で、見惚れてしまって!!」



 コントローラーさばきって……手というより、ずっと俺の前腕ばっか見てなかった?



「っしゃぁ! 隊長さん落とした!!」


「ナイス、レイネ! 後は二人でルオを!」


「あぁぁ~!! ご主人っ、よそ見してるからッ! もう、負けちゃうぅぅ!!」

 


 あっ、ゴメン、ルオ……。




□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



 そうしてお互いにぎこちない土日を過ごした。


 ロトワとの内緒の夜更かしを追及されることもなく。

 何とも言い辛い微妙な空気も、時間が経つごとに元に戻って行った。



「さて……ん?」



 そして学校から帰って来た後の夜。

 空いた時間で、久しぶりに自宅ダンジョンの様子を見に行こうとした時だった。



 続け様に連続してメールが来た。

  


「誰だ一体……ん? ルオと志木……は分かるけど、えっ、これ、は?」 



 パッと見て、緊急性が高いものではなさそうだった。


 ルオは皇さんの家に行って動画を撮ったから、時間があれば見て欲しいというもの。


 志木も、ダンジョン探索の過程を撮影した動画が添付ファイルにあった。

 直ぐじゃなくていいのでこれを見た上で、俺の意見が貰えたらと書いてある。



 そして最後――



「……リヴィルの奴、何やってんだ」



 送り主はリヴィルだが、件名の部分にはただ、



『真実を追い求める者』



 とだけあった。


 ……いや、送り主がリヴィルなんだから、リヴィルでしょ。

 ラティアと逆井と一緒に女子旅に行っているはずだが、こんなおふざけしてきて……暇なのかな?

 

 

 一瞬、頭のほんの片隅に、リヴィルが事件に巻き込まれ、リヴィルのスマホを拾った・入手した誰かから送られてきた……的なことを想像した。

 


 しかし本分を斜め読んで、やっぱりリヴィルであるとの確信を深めた。



『スクープ・衝撃映像を収めることに成功! ただ、この動画の消去を迫る犯人に追われてる! 誰か、このメールを受信した人はマスターに伝え――※ここで、文面は途切れている』



“※ここで、文面は途切れている”と実際に文字にして送信できている時点でリヴィルのお遊びなんだろうな……。


 普通にリヴィルのスマホから俺に送ってんじゃねえかよ。


 

 そして空白の下へと進むと、ちゃんと追記があった。



『マスターがこのメールを読んでる頃には、もう原データは犯人に脅迫されて、消している頃だと思う。マスター、何とかそのデータを、守って!』



「はて、何がしたいんだか……」 

 


 ルオも志木も、そしてリヴィルも。

 内容が全然違うだろうから、示し合わせたわけではないはずだが。


 こんな偶然もあるのか……。



「っっ! うぅ~寒っ。中で見るか……」

 


 自宅ダンジョン自体は受験が近いこともあって、優先度を下げていた。

 一先ずダンジョン内に入って、寒風から逃れる。



「ふぅぅ……温かい。冬はむしろダンジョン内の方が快適かもな」



 入り口の穴、その真ん前に立っても、外気が強く吹いてくると言うことも無い。

 夏は比較的ヒンヤリとして涼しいし、ダンジョン、悪いことばかりじゃないな……。




「さてと……」



 5階層の最奥へと移動した。

 あの物理的にも心情的にも熱い戦いを繰り広げた場所だ。


 巨大炎スライム……ラティアは激おこだったけど、俺的には良い奴だったぜ。


 

「行き来のための階段とワープポイント以外、本当に何もないな……タダのボス部屋だけかよ」       



 1階層、つまり入り口から5階層へと直接飛ぶワープポイント。

 そして5階層を攻略したため出現した、未だ探索していない6階層目へと繋がる階段。


 それ以外はあの戦闘の時と全く変わらない、ただ広い空間があるのみだった。



「ボス戦にも勝利したんだから、絶対に何か特典貰えるものと思ってたのに……」     


 

 火傷が治って改めて来ても何も置いてないし、何のアナウンスもない。

 これはやはりゲームクリア後とかじゃないと来れないけれども、ただやり込みのために作られたステージ的な感じなのか?



「でも俺、まだゲームクリアも何もしてないけどね……――さて、じゃあとりあえず、動画でも見とくか」



 明日も学校があるし、受験間近とあって、流石に一人で6階層に挑むつもりはない。


 入る前に送られてきた動画を確認しつつ、念のため何か変化がないか待ってみる事に。


 

 ……こういうの、プレイヤーが一定時間ダンジョン内にとどまり続けることが何かの鍵になってることもあるしね。



「まあ無いならないで良いけど……っと。で、リヴィルの奴は何を送って来たんだ?」



 ルオ・志木の動画は意図が明確なので、最初に中身が分からないリヴィルの動画から見ることにした。



 何が飛び出してくるやら……。




□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



『……ラティア、まだ起きてないんだ。……マスター、何してんの?』


『しっ、しぃぃー!! リヴィル、しぃーです!!』



 動画を再生すると、とある一室が映し出された。

 とても見覚えある我が家の畳部屋である。

  

 日付を確認すると、本当につい最近。

 つまり夜更かし後、俺がロトワと一緒に客間で寝たあの日である。


 映像には、グッスリと眠りの世界にいる俺。

 鼻から上だけを布団から出して熟睡中のロトワ。


 そして起きてはいるが、布団の中から出ていないラティアが映っていた。

  

 

「…………」



 一瞬で、動画の内容を理解した。

  


『マスターがここで寝てるなんて……しかもラティアと一緒の時になんて、凄い珍しいね。フフッ、良かったねラティア。ロトワも一緒だけど、ライブの日以来じゃない? マスターと同室で横になるの』 


『っっ~~~!! りっ、リヴィル! だから、しぃ~です! ご主人様もロトワも起きちゃいますから!!』



 画面に映らないリヴィルはあからさまに揶揄(からか)っている声音だ。

 ……って言うか、俺にまで送ってくるってことは、この動画を撮り始めた時点でネタにする気満々だったんだろうな。



「……あれ? 俺、あんな体勢で寝てたっけ?」



 いつもは仰向けでスヤァっと寝るのだが。

 動画内の俺は右の横向きで、しかも右腕をだらしなく伸ばして爆睡している。



 そしてその前腕辺りには……。



『こっ、これは! ご主人様の腕が冷えてしまうといけないなと思って、私、髪、長いですし! ご主人様の腕の保温に丁度いいかなと!! で、ですから、別にご主人様の腕枕を堪能しているとか、そう言う事ではなくてですね!!』



 動画内のラティアは俺やロトワを起こさないよう、物凄く声を抑えながらも、撮影者であるリヴィルへと必死に抗議していた。

 ……俺、寝てる間に無自覚に腕枕してたの?


 寝相悪っ。



『……へぇぇ。どう、ラティア。マスターの腕枕って、どんな感じなの? 感想聴きたいなぁ~。ラティアがマスターの腕の感想、言ってくれたら静かにするけどなぁ~』


 

 リヴィル、質問の仕方がネチッこい!!

 滅多にないだろう状況を利用して、ラティアが困る顔を引き出すのに必死か!!


 いや、困り顔ラティアもそりゃ可愛いけども!     


 これ、美少女同士だから可愛いネタ動画として許せるけど、質問する側がオッサンだったらそれだけでアウトな動画になりそう。


 

 ……空木は中身オッサンだけどセーフだな、うん。



『うっ、~~っ! …………その、凄く、落ち着き、ます。ご主人様を、凄く近くに、感じて、不思議な、幸福感と温かさで、守られてるような、そんな、感じ、です』


『……そこまで丁寧に言ってもらえると、何だかこっちまで恥ずかしいね、うん。……私も今度、マスターに腕枕、頼んでみようかな――』



 そこで突如、アラーム音が鳴り響く。



『……んぁ? んっ、んんーっ――』


「あっ、“俺”が起きた」



 ……と同時に、画面が大きく揺れ乱れる。 

 ラティアが一瞬にして俺の腕から頭をどかした。


 ……何たる早業(はやわざ)


 リヴィルも急いで客間から脱出したようだ。


 珍しくリヴィルがドキッとして慌てたような息遣いも聞こえてくる。

 

 そのため動画は中途半端な所で停止ボタンが押され終了。

 臨場感があって、全くの第三者ならもっと楽しめたのだろうが……。



「……うん、ルオの動画を見よう」



 色々とコメントに困る動画だったので、ルオが送ってくれた動画へと移ることにしたのだった。

 

   

早いもので、もう発売まであと1週間なんですね……。

緊張やら不安やらもありますが、じたばたしても仕方ないのでとにかく更新を出来るだけ頑張ります!


もうご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんが、逆井さんや織部さん、そして主人公――新海さんの絵が見られるはずです!


逆井さんが最高なイラストになって、新海さんも中々なボッチイケメンで語彙が無くなるんですが。

なんと言っても織部さん!

……絵に、なっちゃってます!

とうとう織部さんが、姿形を得て、降臨です!(白目)


織部さん、ちゃんと清楚な美少女委員長してますんで、どうぞご覧ください!


書籍の方も、てつぶた先生のイラストが本当に最高ですので、是非よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ラティアさん、貴女実は………いや。何も言うまい。リヴィルさん、Sですよね。いやでもそこからのギャップでMという線もすてがたいが、いや、しか(カット) [気になる点] 連載開始当初からずっと…
[気になる点] カラーイラストだけならメインヒロインになれそうな織部さん…てっきりイラストの肌色率のレーディングあげてくる筆頭だと思ったんですけどねぇ…。 [一言] 織部さん、ラの字とリの字と坂井さん…
[一言]  腕枕されたい淫魔の人? うん、淫魔の人だと事後のピロートークな絵面になりそうなのは気のせいだ。 >「ふぅぅ……温かい。冬はむしろダンジョン内の方が快適かもな」  夏はひんやり冬はあったか…
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