389.クッ、可愛い……!
お待たせしました。
更新時間バラバラですいません。
ではどうぞ。
『お疲れ様です、夜分にごめんなさい。……どうかしら、勉強の方は?』
冬にしては比較的温かな夜。
かかって来た電話を繋いで、シャーペンを動かしていた手を止める。
「っす。まあ順調だな。今も午前にやって間違えたところを復習してたところだ」
相手は志木だった。
こんな時間に珍しい……。
……と思ったが、そう言えば赤星の件で相談したいことがあるってメールしてたな。
『そう、それは良かった。……でも、あまり無理をしないでくださいね? その、陽翔さん、ダンジョンのことに限らず、頑張り過ぎるところがあるから』
うーん。
別にそんな頑張ってるつもり、全くないけどなぁ。
まあダンジョン関連はともかく、勉強で頑張り過ぎるなんてことは無いと思うけどね。
「大丈夫。ちゃんと気晴らしも兼ねてダンジョン行くようにしてるから。体を動かすのに丁度良いんだよ、ダンジョン」
攻略は流石に控えてるけど、モンスターと戦闘するくらいは普通にやっている。
……コッソリ行ってラティアにバレた時、小言を貰うけどね。
『フフッ、気晴らしにダンジョンって……そんなこと言うの、陽翔さんくらいだわ』
おっ、やった、ウケた。
フフフッ、かおりんめ、この程度で笑ってしまうとは情けない。
そんなことじゃ笑うとお尻を叩かれる的な企画をやった時、その可愛いお尻が真っ赤になっちまうぜぃ?
……いや、俺は何を言ってんだろう。
ヤバいな。
テレビチャットじゃなくて夜に志木と電話ってので、何かテンションが良く分からなくなってる。
ちなみに、一番その企画で強そうなのは皇さん……を抑えての椎名さんだと思う。
……あの人、笑うんですかね?
笑うなんて、誰でも出来るもん!!
そのはずなんですけどねぇ……全然笑わないから、あの人。
人を殺すような笑みしか見たことない。
「そんなこと無いと思うが……あぁ、それで、電話してきたのって、赤星のことだよな?」
『……ええ。その、“颯さんのことを気にしてあげて欲しい”って事だったけれど、颯さんと、何か、あったの?』
デリケートな問題だと思ったのか、聞き辛そうに志木が尋ねてくる。
まあ話し辛い問題と言えばそうなのだが、俺と赤星に何かがあったわけじゃない。
あくまで織部との関係で、赤星が心配なだけで……。
でも今は、織部の存在を、志木に伝えるわけにはいかない。
「いや、そうじゃない。ただ何と言うか……志木ともっとコミュニケーションを取って欲しいというか、そういう所を見ることが出来ると、俺としては安心できるかな」
『……それって、私が颯さんにあまり好感を持たれてない……って意味ではないのよね?』
そんなことは断じてない。
赤星は志木のことも大好きっ子だ。
だが自分の言い方が、そういう風にも受け取れるものだったので頭を悩ませる。
クソッ、織部の名前を出さずに、志木に赤星とのコミュニケーションを増やしてもらうって、難題過ぎかよ。
赤星が元々優秀で、大学も合格したばかりだから、“赤星がこの頃あまり上手く行ってないみたいで……ちょっと気にしてやってくれ”みたいな線で行くのもダメ。
仕方ない……。
この手は使いたくなかったが――
「ああ、当たり前だ。……むしろ俺は、もっと志木と赤星がイチャイチャしている所が見たい!」
『……はい?』
最近は百合マンガやアニメも盛り上がってるので、百合のゴリ推しで行くことにした。
志木が珍しく思考停止したように聞き返してきたが、言ってしまったものはもう取り消せない。
それもこれも全部妖怪のせい――ならぬ織部のせいだと決めて、強引でも何でも、百合で押し通す。
「だって逆井とばかり仲が良いじゃないか! これじゃあ逆井は緊張感なく志木を独占しっぱなしだ、もっと志木を巡る争いに熱を! 昂りを!!」
逆井がとりわけ志木と仲が良さ気なのは、何も俺の主観に限った話じゃない。
シーク・ラヴのファンの間でも有名な話だ。
……こう考えてみると、逆に逆井は志木寄りになってるのかな?
織部、赤星を仲間に引き入れてる間に、親友が魔王に誘惑されてんぞ、大丈夫か?
『わっ、私と梨愛さんは別に、そういう関係じゃなくて!! そりゃぁ、女子高育ちだから、後輩や同級生に告白されたことは何度もあるけど……』
ほほう……。
やはり志木は異性・同性関係なく大人気らしい。
かおりん、可愛いからね!
ともかく。
志木と赤星が仲良くする必要があるんだと力説すると、志木はしばらく無言で聞いていた。
そして俺がしゃべり終えると、溜息を吐く。
『はぁぁ……詳しい事情は分からないけれど、えっと、陽翔さんから見て、颯さんともっとコミュニケーションを取った方が良いって事ね?』
……どうやら百合百合ゴリ押し作戦が方便であるとは見抜かれているらしい。
だが深く追及することはしないでいてくれるようだ。
「……ああ。美少女同士のキャッキャウフフは、男から見ても癒しだからな」
『びしょっ!? も、もう! 揶揄って! 知らないっ!』
志木も赤星も美少女ってのは全然事実なんだが……。
「それで、逆井・志木・赤星のイチャコラサンドイッチを叶えてくれると、心が穏やかになる」
『うぅぅ……はぁぁ、分かりました。……もう、私だって、ちゃんと異性に興味がある、女の子なんだから』
志木は通話の最後に、ちょっと拗ねたような可愛らしい言葉を残した。
……ちくしょう。
いじけかおりん、可愛いな。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「……っと、終わりか」
セットしていたタイマーが鳴り、素早くスマホの音を止める。
電話の後、何だか悔しかったので集中して猛烈に勉強した。
伸びをして今の時間を確認する。
「……もうこんな時間かよ。いつもなら寝てるな」
既に日付が変わっている。
流石にこれからもう1時間と続ける気分ではなく、ノートや筆記具を片付けていく。
普段は効率が悪いからと、眠気を感じる夜に勉強することはあまりなかった。
だが電話のおかげか今夜は頭の回転も鈍らず、今週にやった勉強の復習も随分と捗った。
かおりんボイス、凄ぇ効果だな。
今後ずっと聴いていたい声だぜ。
かおりん目覚まし時計……あれ、朝じゃなくて夜に使おうかな?
「さて……あっ、立花、アイツもまだ起きてたのか」
メールが来ていたことに気付く。
『新海君、お疲れ様! どうだろう、勉強は頑張っているだろうか? 私も隙間時間を見つけてはコツコツと進めているぞ! 一緒に合格して、春から二人で同じ大学に通えると嬉しい! 楽しい思い出を二人で作ろう!』
アイドルやりながらも一所懸命に頑張っているのは素直に凄いと思う。
こうして志望校が同じ相手と出会え、励まし合えるのも悪くはない。
……だが受かっても、一緒に思い出作りはしないんじゃないかな。
だって立花は多分周りが放っとかないでしょう。
だから俺は今と変わらず、ボッチなキャンパスライフを想像して頑張っとくよ。
……モチベーションの対象がボッチなキャンパスライフって、俺相当ヤバい奴だな。
何を心の支えにして勉強やってるのか、自分でもよく分からん。
「“お疲れ。勉強に集中してて気づかなかった。忙しいだろうから、あんまり無理し過ぎるなよ。お休み”っと」
簡単に返して、ネットニュースを流し読む。
こういう時事対策も大事だ。
現代文に限らず、日本史、政治経済でも出題される可能性があるからな。
過去問を分析すると、去年は一次試験で“ダンジョン探索士”のことが1問出題されていた。
二次試験で出した大学はなかったらしいが、それは今年も出ないことを意味しない。
『“シーク・ラヴ2期生の選抜方法、発表される”――先日の1周年記念ライブで告知され、後日発表とされた選抜基準が昨日公開された』
「あぁぁ……そう言えば」
リヴィルと一緒に、裏側見学してた時のあれね。
流石に一アイドルの、しかも選抜基準の細かい数字なんて出ないだろうけど。
知り合いに関係することだし、一応は全部目を通しておくことにする。
『5つの基準毎に上位2人ずつで計10人。また5つの基準の総合上位を2名。計12人が2期生として、正式に超人気探索士アイドルグループ“シーク・ラヴ”のメンバーとして加わることになる』
①アイドル能力オーディション
②ダンジョン貢献度
③ファン人気度
④メディア出演・動画投稿等の自己PR度
⑤1期生からの投票
記事にはこの5項目が挙げられていた。
各項目ごとに2名ずつの席を振り分け。
更に①~⑤のポイントを総合し、その上位2名にも2期生としての資格を与える、とある。
『“シーク・ラヴ”の人気の大きな高まりに比例して、アイドル志望の数もこの1年ちょっとで一気に増加した。そして特に、“シーク・ラヴ”に加入したいと思う少女達の数は10や20では足りない』
勿論“探索士アイドル”という限定が加わるので、その候補者は“探索士・補助者”のどちらかでないといけないという限定は加わる。
だがそれでも、応募者は後を絶たない。
『数が多くなれば、それだけ色んな少女達が応募する可能性もグッと増す。一元的な選別基準によるのではなく、複数の基準に複数の枠を設けることは、多様性のための門を広げるより良い選択だと言えるだろう』
知り合いが多く所属するアイドルグループに関する、肯定的な記事だ。
ついつい頬を緩めて頷きたくなる。
だが、こういうネット記事は裏があることも少なくない。
記事の配信会社は大手ではあるが、ちょっと調べてみるとシーク・ラヴとは無関係なこれまた大手のアイドル事務所と繋がりがあった。
どうして肯定的な記事を書いているか考えるということも、論述試験の対策には有効だと日々思考する事を怠らない。
「……要するに、色んな利害関係者がいるって事だろうな……」
探索士アイドルということで、仮に運動神経・運動能力の有無という1点だけで選別するのなら、運動が出来る・動ける者に候補者は限られてしまう。
だが複数の選別基準があれば“②の基準では難しくても、③でなら、私にもチャンスが!”って子も沢山出てくるだろう。
そしてそれはアイドルの卵を抱える事務所だって同じだ。
今人気絶好調のアイドルグループに我が事務所からも一人……と思う所だってなくはないはず。
「……まあアイドル事務所に限った話じゃないだろうけど」
そうした多数の関係各所に配慮しての複数基準なんだと思う。
それを踏まえると、⑤で1期生、つまり志木達に投票権を与えて。
自分達に好ましい子を加入させられる枠をねじ込めたのも大きいだろう。
「……って、あぁ、やめやめ。考え出すと気が滅入る」
元の目的から逸れ出したことを自覚し、一旦思考を切る。
そして記事からホームページに戻り、他のニュースを眺めることにした。
「……ふぅ。こんなもんかな」
粗方目を通したと感じる頃には、更にグッと夜が更けていたのだった。
「さて――」
ラティア達はもうとっくに寝静まった時間帯。
今まで皆を――特にラティアを気にして我慢していたことがある。
「――やりますか!」
俺はその背徳感ある行為を、これからするのだと決意した。
久し振りに“あれ”をやるのだ。
「フッ、フフフッ……」
志木にはああいったが、受験勉強で溜まってる物があるのも事実。
これで一気に、発散させてもらおうか!!
織部さん!
赤星さんを勧誘している間に、逆井さんの洗脳――もとい親友パワー切れて来てますよ!
志木さんは、織部さんの無二の親友を味方に引き入れている間に、裏のリーダーとして期待している赤星さんが奪われようとしている!
うーん……勇者と魔王の壮絶な争い。
これは一般人()の新海さんには止めようがないですなぁ(白目)




