38.買うべきか、買わざるべきか、それが問題だ。……主に教育上!!
ふぅぅぅ。
ちょっと長くなりました。
まあ難しく考えず、気楽に読んで下さい。
「ただいまぁぁぁ……」
クタクタになりながら、家に帰って来た。
もう既に夕方だ。
今回の攻略ではDPへの変換を選択し、現状69133DPとなっている。
何でそうしたかっていうと、ダンジョンと色々やり取りしてる暇がなかったから。
だって外に探索士たちが沢山いる状況だったんだもん。
帰りもDD――ダンジョンディスプレイのテレポート機能使ったし。
今回ばかりはしょうがない。
「お帰りなさいませ、ご主人様……」
靴を脱いでいると、ラティアがリビングから玄関まで出迎えに来てくれた。
何か洗い物でもしていたのか、エプロンを使って手を拭いている。
……サキュバス服にエプロン。
そして首輪や、両腕両太腿にはベルトも装着済みと来た。
クッ、手強い!
「リヴィルは?」
一瞬グッと来てしまったのを誤魔化すように、俺は尋ねる。
「……寝てしまいました。昨日からあまり睡眠をとっていなかったようで、さっきまでご主人様のお帰りを待っていたのですが……」
「……ほんとだ。グッスリ寝てる」
ラティアに先導されるようにリビングに入ると、直ぐにソファーへ視線を向けた。
そこには、猫のように丸まって眠っているリヴィルの姿が。
そして、何故か俺の服をブランケット替わりに使っていた。
それ……今朝俺が着替えて脱いでいった奴。
フードがあるもので、そのフード部分が鼻辺りに来るようにしてリヴィルの上に掛かっている。
……その服、汗かいてるからやめて欲しいんだけど。
「フフッ……どうしましょう、起こしますか?」
小さく笑って、ラティアはそう尋ねてくる。
だが、答えはもう分かっているのだろう。
「……いや、もう少し寝かせてあげよう――エプロンしてるってことは、夕飯作ってるのか?」
リヴィルを起こさないよう、リビングから離れる。
そして足音に気を遣いながら、俺たちはキッチンに。
小さな鍋が火にかけられている。
どうやらお湯を沸かしているようだ。
「はい、今日はご主人様も、リヴィルも疲れているかと思って、冷しゃぶを――あっ!!」
「ん?」
ラティアは冷蔵庫からトレーに入った豚肉を取り出そうとして、何かに気づいたように慌てて向き直った。
「食事の後で、ご相談があるのですが」
ラティアからは、特に気負った様子も、それを告げることに対する後ろめたさみたいなものも見受けられなかった。
「……分かった」
まあ、今後一緒に暮らしていくんだ。
相談の一つや二つあるだろう。
俺は頷いて、リヴィルが起きるまでの間、ラティアの料理の手伝いをするのだった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
『追加のダンジョン探索士10名、東北入り~ダンジョン攻略経験者の4人も帯同か~』
『お手柄!! ○○県の氾濫ダンジョン、男子高校生探索士2人が攻略!!~これで世界で攻略2例目~』
「ふむ……」
食後、ラティアが入れてくれた冷たい麦茶を飲みながら。
俺はノートパソコンを開いてネットニュースを見ていた。
ラティアの相談事というのはもう既に聞いている。
というか普通に買いたい物があるから、買ってもいいか、というものだった。
なので、今。
その手続きを終わらせる前に、ネットニュースを覗いている、というわけだ。
ラティアもリヴィルも。
俺が出かけている間、暇を持て余しネットで欲しいものがないか漁っていた。
ラティアとリヴィルも俺と同じく75000円、買い取ってもらった対価として得ているのでお小遣いはあるのだ。
それで、ネットの大手通販サイトの買い物かごに入れたので、購入手続きをしたい、と。
ラティアは“勉強したいんです!! 少しでもご主人様のお役に立ちたくて!!”と熱く語ってくれた。
……嬉しいが、もっと自分のことに使ってくれていいのに、と思わなくもない。
「えーっと、何々……『1週間程度を目安に、モンスターを駆除しきる予定だ』か。逆井、じゃあ明日以降は公欠かね……」
俺はニュースに目を通しながらも、考え事を進め、整理する。
購入代金それ自体はラティアのお小遣いから出るが、厳密にはアカウントは親父が俺のために作っておいてくれたものを介する。
つまり一番初めの代金決済はどうしても俺の口座から引かれるのだ。
だからラティアは自分の自由にできるお金を手にしながらも。
俺に了承を得る必要が出てくる。
……今後、アカウントも、ラティアやリヴィル用の物を用意できないものだろうか。
「『男子高校生の探索士2人が、大手柄を上げた。溢れたモンスターを倒すだけにとどまらず、何とダンジョンを攻略すらして見せたのだ』ああ……やっぱりそういう感じになんのか」
記事をざっと読み、内容を把握する。
先ほどのことはもう既に公になっている。
しかし、やはり事実とは異なることが書かれていた。
まあ、その方が俺としては好都合なんだが、何だかな……。
ちょっと微妙な気分。
別に誰かに自分を褒めて欲しいとか。
実は自分が攻略したんだぜ、ということを誰かに言いたくてうずうずしているとか。
そういうことはない。
ただ、ただなぁぁ。
「なんか手柄を取ったことになったのがあいつ等ってのが、なぁぁ……」
だって普通に逃げられるのに、逃げずに勝手にボコボコサンドバッグになってたんだぜ?
何かこう、モヤモヤが残らない?
う~ん。
まあいいや、と俺は気持ちを切り替えて、記事を閉じる。
そして、開かれたままのバーをクリック。
画面が、大手通販サイトのページに変わる。
「さて、淡々とやっていきますかね……」
何か考えると、どうしても先ほどのことがチラついてしまう。
俺は黙々と、購入手続きを進めていった。
「はいはい……『お届け先住所』もこれでいいですよ……」
表示されているのは登録済みの自宅。
「金額も……『86021円』はいはい。事前に二人から貰ってるよ……」
一見高額に思えるが、ちゃんと二人が自分の購入分の金額を先に渡してくれていた。
だから特に俺がとやかく言うことはない。
さて、後は最終確認で商品を見て行ってっと――
「『ノートパソコン』か……本当にラティアは勉強熱心なんだな」
自分用が欲しいなんて。
ほんと、ラティアには頭が下がる。
他の物も、きっとラティアが勉強する上で必要な教材なんだろう。
俺はさっきのネットニュースの記事の如く、サッと流し読みする気分で目を通していく。
――『ポンコツなエロサキュバスの孕ませ方』ね。
はいはい、同族であるサキュバスについての参考書かなんかでしょ。
――『純潔を散らそう!!~異世界に来た俺が、チートになって大人しそうなあの子と白濁混じりの淫らな性活を送っちゃうまで~』
OKOK。ラティア自身が異世界から来たんだもんな、伝記物か何かでしょ。
――『エムドレ!!~ドMなサキュバス奴隷を手に入れた俺は、エナジードレインされてみたいので発情するよう飼育してみた!!~』
ははん、なるほどなるほど。
今度は逆に襲う側の視点になってみたい、と。
流石はラティア、研究熱心だなぁぁ。
……ん?
俺は何か大切なことを見落としているような感覚に襲われる。
その直感に従って、スッと視線とマウスホイールを上へと戻した。
そこには、商品名の上に実際の商品イメージを示す絵が映っている。
3つとも、パッケージだった。
そのパッケージ絵には、可愛らしい女の子が描かれていて。
それぞれ開放的な服を着たり、あるいは羞恥にまみれた表情で正面を向いている少女など様々だ。
「…………」
――勉強っ!!
俺は頭を抱えた。
そうだ、これ親父が“俺のために”用意してくれたアカウントだ!!
思春期真っ盛りとなる青少年の“俺のために”。
――つまり、18禁も買えてしまう!!
えっ、ラティア普通に俺にお願いしてきてたじゃん!!
全然そんな素振りなかったよね!?
“そ、その、恥ずかしいものなので、あまり見ないでください……”とか、そういうの!!
俺バッチリ見ちゃってんだけど!!
タイトルも内容もこれ、調べれば出てくるよ、いいの!?
『勉強したいんです!! 少しでもご主人様のお役に立ちたくて!!』
ラティアの言葉がスッと蘇ってくる。
あれは、確かに冗談とか、恥ずかしがっているとか、そんな感じではなかった。
――ってことは、えっ、これマジなの!?
マジでラティアはエロゲーで勉強しようとしてんの!?
「嘘やんっ!!」
思わず呟く。
俺にどうしろと……。
「――どうしたの、マスター?」
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「リ、リヴィル……」
声がした方を振り返ると、そこには不思議そうに俺を見下ろすリヴィルがいた。
「何か、マスターが困ってるみたいだったから、声かけたけど……」
「い、いや、何でもない!! ちょっと、購入手続きどうすんだっけかな、って」
慌てて誤魔化したものの、これ全然誤魔化せてないぞ……。
普通にPC画面には、今まで見ていた最終確認ページが映ってるし。
「……ああ、これ」
リヴィルがそっと髪をかき上げながら、隣に腰を下ろし、画面を覗いた。
……柑橘系の凄い良い匂いがフワッと漂ってきたぞ。
あれっ、使ってるシャンプーとかって別だっけ?
そんな場違いな感想を抱きながら、何とか話を別の方へと持っていけないか画策する。
「リヴィルはどんなの欲しいんだろうなってのも、まあ気にはなってな……」
咄嗟に出た言葉だが、案外いいんじゃないかと思って、話を広げる。
「えっと……『ホットパンツ 黒』『シャツ 黒』『ロングカーディガン 黒』『ニーソックス 黒』……見事に黒ばっかりだな」
「うん、普段着、買った方がいいってラティアに言われて」
いや、苦笑したのはそっちじゃないんだが……。
「リヴィルは……黒色、好きなのか?」
そういえば、こういう個人的な趣味嗜好について、リヴィルに聞くのは初めてかもしれない。
俺がそう尋ねると、リヴィルはしかし、頷くわけではなかった。
「ううん。好きってわけじゃないけど。マスターが、黒、好きそうだったから」
「えっ……もしかして、俺が好きそうな色だから、衣類の色、黒で統一してんの?」
「そうだけど……」
マジか。
いや、確かに俺、黒好きだけど……。
「えーっと、じゃあリヴィルが色って聞いたとき、初めに思い浮かべる色って、何だ?」
ちょっと角度を変えて攻めることにする。
それが良かったのか、リヴィルは顎に手を持って行って熟考の姿勢に。
そして、沈黙するではなく、きちんと答えを出してくれた。
「青色か……白、かな。私【水魔法】と【風魔法】使えるし」
「なるほど……」
水から青を連想するのは分かるが、ふむ。
リヴィルは風から白を想像したらしい。
まあその部分は人によって感性が違うから、俺がどうこう言えるものじゃないだろう。
「じゃあ、これ、追加で青色と白も入れとけば? 何ならそれは俺が出すし」
合計で2万円ちょっと。
まあリヴィルのことを考えれば、決して悪くはない買い物だと思う。
「え? いや、大丈夫。貰ってる分から出すよ。お金がかかってるのはこっちの方だし」
そう言ってリヴィルは、俺がマウスを握っている手の上に、自分の手を自然に重ねた。
そしてホイールを動かし、別の入っていた商品を指す。
……無茶苦茶近いんだけど。
ってかドキッとするからやめて欲しいんですけど、そういうの。
リヴィルは何か普通に距離が近いんだよ。
普段もそうだけど、グッと近づく時、全然躊躇ったりしないし。
ちょっと……大胆過ぎない?
「『コスプレ衣装 バニーガール』……『コスチューム レースクイーン』……えっ、これ?」
「うん……」
意外だった。
あんまり私欲というか、何か積極的に欲しがるイメージが無かったリヴィルが。
こんな、その、かなり自己主張というか、肌の露出が激しい衣装を欲しがるなんて。
「マスターが喜ぶ衣装ってなんだろう、って相談したら……これとこれが、多分似合うだろうって」
「えーっと、ラティアが?」
「うん」
――ラティアの入れ知恵か!!
クッ、手強い、手強すぎる。
まさかリヴィルを刺客として送り込んでこようとは。
……いや、まあ……似合うとは思うよ?
そこは否定できないけど……。
「……リヴィルは、その、どう思う?」
「“どう”って? ――ああ、ラティアの買いたい物のこと?」
俺の抽象的な質問も直ぐに察して、リヴィルは答えてくれた。
「……凄く、うん、エッチだとは思うよ? えっちぃ。私はちょっと恥ずかしくて、やるには勇気がいる」
そこまで答えてくれなくてもいいのに。
リヴィルは大事なことだと言うように、頬を少し赤らめながらも、一つ一つ丁寧に、言葉にしていった。
「でもさ、ラティアってサキュバスなんでしょ?」
「……ああ」
「サキュバスにとっては、エッチなこと、性的なことって、その人・個を形作る上で、すっごく大事な要素なんだと思う」
「……そうだな。それに、ラティア、凄く真面目に、熱心に、お願いしてきたからな」
改めて思い出しても。
ラティアが本当に色んな事を勉強したいんだという気持ちが伝わって来た。
……そう思うと、迷う必要はない、のかな。
「……こんな答えで良かったかな? マスターの力になれたならよかったけど」
「――ありがとう、リヴィル。凄く参考になったよ」
本当に。
リヴィルは“導士”のジョブを持つだけあって。
人に道を示してあげることが上手いというか。
大事なことをちゃんと見ているって感じがする。
上手く言えないけど、うん。
「そう? ならよかった。これからも、困ったら何でも聞いて」
……“何でも”はちょっと、流石に無理だが。
「ああ、リヴィルに相談してみてよかったよ。リヴィルが一緒にいてくれて良かった」
「…………マスター、そういう所じゃない?」
「え、何が」
唐突にリヴィルがプイと顔を逸らしてそんなことを言う。
……本当に何。
「はぁぁ……まあ、いいけど。――あんまり、ラティアや私以外に、増やし過ぎないでね?」
「いやだから何を!?」
その後も何度か尋ねてみても、ちゃんとした回答が返ってくることはなかった。
何故だ……さっきは何でも聞いてって言ってたのに。
仕方なく、俺はヘッドフォンを追加でカゴに入れ、購入手続きを進めたのだった。
バカっぽい話をしているようで、実はちょっと真面目な話もしている、そんな感じのお話でした。
次話は逆井さん達の活躍が主な話になるかと思います。
では、現在までのご評価いただいた方は……766名に!
ブックマークもとうとう7000件を超えましたね!
総合ポイントも2万を超えて、1000ポイント。
更に頂いた感想も100件を超えました。
ありがとうございます、夜に書くことが多く頭が回らず自分でも何を書きたいか、何を書いたらいいか分からなくなる時もしばしばです。
また、他にも書きたいことや、連載中のものもあり、色々手が回らずに焦る気持ちは日々増しています。
そのような中、皆さんにご声援・ご愛読いただいているという事実が、間違いなくモチベーション維持に繋がっております。
本当にありがとうございます。
今後も、是非ご声援・ご愛読いただけましたら幸いです!




