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閑話⑦.もしも異世界に行ったら……。

ま、間に合った……。

エイプリルフールですので、もしもネタです。


本編とは関係ないネタとなりますので、読まなくても支障はないようにしてあります。


それを踏まえたうえでお読みくだされば幸いです。


ではどうぞ。



「あぁぁ……何だろうなぁ、嫌だなぁ、怖いなぁ……」


「……ご主人、それ宿屋を出てからずっと言ってるよ?」


「フフッ、マスター、もうそろそろ慣れたら良いのに」


 

 ルオの呆れ顔、それにリヴィルの苦笑に上手く返す元気がない。

 だがそれも仕方ないと思うのだ。


 周りを見れば、獣人、エルフ、ドワーフ、それに魔族だっている。

 道路を行き交う車などは一切見当たらず、代わりに目にするのは馬やモンスターがけん引する馬車ばかり。 


 当初こそ驚きと興奮で頭が一杯になり、良い意味で他のことを考える暇もなかった。

  

 だが冷静になれる時間があると、話は別だ。

 火や水は魔法に頼らないと満足には使えないし、食料事情も地球(あっち)ほど整っていない。

 


「あはは、ニイミ様。そう気を落とされずに。本日私達はギルドに行って、報告するだけです。後はゆっくりすれば大丈夫ですから」



 隣では今まで画面越しにしか見たことがなかったエルフの美少女――サラが健気に励ましてくれる。


 今でもまだ信じられないが、サラが隣にいることが一番、この瞬間が現実なんだと俺に分からせる。



 そう――




「っつってもなぁぁ……。いきなり“異世界(こっち)”に来ることになるなんて、思いもしなかったから」

   



 突如として異世界に転移して約一月と数日。

 俺は未だにこちらの世界に慣れないでいるのだった。





「まぁでも、ボクも最初はビックリしたな~! サラお姉さんと会えたのもそうだけど、何よりカンナお姉さんにも会えたし!」


「ウフフッ、ですね。カンナ様もずっと喜んでいらっしゃいますからね……ニイミ様が来てくださって、私も大助かりです」


「……俺は異世界に来て、それが一番の頭痛の種だがな」



 サラが目の前にいると言うことは勿論、織部とも同じ世界にいるということで……。

 

 今はラティアとレイネ、それにロトワの3人と別行動をとっているから、織部はここにはいないものの。


 

 夜になったらまた拠点の宿にて落ち合うことになっている。

 サラが今まで担っていた織部の手綱引きを、俺も半分背負わされるのだ。


 ……はぁぁ、憂鬱(ゆううつ)だ。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「うわっ――やっぱり凄い人の数だな……」


「そう? 冒険者ギルドの中なんていつもこんなもんだと思うけど……マスターも、早く慣れた方が良いと思うよ?」



 異世界モノ定番の、冒険者ギルド。

 荒くれものたちが集まる大きな2階建ての建物に入って行く。


 今日で何度目の来訪になるだろうか……覚えてない程来ているはずなのに、未だに慣れない。

 そんな俺を気遣ってか、リヴィルはサラと二人で前を歩いてくれる。 


 

 ワイワイガヤガヤと賑やかだったが、二人の美少女の登場で、話し声が一瞬止む。

 だが直ぐに再開され、話題が二人のことで一色になったのを感じた。

   

 あちこちから好奇の視線が向けられる。

 

 まあ、サラもリヴィルも、飛びきりの美少女だからな……。



「ご主人っ! 大丈夫、何があってもボクが守るからね! ――あっ、勿論、カンナお姉さんも何かあったらすぐに飛んできてくれるよ! 何たって“Sランク冒険者”さんだからね!!」


「……ああ、はは、ルオ、ありがとうな」



 ルオの純粋な気持ちに心がジーンと温まるも、同時に申し訳なさも出てくる。

 織部がこの異世界にて最強の一角と同義である“Sランク冒険者”だと言うのは、俺達の中での共通認識であった。


 しかし、未だルオ、そしてレイネには織部が“勇者”だと言うことは伝えられていない。


 

 折角ルオ、レイネ、そして織部が同じ世界に立つ機会が出来たんだ。

 もっと仲を深める機会を作って、それで真実を言ってもいいタイミングを見つけられればと思うんだが……。 



「――グヘヘ、おいエルフのお姉ちゃん、それにそっちのクールなお嬢さんも。俺達と遊ばねぇかい?」


「俺達ゃこの国で3つしかいないBランククランのメンバーなんだぜ、どうだ、凄いだろう?」


「さっきもゴブリンキングを討伐してきたところなんだよ。へへっ、ちゃんと楽しく遊んでやるからよ」



 おおぅ、これもまた異世界恒例の新人イビリか。

 いや、というよりはただの酔っぱらったオッサンの絡みかな?



「……すいませんが、急いでおりまして。通してもらえると有難いんですが」


「……はぁぁ。ラティアがいなくてもこうなっちゃうのか」



 あぁぁ、同じようなことあったんだ。

 そっか、そりゃラティアなんて異性からしたら“ドエロい”って概念がそのまま具現化したようなもんだからな、うん。


 あの圧倒的なエロい雰囲気には地球も異世界もないってことだろう。

  

 流石はラティアである。

 尊敬と畏敬(いけい)の念を込めてラティアさんと呼ぼう。


 ……何か周りでラッキースケベが起きそうだから止めた方がいいかな?



「――おいっ、バカッ、止めとけって! 後ろにいる男、“孤鋼(ここう)”だろうが! “光速のカンナ”まで敵に回したいのか、お前ら!」



 二人に絡んだ男たちを止める様に、一人の男性が割って入る。

 深くフードを被っていて、どのような容姿かは見て取れない。


 しかし声は若く、俺と近い年頃の青年かなと思った。

 

 

 絡んだ男たちは止めてくれた青年には目もくれず。

 


「はっ!? えっ、あの“最速でSランク冒険者になった”っていう、あの“光速のカンナ”の連れ!?」


「ってか“孤鋼”ってマジかよ!! コイツが!? “一人で1000体のモンスターを引き付けて生き残った”って伝説作った男!?」 



 ヤメテェェェ!

 それ異世界来て右も左も分からなかったときの黒歴史ぃぃぃ!!


 

 俺ももっと他の二つ名が良かった!!


“どこにでも現れる神出鬼没の謎の男 黒霧”とか!

“Sランク冒険者にして最強の死霊使い(ネクロマンサー)”とか!!



 織部や俺の二つ名を聞いた途端、リヴィルやサラの周りからはドンドン人が離れて行った。

 

 興味深そうに見ていた他の男勢も、先程よりも3歩ほど距離を取っているように見える。


 

 ……まあこれくらいが丁度いいか。

 


「あれ? ……さっきの青年は?」


 

 絡んできた男たちの仲間かと思っていたが、離れて行った奴らの中に、あのフードの青年はいなかった。


 首を傾げていると、リヴィルとサラが小声で話せる距離に近づいてくる。



「……あそこ。あの女性2人と一緒にいる、多分あれだと思う」



 リヴィルが受付のいない、閑散としたギルドカウンターの一角を指差す。

 そのスペースを利用して、他から視線を嫌うかのように3人組がいた。


 小さな少女が腰に手を当て、プンスカとフードの青年に説教している。

 それを角の生えた女性が苦笑しながら見守っていた。


 

「エルフ?……いや、ハーフエルフかな? 多分、同族だと思います」


「竜人も連れてるね……珍しい」



 サラとリヴィルがそう教えてくれた。

 異世界出身の二人から見ても珍しい組み合わせらしい。



“ハーフ”とはいえエルフ同士だったら、見たら分かるのかな……?

 リヴィルは特に、その“導士”というジョブの来歴から、“竜・竜人”相手には敏感だ。


 

 はぁぁ、異世界……大変だなぁ。

 


 織部はこんなことを毎日繰り返してたのか。


 それを想い、今後もう少し織部に優しくしてやろうと考え直す。

 そしてその織部と行動をともにするラティア達が今どうしているのかと心配するのだった。



□◆□◆Another View ◆□◆□ 



「ウフフッ、まさか、ラティアさんと並んで買い物に出られる日が来るなんて、思いもしませんでした」


「私もです。カンナ様と……それに、ご主人様とも。こうして故郷のある世界に一緒にいるだなんて。今も信じられません」



 織部とラティアは久しぶりの休日を楽しんでいた。

 二人並んで町の市場を、目的なく散策しているのである。



 青年たちと別行動をとったあと、更にレイネ・ロトワとも集合時間を決めて分かれた。

 

 異世界へと来て皆ドタバタ続きだったため、織部が気を利かせて休みを作ったのだ。


 

「新海君もそうですが、ラティアさん達も。本当はもっと休んでくれてても良いんですよ? 私とサラだけでも十分に皆さんを養えるお金は稼げてますし」


「いえ。働かざる者食うべからず、ですから! ……それにご主人様とカンナ様と一緒に冒険できるの、凄く楽しいんです。皆もそうだと思いますよ?」

 

  

 事実、ラティア以外の4人も、皆活き活きと冒険者としての依頼をこなしていた。

 地球でやって来たことの延長上でお金がもらえる。


 更に自分達が慕う青年とずっと一緒にいられるのだ。

 そこに織部達も加わるとなると、騒がしくも飽きる暇ない日々の出来上がりだった。


 

「そうですか……それなら良かったです。――さて! では折角の休日です。お買い物、楽しみましょう!」 



 ラティアの言葉から要らぬ心配だったと察し、織部は直ぐに切り替える。


  

 年頃の女の子二人での買い物だ。

 想い人の話題や何でもない日常の話、地球では今どうなっているだろうか……話題が尽きることは無い。



「フッフッフ……梨愛や志木さんは今頃ハンカチを噛んで悔しがってるでしょうね! 先ずは新海君を異世界の虜にして、それから梨愛たちを異世界へと招待です!」


「フフッ。そのためには、先ずこの世界を救って、地球へと戻る術を得ませんと」



 市場の出店を眺めては会話に花を咲かす。

 時折気になる人物や商品を見て足を止め、意見を出し合うこともまた二人にとっては楽しい時間となるのであった。



「……おや、あのお二人。相当お強いですね。戦闘は御免願いたいくらいです」


「カンナ様がそこまでおっしゃる程ですか……あっ、同族の子、かな?」



 食料品を買い込んでいる二人組の少女達。

 狼獣人(ワーウルフ)の女の子と、それからラティアが目にとめたのは同族――サキュバスの少女らしい。


 

 ただだからと言って何かがある訳ではなく。

 これも、二人の休みを彩る話題の一つに過ぎない。



 異種族の少女二人が荷物を抱え、楽しく家路につくのと同じ様に。

 織部とラティアも、露店の美味しそうな食事を買って、青年たちへの土産にする。



「フフッ、カンナ様、こんなに買っても、残しちゃうかもしれませんよ?」 


「いえいえ、大丈夫です、勝算があるので。フフ、フフフ……これはルオさんとレイネさんへの賄賂(わいろ)です。たっぷり食べて、私への好感度を上げてもらいますよ」



 青年が気にしていた様に、織部もまた、ルオやレイネとの仲を心配していたのだ。

 折角異世界にて一緒にいる機会が出来たのだから、“勇者”と言う過去からの障害を乗り越え、打ち解けて欲しいものだ……。



「……あら? カンナ様、こちらの、液体は?」


 

 ラティアが目敏く、購入した商品の一つを取り上げた。

 ビンに入ったピンク色の(まが)々しい液体である。

    

 明らかに普通の薬品ではないですよと言わんばかりの色を放っていた。



「あっ、えーっと…………さ、さぁ? “滋養強壮(じようきょうそう)に良い物を下さい”と言ったらいただけましたヨ?」


 

 声が裏返っている。

 この勇者、確信犯である。



「……そうですか、分かりました」



 だがラティアはツッコまないことにした。

 事情を察した後は無言で頷き、商品をサッと中に戻す。

 


 この淫魔、共犯である。 



 はぁぁ……異世界、大変だなぁ。

 特に青年は……いや。


 青年は地球だろうと異世界だろうと、大変さに変わりはなかったらしい。



□◆□◆Another View End◆□◆□  

織部さんとラティアがタッグを組んだ!!

逃げて、主人公超逃げてぇぇ!!


異世界に行ったら、多分毎日が死闘の連続でしょうね……。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 光速のカンナ、電動工具みたいな二つ名ですね。 孤鋼、カッコいいですねいかにも中二心をくすぐります! [一言] にゃーん♪  ∧∧ (・∀・) c( ∪∪ )
[一言] >ま、間に合った……。 >エイプリルフールですので、もしもネタです。 (エイプリルフールは午前中まででは……いや、よそう、俺の勝手な推測でみんなを混乱させたくない。) > 突如として異世界…
[一言] カイト、エフィー、リゼルとシア、カノンかな? さすがにあっちまでは手が回らないでしょうけど、たまには…
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