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386.何でそうなんのぉぉぉ!?

お待たせしました。


な、何とか、出来た……。


では、どうぞ……(グッタリ)。



『パコッ! トカゲだパコッ! 火を吐くトカゲがいるんだパコッ!』



 先行して偵察してくれた精霊が帰還し、俺とレイネへと情報を伝えてくれる。

 モンスター達はその存在を認識できないのに、逆に精霊達はモンスターを視認して情報を伝達できるという理不尽なまでの特性。

 

 それを遺憾(いかん)なく発揮してくれるのは嬉しいが、喜びの舞みたいなダンスは止めて欲しい。



「ナイスだぜっ、サンキューなパコピー! ――っし、隊長さん、だってよ!」  


『パッコ、パッコ、パコォォォ!』 



 レイネに褒められ、ハート型の精霊はテンション最高潮に。

 前後への動き激しく、最大限の喜びをあらわにした。


 ……コイツ、見方によっては凄い下品なダンス踊ってるよ?  

 まあレイネが良いならそれで良いけども。

 

 

「火を吐くトカゲ……ドラゴン、とは違うっぽいのかな?」



 闇だったり、風だったり。

 この愛の精霊は他の属性の精霊よりも、余程コミュニケーションに優れる精霊ではある。

  

 コイツが“ドラゴン”とは表現せずあえて“トカゲ”と言うんだから、脅威度はそれ程でもないんだろう。



「……どうする? リア達を呼んで早速行くか?」



 頷き、近くで待機してくれていた逆井らの下へと向かう。

 近づくと、立花が顔を真っ赤にして俺達に話しかけてきた。



「あ、あの! 一つ、聞いても良いだろうか!!」


「えっ? あぁ、うん」



 その勢いに驚いて思わず頷く。

 立花は顔がくっ付かんばかりに前のめりになって、口を開いた。


 

「さっ、さっきから二人の話し声がチラチラとコチラにも聞こえていた! その、ぱっ、“パコ”とか“ピー”とか! ――これからもしかして、私達はエッチなことでもしないといけないのだろうか!!」



 ――いや、しなくて良いから!

 それ、ただの精霊の愛称だから!!

  

 

「あー、えっと、その、気にしなくていいから。うん、そう言う事はない。“パコ”とか“ピー”は俺達二人だけに通じる暗号というか、合言葉みたいなもんです」 



 事実を語っているのだがやはり内容が内容だけに、立花はすぐには信じてくれず。


 どうしたもんかと頭を痛めていると、空木と逆井がとりなしてくれた。



「あのー。今の司ちゃんとお兄さんの距離の方がエロいこと始まりそうな気がしましたがご意見は?」


「っっ!? っ~~~~!!」 


 

 顔の近さに今頃気付いたと言う様に、立花はバッと後ろに飛んで距離を取る。


 ……何か傷ついた。



「もう殆どキスできそうなくらい近かったよね~! ニシシ、新海、役得だったね~」



 いや、むしろキモがられた説すらあるんだけど。

 ……まあ俺と同時に“パコ”と“ピー”の話題からも離れてくれたんなら良かったよ。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆ 



「……っし。行くぞ、言った通り、焦らなくて良いから」



 話を終え、目的の場所に移動した。

 緩やかなカーブから顔を覗かせると、確かに舌を這わせるトカゲがいた。


 

 大型犬よりも少し小さいくらいで、その体全体が赤い。

 そして舌をチロチロと出し入れしては、吐息のたびに火を吐いている。



「……っ!!」


 

 一人で真っ先に飛び出した。

 3体いるが、全員がこちらを向いているので先制は難しいと判断。

  

  

 即座に【敵意喚起(ヘイトパフューム)】を発動して注意を一身に引き付ける。




「シュルッ!!」


「シャァッ!!」



 挨拶替わりとばかりに2体が火を噴いて来た。

 だが合わさっても俺の体の半分にも満たない炎。



 両腕をクロスしてガード。

 肘から先の袖が燃えたように感じたが、全くダメージはない。



 ハンッ、こんなの、炎スライムに比べたら無いも同然だぜ!



「おいおい、この程度かよ……」


 

 強者感を出して更に挑発。

 攻撃しなかったもう1体も完全に注意が俺へと向いた。



 その間に逆井が立花達を誘導する。

 素早く静かで、乱れがない。



 アイドルとしての姿ばかりを見知っているから、思わずその無駄の無い動きに感心した。


 

「しゃぁっ、ドンドン来いやトカゲ共っ!!」



 俺が注意を引き付けている間に、逆井が促し、3人の攻撃が始まった。


 立花がモンスターの背後から、特徴のない剣を振るう。

 光原姉妹はそれぞれ片手に短剣と丸盾を持って、立花に続いた。



「やぁぁぁっ!!」


「えぃっ、せぃやぁ!」


「っ、ぃっ、えやっ!」



 完全に後ろからの切りつけで、次々にヒットしていく。

 しかし、やはりダメ―ジが通ることは10回に1回も無い。


 それでも動じることなく、剣を振るい続けた。



「――和奏ちゃんっ! 尻尾が一番短い奴っ!! そいつ狙って!! 凛音ちゃんは司ちゃんと1体をリンチで!」



 後衛にいる空木が声を張って指示を飛ばす。

 今回は弓矢の使用は最低限にとどめ、3人のフォローに徹していた。



「隊長さんっ!! チビのファイアリザード、そろそろヘイト切れそうだぞっ!! リア、難そうなら言ってくれ! あたしも行くからっ!」



 レイネは空木の護衛、そして状況に応じて投入できる遊撃として機能していた。

 逆井と息を合わせ、俺が把握できないモンスターの動きをカバーしてもらう。

  

 

「オッケーレイネちゃん! 今んところ、大丈夫っ!」



 その言葉通り、上手く動いてヘイト管理を手伝ってくれる。

 


「シャラッッ!!」


「シュルルゥゥ!」


 

 流石に何度も何度も切りつけ続ければ、モンスター達も意識がそちらへと行きそうになる。

 俺も何とかずっと注意を引き留め続けようとはするが、一瞬とは言え空白が出来てしまう時もある。


 そこを見計らい、逆井は絶妙なタイミングで火トカゲに槍の一撃を入れてくれるのだ。


 

「ナイスだっ、逆井!!」 



 そこで再びその網から抜け出しそうになった1体にヘイトを掛け直す。

 これの連続で、一方的な攻勢を可能にしていた。 

 


「っし。今回はこれくらいで良いだろう――せぁっ!! はっ、たぁぁ!!」


 

 そして頃合いを見て、レイネがモンスターにトドメを刺して、経験値にする。

 3人は始めの頃の逆井や空木の様に、とても効率的に戦闘経験を積んでいた。

 


□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「コイツもっ、これだけっ、振るっても! 全然、こっちを、見ないぞ!!」

    

「っ! 我が軍の手数、圧倒的ではないか!!」


「ダメージ、あんまり、入ってないけど、ね!!」


 

 一番最初のも合わせると、これで6度目の戦闘となった。

 モンスターとの戦いを重ねる毎に、ダメージが通る回数も明らかに増えて行く。


 それを実感してか、短期間での連戦にもかかわらず、3人は元気に武器を振るい続けていた。



 超人気アイドルとして多忙な日々を送っているのが、このタフさにも少なからず影響しているのかもしれない。


 若いねぇ……。



「よしっ――レイネちゃんっ!!」


「おうっ!!」



 逆井が戦況を見極め、レイネにモンスター達へのトドメを求める。



「はぁぁっ!!」


「■k〇☆×♂r!」



 バスケットボール大の火の玉を核にして、そこから火の腕が生えたモンスター。

 非生物特有の意味にならない音を発し、俺へと明らかな敵意を向け続ける。

  

 

 そこへ、レイネが完全に不意を突いた一撃を放った。

 核の部分が真っ二つに割れ、そのまま地に落ちる。

 


「せぁぁぁっ!!」



 続けざまにもう一発。

 俺に注意が向いたもう2体を、両の刃で十字に切り裂いた。



 生き物の様な形を保っていた炎はただの意思を持たぬ火に変わり、やがて消滅したのだった。 



「ふぅぅ――」



 レイネが一息吐いて力を抜いたのを見て、全員が戦闘の終了を感じ取る。 




〈Congratulations!!――ダンジョンLv.12を攻略しました!!〉 



 おっ、攻略か。

 


「嘘っ!? ほっ、本当にか!?」


「や、やったのか!? 我は、我はついに、やったのかっ!?」


「あはは……つかちゃんも凛音(りおん)ちゃんもはしゃぎ過ぎだよ。私達、1体も倒せてないのに」



 光原姉――和奏(わかな)もそうは言いながらも、表情には充実感があった。


 ここに来た当初よりも、自分達が成長した実感を確かに得てるんだろう。



「新海っ、お疲れ! やったね!」


「おう、お疲れさん。……約束通り、このダンジョンは貰って良いんだよな?」 


 

 このダンジョンを攻略する報酬として、いつものようにお金の振込みがあるとは聞いている。

 ただそれとは別に、このダンジョン自体を自由にして良いと言うお墨付きも志木から貰っているのだ。



「うん、大丈夫! 消える分には全然問題無いって、かおりん言ってたし!」



 なら良かった。

 俺が今支配しているダンジョンの経験値として消費しようと考えている。


 要はダンジョン自体のレベルアップの餌として消えてもらうのである。

 志木達以外に、発生元であるアパートの住人達がここの存在を認識しているので、経験値として消えてもらった方が何かと便利なのだ。




「――あっ、あの、新海君!」 



 逆井と簡単なやり取りをしていると、立花が話しかけてきたのだった。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「えと、あの、新海君! その、本当にありがとう! まさか、今日一日だけで、こんな直ぐに効果が実感できるくらいになるとは、思ってもなくて……」


 

 ああ、まあねぇ……。


 

「いや、気にしなくても――」 


「――お兄さんと一緒に戦うと効率が全くの段違いだからね~」



 気を遣わせまいと口を開いた途端、空木に遮られた。

 ジト目で睨むが、空木は気付いているだろうに無視して続ける。



「普通はこんな美味しい、安全の確保された戦闘なんて出来ないってこと、司ちゃんなら分かってるでしょ?」


「……ああ」



 空木に言われ、改めて(かしこ)まった表情を作り、立花は俺に向き直ってくる。



「――本当に感謝しかない。私一人だけじゃなく、和奏や凛音まで一緒に連れて来てくれて。ありがとう」


「いや、だから何度もいいから。志木達から貰うもんは貰ってるからな」



 そう言っても、立花は直角に折った体をそのままに、頭を上げない。

 義理堅そうな、それでいて融通の利かなそうな性格がにじみ出ている気がした。


 何でもない場面なら好感が持てるが、今この場でそれをされると対応に困る。



「――その、私も、凛音ちゃんも。感謝してます、ありがとうございます、お兄ちゃん」


 

 妹を従え、光原姉までがこちらにやってきて感謝を告げてくるので、流石に逃げようかと思った。

 

 だが光原姉は直ぐに頭を上げ、語り始める。



「私だけじゃなくて、凛音ちゃんも、それに司ちゃんも。こんなに安全で、こんなに生傷なく、こんなに充実して戦える時なんて、一回も無くて……」



 苦笑気味に言われてハッとする。

 光原姉は笑い話のように語るが、それはでもスルーしてはいけない、とても大事なことの様な気がした。


 

「うむ! 我らも迷宮の真理を探求する者として戦うことは多いが、そこの戦隊娘(せんたいむすめ)などは特にな! 我らよりも体を張ることがメチャ多かろう!」


「司ちゃん、生真面目だからね~。あんまり戦えなくても、行ける時にはドンドン付いて行くもんね、他の人の探索」

   

   

 光原妹と空木の言葉に、立花はようやく頭を上げ、恥ずかしそうに照れて笑った。



「あ、あはは……私はただでさえ不器用で、他の皆よりセンスが無いからな。人の何倍も努力して頑張らないと」



 頭を掻く姿は謙遜しているわけではなく、本当に自分は器用な人間じゃないと思っているような感じに見えた。


 そこまで立花が話して、逆井が俺に近づいてくる。

 言うか言うまいかとしばらく迷って、結局逆井は口を開いた。

 


「……アタシも、さ。新海たちに鍛えてもらうまでは、結構ビクビクすること、多かったんだ。国とか軍隊とかが全然歯が立たない“ダンジョン”に、ただ講習受けただけで、資格を貰っただけで、何とかなるものなのかなーって」



 逆井が俺に対して打ち明けるようにして呟く。

     


「で、シーク・ラヴになったら、ダンジョン探索士の中でも飛び切り凄いダンジョンのスペシャリスト! みたいに見られるじゃん? だから、アタシらって、いつも前線にいなくちゃいけないわけ」


 

 外では、公共の場では絶対に口に出来ない本音。

 この場だからこそ、このメンバーしかいない今だからこそ、打ち明けられること。



「あぁ、梨愛さん、それは分かるぞ! 私なんて、この話し方だろう? 古風というか、男っぽいというか。で、趣味もその、戦隊モノが好きだし。あはは……あんまり戦えないのに、そんなだから、結構頼られたり、期待されること、多くて」



 だからこそ、影で、誰も見ていない間に、少しでも強くなりたかった。

 強くなっておきたかったのだ、その理想を壊さないために。

 幻滅されないように。



 アイドルとしての理想を壊さないためだけに頑張っているんじゃない。

 立花達は、もっともっと大きなことのために、日々、悩み、苦しみ、もがいていたのだ。


 

 そして戦っている時は、アイドルとしてのきらびやかさなど関係ない。

 生きるかどうか、それだけなのだ。

 

 女の子として一番華やかな、スポットライトに当たる場所にいながら。

 女性かどうかなど関係ない場所でも戦い、結果を出すことを求められる。



 ……そこまで聞いて、口を開かずにはいられなかった。




「――じゃあ、さ。俺がいる時くらいは、今日みたいにゆっくり、楽してればいいさ」


「……えっ?」    



 立花は一瞬何を言われたのか分からないと言った様にポカンとする。

 だが俺は気にせず、言葉にし続けた。

 


「今日はケガ一つ無かったんだろ? なら、今後も同じ様に、俺が一緒にいる時は、俺がケガとか生傷は受け持ってやる」


「…………」


「…………」



 光原姉妹も、ボーっとした顔でこちらを見ていた。

 無言で、何を思っているかは分からない。



 ただ、もう言い出してしまったことだ、今更引っ込められないし、もうそのつもりもない。



「俺が戦闘に加わる時くらいは、探索士としての顔なんて考えなくていい。アイドルとしての、それか素の自分として、そのままいればいいさ」



 俺と攻略する時は、無理して戦力になろうとしなくていい。

 今日みたいにレイネや、あるいはラティア達の誰かが一緒にいてくれることが多いしな。


 それにアイドルで女の子なのにケガや傷がつくのはかわいそうだし、どうせヘイト集めてタンクするのは俺だからね。

 俺、丈夫だし、回復魔法も使えるから、余計無理しなくて良いよ。


 君らはアイドルらしく、可愛くいれば良いんじゃない?

 そういう意味で言ったんだが――



「っっ!! うぅっ、うぅぅ――」


「あっ、司ちゃん泣いちゃった! ……あぁぁ~、お兄さん、泣かした~」

   


 ちょっ、何で泣くのさ!

 ってか空木はニヤニヤしながら見てくるな!!



「わぁぁっ、ちょっ、ごめんなさいごめんなさい! 調子乗りました! 何か気に障ること言った!?」


「いや、違っ、違うん、だ……だが、だが、うぅぅ……」



“だが”何ぃぃ~~!?

 その先ぃぃ!!

  

 

「はぁぁ……また新海がやらかしてるし」


 

 ちょっと逆井さんっ!?

 その“しょうがないな、もう~”みたいな笑顔で温かく見守ってないで、何とかして!!



「だなぁ……隊長さん、自覚なく女子の心ガンガン突いてくっからなぁ~」


『パコォ~! パコパコ突くパコォ!』 

 


 俺がヤバいことしてるみたいに省略して言うな!

 ややこしいから精霊(テメェ)は黙ってろ!



「つまり“ウッヘッヘ。これで立花は俺に落ちたも同然。エロゲー的ハーレム展開まで待ったなしだぜ。全員、どんなドエロイことして(メス)の顔をさせてやろうか。……超人気アイドル達のあられもない姿を想像して、俺は(たかぶ)る気持ちを抑えきれないのだった”って訳ですね」



 空木、お前もちょっと黙ってようかぁぁぁ!!

 


 その後、折角殆どが上手く行っていたのに、ダンジョンから出るまでは微妙な空気になってしまったのだった。



うぅぅ……1回で終わらす的なこと言うから。


で、でもこれで一応書くべきことは書けたはず!

ようやく次に織部さんを出してあげられる!!


はぁぁ……良かった。

やりました、皆さん!


今まではアイドル達が沢山出てましたからね。

今度は私達皆のアイドル、織部さんを眺めてゆっくりしましょう!(焦点の定まってない目)


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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱりイケメンじゃないか!(憤怒 新キャラも出たし織部さんもういらないんでない(悪魔の微笑
[良い点] 戦闘になると、なんでチンピラ風になるんだろう…この男 これもブレイブの仕業か? それとも、薬草浸けの弊害か?
[一言] 火炎放射を受けても火傷一つしない男、新海ハルト。 人間やめてね?www 結局のところ新海君ってどのくらい強いんだ? 地球側の人間の中では最強クラスなのかな?
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