385.えっ……分かる、よね?
お待たせしました。
そして1話で終わると思ってたんですけど、終わらなくて申し訳ないです。
明日も頑張って終わらせますんで勘弁してください……。
ではどうぞ。
「んじゃ、行ってくる」
「はい。行ってらっしゃいませ。……レイネ、ご主人様をよろしくお願いしますね」
「おうっ!」
翌日。
ラティアに見送られて家を出る。
外へ出ると、家の前には既にハイエースが停車していた。
俺達を迎え入れるようにドアが開いているので、レイネと共に乗り込む。
「どもっす……今日はありがとうございます、椎名さん」
「いえ、こちらこそ。メンバーの皆さんにご指導いただけるのは助かりますから。……お揃いになったようですので出発しますね」
椎名さんも色々と大変だろうに、今日は目的地までの運転手を買って出てくれた。
やはり逆井達スーパーアイドルがいる以上、人目につかない移動手段があるのは助かる。
助手席……に座ろうとすると、既にその逆井がそこにいた。
仕方ないとレイネと共に目の前の二人席へ。
「お兄さん、レイネお姉さん、おはようございます。……司ちゃん、お兄さんとのスケベな行為が始まるなら、むしろ今日じゃない? ハイエース内なんだからさ、おっぱじめるなら今だよ?」
「~~っ!! バカッ、そ、その、この車はそういういかがわしいことをするための車じゃないぞ!! 全くっ……」
最後尾にて並んで座る二人が、朝から元気にやり取りしていた。
仲の良い事で。
俺達が着席したのを確認し、椎名さんが車を発進させる。
頃合いを見て中腰になり、後ろを振り向いた。
そしてレイネを示して軽く紹介する
「確か光原妹はプールで会ってると思うが……“レイネ”だ。ダンジョンに関しては俺よりも頼りになるし、同性の方が聞きやすいこともあるかと思う」
「っす。……よろしく」
レイネが小さく振り返って会釈する。
後ろの席から見惚れるような溜息が漏れ聞こえた。
「……綺麗」
「ああ……凄く、綺麗な人、だな」
レイネが隣で身を固くするのが分かった。
ほう、照れておるわい、愛い奴め愛い奴め。
……いや、俺はオッサンかよ。
レイネの貴重な照れ顔を拝みながら、目的地近くまでゆっくりする。
車内で1時間程揺られていると、緑の多い市外にやって来た。
「かおりんが言ってたの、多分ここら辺だと思う。うーんと……地図アプリ地図アプリ……あっ、椎名さん、これかな?」
「……ですね。近くに契約しているシェアハウスがあるはずです。そこの直ぐ近くだと伺ってますから……」
今回向かう所は椎名さんも行ったことがある場所ではないらしい。
逆井から適時に補助を受けながら進み、それから10分くらいして到着する。
「っしょっと……」
「静かで結構良い所だな」
レイネと共に先に外に出た。
最寄りの駅から少し離れた、比較的綺麗な外観をしているアパートが目の前にあった。
逆井達シーク・ラヴのメンバー用というよりは、アイドルの卵達のための寮の一つということらしい。
福利厚生の一環で用意したものなんだろう。
……まあダンジョンが発見されたから、入居者も今は別の場所に移ってるだろうけど。
「……あっ、あったぜ隊長さん」
レイネとアパート裏へと回ると、塀と入居者用の駐輪スペースがある。
その通路の隅に、ダンジョンの入り口、穴があった。
「っし。じゃあ先に入って準備してるか」
逆井や立花達の準備が整うまで、先に入って軽く状況を確認しておくことに。
俺とレイネは二人で、ダンジョンの中へと入っていった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「おっ、来た来た……」
俺達が対処出来ない危険がない事を確認していると、逆井達がやって来た。
着替えも済ませたようで、逆井以外は探索士の制服を見に纏っていた。
「……おっ、光原妹も探索士だもんな。やっぱりその恰好か」
探索士の制服はコスプレ感もあるが、一方で特に女性が着るとえっちぃ見た目ともなる。
だから中二的な格好とは違う心境で着てるのだろうか。
そう思っての言葉だったが――
「えっ……私だって、分かる、の?」
光原妹――凛音が素の表情で聞き返してきた。
そして隣にいる光原姉――和奏も驚いたようにして口元に手を当てている。
何か違う意味で捉えられたらしい。
……えっ、何、どういう事?
ってか光原妹、素が出ちゃってるよ、良いの?
「えっと……何かの謎かけ? 俺達がいない間に“体が入れ替わってるー!”みたいな展開でもあったの?」
さっぱり分からず首を傾げると、光原妹が凄い勢いで迫って来た。
「違うよ! ――私と和奏ちゃん、この格好だと全く見た目一緒でしょ!? 何で分かったの兄ちゃん!」
ああ、そう言う事ね。
そう言われると確かに。
探索士の制服はいかがわしさを感じさせるという特徴こそあるものの。
着てしまえばそれだけでAさんとBさんを見分けられるようには出来ていない。
つまり規格が決まって作られる、他者との識別性という点では個性が生まれない服装だった。
それを顔や体型等が瓜二つの双子が着れば……見た目には区別が付け辛いという論は分からなくはない。
「……そう言われるとそうなんだけど、でも、何となく分からないか? 光原姉と光原妹……オーラというか、雰囲気が全然違うだろ」
どれだけ見た目がソックリだろうと、人にはそれぞれ長年の癖とか、意識には現れ辛い細かな仕草とかがあるものだ。
それこそ俺は日々、他の人を再現することに長けた少女が家にいる。
更に長年のボッチ生活で他者の反応や行動を窺う癖で、そう言った観察眼は鍛えられているからな……。
だから、パッと見で全然区別つくけど……アッ!!
もしかして、これ実は“妹が姉のフリして、姉が妹のフリして他人を騙してやろうパターン”の奴!?
えっ、でも流石に違うと思うんだけど――
「っっ~~! ――兄ちゃん、凄い! わっ、わっ、凄い!!」
「うんうん!! えっ、他の人は1度じゃ誰も見分けられなかったのに……お兄ちゃんもしかして、実は凄い人!?」
だが双子は物凄いはしゃぎ様だった。
……どうやら間違いではなかったらしい。
ってか今更だが光原妹よ、“兄ちゃん”って呼び方はどうかと……。
そして姉も姉で、俺が呼ばれた理由はダンジョン関連のスペシャリスト的な立ち位置だからね?
君達の違いを見分ける、ただ目が凄い人ってわけじゃないからうん。
「……分かる、よな?」
あまりのテンションの上がり様に困惑し、その気持ちを込めて逆井に確認してみた。
「あ、あはは。今はそりゃ何となく分かるけどさ。……アタシも初見だと全然分かんなかったよ?」
苦笑いで返されてしまう。
じゃあ空木はと顔を向けると、やれやれ顔で呆れていた。
「はぁぁ……。はいはい、好感度爆上げイベントですね、分かります。お兄さんはあれですか、何気にメンバー全員落とすの狙ってたりします? “グヘヘ、後はお堅いムッツリ委員長系アイドルだけだぜぇ”とか思ってたり?」
「えっ!? わっ、私か!? わ、私は、絶対に、負けたりしないからな!!」
……狙ってねえし思ってもいねえよ。
立花も、空木の冗談なんだから、顔を真っ赤にして反応しないの。
「……今ので好感度上がるんなら、今頃俺はモテモテなんだけど」
「いや、だから、モテモテなんだろ、隊長さんは」
皮肉を込めて言い返したら、レイネにジト目でツッコまれた。
……いや、どこがだよ。
ただ探索士姿になった双子を一目で見分けることが出来たのは悪い事ではなかったようで。
何となく昨日よりは、二人との心理的な距離感が無くなったように感じたのだった。
「“グヘヘ……後は立花を落とせば超人気アイドルのハーレム完成だぜ。この後もたっぷり時間はあるからな。フヒヒ、あの手この手でじっくりと落としてやるか……俺は密かに黒い期待に胸を躍らせるのだった”」
「俺の心の声アテレコして偽造すんのやめろし」
後それだと、俺がもう既に“空木”も落としてると思い込んでるイタい奴になるんだけど。
それに志木とか、かおりんとか、魔王カオリーヌとか。
俺ごときじゃ絶対落とせない奴も既に含まれちゃってるんですけど。
溜息を吐いて空木へのツッコミを終え、ダンジョン内での注意事項を確認することに。
そして改めて移動を開始したのだった。
書き始める前までは「後はダンジョン内でのことを書くだけだし、余裕っしょ!」と思ってたんですが。
書くべきことを念のため整理して確認したら「えっ……あっ、レイネと立花さん・光原姉さんってこれが一応初対面だっけ!?」とか「あっ、主人公との絡みもそう言えばちゃんと書いてなかった!」となって……。
明日も頑張ります……頑張って終わらせるから、待っててね、織部さん!
織部さんに会いたい、出てもらいたいがために、明日も頑張るからね!!




