384.ちょっと、妄想が行きすぎちゃってやしませんかい?
お待たせしました。
ではどうぞ。
「えっ、あわっ、えぁっ!?」
言葉にならない声を発し、立花はいきなり目を回し始めた。
真っ赤になって俺や逆井を指差して、壊れたロボットの様に何度も往復させる。
そして逆井に対し、立花は何とか言葉を発した。
「り、り、梨愛さん! こういうのは、よ、良くないと思うぞ!!」
「へっ? ……えっと、“こういうの”って?」
とぼけてるわけではなく、本当に分からないと逆井はポカンとして聞き返す。
それが更に立花の混乱っぷりに拍車をかけた。
「なっ!? し、しらばっくれても、わっ、分かってるんだぞ! 私が無知な女だと思って……!」
「いや別になっつーをそんな風に思ったことなんて一度もないけど……」
怒っていると言うよりも、口にするのも恥ずかしと言う様に。
立花はプルプルと震えて指摘した。
「――お、男の人を呼んで、み、皆や私を巻き込んで! えっ、エッチなことをおっぱじめる気だろう!!」
な、なんだってー!
お、俺はそんなラッキーイベントのために呼ばれたのかー!!
…………。
……うん、ゴメン、白々しかったか。
「明日が久しぶりの休みだから、ストレス発散で弾けたい気も分からなくはない! だが、私達は女の子であると同時にアイドルでもあるんだ。そ、そういう皆でエッチな事をしてって言うのはどうかと思うぞ!」
「はっ!? いや、えっ!? 違っ、なっつー違うから! アタシ、皆にエロいことおすそ分けするために新海に来てもらったんじゃないって!!」
逆井も逆井で顔を真っ赤に、ワタワタしながら反論する。
普段のビッチなギャルっぽさは完全にどこかへ消え去り、実は防御に回るとエロ耐性がクソ雑魚なことを露呈する始末。
「わっ、わひゃぁ!」
「~~っ!!」
光原姉妹も初心さ満開で、そう言った卑猥なワードが出る度にキュッと目を瞑る。
ただ年頃の女の子らしく興味はあるのか、耳は全く塞がない。
偶に目を覆う掌をずらし、指の隙間からチラチラと俺を見てくる仕草は双子らしく、ソックリなリアクションだ。
……いや、ってか俺を見られても。
俺が来た理由、君らにはさっき話したでしょうに。
実はエロいこと目的で来たけども、その意図を秘して近づいたとかじゃないからね。
エロいこと、おっぱじめないからね。
「……ってか、志木から“ダンジョンに詳しい人”が来る的な話、あったんだよな? 普通このタイミングで一人知らない奴がいたら“コイツが例の……”みたいにならない?」
一人平然と騒動の成り行きを見守っている空木にぼやく。
空木は豊かな胸を下から支えるみたいに腕組して低く唸った。
「うーむ。どうやら司ちゃんのムッツリ妄想が悪い形で出てしまったみたいですね。長風呂でのぼせたのと、妄想のし過ぎのダブルパンチですかな……」
流石に茶化すことなく冷静に、空木は立花と逆井の言い合いを眺める。
「確かに誠実で逞しそうな男性だとは分かる! 正直ドキッとした!! だ、だが1対5の比率は流石にやりすぎではなかろうか!? わ、私は初めてだから、その、今回は遠慮して、端でお試し観察すると言うことでどうだろう!」
「いやだから違うって! ってかなっつー地味にそれ遠慮してなくない!?次回以降の参加可能性を探る参考時間にしちゃってるし!!」
もう色々と滅茶苦茶だな……。
「話が進まない……はぁぁ。――仕方ありませんね。本当はこう言うのはウチの役目じゃないのになぁ」
空木が溜息を吐いてゆっくりと歩き出す。
確かに、いつもなら空木はむしろ囃し立てて騒がしくする側だろうに。
いつもよりも頼もしく感じる空木に事態の収拾を任せ。
一方この後どうするかを考え、気がズシッと重くなるのだった。
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「うっ、うぅぅ~~~~~! 恥ずかしいっ、穴があったら入りたい!! 見るな、こんな私を見ないでくれぇぇ!」
空木のおかげで誤解が解けた立花は、ソファーで羞恥に悶えていた。
本当、どんな誤解してんだよ、こっちが変な汗かいたわ。
「司ちゃんが忙しくて、ストレス溜まってるのは分かってるけどさ。お兄さんを呼んで夜のド変態パーティーなんか始まる訳ないじゃん」
「うぅぅ……ごめんなさい」
空木が珍しく叱る側になっていて、立花はみるみる小さくなっていく。
「“アイドル100人分切り耐久レース”って何? “真面目な委員長系アイドルだったけど、百戦錬磨なメンバー彼氏君には敵わなかったよ……”って何なの? ド下ネタとか、そう言うの良くないと思うよウチ」
「えっ? いや、私、そんなこと言ってない……」
身に覚えのない発言を挙げられ否定しようとするも、空木の一睨みで黙り込む。
……なるほど、冤罪はこうやって生まれるのか。
「全く、お兄さんのことを何だと思ってるのか……」
「お前がな」
そろそろ介入時だろうと軽くチョップを挟み、空木からバトンタッチをしてもらう。
「痛っ! うぅぅ……ぶーぶー、お兄さん、暴力はんたーい! 出るとこ出ますよー!」
「出るとこ出てるのは美桜ちゃんの胸だと思うけど……」
おぉっ、光原姉、ナイスツッコミ。
妹は中二全開だし、空木はグダりキャラだし、立花はしっかりしてそうな見た目でこれだったからな……。
逆井を抜いたこの4人――いわゆる中立派閥の中ではツッコミタイプなのかもしれない。
「――とりあえず、志木から話は行ってるって事でいいんだよな?」
一方的に怒られる立場でシュンとしていたのが一転、立花は救いの手を差し伸べられたと言わんばかりに前のめりになった。
「あっ、ああ!! 花織さんから話は聞いている。何でも“私達よりもダンジョンに詳しい信頼できる男性”だと!」
「ほほう……花織ちゃんはそんな風にお兄さんを……ふむふむ」
こらこら、空木、粘着質な笑みを浮かべて蘇ってこないの。
「だから、ダンジョンで悩んでいることがあれば相談してみたらどうかという趣旨だったぞ」
なるほど。
とりあえず謎のボッチ男Aでは信頼できないだろうと、こちらも今の段階で出せるだけの情報を出しておく。
先程話したことの繰り返しになるが、逆井のクラスメイトというポジションだったり、あるいは隣に住んでいることもキチンと伝えておいた。
そしてダンジョンに関しては――
「……まあ今の所、“ダンジョンで上手く立ち回れるかどうか”は“モンスターに有効なダメージを与えられるかどうか”で大きく左右される、ってのは分かってると思う」
「はい」
「うむ!」
「……ああ」
3人の反応を確かめながら、今日来た話の核心に触れた。
「それに関して、その意思があるのなら、強くなれる手伝いは出来る。つまりモンスター退治しながらのパワーアップだな。……どうする? 信じる信じないは自由にしてくれ」
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しばらく考える間のような沈黙が続いた。
まあ急かすことではないので、俺も無言で待つ。
3人で相談してもいいし、一人一人が個別に結論を出すでもいい。
そうして黙って待っていると、光原姉が控えめだが、ポツポツと話し始めた。
「えっと。和奏達、他のメンバーさん達程ダンジョンに関して上手くいかないことが多くて……」
光原姉は聞き役となった俺や逆井に向けて、何とかその想い・悩みを言葉にしようとする。
それに意識が行ってしまっているためか、自分で自分のことを“和奏”と呼んでしまっているのに気づいていない。
……いや、まあだから何だって話だけどね。
「モンスターとの戦いもそうだし……だから、もし、皆が凄く上手く戦えるようになった理由をお兄ちゃんが知ってるなら、和奏、それを知りたいです!」
「ふむむ! わっ、我も! この仮初の姿がひ弱なままだとどうも動き辛くて敵わん。めちゃんこ最強な存在へと誘ってくれても良いのだぞ、同志よ!」
「えと……つまり、二人とも新海に協力を頼むってことでOK?」
逆井が一瞬言葉に詰まるも、空木は今の要約で問題ないと頷く。
「凛音ちゃんも要するに“強くなりたい! 何かその方法があるのなら教えて、お兄ちゃん!”ってことですね……」
「“同志”は“お兄ちゃん”と翻訳するのか……ごめんなさい、何でもない」
空木にツッコミを入れようとして、しかし立花は睨まれて言葉を引っ込めた。
立花……空木に弱いんだな。
「んっ、んんっ! ――えっと、君は花織さんの紹介だからな、変なことにはならないとは確信している。だが今すぐに結論を出すのは正直難しい」
咳払いして、立花は改めて真剣に思ったことを口にする。
「どういう感じなのかも想像がつかないし。……そこで、どうだろう。さっきのお試し観察ではないが、一度試しに一緒にダンジョンに行ってもらう、というのは?」
「おっ、良いねぇ司ちゃん! その“私は簡単には落ちないんだからね! あんたの化けの皮、私が絶対剥がしてやるんだから!”という意気込みある前フリ、ウチが待ってたのはこういうのだよ、うんうん!」
空木は本当に天邪鬼というか、捻くれ者というか……。
皆がさっきみたいに混乱している時にはちゃんとしてくれるのに。
こうして皆が真面目な話をしていると、コロッといつもの空木が顔を出すんだよな……。
まあ空気を読んで必要な役割りをしてくれてると言えばそうなんだが。
「でも、良いんじゃない新海? “わななん”も“つりりん”も、どういう感じか分かってからの方が納得感出るだろうしさ」
いや逆井、本当お前のあだ名のネーミングセンスどうなってんの?
“みつはらりおん”で“つりりん”って、語感の木・釣りっぽさが凄いな……。
“わななん”は罠っぽさが強くて“みつはらわかな”の原型が感じられないしさ……。
「じゃあ、明日、一度ダンジョンに行くってことで良いか? 場所は……逆井が志木に手頃な場所を聞いておいてもらうってことで」
異論は無いようで、逆井も含め4人は頷いて返す。
……おい、最後一人。
「……えっ? ――嘘だッ!! お兄さんは嘘をついてる!! ウチはお留守番のはず!!」
察した空木は一瞬にして凄い嫌そうな顔を作ってみせる。
……いや、そんな顔されても、空木お前も明日休みなんだろう?
全員から同じ視線を受け、空木は悔しそうに歯ぎしり。
そして抵抗しても無駄だと悟ったのか、力なく項垂れた。
……よし。
そうして逆井から志木に連絡を取って貰うこと、そこからまた俺にも伝えてもらうことを確認して今日は終わりにすることに。
それで明日、立花達を連れてダンジョンへと向かうことが正式に決まったのだった。
一応初対面ということでいつもよりは丁寧に進めていますが、ダンジョンのお話は1話で終わるはずですので、長引かないと踏んでおります。
そろそろ織部さんが恋しくなってきた頃合いですので、余計に、ですね。
【※以下は突如削除する可能性があります。規約を確認したら後書きは大丈夫とあったので、問題ないとは思うんですが……】
ところで話は変わりますが……。
もう既にご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、書籍版が4月23日に発売となりました!
そしてイラストを担当して下さったのは“てつぶた先生”です!
書影・表紙も公開されてご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんが、ラティアとリヴィルの二人ですね!
もうね、けしからんと素晴らしいがこれほどまでに同居するとは……と日々ニヤニヤ眺めながら語彙を喪失しております、はい。
私がTwitterをやっていないため、今後も宣伝関係はこうして後書きや活動報告にてすることになるかと思います。
本当に素晴らしいイラストですので、何卒宜しくお願い致します。
※勿論中身も頑張ってます!




