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382.寒いなぁ……。

お待たせしました。


ではどうぞ。


「うぅぅ~寒っ。廊下は冷えるな……」



 今日の分の勉強を済ませて自室を出る。

 ストーブの効いた部屋とは大違いの寒さに、思わず体を震わせた。



 もう季節もすっかり冬で、靴下を履いていても床の冷たさを感じる程だ。

 ライブなどのイベント事が秋に並ぶからと、本格的な移り変わりはまだ先だとばかり思ってたのに……。


 自然と階段を下りる足も速くなる。




「あっ、ご主人様! お疲れ様です」



 リビングに入ると、一気に温かい空気が体を包み込む。

 暖房がついていて、部屋と繋がったキッチンも併せ、皆がここに揃っていた。



「うっす。……はぁぁ、あったかい。廊下を歩いただけで手が冷たくなるな」


「フフッ、コーヒーお入れしますね、温まって下さい」



 ラティアは直ぐに俺のマグカップを準備してくれる。 

 スプーンでコーヒーの粉末を入れ、電気ケトルのお湯を注ぐ。


 ラティアの動きを眺めながらキッチンの方へと移動し、イスに座る。



「……確かこれから、だよな? 立花達と会うの。空木か逆井、何か言って来たか?」


「そのはずです……ですがミオ様もリア様も、特には何も――あっ、コーヒーです、どうぞ」



 礼を言いながらマグカップを受け取り、一口すする。

 っあぁぁ……うめぇ。

 

 本当は夜にカフェインを取るのはダメらしいが、これから寝るまでにまだやらないといけないことがある。


 だから眠気覚ましとしても飲んでおきたかった。



「そっか。……ラティア、えっと。若干言い難いんだが、その恰好、寒くないか?」



 話が直ぐに終わってしまい、話題に困ってついつい触れてしまう。


 俺の質問にラティアは最初、何を聞かれたのか分からないと言う感じでポカンとした。

 だが今身に着けているサキュバス服のことだと理解して、ラティアは笑顔で頷く。



「はい、大丈夫です! 家以外でも本当はもっと着ていたいんですが……」 


「ごめんなさい、家とダンジョンだけにして下さい」 

 

 

 この季節だし、なおさら、ねぇ?


 ……ただそれは同時に、家でラティアと顔を合わせる時はサキュバスの格好が多くなる、つまり俺自身の首を絞めることでもあって……。


 何なの、分かっててムラムラさせに来てんの?


 ……ラティアさん、女性の厚着が増えるこの時期に、そんな露出の激しい格好、無防備過ぎですぜ。


 エッチな目でガン見するよ?

 良いの?

 

 勿論そんなことは表情には出さず、コーヒーをただ無心ですする。 

 この舌の上に残る苦さが、人生そんなに甘くねえぞこの野郎と言うことを教えてくれる。

  

 そうだよね、うんうん……。

 下心を含んだ目で見ると“クスッ、お可愛いこと”を食らうんですよね、分かります。

 

 だからちゃんと自制しますよ。

 人生、そう甘くないな……苦い。   



「……そんなに寒そうに見えるんだったら、マスターが抱きしめて温めてあげれば良いんじゃないかな?」



 今まで反応せず雑誌を眺めていた癖に、ボソッと何を呟いてんですかね……。

     

 ジト目で斜め前に座るリヴィルを睨みつける。

 だがリヴィルは鈍感系ヒロインスキルでも発動しているのか、俺の視線に無視を決め込む。



「人肌で(ぬく)め合うって、凄く温かいって言うし……――あっ、そうだ、マスター。携帯確認した? もしかしたらミオやリアからメール来てるかも」



 あくまで前半部分は独り言の体らしい。

 ……まあいいけど。


 ――いやっ、ラティアとの温め合いが“良い”ってことじゃないからね!?


 

“リヴィル、今の所は見逃しておいてやる!!”の意味での“いいけど”だからね!? 




「はぁぁ……えっと携帯携帯……あっ、本当だ」



 勉強中は電源を切ることもあるため、気付かなかったが。

 普通に空木や逆井からメールが来ていた。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



『あー、じゃあ今日は“ラティアお姉さんかレイネお姉さんのドエロいコスプレ衣装をした写真”を一つ。それと芋まんを下さい。あっ、レジ袋はいりません』


『ツギミーとずっと“ぎゃるげぇ”? ばっかしてる! 主人公の名前“新海”にしちゃった、てへっ!』



 …………。


 何、コイツ等。 

 情報提供する気ゼロかよ。


 

 空木(アイツ)は何なんだ、オッサンかよ。


 ラティアかレイネのえっちぃ写真が欲しいの?

 しかも“今日は”とか言ってくる辺り、ラティアやレイネにとどまらず、今後もリヴィル達にまで及ぶこともありうる。

   

 自分で言えよ、むしろ同性同士の方が成功する可能性あるだろうに。

 



 でっ、逆井はなんだ、“ギャルゲー”してんの?

 何で俺の名前つけんだよ、新手のいじめですか?



 どうせ主人公とヒロインをくっつけずに、“やーい、ゲーム内ですらモテないボッチィ~!”とか言って楽しんでんだろ。


 クソッ、アイツら今も隣にいんだよな?

 乗り込んでやろうかな……。



「お館様お館様っ! ミオちゃん、何て言ってるでありますか?」 



 リビングでゲームをしていたロトワがテンション高めでやって来た。

 隣のイスが空いているのに、わざわざ断って俺の膝の上に座る。



 ……くっ、ロトワ、あざと温かいなコイツ。


 

 尻尾を出しているのもあるが、元々獣人ということもあってか、体温が高めな気がする。

 

 この人型湯たんぽめ、保温性に優れやがって!

 寝る時も布団に入れたくなるだろうが!      

 

 ただラティアが寒そうなので、入るのならラティアの布団に潜り込んでください。

 


「空木か? あ~まあ大したことは言ってないな」



 

 膝上のロトワで暖をとりながらも、適当にはぐらかす。

 流石にこのメール内容そのままを伝えるわけにはいかないだろう。


 

「そうでありますか? フフッ、でありますっ! フンフフ~ン」


 

 だがロトワは特に気にする様子もなく。

 楽し気に鼻歌でリズムを取り、ただ揺れている。


 ……まあ、最近勉強で忙しいからな。


 一緒にいてやれる時間が多くない分、偶にこうして何でもない時間を共有するのが楽しいのかもしれない。



「……あっ、これだけじゃなかった」



 メールはそれだけではなく、他にも二人から次々と送られて来ていた。



『お兄さん、さっき連絡が来ました。(つかさ)ちゃん達、多分もう少ししたら着くと思います』

     

『新海、なっつー達との話、何か準備とかいる? 一応長くなりそうだからお菓子とか食べ物とかは用意しといた!』



 ……一応真面目な内容のメールもあったのか。


 

『ウチらもサポートはしますけど、流石にどうなるかはウチでも予測できませんから。……まあ凛音(りおん)ちゃんは多分コロっと――じゃなかった。キチンと話し合いに応じてくれるかと』


『なっつーは戦隊モノが大好きだからね! そっち方面から攻めてもいいかも! ――あっ、ツギミー主張の“戦隊ヒロイン拘束尋問ごっこ”は謎過ぎだからNGね!』



 ……しっかりとしていそうで、微妙にふざけてるようにも見えるんだよなぁ。


 逆井は相変わらず謎の絵文字を多用してくるし。 

 

 あと、空木、“戦隊ヒロイン拘束尋問ごっこ”は謎というよりエロい香りがするからNGな。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆  



「うぉっ、“速報”か――」


「何だろう……」

  


 空木達がタイミングの良い時に連絡をくれるだろうと、皆でテレビを見ながら待っていた。


 ロトワは流石にもう眠りにつき、ルオも眠そうにしてきた時である。



 音が流れ、テレビ画面、上の方に文字が現れる。

 何事かと思っていると、その詳細が簡易な文章で示された。

 


『○○県××市にてモンスター・ダンジョン警戒警報発令。同県では初』


 

「あぁ……なるほど、確かあそこだけはまだ一度も、発見されてなかったんじゃなかったっけ?」


  

 その文章だけで内容を凡そ理解し、スマホの検索機能を使用する。


 ダンジョンの発生・発見は未だ留まるところを知らない。

 多くの道府県・地方自治体では、それに対処するために専属の探索士を雇用しようとするなど、様々な方策を練っている。


 

 ただその中でも地方のとある県だけは、未だダンジョン発生とは無縁でいた。


 ダンジョンの発生はその入り口である“穴”を見つけることで認識されるのが大部分である。

 

 そのためその県にある神社では“穴が見つからない→落ちない”と結び付けられ“受験にご利益がある”と人気を集めていた。



「……あぁ、やっぱり。これで全県陥落か……まあだからと言って悲観することでもないが」



 スマホで見たところ、やはり今テレビで流れた場所は、ダンジョン未発生で知られていた県だった。

  

 ダンジョンが初めて発見され、モンスターも入り口近くまで迫り出ようとしていることが確認されたため、警報が出されたらしい。

 

 そして次々とネットで情報が更新されていく。



 それを目で追いかけていると、電話が来た。

 えっ、誰だろう……逆井?



「はい、もしもし」


『あっ、新海? テレビかネット、見た?』  

       


 単刀直入に聞いてくるため、逆井が電話してきた趣旨も直ぐに分かった。

 今の速報の件だろう。



「おう」


『さっきそれでさ、ハヤちゃんから電話が来て。かおりんと近くでの仕事があったらしくて。で、ちょっと行ってくるってさ』



 赤星と志木がいるのか。

 なら安心だな……。


 話の内容からして、逆井を介しての俺達への救援依頼というわけでもなさそうだ。


 と言うことは、二人と、そして現地にいる探索士・補助者だけでも対応できる程度と判断したってことだ。


 

 あまり心配していなかったが、これで更に安心材料が増えた。


 

「なら大丈夫だな」


『うん! こういうん、アタシも他人事じゃないからさ、やっぱりもうちょっと頑張って育てないとね、他の探索士。特に探索士の2期生も、選ばれたばっかじゃん?』



 逆井もさっきの問題から既に別の話題へと移っていた。

 この問題を話し合いたかったというよりは、電話の切っ掛けとしたって感じかな?

 

 立花達を待つまでの時間潰しという意味もあるだろうし。

 あと正に、立花達と会うのが、立花達を戦力に育て上げるためだからだ。



『……? ん? 何、ツギミー。……あっ、そうなん? 分かった! ――新海っ、来たって!』



 途中、空木と話す声が聞こえ、こちらとの話が途絶えた。


 その後の言葉は短く簡潔だったが、意味は理解出来た。

 要するに、隣の家に、立花司達が到着したと言うことだろう。



 逆井との電話を切り、隣へと移動する仕度を始めたのだった。

   

リヴィルはきっとラティアが風邪をひいたりしないか心配しただけですよね。

ラティア的にはえっちぃ格好をするのはアイデンティティにかかわることだから、それを変えるのはダメ。


とすると、他の方法で温めて上げないと!

……と、使命感に駆られて提案しただけ、それ以外に意味なんてないでしょう、きっと(目逸らし)


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