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381.それかぁぁぁぁ!

お待たせしました……。


不規則で本当にすいません。


エナジードリンクを飲んでも、好きな音楽を聴いても、中々気が乗らず……。

ダラダラとしていたら長引いてしまいました。


一先ずこれでライブは終わりです。


ではどうぞ。




「あ~緊張して来たぁ~! 良い匂いするんだろうな、花織ちゃんと律氷ちゃん、どっちの匂いの比重が強いんだろう……!」


 

 匂いの比重って何だ……部屋の状態にそんな概念があるのかよ。


 各自が戻って行った後、時間を空けて、志木と皇さんに会いに行く。


 まあ今まで何度も会って話したことのある間柄だ。

 むしろ立花さんの方が緊張しっぱなしに感じた。



「控室って別々なんですね。勝手にグループのメンバーは12人で一つの大部屋かと思ってました」


「同じグループとは言え全員が同じ事務所って訳でもないからね。そこん所は色々あるんだよ――あっ、研究生は皆纏めての大部屋だよ?」

 

 

 確かに。

 だが事務所の話をするなら逆井や赤星、それに桜田も同じ所属のはずだ。


 なのに志木や皇さんとは違う控室。

 ……まあ単純に、部屋数もそれだけあるから、無理して一纏めにする必要もないってだけか。


 そりゃ一部屋に対する人数は少ない方が、自分の使えるスペースも増えて気が楽だろう。


 メンバー実は不仲説とかも偶にネットで見るけど、流石にそれは邪推(じゃすい)だと思う。


 意中の相手を巡って争うドロドロの昼ドラじゃあるまいし。

 近くで見てきたからこそ、そんな不和が生まれる要素はないと俺はキッパリ言える。

  


「さってと! じゃあ行きますか! フンフフンフフ~ン……」 


 緊張を紛らわすためか、立花さんはあまり上手くない鼻歌で無理にテンションを上げる。



「あっ――」

 


 しかし、それはすぐに止まってしまう。

 彼女が視線を固定した先には別の控室があり。


 そこには“立花(たちばな)(つかさ)様 空木(うつぎ)美桜(みお)様 控室”と書かれた紙が壁にテープで貼られていた。



「立花さん?」


「……あっ、あぁ、ごめんごめん! いやぁ、緊張して緊張して! いつも花織ちゃんとか律氷ちゃんのグッズをクンカクンカしては興奮してる癖にね! あはは!」



 俺が声を掛けると一瞬で我に返った。

 だが何かを誤魔化すかのように早口にしゃべって歩き出してしまう。


 ……いや、それはもう何か隠したいことがあるって言ってるようなもんですぜぃ。



「……訳アリ、っぽいね」



 リヴィルが、あの名前が書かれた紙を見て呟く。

 


「だろうな……」


 

 立花さんが“立花司”の紙を見て立ち止まった。

 苗字が同じだし、偶然とは考えづらい。


 それに、以前の動画の件を思い出した。

 志木や白瀬など、同学年5人が、空木の司会進行で色々と話していた動画だ。



 その時、立花は自己紹介で家族構成を語っていたはずだ。

 そして確か“姉が一人いる”と言っていたように思う。



 …………。



「まあ、今は深入りはよそう」


「だね。今日会ったばっかりだし、私も少し様子を見た方が良いと思う」  



 意見の一致を見たので、特に言及せずにいることにした。



「おーい早く早く! 二人とも、あんまり遅いと花織ちゃんと律氷ちゃんの控室、私一人で突入しちゃうぞっ!」



 立花さんはもう元の様子に戻っていた。

 流石に成人なだけあって、切り替えるのも早い。



 ――あっ、ガードマンさんに捕まってる。

 

 ……怪しい者じゃないと力説してますね。


 

「……むしろ雇い主に会いに行くんだけどね」


「“今大人気のアイドル達の控室に突入する”って大声で宣言しちゃうのはマズいよな……」



 最近はあまり聞かなくなったが、バイトテロや視聴数狙いの行き過ぎた動画投稿もある。


 今のはそれと間違えられても仕方がない、かもしれないな……。

 俺達からの証言もあって、立花さんは何とか解放されたのだった。 



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆


   

「フフッ、彩果(あやか)さん、そんなことになったのね。で、その、陽翔さん達が助けてあげたんでしょ?」



 控室にやってきて、発生ホヤホヤの出来事を語って聞かせる。 



「笑い事じゃないって……本人それでへこんで、“二人に合わせる顔がない~!”って」



 引率してくれていた立花さんが哀愁(あいしゅう)を感じさせる背中で離れて行ったので、リヴィルと二人で訪ねることになった。

 


「でも、やっぱり凄いです。陽翔様、リヴィル様も。もう彩果様と仲良くなられたんですね」



 もう一人の部屋の使用者――皇さんが感心したように微笑んでくれた。

 本番前だから気が立ってるかもと身構えてきたが、二人ともとてもリラックスして俺達と話している。


 やはり昨日で大体の感覚を掴んで、リハーサルも無事済んだからだろうな。



「……“私達”というより、“マスターが”って言った方が正しいと思うけど」



 いや、リヴィルさん、何で俺だけが仲良くなったみたいに言うの? 

 コミュ力がミジンコの俺よりも、リヴィルの方がよっぽど人当り良い癖に。



「あらっ、仲良くするのは結構ですが、バイト代もちゃんと出すんですから。しっかりライブの舞台裏を見て下さらないと、困りますよ?」



 志木が茶化すような言い方をするので、負けじと俺も先程までのことを尋ねてみる。



「分かってる分かってる。だからここに来るまでにも、色々連れ回された。……なあ、今更なんだが、あんなお偉いさん方に俺が会う必要って、あったのか?」

     

「……ええ、勿論ですとも。ねぇ、律氷?」 

 

「えっ!? わっ、私、ですか!? あの、えーっと……」



 ……逃げたな。

 何となく答え辛いことだったから皇さんに振ってかわしたように感じた。

 

 一方いきなり話を振られた皇さんは、驚いてワタワタしている。

 ……可愛い。

 


「いや、無理して聞き出したいことでもないから。皇さん、大丈夫だよ」 

 

「ほっ……」

 

 

 つまり皇さんは知ってるかもしれないけど管轄外で。

 志木が個人的に何か画策してるって感じかな?


 ……まあ良いけど。

   

 魔王カオリーヌ……違った。

 黒かおりんのことだ、一つや二つくらい隠し事があっても驚いたりしない。




「――えっと、その。話は変わるのだけれど。リヴィルさん、スーツ姿、とっても素敵ね。それで、陽翔さんも、ピシッとしてて、うん、良いんじゃないかしら?」



 いや、本当にいきなり話が変わるね。

 皇さんも物凄く頷いてくれてるけど……。



「……どうも」

    

 

 リヴィルは気恥ずかしそうな感じで応じる。

 ただ志木の本音がどこか別にあると感じ取ったのか、すぐ表情は元通りに。


 ……だろうな。

 俺の格好のことも、リヴィルのついでに言ってるってことかね?

 

 うーん……それか自分達の衣装に触れて欲しいってことか?


 志木の意図が読めん……。

 

 

「それで、ね? 折角二人もいつもとは違う格好を見せてくれたんだし、私も、“約束”……守らないと、と思って」



 志木は俺達に説明すると言うよりは、自分にそう言い聞かせて奮い立たせるように口にする。

 俺達が話を理解しない間に立ち上がった。


 そうして「少しだけ時間を下さい、着替えてきます……」と、パーテーションで区切られた奥に。


  

 ……えっ、どう言う事よ?


 ってか俺いるけど!?

 視覚的には見えないかもだけど、着替えの音とか、色々、その、聞こえちゃうよ!?



「皇さん、良いの!?」


「えと、その……御姉様が決められたこと、ですので」


 

 くっ、志木主導なのか!


 

 ……はっ!?


 こうやって悩みで俺に胃痛を覚えさせるつもりか!

 内側からのダメージを狙うとは、魔王カオリーヌ、なんて卑劣な!!



 そうやって気を紛らわす意味でも、皇さん・リヴィルと騒がしく時間を潰していた。

 そして志木が再び姿を見せると―― 



「――お待たせ、しました。えと、“約束”でしたから。はい、どうぞ……」



 恥じらい混じりの表情と共に身をよじる。

 その細い腕や綺麗な脚は全て、肌がさらけ出されていた。


 志木は俺達の視線を気にしながらも、身に着けている生地の食い込みをさり気なく指で直す。


 


 ……いや、あの、見えてる、んですけど。





 ――そう、志木の“スク水”姿が!      




「……っっ~~! 今すぐにでも着替え直したいけれど、貴方との――陽翔さんとの“約束”、ですから……うん、仕方ない、これは仕方ないの……」



 コスプレ感強めでいかがわしさすら漂う志木の“スク水姿”。

 そして先程から何度も強調するように口にされる“約束”というワード。


 

 そこまで来て、今。

 脳内を膨大な量の記憶が駆け巡る。



“うわっ、“かおりん”!? 凄っ、そっくり! ――ってか何でスク水だし!?”


“ど、どうしたルオ!? 何か体調でも悪いのか!?”


“うぅぅ……お、おしっこ……”


“スク水ってことは、去年か、もしくは中学生くらいの織部さんの写真を見てたんでしょう? それはやっぱり“過去”に囚われてるのよ!”   

“じゃあ、また――あっ、ライブのバイトの件、前向きに検討してくれると嬉しいです。その……スク水、も。何なら衣装室で着ます、から”






 ――るおりんスク水「お、おしっこ……」事件の奴かぁぁぁぁ!!



 それに気づいた時、どう反応していいか分からず。

 とりあえず文字通りに頭を抱えたのだった。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



『アタシ? アタシは最近は……あっ! 動画とか結構見てるよ! “歌ってみた系”って言うの? あれあれ!』


『あぁ~私も時間があったら見てる、って言うか聴いてるよ? 私達の歌を歌ってくれてる人のを視聴するかな~。梨愛が勧めてくれた人――“RI(アールアイ)さん”のとか、凄い上手くてオススメだよ』



 かおりんスク水事件を一先ず思考停止でやり過ごし。

 2日目のライブが無事に進行しているのを見届ける。


 ……魔王カオリーヌだけでも飛び切りの地雷だってのに。

 今後は志木に会う度に“スク水に真っ黒なマントを身に着けた凄い格好の魔王”を嫌でも連想してしまうことになるだろう。


  

 ……何なの、最近は勇者も魔王も、格好に一癖も二癖も無いとダメな仕様になってんの?   




 ステージの裏に置かれた幾つものモニターには、MCで間を繋ぐ4人の姿が映っていた。



 逆井や赤星、それに桜田や皇さんが、休日や空いた時間の過ごし方を楽しく話している。

 

 

 昨日と似た話題ではあるが、全く同じ内容にはならず、意図的に色んなことに触れているのを感じる。

 ラティアやレイネ、ロトワの様に、2日連続で見てくれるファンやお客さんもいるから、そこを意識してのことだろう。 

 


「……えっ、ってかリヴィルさん。“RI(アールアイ)”さん、歌上げてんの?」



 話の中身が他人事ではなかったため、横にいるリヴィルに尋ねた。 



「……さぁ。私は“RI”じゃないから知らないけど、そうなんじゃない?」



 ……いやご本人さんでしょうに。

 でもそうか、俺はまだラティアとレイネの分しか見てないが、リヴィルの分もアップロードされてたのか。



 ……後で帰ってから聴こう。




『あっ、グループチャットで話題になった奴ですよね! 私は“RU(アールユー)”さんのを聴いてみました! 確か(つかさ)様と美桜(みお)様の曲だったと思います。元気一杯で凄く楽しくなれて、とても好きです!』


『律氷ちゃん、本家より気に入ってる風ですね~! そんなんじゃ司先輩たち、嫉妬で“キィィ~!!”ってなっちゃいますよ?』


 

 ただ単に自分達の内輪話に留まることなく。

 観客がこの時間も楽しんでくれるようにと、色んなメンバーの話題に触れる。

 桜田も聞き役が上手くて、適度に情報を補って話を進めて行く。

 

 ダンジョンに関しては話せないこともあるからと、プライベートのことについて少しでも多く伝えて満足してもらいたい。

 そんなサービス精神が感じられた。



 ……2日目とは言え、器用なもんだな。



「……それはそうと、“RU(アールユー)”さんのも上がってるんですか?」


「……さぁ? それこそ私は“RU”じゃないから知らないけど、まあそうなんじゃない?」



 じゃあ“ルオ”の分はともかく、リヴィル自身のは確定ということで良いんすね?


 

 と言うことは、後アップロードされてないのはロトワのだけか……。

   



 ……とりあえず戻ったら二人の分は即聴こう。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



『――さて! 非常に名残惜しいですが、1周年記念ライブ、2日目もとうとう終わりを迎えるお時間となっちゃいました! 嫌だなー、ウチ、まだ終わりたくないよー!!』


『美桜さん……心なしか嬉しそうね』


『美桜……どうせ“終わったらグータラするぞー!”とか考えてるんだろう?』



 終幕が近づき寂しい空気が会場内に流れる中、空木のキャラがその雰囲気を吹き払ってくれる。


 空木が“早くライブが終わって、ゆっくり休みたい!!”みたいな考えを持っていても全然嫌味にならず。


 観客も湿っぽい感じより楽しい感じの終わり・別れを喜んでいるように、志木や立花のツッコミで笑いが起きる。



『うわっ、酷いな~二人とも。ウチはこんなに私心を取り去って、ライブだけに力を注いできたって言うのに……シクシク』


『うわ~美桜ちゃん、流石に嘘っぽいよ?』

 

『ウフフ。あらあら。……ん? 美桜ちゃん、そんなことより、何か“発表がある”らしいわよ?』



 年長の飯野さんや逸見さんにまで軽くあしらわれ、空木は取り(つくろ)うことを諦めた。


 巨大スクリーンが切り替わり、文字が映し出される。


 

 真っ黒な背景にデカデカと文字だけが現れる様子は、驚きと緊張感を生み、会場内をザワつかせる。



 最後の最後まで飽きさせないというサプライズの演出だろう。

 



『“シーク・ラヴ第2期生枠の創設を正式決定!!”――おぉぉ。最後にエグいのを持ってきたね、偉い人達は~』


『えっと何々……“採用の判断基準・人数は後日発表!”。今日はただの宣伝止まりってことかしらね?』


 

 空木と白瀬は自分達に直接は関係しないと分かってか、冷静に発表内容を分析する。


 他のメンバー達も程度の差こそあれ、あまり驚いた感じは受けない。

 


 むしろ動揺を隠せないのは今まで研究生として随行を続けていた予備生達だ。


 ……シイナさん――ルオも一緒に驚いた感じでいるけど、君は特に今のままでも問題ないでしょうに。




「“ダンジョン探索士2期生の合格発表が正式に行われた現在、密接な関りを有するシーク・ラヴとしても、第2章へと進むことが必要であると切に感じ、この決定に至った”……か」


「要は研究生も正規メンバーになれる保証はないってことだよね? わざわざ“ダンジョン探索士2期生”ってワードに触れるわけだから」



 リヴィルの推測に頷いて返す。

 逆に候補者が“探索士2期生”だったら有利ってわけでもないと思う。



 どんな基準で選別していくかは分からないが、ダンジョン攻略にも携わるし、危険が伴う職だとも言える。

 超人気アイドルグループだからこそ、その地位に胡坐(あぐら)をかき続けるわけにはいかないという強いメッセージ性を感じた。


 

 去年とはまた違ったハラハラ感・ワクワク感を残しながら、2日に渡って行われた記念ライブは無事に幕を閉じたのだった。



ふぅぅ、溜め込んでいた感想をようやく返し終わり、今の分に追いつくことが出来ました!


もう溜めない……絶対に溜めないぞ……コツコツと返していくんだ!(フリ)


どこかで前々から申していたように登場人物のまとめでもあげようかな、と思います。

ただ全く以前の時から手を付けていないので、気長にお待ちください……。


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[一言] > 意中の相手を巡って争うドロドロの昼ドラじゃあるまいし。 > 近くで見てきたからこそ、そんな不和が生まれる要素はないと俺はキッパリ言える。  おっ、そうだな。 >「立花さん?」  ダディ…
[一言] “スク水に真っ黒なマントを身に着けた凄い格好の魔王” Vtuberに居たな
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