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37.こういうラッキーな奴、いるよね……。

ふぅぅ。

何とか纏めることができました。


ではどうぞ。


「……うっわ、大集合ですなぁ」



 俺は公園の一角、トイレ内から外の様子を窺っていた。


 

 時刻は午後。

 お昼ご飯を済ませて優しい眠気が訪れるような、そんな時間帯。



 外ではそんなことは関係ないというように大勢の人々が忙しなく動いていた。

 そしてそれは主に―― 



「男性の“探索士”をこんなに沢山一度に見ることになるとは……気分が滅入るな」



 そう、俺は今、県内でモンスターが外に出てしまったというダンジョン近くに来ていた。

 少しでも逆井達の負担を減らす意味で、何とかできないものかと一人でやってきたのだ。


 ラティアとリヴィルは、昨日突然働いてもらうことになり、睡眠もあまりとれていないだろうということでお休みしてもらっている。

 

 ……というか「ちょっと出かけてくる」と言ってそのままここに来た。


 そして今目の前で、その現場の様子を窺っているのである。



 ま、まあ大丈夫だよね?


 二人とも気づいてないだろうし。

 それにバレても優しいから、二人とも。

 


「……うげぇ……女性のもそうだが、男性探索士の制服って、どういうコンセプトで作ったんだ、これ」


 今まで逆井や志木の探索士としての制服をお目にすることはあったが。

 まあ、あれはあれで、目のやり場に困ることはあっても気が滅入ることはなかった。



 だが今目の前であっちへ行ったりこっちへ駆けたりと忙しい男性探索士たち。

 その中には勿論30代後半で“オジサン”に片足を踏み入れた人たちもいるわけで。


 彼らがその、何というか。

 あのピチッとした制服を着ている姿を見ると、こう、ううっと後退りしてしまう。



「まあそれはいいとして……」




 このトイレに入ることは特別難しくはなかった。

 だって規制線とか張られてなかったし。


 俺が普段用が無ければ来ることはない県北。

 電車を乗り継いで、そこから歩いてきた。

 

 周囲は人気は少ないものの、ゼロというわけでもない。

 だから俺が歩いていても、探索士たちに奇異な視線を送られることもなかった。


「すんません、ちょっとトイレ……」みたいに振舞ってたら普通に入れたし。



「あれか、探索士たちも、実際の現場は初めてってわけかな……」


 逆井や志木達と違って、彼らはまだ実戦を経験していない。

 資格取りたて、研修終わりたてでこの場に駆けつけてきた。


 

 警察や自衛隊ではなくてこの人達で大丈夫だろうかと心配にはなる。

 まあここに来るまでに警察官は何人か見かけたが、主に対処するのはこの人達なんだろうなぁ……。




「――お?」




 しばらく様子を窺っていると、何だか見たことあるような顔が。



「――木田(きだ)っ!! 俺たちはこっちだ!!」


「――おっ、おう!! ってか立石(たていし)っち、気合い入り過ぎじゃね!?」


「何言ってんだ、俺たちが頑張らなかったら、モンスターが公園の外に出ちまうだろう!」


「あ、ああ……いや、そうだけど……」



 チャラそうな茶髪の奴が、清潔感溢れる黒髪の好青年に気圧され、ひぃこら言いながら走ってる。

 ……あれっ、どっかで見たことあるんだけど――っと!?



「うっわ……えっ、ちょマジか――」



 俺は手元にあったDD――ダンジョンディスプレイの反応が視界に入り、驚愕する。




 ――ダンジョンが消えて、出現した。




 正確に言うならば。

 

 探索士たちが今、目的としている公園の右上にあったダンジョンが消えて。

 チャラそうな奴と好青年二人組が走っていった正にその目の前に、ダンジョンが出現した。



 これは一見ダンジョンAが消えて、移動して、そして再びダンジョンAが出現したように映るが、そうではない。



 ダンジョンAはそのまま消滅して、出現したのは、別のダンジョンBだった。

 このダンジョンBは、さっきまで別の位置――公園の左下にあったはずなのに。

 

 今はその中間点に移動してここまで来たのだ。




「そういうパターンもあんのかっ――」 




 そしてそのダンジョンBのLv.は8だったのに、今はLv.17にまで上がっている。

 つまり。



「食いやがったのか、コイツも、ダンジョンを!」




 顔を上げて、あの二人の走っていく先に視線を移す。

 すると、それを示すように― 



「――うわっ、えっ、ちょなに!? ダッ、ダダダダンジョン!?」


「ッ!! 木田っ、気を付けろ、モンスターが――」



 視界にうっすらと映る黒い点から、ゾロゾロと雪崩れ込むように、地上へと踏み込んでくるモンスター達が。


 手が生えたものの、足は特についていない蛇のようなモンスター。

 背に紅葉のような葉っぱが着いており、羽のような役割をしていた。

 見方によってはドラゴンっぽいと言えなくもない。



 それらの出現に、突然その場が最前線となった二人は混乱してあたふたする。

 そんな中でも好青年は何とか直ぐに持ち直し、チャラい奴を後ろへと庇う。

 

 ……すっげ。

 

 中身もイケメンかよ。


 

「クッ、俺が何とかする!! その間にお前は他の人を呼んで――グワっ!?」


 

 人を呼んでこさせようとしたが、その前にモンスター達の攻撃にあった。

 ドラゴン擬きは背中の羽を動かして飛行しようとするも、飛べず、そのまま突進する形になる。

 

 ただその威力は絶大で。

 少なくとも3倍以上の大きさはあろうかという好青年を一撃で吹っ飛ばした。



「ちょ!? たっ、立石っち!? ――っ!! お前らぁぁぁぁ、16歳舐めんなぁぁぁぁ!!」



 チャラい方は一瞬他の人を呼ぶべく踵を返しかけていたが、好青年が突進を受けたのを見て、駆け寄る。

 そして立ち上がり、奴らを睨みつけ。

 良く分からないことを叫んでドラゴン擬きに殴りかかった。


 

「おっらぁぁ!! ――って、硬ぇぇぇぇぇ!?」



 モンスターは特に避けるようなこともせず、拳をその身に受けた。

 しかし、その体は微動だにせず。



 むしろ殴った方が反動でその拳を痛そうにさすっている。


 


「……ジルルルルッ」



 

 それを見ていた他のドラゴン擬きがジワリ、ジワリと近寄って二人を包囲してしまった。


 体格差から飛び越えようと思えば簡単に抜けられそうな包囲だったが、それでも。



「俺は、まだ、“アイツ”に何も伝えてない……こんなところで、俺は、まだ、死ねないんだっ!!」


 立ち上がった好青年が、それでもドラゴン擬きへと果敢に攻撃を仕掛けていく。


「帰ってくる場所を!! “ただいま”って戻ってこられる場所を!! 俺が、守るんだぁぁぁ!!」



 そんな好青年に触発されてか、チャラい方も――



「立石っちだけに良いカッコはさせないぜ!! 俺も、こんなところで死ねないっしょ!!」


 手の痛みを堪えながらも、逆の手で、それがダメなら足で。

 とにかく周りにいたモンスター達に片っ端から攻撃を仕掛けていた。


「折角同じ探索士になれて、一緒にいられて、活躍できるかもなんだ、“アイツ”が一番頑張ってて、俺だけ楽できないっしょ!!」


 ドラゴン擬きたちは攻撃しない。

 獲物が勝手に弱ってくれるのをじっくり待つように。

 


 それでも、二人は周りのドラゴン擬きへ必死に攻撃を続けた。

 何か大切なものが、この戦いにかかっているんだというように。



 それを見ていて、俺は――










 ――いや、君ら、普通に逃げればええやん!



  





 そんな雑な感想を抱いていた。


 



 だってあの包囲網ザルだよ!?

 ドラゴン擬きたち、50cmくらいの大きさだよ!?

 デカくても1m絶対行ってないぜ!?



 水溜まりをピョンっと飛び跳ねる気持ちで跨げば全然逃げれるんだけど!!

 

 えっ、何なの、君ら他の大人の探索士達を呼ぶ気ゼロ!?


 俺たちがカッコよく映らないから呼ぶ気ゼロなんですか!? 

 


「クソッ、俺は、まだ、死ねない――」


「俺も、アイツと添い遂げるまで死ねないっつうの――」



 だったら逃げろや!!

 もう何なの。

  

 これ、やっぱり俺が助けないといけない感じ?



 はぁぁぁ。


 まあ、俺もあのダンジョンを見過ごすことはできないから、いいんだけどね。



 それに、ダンジョンAが標的だったら、ここから少なくとも1分以上はかかっていたが。

 でも、そのダンジョンを食った、ダンジョンBは今、目に入る場所にある。

 

 モンスター達を軽く相手しても、1分以内に潜り込めるだろう。  

 

 



 俺はそっと荷物の中から“灰グラス”を取り出し、装着した。

 視界がうっすらとした灰色の世界へと切り替わる。 






 ――よーい、スタート!







 直ぐに足を動かし、駆け、あのドラゴン擬きたちの輪へと向かう。

 そして――



 ――しっ!! せぁぁ!! どりゃぁぁ!!





「ジリッ!?」


「ジルルッ――」


「ジッ――」



 手の届く範囲からどんどん片付けていく。

 奴らからしたら、見えない場所から急襲されていることになる。


 事態を全く把握できず固まっていた。


 

 あのボス戦でレベルも上がったからか、それとも単に相手の防御力・体力が低いのか。

 一撃で簡単に沈められていくドラゴン擬きたち。


 殴っては蹴り、掴み上げては地面に叩きつけたりと無駄をそぎ落として始末していく。



「えっ!? な、何だ、何が起こってるんだ!?」


「おっ、おお!? モンスター達、勝手にやられてってね!? っていうか、俺たちの攻撃、効いてたんじゃね!! 時間差ダメージってやつ!!」


 何やら二人が盛り上がっているが、言葉として、意味として頭には入ってこない。

 

 集中してどんどん倒していった俺は、最後の一匹を踏みつけ、息つく暇もなくダンジョンの入口へと駆ける。


 

「……全部、モンスターが、死んだ?」


「うっはぁぁぁ! やった、やったぞ立石っち!! 俺たちがやったんだ!! しかもなんかちょっと強くなった感あるぜ!?」


「……ああ、確かに、内から力が湧いてくる、ような」


「レベルアップじゃねぇの!? 俺たちもう最強じゃね!? これでアイツと肩を並べて――」


 後ろでまた騒がしくなった声が聞こえたが、構わず俺は穴に飛び込む。



 そして――




「はぁぁ、はぁぁ……時間、切れか――」



 膝に手をついて、少しだけ息を整える。

 その間に、視界が灰色から晴れていき、“灰グラス”はただの伊達メガネと化す。

 

 ったく、あの二人、俺に感謝しろよ?




 ただ、そう胸中で呟くや否や、直ぐ目の前に――



「ジルルっ!!」


「ジリッ!」


「ジルジルッ……」




 外に出たくてしょうがないといったような、ドラゴン擬きさん御一行がいらっしゃった。







「――ちっくしょぉぉぉぉ!! 全部相手してやらぁぁぁぁ!!」








 その後、30分かけて階層内のモンスターを一掃し。

 2階層目まで到達し、ようやく攻略したのはダンジョンに入って1時間後だった。

 

このお話をお読みいただいたなら、次話以降の逆井さん達の話も理解しやすくなると。


何とか今夜、あるいは日を跨いだくらいにもう一話上げられればな、と思ってます。

……ランキングでの滑落も、PVの減少も、そんなことはなかった。


無かったんです、いいですね?



では、また今しばらくお待ちください。



それと……後、1件で感想100件です(ボソッ)。


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― 新着の感想 ―
[良い点] >無かったんです、いいですね? いいとも~! (^-^)/
[一言] カッコいいこと言ってるつもりなんだろうけど状況に酔ったクソガキでしかないのがなんとも。 探索士資格の基準を見直した方が良いんじゃないですかね(遠い目)
[一言] 主人公って一応探索士ではないんだよね? 大丈夫?やりすぎてない?これ ていうか実績見せて探索士にしてもらった方が何かと楽でない?
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