378.……流石だぜ。
お待たせしました。
更新時間、相変わらずグチャグチャですいません……。
色々とやることがあって、遅くなりました。
ではどうぞ。
『――クックック! それでこそ魔王カオリーヌよ! 我の宿敵に相応しい相手ぞ!』
「カ、カオリーヌ、ですか……“カオリ様”、見事なまでに役に入り切ってますね……」
ラティアが面食らったように言うのも無理はない。
ステージ上では志木が、右腕を突き出して様になるポーズを取っていた。
身に着けてもいないマントの幻影が見えるくらいの決まりっぷりである。
……そう、今のセリフは光原妹、のものではない。
『あ、あの……花織、ちゃん? その、私、花織ちゃんのこと“カオリーヌ”とか言わないんだけど……』
それを証明するように、光原妹が素に戻って恐る恐る志木へと告げる。
『フッ、魔王カオリーヌよ、何を戯けたことを! 我の膨大な黒魔力に怖気づいたか?』
だが志木は取り合わない。
あくまでも役――光原凛音になり切り続けた。
そう、つまり、今志木がやっているのは光原凛音なのである。
だから志木のセリフは全部“光原凛音的な視点で見た、志木への絡み”に変換されるのだ。
ややこしい……。
そして志木が覚悟を決めて演じ出すと、照れや恥じらいなどは一切見せず。
本気の演技で挑んだために迫力満点、本人以外誰もツッコめないものとなっていた。
「うにゅぅぅ……お、お館様、ロトワ、ちょっと頭がこんがらがってしまいます~!」
「……志木は要するに“光原妹からは魔王カオリーヌと思われてる”と思ってるって事だな、うん」
だから、ここは間違えてはいけない重要な点だと前置きし、ロトワに衝撃の事実を教えてやる。
「――つまり、“魔王カオリーヌ”という名称の名付け親は、光原妹ではなく、志木だということになる」
「……は、はぁ。そうでありますか」
ロトワは今一つ良く分からないと言った声を漏らす。
むむっ、これは物凄い重要なことなんだが……。
――だって志木自身がそんな可愛らしい名前を自分に付けたんだぞ!?
おそらく魔王カオリーヌはかおりんの進化系・派生形だろう。
じゃないと“カオリ”という音からだけでは“ヌ”という音は出てこない。
とすると、志木は良い感じに逆井のネーミングセンスから影響を受けていることをも意味する。
そんな色んな要素が合成されて生まれた、ヤバい存在。
それが魔王カオリーヌということだ。
「……マスター、明日以降、会う時に顔に出しちゃダメだよ?」
「……ヤベェ、自信ないわ」
リヴィルに軽く忠告されるが、既にダメそうである。
これからは志木と顔を合わせる度に、脳内に“魔王カオリーヌ”というワードがもわわんと浮かんでくるのだ。
……クフフっ。
無理だわ、絶対笑うっ!
俺を笑い死にさせようとするだなんて、魔王カオリーヌ……なんて恐ろしい奴だ!!
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「ふあ~あふぅ……うにゅ」
「フフッ。ほらっ、ルオ。もうすぐですから、それまで頑張ってください」
ライブ初日が終わり、周りの流れに乗るようにして帰路につく。
俺の背中では既にロトワが目を擦り、今にも意識を手放しそうになっている。
「ルオは偉いね。ロトワに譲ってあげたんだよね?」
今日の宿に着くまでは頑張ってもらうためか、ラティアやリヴィルが会話でルオの意識を繋ごうとする。
「うん……ボク、ロトワよりお姉さんだから。ご主人の背中は、だから、今度堪能するんだ」
今度背中を堪能するって何だ……。
まあ反抗期とかになって“ばっちぃから、おんぶなんて絶対嫌! ってか洗濯物、一緒になんて無理!”みたいに言われるよりは全然良いけどね。
「隊長さんの背中の良さには勝てないが、本当に眠かったらあたしが負ぶってやるからな」
「うん……レイネお姉ちゃん、ありがとう」
いや、レイネ、だから俺の背中の良さって何なの?
背中に良い悪いがあるのかよ。
織部曰く、女性の胸には善と悪があるらしいが……。
そう言う感じのものなのん?
そうして軽く話しながら10分~15分くらい歩くと、今日の借り宿に到着した。
今日初めて借りて、今日1日だけの宿なのに、中に入ると帰って来たという安心感があった。
すぐルオとロトワを二段ベッドに寝かせて、人心地つく。
晩御飯は近くのファミレスかどこかで食べる予定だったが……この様子だとコンビニとかの方が良いかな?
「マスター。さっきスーパー見かけたでしょ? ラティアとあそこで何か買ってくるよ」
「おっ、そうか? 悪いな。俺は適当で大丈夫だから。好きな物を買ってきたらいい」
今日のために下ろしてきたお金を預け、ラティアとリヴィルを見送る。
「っあぁぁ~。楽しかったな、ライブ」
まだ元気そうなレイネが伸びをしてシャツがずれ、綺麗なおへそが覗く。
おへそチラリズム……無防備だなぁ。
ここに他の男でもいてみろ、ライブ後のフワフワした高揚感と相まって、レイネに即落ちだ。
非の打ち所のない容姿をした美少女が油断して、チラッとお腹を見せてくるんだぞ?
おそろしくえっちぃおへそ。
俺でなきゃ落ちちゃうね。
「そっか、楽しんでくれたんなら良かった」
だがそう言う事に気が向かない程に満喫してくれたと言うなら、連れて来た甲斐があったというものだ。
「ああ! 何よりカオリが凄かったよな~。あの“メンバーモノマネ”の後であのパフォーマンスだもん。そりゃ皆惹き付けられるって」
レイネは未だライブの余韻冷めやらぬ様子で、嬉しそうに話してくれる。
これだけ見た人の気持ちに残るライブが出来たんだ。
カオリーヌ……間違えた。
黒かおりん……間違えた。
志木も本望だろう。
「だな」
あの後の志木達の曲は圧巻だった。
直前のMCで上手く緊張を抜くことが出来たからか。
それとも志木が見せた光原妹のモノマネとのギャップか。
カッコいい曲調、ダンスで、ダンジョンへと挑んでいく情熱と恋心を掛けて歌い上げていた。
桜田があのユニットに参加したのも良かったと思う。
自称こそ小悪魔系の可愛いアイドルらしいが、それがキリッとした表情で頑張っている姿は目を惹き、応援したくなる。
……後は今日のカッコよさを自分で忘れないでいてくれたら。
大精霊の装備をする時も、もうちょっと疑問というか、思う所が出てくるはずなんだけどなぁ。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「むぐっ、もぐっ……んっ――ご主人! 明日はいつ集合とかって聞いてる?」
「フフッ、もうルオ。そんな焦って食べなくても大丈夫ですから……」
ラティアとリヴィルが買い物から戻ってきて、晩御飯にすることに。
少し横になって眠気も取れたのか、ルオとロトワも元気にお惣菜ハンバーグを口に入れていた。
「いや、まだだな。むしろルオは聞いてないのか? 俺はルオ経由で知らせが来るもんかとてっきり……」
割り箸を一度容器の上に置き、おかしいなと首を捻る。
明日は観客としてではなく、舞台裏を見せてもらうという立ち位置で参加することになっていた。
ラティア達は自由参加で、今日のように観客として二日目を見学してもいいし、ここでゆっくりしていてもいい。
ルオだけは別で、当事者――つまり椎名さんとしてライブ自体に出る事になっていた。
だから俺よりもルオの方が当事者性が強いので、連絡はルオに行くのかな、と勝手に思っていたが……。
「……も、もしかして社交辞令的なお誘いだった説、かな?」
「いや、流石にそれはマスターの勘繰り過ぎだと思うけど」
本当かな……。
今までならともかく、今日新たに“魔王カオリーヌ”が世界に誕生したんだ。
もしかしたらカオリーヌが――
「あっ、お館様! 携帯、携帯がぶるぶる言ってるであります!」
ロトワがテーブルに置いていたスマホの変化を一早く見て取り、俺に渡してくれた。
礼を言いながら思考を打ち切り、受け取る。
相手が誰か――着信音の段階で気付いていた。
「……あー、もしもし」
『もしもし、新海様ですか? お疲れ様です、椎名です』
椎名さんの声は、意外にもいつもより沈んでいるように聞こえた。
「っす。お疲れ様です」
『……明日のことについてお伝えしようと思っておかけしたんですが、大丈夫ですか?』
気遣ってくれるのは嬉しいが、こっちは単にライブを楽しんだ故の疲労だ。
それに椎名さんの方がむしろ疲れているというか、元気がない様に聞こえる。
「俺は大丈夫ですけど……椎名さんこそ、その、大丈夫っすか?」
『……フフッ。ええ。ただ明日のことを想うと胃が痛いですね』
明日――ああ。
チラッとルオを見て、納得した。
「まあでも、椎名さん明日は実質休みみたいなもんじゃないですか。ゆっくり体を休めて、羽を伸ばしては?」
『体をどれだけ休めていようと、胃は絶対休まりませんからね……お気遣いなく。ああ、ですが、私のことは気にせず、ルオ様には目一杯、御嬢様たちとのお時間を楽しんで頂ければと思います』
おお……。
ルオのことを想ってくれてる、有難いことだ。
椎名さん、もう既に覚悟完了形へと至ったか。
あれか、今日志木がやったことに感化されたのだろうか。
先のことは気にせず、今を必死に楽しんで生きる――若者の特権だ。
つまり、椎名さんは“ナツキ・シイナ”の黒歴史を受け入れることで、逆説的に若返ったということか。
『……明日、無事にお会いできればいいですね』
ヒィッ!?
今日一の低い声!
そして脅迫めいた言い方!!
俺、今日の内に何か身の危険でも起こるの!?
即謝罪を入れ、許しを得た。
明日の予定、集合時間・場所などについて事務連絡を受け、電話を切った。
「はぁぁ……」
「お疲れ様です。明日の予定の連絡、ですか?」
ラティアが尋ねてきたので、今教えてもらったことを皆に伝える。
ルオには特にあまり夜更かしせず、早目に寝た方がいいと言っておいた。
「ご主人様もお早目に眠られた方が良いかもしれませんね」
「ああ、そうだな」
そう言えば自分の寝る場所がどこか、まだ知らないことに気付く。
皆が決めた後の余りでいいと言ったので、ラティアにどうなったと聞いてみた。
「はい。寝室が一つありますので、そちらに。――あっ、2人部屋ですので私もお邪魔することになるんですが……よろしいですか?」
…………。
よろしいかよろしくないかで言えば、エロしかない。
――いや違った、よろしくないです!!
だが自分で“余った部屋でいい”と言った手前、ここで拒否すればあからさまにラティアと一緒だから拒絶したと言うことになる。
それはラティアを傷つける……ぐぬぬ!
退路は既に塞がれていた、ということか!!
「……はい、大丈夫です」
そう答える以外に、俺に選択肢は残っていなかった。
俺の身に迫るのは椎名さんからの危険ではなく、ラティアからの危険だったと言うことか……!
おそらく2日目は3話かからない、と思います。
何とか2話以内に収めたい……!




