376.やめたげてぇぇぇ!!
お待たせしました。
謎の軽度の頭痛に襲われ、それでどうしても書く気力が起きずにダラダラしてしまいました。
すいません。
ではどうぞ。
『日々生じるダンジョンに関する問題について、大過なく対応できているのは、最前線で体を張って下さる皆さんのお力あってこそだと、常々痛感するところであります』
やはり去年と同じく、偉い人が開会に際して有難いお言葉を下さった。
流石に大臣直々に述べるとあって、会場全体はとりあえず静かに聞き入っている。
『――そして来春に設置されることが正式に決定しました、“ダンジョン探索庁”。これの稼働に向けて、私も、ダンジョン対策担当大臣として、全力を尽くして参る所存です』
会場が大きな拍手で包まれる。
意外に長くはかからなかった。
国会での答弁も面白いとの評判ある人物だ、ライブが早く見たいとの場の空気は弁えているということだろう。
「えーっと……お館様?」
右隣のロトワが難しくてよく分からないという顔で見てくる。
「……要は、大臣自体と、来年できる庁の宣伝ってことだ」
あまり偏った意見にならないよう、今のご挨拶の意味を解説する。
先月の内閣改造に合わせて新たに出来た大臣職。
今挨拶した大臣は防衛大臣の経験者でもあり、ダンジョン問題についても与党内で特に詳しいということで抜擢された。
ただ来年4月の設置が決まった“ダンジョン探索庁”。
これの初代長官は、また別の人がやるだろうと言われているが。
「本当は先月くらいの設置を目指してたんだよな? ……半年も延びてんだな」
「年度初めの設置は色々大変だから避けたかったらしいが……詳しくは分からん。ネット見てくれ」
右後ろに座るレイネの呟きに、同じくネットでかじった知識で答えておく。
国会審議で揉めて時間がかかったとか、他の関係省庁が水面下で激しく抵抗したとか……。
他にも4月設置に至った経緯は色々と噂されているが――
「うぉっ!?」
「暗くなった!」
会場全体の光が落ちた。
流石にもう他の賓客が出る演出じゃないだろう。
本当にライブの中身が、スタートするんだ。
だからもう、難しい政治の話は頭の片隅に残すだけにする。
そして急ぎ、DD――ダンジョンディスプレイの準備をした。
赤星の厚意により、一緒の視聴が可能となった、その相手を――
『――皆さん、ようこそぉぉぉー!!』
再び光が戻った時には、いつの間にか、もうメンバー達がステージに出現していた。
そして間髪入れずに曲が始まる。
おぉっ、早っ!!
新曲!?
ちょっ、ちょっと待って!
まだ――
『ドンドン飛ばして行きますから、皆さん、着いて来てくださいね!!』
ぎゃぁぁぁ、志木さん、飛ばさないでぇぇぇ!
だがそんな願いも虚しく。
大歓声の中、ライブはシーク・ラヴの新曲でスタートしたのだった。
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「すまん……織部、肝心の始まりを、見せてやれなかった」
『…………いえ、良いんです良いんです。見せてもらえるだけで、凄く感謝しないといけないことだって分かってますから、はい』
ようやく繋がった相手――織部との間には微妙な空気が流れてしまっていた。
勿論そんな俺達のことなどは関せず、ライブは進行していく。
3曲連続で歌っても息が切れない彼女達は、MCに入っても軽快にトークを続けていた。
「そ、その、あれだな! 知り合いがこうしてアイドルやってるって、何だか不思議な気分だよな!」
丁度ステージでは逆井が話を振られていたので、気分を変える意味で言ってみた。
『まあ、そうですね。梨愛がステージでアイドルをやって――ほわっ!?』
織部が何かを口にしけた時だった。
『――もう! かおりん張り切り過ぎだし! ニシシッ、今日のかおりん、いつにも増して綺麗で可愛いしさ。気合い入ってるよね~!』
『もっ、もう梨愛さん! くっ付きすぎよ? ……そりゃ待ちに待ったライブですもの、気合いの一つも入ります!』
露出の多い映えるライブ衣装で、逆井が志木に抱き着いた。
そしてそんなボディータッチの激しい逆井を、志木も邪険にせず受け入れる。
美少女同士の眼福な百合百合の光景に、会場中からも盛り上がる歓声が上がった。
「フフッ、リア様とカオリ様、本当に仲良しさんですよね」
「だね。本当、リアとカオリって、無二の親友みたいに見えるね」
『ぐふぉっ――』
織部のメンタルにクリティカルヒット!!
ラティアさん、リヴィルさん、やめたげてぇぇぇぇぇ!!
「織部っ、無事か!?」
『ネトラレです……完全なネトラレですよぅ。……親友がパーフェクト美少女アイドルに寝取られたようなので、異世界でひっそり生きたいと思います』
そんなラノベタイトルっぽいライトな感じなのにメンタル死んだように言うな!!
『花織ちゃん、オープニングも凄く飛ばしてたものね。ウフフ……ライブってこと以外に、何か張り切る理由でもあるのかしら?』
『も、もう六花さんまで! ライブだからです! それ以外にありませんってば!』
ステージ上では珍しく、志木がメンバーにいじられるという時間が続いていた。
観客も、メンバー達のそんな楽しいやり取りを喜んで聴いている。
『……オープニング、飛ばして……――悪意です。絶対悪意に満ちて飛ばしたんです』
……ただ唯一、織部だけは邪念に満ちていたが。
『志木さんは、強敵である私に歌を聴かれるのを嫌がったに違いありません。だから、私と通信が繋がる前に終わらせてしまえとハイスピードで……』
「……そもそも志木はお前の存在を認識してないだろ」
あのステージ上で、織部が生きていると知っているのは逆井と赤星だけだ。
だがそんなことは関係ないとばかりに、織部は完全に八つ当たり気味の邪推を展開し続ける。
『あの志木さんの浮かべる笑顔も、きっと仮面です。あの仮面の下には真っ黒な志木さんがいるに違いありません。仮面の下で、私から梨愛と新海君を奪う策略を計算高く考えてるんですよ。私から全てを強奪して行く気で……』
鋭い分析のようで的外れでもある……。
確かに黒かおりんは実在するけども……。
……いや、ってか逆井はともかく、俺はいつからお前の物になってたんだよ。
「はぁぁ……一回切るぞ?」
『新海君、気を付けてくださいね? 志木さんは新海君をどうやって自分の虜にしようか、日々悪だくみしてるんです。梨愛のように寝取られないよう――』
途中で切った。
あまりに現実味の無い妄言が続くから。
織部から志木に、俺が寝取られるってどんなとんでも展開だよ。
……まあ冷却時間をおいた方が良いだろう。
ライブは3時間もあるんだ。
要所要所で繋いだ方が織部のためにもなるだろうしな。
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『そっか……梨愛と白瀬さんは進学しないんだ』
『うん! だからハヤちゃんもなっつーも、それにかおりんも。皆凄いよね~』
『ううーん。私は推薦だけど、立花さんと志木さんは普通に受験するって話だからね。私からしたらあの二人の方が凄いよ』
また更にソロやユニット曲を挟んで、再びMCが入る。
志木が裏に引っ込んでいることもあってか、その頃には織部も冷静さを取り戻していた。
ただ今の所は口を開かず、静かに話に聴き入っている。
逆井が受験せず、そのまま探索士・アイドルと二足の草鞋を続けていくことに、色々思う所があるらしい。
「お館様お館様! ミオちゃん、お歌、凄く素敵でしたね!」
「ああ、まあ、そうだな……」
ロトワが興奮気味に言ってくるのは、さっき歌を披露した空木の話題だった。
空木と逸見さん、そして光原姉――中二病じゃない方の3人組ユニットだ。
志木・逆井と共に歌の上手さに定評のある光原姉、つまり和奏を中心に本格派を目指したユニットと言うことらしい。
だが意外にも、普段ダラけている空木が真面目にアイドルをやっていてかなり輝いていた。
スマイルを浮かべ、アイドルらしい可愛いポーズを決め。
そして光原姉の透き通るような綺麗な歌声に、劣りを見せない上手さだった。
きっと年長の逸見さんがユニットにいることで、頑張らないとと思わせているんだろう。
「……隊長さん、ミオの頑張りの理由をきっと変な所に見出してるぜ」
「……だろうね。マスターのことだから、もしかしたらロッカが目を光らせてるからミオがサボれないんだろうな、とか思ってそう」
……こーら、君達。
いつも言ってるだろ、俺の思考窃盗は止めなさいって。
何なの、レイネもリヴィルもエスパータイプ過ぎない?
根暗ボッチのあくタイプには通じないんじゃなかったの?
酷い……。
織部さんと志木さんが天敵関係に!?
きっと二人は正ヒロインの座を巡って今後も熾烈な争いを繰り広げていくんだろうな……(白目)




