372.アイタタタタッ!!
お待たせしました。
これで一応ボス戦は終わりですね。
ではどうぞ。
「ブニュゥゥゥ!!」
「はんっ、攻撃が、さっきよりも、随分雑だぜ!」
敗北の足音が近づき本格的に焦り始めたのか、スライムの動きは単調さが増していた。
パターン化された攻撃は予測を可能にし、簡単に回避することが出来る。
「はぁっ、せやぁ!! ――レイネ、ルオ、今っ!!」
「リヴィル、ナイスッ!!」
「たぁぁぁ!!」
1対1に余裕が出てくると、安全に戦況を把握することも可能になる。
ゴッさんチームに合流したリヴィル達は攻勢を強め、一気に片を付けに行っていた。
ラティアも詠唱を進めているが、これは……物理で沈む方が早いか?
「一気に行くよ――せぁぁぁぁああ!!」
普段のクールなリヴィルからは中々聞けない、気合いの入った声。
バトルゲームとかなら必殺技のカットインでも入りそうなくらいだ。
それ程に、リヴィルは身に纏う青い空気――導力を爆発させていた。
……リヴィルはスーパー異世界人か何かかな?
「Siiiiiiii!?」
リヴィルの一撃で、大木の幹には、大砲が直撃したような大きな風穴ができていた。
すっげぇぇ……。
「ブニュン!!」
「うぉっと!?」
その驚きで生まれた一瞬の隙を突くようにして、炎スライムが襲いかかってくる。
炎の鞭はキレもスピードも戦闘当初よりガクッと落ちていた。
フッ、避けるのに造作もないぜ。
「ブニュゥゥゥゥウ!!」
ヤケクソにでもなったのか、スライムは体から炎を一気に放出。
肉を切らせて骨を断つとでも言わんばかりに、みるみるスライムは萎んで行く。
だが逆に俺へと迫る炎の威力はグンと増した。
そして今度は避ける間もなく炎の海に囲まれてしまう。
あっ、ちょっ、ズルい!!
範囲攻撃を一人相手に使うのは無しでしょ!!
「ご主人っ!?」
「おいっ、隊長さんっ!?」
ルオ達の声が聞こえたと思ったが、直ぐに炎の音に掻き消される。
息を吸うと熱風が喉を通り、肺を焼くのではないかと思うくらい苦しくなる。
……だが、やはり死の危険とか、恐怖感は不思議と湧かない。
それどころか、むしろワクワク感が出てきて、そんな自分に驚くばかりだ。
「ハンッ! スライムよぅ、舐めて悪かったな。そうだよな……最後まで、死闘の限りを尽くそうぜ!」
普段の俺の楽をしたがりな思考からは生まれようもないセリフが、スラスラと勝手に口から出てくる。
多分後で冷静になったら恥ずかしくなる奴だなぁ、これ……。
「ブニュニュン!」
バトル漫画でありそうな好敵手との熱い展開みたいに、スライムと向き合う。
外の状況は分からない。
だがさっきのリヴィルの一撃を見たら、決着は近いと思う。
俺達も、そろそろ――
「っらぁぁぁぁ!!」
「ブニュゥゥゥゥ!!」
どちらからともなく駆けだした。
距離が一瞬のうちに縮まる。
スライムが腕を作り、殴り掛かって来た。
速い。
さっきまでとは大違いだ。
力を振り絞った渾身の一撃。
やはりボスだけあってそのポテンシャルは高い。
だが高く強い相手だからこそ――
「っらあぁぁ!!」
≪強者狩り≫ が最大限に活きる!
スローモーションのように止まって見えた攻撃を掻い潜り。
スライムの懐に入り、右拳を目一杯に振りぬいた。
クリーンヒット。
衝撃で飛ぶ前に何度も何度も、殴る。
ほんの僅かな時間の中で、左右の拳を、両の脚を、動かし続ける。
「ブニュッ――」
全ての衝撃が一度に襲って来た様に、スライムが一気に吹き飛ぶ。
自分で作った炎の檻をも通過し、壁にぶつかるまで転がり続けた。
「ブニュゥゥゥ……」
力なく、スライムは弱々しい声を上げる。
そしてスライムはグッタリと地面に横たわった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「ブニュゥゥゥ……」
伸びたようにスライムはその場で動かなくなった。
「ふぅぅ……スライム、お前も中々強かったが、俺の勝ちだ。ただ良い戦いだった――」
「――【デモンズ・ブレス】!!」
えっ!?
黒い風が吹いた。
周囲に残っていた炎も消し飛ぶ。
火の壁で遮られていた視界が戻る。
何が起こったのかと振り向くと、既にボスプラントは倒されていた。
そしてラティアが凄い形相でこちらを――スライムを見ていた。
ラティアの魔法が、完成したのだ。
「ブニュッ――」
目に見える色のついた黒風は、スライムに向かってのみ吹き続ける。
風に当たり続けると、その時間に比例して体が真っ黒に変色していった。
そして黒に染まった部分が、ドロッと溶けた。
まるで闇そのものに汚染された体が、闇と同化してしまったかのように。
次々と溶けた部分は他の無事な体にも広がっていく。
また、風はまだまだ収まっておらず、黒い風からも体の黒色化は進行していった。
真っ赤だったスライムの体はいつしか色の割合が逆転。
10秒もしない内に黒へと染まり切り。
最後に全てが闇となった瞬間、地面へと溶けて消えてしまった。
スッ、スライムゥゥゥゥ!!
あ、呆気ない終わり……。
ラティアの魔法は完全にオーバーキルそのものだった。
凄い激しい怒りをぶつけたような、そんな魔法に感じた。
スライムはまあ、あれだ。
安らかに眠ってくれ。
何か青春マンガのケンカの後みたいに、夕日をバックに握手でもするのかと思ったけど……。
やっぱりボス戦だからか、“お前、やるな!!”“お前こそ!”的な展開は何も無かった。
「ご主人様ッ、ご無事ですか!?」
「お館様っ!!」
戦闘が終わった途端、皆が駆けつけてくれる。
いや、来てもらって悪いけど、うん。
全然平気。
痛みも何もなくて…………あれ?
――アイタタタタタ!?
「はっ、ははは……平気。超平気過ぎてこれからもう一戦行っときたいくらい」
と、心配させない様に言いつつ、内心では……。
――あっれぇぇぇぇ!?
さっきまで全然痛くなかったのに、今は無茶苦茶に痛いんだけど!?
皮膚の焼けた感じ痛い、マジで痛い!!
ヒリヒリで、ちょっと動かすだけでも激痛なんすけど!?
……あっ、アドレナリン、切れたか。
≪強者狩り≫ェェェ……。
「平気って……マスター、凄い皮膚焼けてるよ!?」
「であります!! あわ、あわわ……れ、レイネちゃん! お館様、大変であります!!」
「ッ! わあってる!! ――おい隊長さん、腕だせ! ほらっ、治療すんぞ!」
「ボクッ、直ぐにシルレお姉さんになるから!! 待っててご主人!!」
い、いや……痛いけど、そんな心配するほどじゃない……とは思うんだ。
「あー……ラティア。とりあえず、ポーションを頼む。それで薬草。飲んで食って……それでダメそうなら、頼むわ」
それに回復魔法もあるから、本当、ね?
「……はい。かしこまり、ました」
返事をするまでに、時間があった。
その間、目だけで色々と問うてきた、ように思う。
だが今は何も言わずに、グッと飲み込んでくれたらしい。
すまんな……。
その後は多目にポーションを飲み、薬草を噛み続け。
1時間たっぷりと治療に費やし、おおよその火傷は治すことが出来た。
ただやはり煽った時に自分で口にしたように、完治はまだ先のようで……。
我慢できる程度のヒリヒリとした痛みはなお残っていた。
まあ皮膚の焼けもまだあるが、数日同じ様に薬草をムシャってたら治るだろう。
久しぶりに薬草を食べまくる口実が出来てむしろ心躍るぜ!
……皆、織部には内緒な?
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「はぁぁ……でも流石に風呂はちょっとドキドキするな」
攻略出来たのは良いが、ボス戦だけで今日は一気に疲れた。
リヴィルにも疲労の色が見えてたくらいだからな……。
全体の疲れ具合を考慮して、ボス部屋の探索を後日へ回したのは良かったと思う。
「……あぅっ!? ……痛い。やっぱりダメだった。ビニール袋巻くか」
お風呂のお湯に腕を浸けてみたが、流石に痛かった。
残念だが、今日明日くらいはビニール袋を腕に巻いて入ろう。
念のためにと脱衣所に準備していたビニール袋を早速装備した。
湯船に浸かるのはちょっと勇気がいるな……今日はシャワーだけにしようかな?
「んっ……ん? ああ、出来た……巻いたままだとやり辛いな」
お湯を出す栓が上手く回せなかった。
仕方なく肘で回す。
普段出来てたことが、上手くできずに少し苦労する。
ダンジョンでモンスターを倒せるまでになったのに、日常生活ではこれか……。
何だかチグハグだな……。
「――あの、隊長さん? 入るぞ……」
「ご主人様、失礼しますね」
「おう、入ってるぞ」
……ん?
…………へ?
不意にドアが開いた。
そこには水着姿のレイネと、そしてラティアがいた。
「隊長さん、もしかしたら体洗うの、しんどいかなって……」
「リヴィルが“水着をして行けば、マスターもダメとは言わないんじゃない?”って……あの、ご主人様?」
…………。
あっ、なるほど。
つまり今回の黒幕はリヴィルさんですか。
――アイツ、上がったら絶対“柑橘系の刑”!!
一先ず俺だけ真っ裸なことは棚に上げ、ビニール袋を纏った腕で頭を抱えたのだった。
すいません……。
今日はクタクタの状態から続きを書き始めたので、早めに深夜テンションがやって来まして。
最後のはその結果だと思います、はい。
書き終えた今もフワフワしていて、思考がお休み状態です。
ラティア「(おかげでご主人様とのお風呂イベントが……フフッ、ナイスですね)」
レイネ「(ま、まあ隊長さん、お風呂入るの大変そうだから。うん、それ以外に変な気持ちとかないから……えへへ)」
とか思ってるかも……(眠)。
 




