371.熱い熱い熱い!?
お待たせしました。
ボス戦・バトル回です。
ではどうぞ。
「……皆、気を付けて。いつ来てもおかしくないよ」
5階層の最奥へと歩を進めて。
中に入った途端、リヴィルが注意を促して来る。
「ああ。……やっぱ雰囲気あるぜ、ここ」
レイネも油断なく周囲を見渡す。
体育館二つ程の広さの中、視界を遮る物は何もない。
だがその何も無さが、かえって不気味さと緊張感を生む。
「うっし。じゃあ皆、敵が出ても慌てず、打ち合わせ通りに」
「はい。……ご主人様、お気を付けて」
ラティアの返事に頷いて答える。
そして、ラティア達から距離を取った。
別の班として行動するためだ。
今回はラティア達に加え、ゴッさんやゴーさん、それに幼竜たちもフルで揃っている。
全員が一塊となるより、複数のグループに分かれ、それぞれが状況に応じて臨機応変に動いた方がやりやすいだろう。
「!! ……来るよ」
リヴィルの言葉で、全員が戦闘態勢に入る。
「ふわっ!? ひっ、光が――」
ロトワの声が響く。
それとほぼ同時に、部屋一体を眩い光が覆う。
目が開けていられない程の光量。
思わず腕で光を遮る。
真っ白な世界が瞼の裏に広がった。
次の瞬間には、異質な存在の気配を感じとる。
「――来たぞっ!!」
視界はまだぼやけていたが、叫んだ。
俺の声が届く前に、既にレイネとリヴィルは動き出していた。
後衛のラティアを司令塔とする、本命チームのアタッカー二人だ。
「真ん中の1体、あたし達でやる! ゴッさん、そっちで1体やれ!!」
「マスター、1体の時間稼ぎ、行ける!?」
二人は早くも状況を把握していた。
戻った視力で、遅れて敵戦力を確認。
デカいモンスターが、3体いた。
「っしゃぁ!! 1体だろうが1体だろうが、全部俺が相手してやらぁぁぁ!!」
「ご主人、それ普通に1体相手にする以上のこと言ってないよ!?」
ええい、ルオめ、こっちは忙しいんだ、ツッコミは後にしろ!!
巨大な樹木が生命を宿したモンスター。
角を持った、ゾウ程の大きさがある犬。
そして俺が受け持つ、真っ赤な大玉を思わせるスライム。
全て、これまでの1~4階層で出てきたモンスターの上位種のような姿だった。
「Giiiiiiiii!!」
「ちち、うえ!! この大きな、ツリープラント、は、お任せ、を!!」
ゴーさんが叫び声を上げ、巨大なプラントと組み合うように突っ込んでいく。
その後ろから駆ける小柄な少女。
――ゴッさんが、一番右のチームを指揮していた。
「頼むっ!! ――っし、来いやっ、スライム!!」
「ブニュンッ!!」
真っ赤に燃える体を震わせ、スライムが飛び跳ねる。
久しぶりのボス戦が、幕を開けた。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「クソッ、この、熱っ――」
敵を構成するボスの1体、レッドスライムは以前4階層で戦ったのとは比べ物にならない強さだった。
大きさからして人を飲み込んでも余りある程だ。
そして手でだろうが足でだろうが、触れたらその部位に熱が走る。
それも装備した手袋や靴の上からだ。
実際に燃えるような熱さで、防御するだけでもダメージを食らう。
「ブニュンブニュニュ!!」
「チッ、っらっ、せぁっ!!」
更にただ飛び跳ねて押し潰そうとするだけでなく。
球体を器用に変化させ、そのゼラチンのような体を細く鞭のようにしならせて打ってくる。
で、それをガードするなり弾くなりで受けてしまうと、炎ダメージだ。
クソ厄介なボスである。
「はっ、せぃっ――あっ、クソッ!」
ジャンプして高威力のボディープレス。
上手く距離をとろうとするとこれだ。
複数のボスが入り乱れるという状況上、離れ過ぎると他の戦場に乱入してしまいかねない。
上手く1体のボスvs1チーム、それを3つ作っていた。
そして一番の戦力をつぎ込んでいるのは勿論真ん中で奮闘中の――
「――っ!! ご主人っ、危ない!!」
一瞬ルオが真横を過った。
視界にはその足で蹴り抜かれた巨大な犬がいた。
こちらに来そうな所を、ルオがすかさず邪魔したらしい。
「っとと! ナイスだ! そのまま頼む!」
真ん中の戦力差は圧倒的だった。
リヴィルとレイネの火力だけでも十分に削れている。
もう直ぐラティアの詠唱も纏まる。
一方の右奥では今もゴッさん達のチームが、巨大プラントと戦闘をしていた。
全身木で、その幹からツタを生やしている不思議な生き物である。
こっちのレッドスライムのようにそれで器用に攻撃しているのだ。
「むっ!! ラティアちゃんには触れさせませんっ!! はぁっ、せいやぁぁ!!」
ルオが、俺の方に他の敵が来ないよう妨害したみたいに。
ゴッさん達との戦闘の流れ弾がラティアに降り注がないよう、ロトワが器用に護衛を務めていた。
流れてきたツタの先を、上手く弾く。
「クソッ、俺も剣術スキル、欲しいっ!!」
「ブニュッ!!」
全く可愛くない鳴き声を上げ、炎スライムが襲い続けてくる。
まあ【敵意喚起】でそうするように仕向けているからだが……。
炎の鞭とボディーアタックをかわし、時には受け止めながらもただ防戦一方というわけでもない。
こちらからも、炎ダメージ覚悟で攻撃を入れていく。
「っらぁ! このっ、熱くて暑っ苦しい!! 痛いし、火傷確定だぞこの野郎!!」
「ブニュニュン!?」
殴りつけると、五指の第一関節全てが焼ける痛みを覚える。
蹴ると、足の表全体が燃えるような熱さとなって顔が歪む。
だがそれでも攻撃を止めない。
止めないでいられた。
≪強者狩り≫が発動していて、そうさせてくれたのだ。
「せぁっ、うらぁっ――」
クリーンヒットして、腕がスライムの体内にまで入り込む。
上腕全体が灼熱の炎に包まれたように熱い。
でも、それだけだ。
怯まない。
全然、やれる。
死への恐れというか、漠然とした不安・恐怖感みたいなものが全くない。
むしろ強い敵との戦いに高揚してすらいた。
……フッ、俺もカッコいいバトル系主人公の仲間入りか。
「ブニュッ!!」
「ったっ!? 熱っ!?」
口から炎を噴射してきやがった!
テメッ、こんの、お前っ、エネルギー問題を解決するヒントとして生贄にすんぞ!!
、
それが嫌なら、大人しく俺にやられろ!!、
はぁ、もう、ちょっとカッコつけたらこれですわ。
どうせ俺にモテ系主人公なんて無理っすよ――
「≪闇よ、全てを貫く槍となりて、降り注げ――≫」
そこに、ラティアの一際大きな詠唱が、聞こえてきた。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「――【ブラック・レイン】!!」
天井に、真っ黒な闇が口を開く。
そこから落ちてくるのは、闇が凝縮された、真っ黒な禍々しい槍。
真上から、無数に吐き出される。
「ギャゥ――」
真ん中――ホーンドッグのボスが、串刺しにされた。
1本刺さると、それがまるで闇を引き寄せるかのように、他の槍もその1本に向けてドンドン降ってくる。
仕舞いには体の半分程が、命中した黒い槍で埋め尽くされ。
まるで1本の太い円柱が貫いた後のようになっていた。
「よしっ!! ――ラティアッ!! 1体やったよ!!」
完全に仕留めたことを確認し、最前線のリヴィルが声を飛ばす。
「分かりましたっ!! 次は――」
どうすべきか、戦況を把握すべく周囲を見たラティアと、目が合う。
それを受けて俺も向こう側へと一瞬、視線を向けた。
「っ!! ゴーちゃん、もう少し、がんば、れ!!」
「Gii,gii!!」
向こうでは、ゴーさんが盾となり、その間に3体の幼竜たちがブレスを放つという戦法で互角に渡り合っていた。
そしてゴッさんが時にはゴーさんをフォローし、また場合によっては幼竜たちにツタが行かないようけん制もこなしている。
そこに、目印を失ったランスの残りがチラホラと突き刺さっていく。
斧で木を打ち付けた時のようなカンッという音が続いた。
俺とスライムの方よりも、あちら側に多く降っている……よし――
「そのままそっちへ合流! 一気に2体目も潰してくれ!!」
「はい! かしこまりました!」
ラティアは返事を終えると直ぐにまた詠唱に取り掛かった。
リヴィルとレイネもやり取りを聞き、ゴッさん達の元へと駆ける。
ボスたちがその1体を失ったことで、一気に戦況が傾く。
これで、この勝負に片が付くのも時間の問題となった。
「――フフッ、なぁスライムよう……腕とか脚ぃ~随分と痛かったんだぜぇ?」
「ブッ、ブニュゥ……」
それを確信し、殊更に悪い顔で、相対するスライムに語り掛ける。
何か並々ならぬ気配でも感じ取ったのか、炎スライムに先程までの覇気はない。
「あぁあ~、これ、絶対火傷だわ~これ完治まで長引くわー。……で、どうするよ? 1体やられちゃったぜ? お前ん所の仲間」
「ブニュッ、ビニュニュ――」
小物臭溢れ出るチンピラ感で、スライムを煽りに煽る。
大局は決したと思うが、それでも合流されて今更2体vs3チームとされるのは面倒だからな。
最後まで俺に付き合ってもらう。
「――ブゥゥニュゥゥ!!」
スライムは、決死の覚悟で俺へと突っ込んできた。
逃げや降参はないらしい。
そう来なくては……ん?
いや、別にこれ以上戦わなくて良いんなら、白旗上げて参りましたって言ってくれてもいいんだけど……。
……あれ、ヤバい、何かいつの間にか思考の中に、バトルジャンキーっぽい俺が混じってない!?
「っしゃぁぁ! こっちもやってやらぁぁ!!」
そんな疑問を考察する暇もなく、スライムとの第2ラウンドへと突入した。
次回も一応戦闘の続きになりますが、長引かせず、後処理も含め次で終わる、と思います。
そして1話もしかしたら別のお話を挟むかも……その後、ライブの話に、という流れですね。




