364.……ちゃんと見てたからじゃないか?
お待たせしました。
ではどうぞ。
「ん~! んまい!! ……何ですかこれ、ファミレスでこのクオリティとか、ウチをファミレス沼に引きずり込む気ですよ、このスイーツ」
目を大きく見開き、空木は芋のモンブランケーキをパクパクと食べていく。
つい先程注文してやって来たばかりなのに、ケーキは瞬く間に空木の胃へと消えていった。
「わぁぁ……凄いね、ミオお姉さん。もう食べちゃった」
ルオも食べたそうにしていたが、さっきパフェを食べたばかりだ。
いつもと変わらない夕食のことを考え、ちゃんと我慢が出来ていた。
「ふふん。スイーツとお芋は別腹だから。――お兄さん、もう1皿頼んでも!?」
「おう……」
どんよりした目をすることも少なくない空木が、珍しくキラキラした瞳で見つめてくる。
協力してくれる対価として、ファミレスのケーキの奢りくらいなら安いもんだ。
手をヒラヒラとさせて応じる頃には、既にボタンを押して店員さんを呼んでいる。
「……季節フェアのお芋ンブラン、それと、このさつま芋ディップって言うの2つ。で、芋タルトを3切れ分、お願いします」
えっ、他にも食うの!?
「大丈夫です。ウチ、食べても太らない体質なんで。ライブも余裕です!」
いや、そう言う事じゃなくて……。
ただまあ、これ、くらいなら……何とか。
空木が来てくれてから、話が途切れることはなかった。
ルオと二人キリでもちゃんと話は回るが、やはりもう一人いるかいないかで会話のし易さは全然違う。
これならラティア達の準備が整うまで、バッチリ時間を稼げるだろう。
「……まあ別に良いけど」
「ありがとうございます。やっぱり成長期なんですかね? 横は全然変わらないのに、縦はスクスク大きくなるんですよ。だからエネルギー補給にお芋は必須でして……」
縦……?
……ああ身長のことね。
「……ああ、そっか。身長のことだよね。ボク、てっきりお胸のことかと思っちゃった」
あっ、だよね!
俺もそう思った。
空木の食べた芋は全部フカパイの栄養源となっているって、専らの噂だからな。
「ん? あぁぁ……確かに、こっちも全然成長止まってくれなくて。最近肩が凝るわ凝るわで……。このままじゃ、美洋さんと一緒に牛柄ビキニ着せられる仕事回ってきちゃいますよ」
お前な、それ絶対飯野さんの前で言うなよ?
後、ルオが気になるワードとしてインプットするから、“牛柄ビキニ”とか言わないの。
後で家に帰った時に“ラティアお姉ちゃん、牛柄ビキニって何?”って聞いたらどうすんだ。
もしラティアが牛柄ビキニ姿で俺の前に現れたら、空木が間接的な原因だと断定するからな。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
その後コーヒーのおかわりを頼んだり、ルオのジュースの実験に付き合ったりしながらも他愛無い会話で時間を潰した。
「へー。学園祭、そんな感じだったんですね。まあ颯ちゃんはメイド服とか、流石あざといって感じ。あざと忍者の末裔ですって。その内お兄さんの目の前でエッチな罠に自分でかかったりしますよ」
空木はゴロゴロして怠けていることが多そうなイメージなのに、出てくる話題は豊富で、聞き手としても話し手としても上手く場を回す。
「カオリお姉さん。ご主人と写真撮った後はスタタッて凄い速さで行っちゃって」
「ふむ……それは、恋じゃないですかね? 花織ちゃん、これで丸くなってくれたら……グヘヘ、ウチの時代だ」
偶にジョークを交え、周囲を飽きさせない。
「えっ、お兄さん、自分の学校でしょ!? しかも今年で最後の学園祭なのに……。梨愛ちゃんに頼めばミニライブのチケットの一枚や二枚、簡単に手に入ったでしょ?」
「俺も、俺も、頼みたかったさ。だが、逆井はここぞとばかりに“へ、へぇぇ……。用意してあげても良いよ? でもタダって訳にはいかないっしょ。……新海、ちょっと体貸してもらうけど――分かってるよね?”って、脅されて……ぐすん」
折角だから、ルオにこの時間を少しでも楽しく過ごしてほしい。
なので俺も、空木に乗せられるようにして口を動かし続けた。
「えっ!? リアお姉さん、そ、そんなことを!? で、でもリアお姉さん優しい人だし、何かの間違いじゃ――」
「……梨愛ちゃん、ビッチギャルっぽい感じで、実は初心初心なムッツリ処女ギャルだからね。お兄さんの弱みに付け込み、自分の欲求の捌け口に――いや、これ以上はよそう」
俺のジョークに空木がオーバー気味に乗っかる。
ルオは顔を真っ赤に染めてアワアワしていた。
でもちゃんとその先も言って欲しそうな表情を覗かせる辺り、ルオも立派なおませさんである。
……逆井、スマンな。
でも大丈夫、ルオは純粋だからこうだが、他は誰も信じないだろうし。
何より空木が話を膨らませ過ぎだっての。
相手俺だぞ?
ガチで体育館裏に集合掛けられるのならまだしも、なぁ?
「――二面性って言えば。ウチが来た時、お兄さん達、よく直ぐに分かりましたね? ウチ、これでも変装、メンバーからも殆どバレたことないんですよ」
再び来たスイーツを空木がしっかりと食べ終えた頃。
さっきの話の続きと、空木は自身の変装姿を指差して尋ねてきた。
……いや、お前が言う程逆井に過激な二面性は無いだろう。
まあメンタルは時々クソ雑魚になるが。
「そうか? むしろ逆にそれで良くバレないな。……な、ルオ?」
「えっ? えーっと……ボクも直ぐには分からなかった、かな?」
ありゃ、そうなのか。
俺より先に声掛けてたし、直ぐに気付いてたように思ったが。
ルオが少し気まずそうに苦笑して頬を掻くので、ちょっと自信が無くなってしまう。
逆に空木はほら見ろと言わんばかりにドヤ顔だ。
……いや、何で見抜いた俺が自信揺らいで、反対にお前が威張ってんだよ。
「まああれじゃねえか? ボッチだし、人を疑う目が日々養われてるんだよ。それに、近頃は裏表の激しい人と接することも多いしな」
志木とか、シーク・ラヴのエース格の人とか、後はかおりんさんとかね。
「あー……確かに。あれ、何で他の皆騙されるんですかね? ってか、ウチらだけしか気づいてないとしたら、ヤバいですよ。花織ちゃんが実は超悪者で、悪の組織の女統領とかだったら気付かれない内に世界は終わりです」
俺は別に誰とは言ってない、言ってないぞー。
ただ志木が女幹部とか女統領とかだったら、それはそれでファンとか信者は歓喜一色だろう……。
平然と男でも“花織様”って呼ぶもん、そりゃ違う意味で世界は終わるな。
「でもそうか……結構分かり易かったと思うけどな」
改めて空木の変装の話に戻る。
「えっ、そうかな? ミオお姉さんの変装、凄い手が込んでるから、ボクでもパッと見では分からなかったよ?」
「ふふんっ。まあそれほどでもないです。……と、調子に乗るのはここら辺で。――やっぱり有名になってきましたからね、外にちょっと遊びに行くのでも気を遣うようにはなったんです」
空木は真面目な顔で告げ、ただ直ぐに不思議そうに首を傾げる。
「だから、あんな直ぐにウチだってバレちゃったんで、内心では結構焦りました。ただ、ルオちゃんもお兄さんも特殊だってことが分かり、ホッとしてます」
いや、ルオはそりゃ普段から他者を演じることが多いんだ、逆に相手の変装を見抜く目も鍛えられてるだろう。
俺は……違うと思うけどな。
普通に空木の変装がザルだったんだと言いたいが、ルオがそうじゃないと言ってるんだ。
なら――
「……まあ素の空木を良く見てきたからじゃないか? まだ長い付き合いって訳じゃないが、それでも一緒にいる時はそれなりにちゃんと見てたからな、空木のこと」
ってか空木に限らず、逆井も、赤星も、他のメンバー達もそうだ。
一緒にいる時は殆どダンジョン関連で真面目な場面が多かったから、相手の顔とかも知らない内にちゃんと見て、記憶に強く残ってるんだと思う。
「…………」
?
空木がポカーンと口を開けて固まっていた。
どしたの?
「……ああ、なるほど。リヴィルお姉ちゃんの言ってたことは、こう言う事だったんだ」
はい?
ルオさん、何のことっすか?
女難の日の奴?……いや、今は全く関係なくない?
「――っっ!! お兄さん、そう言う事、他の女の子にホイホイ言ってたら、その内ヤンデレとかメンヘラに引っ掛かりますよ!!」
再起動したと思ったら、いきなり捲し立てる様に理不尽なことを言われた。
ってか何でその二つ限定!?
「全くもう……ウチだから良かったものの……そ、そうです、ウチだからまだセーフだったんですからね。気を付けて下さいよ?」
……空木はヤンデレでもメンヘラでもないって事?
「うっす、気を付けます」
それで引き下がってくれたので、俺もホッと息を吐く。
何だかよく分からん……。
今度はこっちが首を捻りつつも、空木が落ち着きを取り戻すまでは大人しくしていた。
――おっ?
そこに、メールが届いた。
ラティアからだった。
『……お待たせしました、ご主人様。ルオを連れ帰っていただいて、もう大丈夫です』
結構話し込んだからな……時間も良い感じに稼げたようだ。
だが文章はそれで終わりではなかった。
『ただ……ご主人様が帰って来られた時には、もう、いつもの私はいない物と思ってください。リヴィルも、レイネも、そしてロトワも。……ご主人様の知る私達は消えていなくなります。ですので――』
何やら不吉なことを予感させる内容の最後、ラティアはこう締めくくっていた。
『――何があっても、ツッコミは無しで、お願いいたしますね?』
後1話で終われそうです。
ラティアが意味深なことを告げてますが、まああまり深く考えなくても大丈夫です。
とりあえず逆井さんはムッツリスケベ処女ギャルってことです(違)




