361.……アカン、マジで打ち切りだ。
お待たせしました。
……すいません、学園祭編、終わりませんでした。
後1話必要になりました。
一先ずどうぞ。
「あ、あの、陽翔様! このお礼は必ず! ですので、わっ、私の膝で宜しければ、いつでもお使いくださいませ!」
「ああ、いや……気にしなくて良いから、うん」
目覚めた皇さんは再び元気一杯になっていた。
それこそお返しにと膝枕の約束まで取り付けようとするくらいだ。
その元気は学園祭の運営に使ってくれていいんだよ?
……それにこの後が一番大変なんじゃなかったかな?
「――御嬢様、そろそろ……」
「あっ、はい、直ぐにっ!――では、陽翔様、ルオさん、ラティア様。本当にありがとうございました。引き続きお楽しみくださいね」
皇さんは笑顔を浮かべ、軽快な足取りで外に出て行った。
……あれなら、大丈夫そうだな。
「では私達も、また学園祭巡り、再開いたしましょうか」
「……だな」
俺達も少し時間を空けて、再び学園祭へと戻って行ったのだった。
「――はい、チケット、どうもありがとうございます! こちら、入場特典です。お好きな物をお選びください」
「うっす。んーっと……」
俺達がやって来たのは、高校にあるにしては珍しい大きな講堂だった。
月園女学院は体育館とはまた別に、全校集会も出来る広い講堂を所有しているのだ。
そこが演劇のステージとして使用され、体育館は体育会系の部活動が使う場となっている。
流石は私立の御嬢様学院だ、一般の学校とはスケールが違う。
「……じゃあ、これで」
簡易の組み立てテーブル上には、本物のライブの物販の様に、沢山の団扇が並べられていた。
受付の女子生徒に“花織様、こっち向いて!!”と印字された団扇を貰う。
ちなみに他には“L・O・V・E♡律氷!!”や“六花様ぁぁぁぁ!! 流し目下さいぃぃぃ!!”、後は“花織様の笑顔だけでご飯3杯行けちゃいます!!”などがあった。
……いや、流石に志木の笑顔だけで白飯3杯はキツくないか?
「ですねぇ……オカズには違いないでしょうが……」
……ラティアさん?
俺と会話が成立しているようで別の話をするのやめてもらえます?
そして俺にだけ聞こえるように呟いて反応を楽しむの、先生悪質だと思います。
全く……志木がオカズとか、絶対本人には聞かせられないワードだな。
一歩間違うと黒かおりん降臨案件だぞ。
「はい。――では、どうぞ、ミニライブ、お楽しみください!」
「うっす、どうも」
入場を認められ、同じくチケットの半券を手にした二人と共に、講堂の中へと進んだ。
「うわぁぁ、中も凄く綺麗で広いですねぇぇ……」
「はい。厳かな雰囲気もあって、でも自然と落ち着く良い所です。……旦那様、ミニライブ、リツヒも本当に出るのでしょうか?」
不安そうな表情だ。
何も知らない人から見たら、こんなオリヴェアの切なそうな表情だけで庇護欲を掻き立てられるだろう。
ただ中身はルオで、そして純粋に皇さんの身を案じていると分かっているので、邪まな気持ちも起こらない。
……何より、本物の痴態を知っているからね。
どうして“五剣姫”なんてカッコいい肩書があるのにああなったのか。
「まあ大丈夫だと思うけど。これには志木も逸見さんも出るんだし、何かあってもサポートは万全だろう」
「ええ。それにサプライズゲストもいらっしゃるでしょうから。ハヤテ様かリア様か、チハヤ様か……何方かは分かりませんが、一緒にフォローしてくださるのでは?」
ラティアの言葉に、ルオも納得気に頷く。
それで皇さんの話は一旦切れ、開演までの間、他の雑談をして時間を潰す。
この何でもない時間もまた、ラティアやルオにとって楽しい一時となっていれば嬉しい。
志木が出る演劇のチケットはダメだったが、こちらのチケットは何とか入手することが出来ていた。
考えようによっては一度に知り合い3人を見ることが出来るので、これで良かったのかもしれない。
『ただ今より、“シーク・ラヴ”出演ミニライブを開催いたします――』
しばらくして講堂内の光が落ち、アナウンスが流れる。
そして前方に設けられた仮ステージに眩い光が当てられた。
耳が痛くなるくらいの大きな歓声が起こる。
志木が中央に現れ、その左右を皇さん、そして逸見さんが固める。
勿論皇さんは先程別れた時の制服ではなく、二人と同じ紺を基調としたアイドル衣装に身を包んでいた。
表情にもやる気が満ちていて、全く疲れを感じさせない。
『――皆さん、こんにちは! シーク・ラヴで探索士アイドルをしている、志木花織です! 今日は合同学園祭の最終日ですが、最後まで盛り上がって行きましょう!!』
マイクを通した志木の声に、講堂内の熱気が一瞬にして跳ね上がる。
ミニライブが、スタートした。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
3人の臨時ユニットはカッコよさ・クールさを前面に押し出した曲を披露した。
志木が中心となってキレのあるダンスを完璧にこなし、皇さんと逸見さんもそれに無駄なく付いて行く。
歌も耳に残るフレーズやテンポで、激しいダンスと相まって観客を魅了する。
「キャァァァァ!!」
「あっ、尊すぎて死ぬ――」
「花織様、素敵ぃぃ! 素敵すぎる、私と結婚してくださいぃぃぃ!!」
……主に女子の黄色い声援が凄かった。
普段は男子禁制の場所だ、もっと他校の男子生徒を中心に暴走気味になると思っていたが、とんでもない。
この学院の生徒だろう女子達が応援するパワーに圧倒される。
そしてそれに負けじと他校の女子達も、目一杯声を張り上げて声援を送るのだから凄い。
改めて、シーク・ラヴは女性人気も半端じゃないと思い知らされた。
途中で倒れた子でも出たのか、“急いで運んで、保健室よ!!”“ちょっと、鼻血くらいは自分で何とかしなさい!”みたいな声まで聞こえてきたしね……。
そして歌が終わり……。
頂点かと思っていたボルテージは、スペシャルゲストの登場で更新される。
『――どうも~! 逆井梨愛でーす!! ――うわっ、メッチャ盛り上がってんじゃん! まあ分かる、分かるよ! 袖から見てたけど、かおりん達、カッコ良過ぎだし! アタシ凄い出辛いって!!』
「キャァァァァ!! 梨愛様よぉぉぉ!! よっ、花織様の正妻!!」
「うわっ、志木さんと逆井さんの共演……! 推しが揃うとか――もう私、今日突然死して異世界転生してもいいや」
「あと一人! あと一人で5人揃うのっ! ――お客様、お客様の中に椎名様はいらっしゃいませんか!? 既にほぼ正規メンバー扱いされだしている椎名様はいらっしゃいませんかー!!」
……おいおい。
ボディービルダー大会のポーズ審査中に聞こえてくる愉快な掛け声かよ。
詳しくは知らないけど、なんかフレーズが面白くてよくテレビで取り上げられる奴。
「リア様だったんですね、ゲストは……ご主人様、ご存じでしたか?」
「いや、今知った」
「それにしてもリアさん、この学院でも大人気ですわね……」
ルオが感心するのも無理ない。
逆井の言動は御嬢様とは無縁の、今時のギャルっぽくとても軽いものだ。
だからこの学院の生徒とは相性が悪いかと思えば、そうでもなく。
むしろ学院の外の生徒ってこういう感じなのかと、とても好意的に受け入れられていた。
勿論、この学院で不動の人気である志木と、特に仲が良いのもその要因の一つだろう。
……ふむ。
「やはり世界の流れは百合か……」
「…………」
……ラティアさん?
何とも言えない表情をされてますが、どうかしましたか?
「……いえ。まあそっちから入って、本線に合流、というのもアリかな、と考えてました」
いやどういうことだってばよ。
だから、俺と会話してるようで実は別のこと話すのは止めようぜ……。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
『――あっ、そう言えばさ、さっきまで時間貰ってたからコッソリ学院巡り、アタシもさせてもらったんだけど……じゃぁ~ん!! スタンプ貯めて、アタシ、かおりんの写真貰っちゃった!』
曲の披露が終わり、逆井も登場して、ミニライブはトークショーに突入していた。
逆井が手に取った写真は最初遠くて上手くは見えなかったが、背後に大きなスクリーンが用意されていて、それに同時的に映し出される。
『ウフフ……あらあら。これ、花織ちゃんのお着替えの時ね? 可愛いおへそが丸見えになっちゃって……』
『御姉様、とても無防備にお腹を晒していらっしゃいますね……』
『も、もう! 梨愛さんっ!! どうしてよりによってこんな恥ずかしい写真を選ぶの!?』
講堂中に笑い声が起こる。
志木はまたそれが更に恥ずかしいというように怒ってみせた。
……チッ、美少女は得だぜ、怒った顔もまた可愛いときやがる。
何か癪だな……。
『ニシシっ、えー良いじゃん、かおりん可愛いんだしさ! ――あっ、じゃあこのアンケートアプリ、の奴、見てみよっか! 誰の写真と交換してもらったか』
『うぅぅ……それ、御姉様だけじゃなくて、私の写真のことも話に上がり、ますよね?』
『ウフフ、律氷ちゃんも大人気だったって聞いてるから大丈夫よ。私の写真なんてそもそも10枚もなかったって話だから、私の方がこの結果見るの、不安だわ~』
逆井や皇さん達が話しているのは、この学園祭だけのために作られたアンケートアプリだった。
入場の際に貰った団扇の裏にも、そのアプリへと飛べるQRコードが記載されていて、随時アンケートを取ることが可能となっている。
既に“景品交換所にて誰の、どんな写真を交換しましたか?”“その理由は何ですか?”と尋ねるアンケートが立ち上げ済みであり、俺も一応答えていた。
匿名、適当にその場で作った名前でも回答が可能だ。
また回答した人にはポイントが付与され、学園祭内で使用可能となっているため、積極的に答える人は多かったと思う。
『改めてそう言う事を自分で見るのって、凄く恥ずかしいんだけど……もう、梨愛さんの意地悪』
良いぞ逆井、もっと辱めてやれ!!
そうしてかおりん×りあでゴールインしちまえ!!
だがそうしてちょっと膨れて逆井を睨む仕草も様になっていて、普通に可愛らしい。
周囲で黄色い歓声が飛ぶわ飛ぶわ……。
……何やっても可愛いとか、コイツ、実はチーターか!
司会者が急遽持ってきたスマホを1台、逆井へと手渡し、その中にあったアプリを開く。
アンケート結果の項目へ移動すると、大方の予想に反することなく、志木がトップだった。
志木が約4割、皇さんが3割強、2割くらいを他の探索士で分け合い――
『へぇぇ……回答無しもまあいるよね。“その他”がちゃんと1%いるってのが意外』
『むっ、梨愛ちゃん、それはどういうことかしら? 私の写真なんていらないって事?』
逆井が変な所で逸見さんの怒りに触れそうになり、またドッと笑いが起こる。
おいおい、逆井、お前は鈍感系主人公かよ、ったく……フフッ。
『……これって、“理由”も見られるんですよね? ちょっと見てみましょうか』
『そ、そうですね! それも面白いかもしれません!!』
逆井をフォローするように、志木が提案し。
そして皇さんもそれを肯定する。
……ほほう、志木も逆井を無意識に庇っちゃって。
やっぱり相性バッチリですな、グヘヘ……。
『六花さんのことが意外って訳じゃないですけど、そもそも私達以外の写真が交換の対象って知りませんでしたから。やっぱりまずは“その他”から見てみますか』
『はい! では私が読み上げますね。えっと……』
皇さんが良さ気な回答理由を探していく。
その皇さんの集中している姿がバックスクリーンにデカデカと映り、講堂内は湧く。
うん……確かに皇さんの真剣な表情は可愛いけどさ、盛り上がり過ぎじゃないか?。
もっとこう、大人の余裕みたいなのを持って見守ってあげられないかね……。
『あっ――……読みますね。“ボッチが生き甲斐”さん。“椎名”の写真と交換されたようです。“理由:フィーリングが合ったから”だそうです』
え゛、俺の奴――
『……“ボッチが生き甲斐”?』
『……“椎名さん”の写真と、交換? ふーん……そう』
『“フィーリングが合ったから”――ウフフッ、椎名ちゃん、隅に置けないわね』
3人が引っかかるような反応を見せたのはその一瞬だけだった。
次の瞬間には普通に戻り、他の“その他”の理由も読み上げ、面白おかしく進行をこなしていく。
だが俺には、その一瞬の引っかかりだけでも、冷や汗をダラダラ垂らすには十分であった。
……あ、これ終わった。
後で即、椎名さんにバレる奴だ。
で、意図を何か変な風に取られて、結局俺が死ぬ奴。
“フィーリングが合った”ってのも、ただ単にタイミングが合ったってだけで、それ以上の意味なんてないのに……。
「えーっと……ご主人様、おそらく、シイナ様以外の方からも、追及を受けるかと思いますが」
「ええ……旦那様、多分一つ、勘違いが入っているかと」
二人が何か助言してくれているが、殆ど耳に入ってこなかった。
……ずっと幻聴がするのだ。
さっきまで停止していたはずの時限爆弾が、突如カウントダウンを再開し、猛スピードで秒数を減らして行く音が。
カチカチカチカチカチカチ――
ドカーンッ!!
…………。
――学園祭編、完!!
今までしがないボッチの人生をご覧下さり、ありがとうございました!
新海先生の来世にご期待ください!!
アカン……このままだとマジで俺の人生打ち切りだ。
※注:学園祭編、終わってません!
代わりとばかりに主人公の人生が終わってくれそうです、ありがとうございました!!
……“ペンネーム・適当に作った名前”でも、個人を特定されるような特徴あるものはダメですね(白目)
次話、本当に終われるはずです!
で、ルオのお祝い回に突入できる……と信じてます!!




