35.あれれぇぇ? おかしいなぁぁ? 文字にすると、俺がとんでもない奴に見えるよ~?
戦闘が終わったので、まあこういう力の抜けたお話になりました。
後、やっぱり明日はもしかしたら投稿お休みするかもしれません。
「ふぃぃぃ……見たか、ゴブリンどもめ!」
残党を始末したのは、主にラティアの魔法とリヴィルの物理だということには目を瞑り。
〈Congratulations!!――ダンジョンLv.22を攻略しました!!〉
俺はボス戦、そしてダンジョン攻略を終えたことを確認する。
丁度あのいつもの音声が聞こえてきたことで、俺はようやく全身から力を抜いた。
「おっ――」
そしていつの間にか、目の前にあの台座が出現していて。
更にモンスターの死骸のあった場所には、掌に収まるくらいの鈍く光る石が落ちていた。
「これって……」
俺がそれを拾おうと腰を屈めた時――
「――ご主人様っ!!」
「マスター、無事っ!?」
「大丈夫なの、新海っ!?」
おおうっ、3人が真っ先に俺の元に駆けてきた。
リヴィルに至っては珍しく物凄い青ざめた顔をしているし。
何だ何だ……。
「えっっと……何が?」
中途半端だったその石を拾いながら、3人に首を傾げて見せる。
「“何が”って、もう!!」
逆井が焦れったいという風に近づいてきた。
そして俺の腕を強引に取って見せる。
「これっ!! 傷だらけじゃん!! 腕もだし、脚も――」
今度はしゃがんで、俺の下半身――具体的には、両太腿を掴んで、そこから脚全体を観察しだした。
ただ、逆井は自分がどんな体勢なのか、気づいていないようで――
「あの、逆井――」
「新海っ!! じっとしてるし!! ――うっわっ、真っ赤になってる……」
逆井に言われ、体を動かさずにいるが、どうもこの体勢が俺の精神衛生上よろしくない。
そう思ってそわそわしていると――
「――マスター、ゴメン……」
神妙な顔で、今にも倒れるんじゃないかというくらい顔色を悪くしたリヴィルがいた。
「いや、何でリヴィルが謝んの? むしろ良くやってくれたじゃんか」
そう励ましてみるも、リヴィルの表情は晴れない。
「だって、私がもっと早く片付けてれば、マスターの傷はもっと――」
「だから、逆にリヴィルがいたからこそこれだけ早く終わらせられたんだ……」
しかし、なおもリヴィルは言い募ろうとする。
そこに――
「――リヴィル、先ずはご主人様のお怪我の治療をしましょう」
見かねたのか、ラティアが優しく労わるように、そう言葉を掛けてくれた。
おお、流石ラティア!!
リヴィルもその一言でハッとしたように、ラティアへと頷き返す。
「ご主人様、失礼します――リア様が脚の方を見てくださってますので、私達は腕の方を」
ラティアがサッと移動して、俺の右腕をとった。
「二人とも、上の方お願いね!! ――ゲッ、腫れて赤くなってるじゃん……もう、新海何でこんなになるまで気づかずほっとくかな……」
逆井が顔を上げずに二人に声をかける。
「うん、了解……ラティアの真似をすればいいんだね」
見様見真似で、リヴィルは反対の方の左腕を掴む。
……うん、心配してくれるのは嬉しいんだ。
――でもね、よく考えてみようか。
「――あんっ、れるっ、んっ……」
いつかの時みたく、必死に俺の血を止めようと腕に舌を這わせるラティア。
「ん、もう……新海、また、無茶して……」
俺の“股間”の前に頭を置いて、怪我の具合を確かめるため膝立ちで、顔を忙しなく上下に動かしている逆井。
「マスターを、舐めれば、いいんだね――んっ、ちゅる……」
そしてラティアを真似て、ぎこちないながらも一所懸命に唾液を分泌させて舌を動かすリヴィル。
――さあ、どうだい、もう俺が何をマズいと思ったのか、お分かりだろう。
え?
分からない?
――なら言語化してやろう、一発でわかるように。
ネットリとした唾液を惜しげもなく垂らし、まるで好物を味わうように腕を舐めていくラティア。
反対の腕を、息を切らしながらもベトベトになるくらいに舐めに舐めるリヴィル。
その二人に気づかないくらい夢中になって、俺の股間の前で顔を動かしている逆井。
その逆井は体勢を安定させるためか、俺の太腿を両手でそっと掴んでいる。
そして、ここは他に誰も足を踏み入れてこないだろうダンジョンの中。
――俺、第三者視点だと、美少女3人にとんでもないことさせてるゲス野郎じゃねえか!!
「――ぬゎぁぁぁ!! 一旦離れてくれぇぇ!!」
主に俺の名誉のためにも!!
そうして何とか必死に説得して、ようやく離れてもらうことに成功したのだった。
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「≪癒しの光よ、その身を包み、安らぎを与えよ――≫【ヒール】!!」
説得する際に【回復魔法】の存在を告げたので、実際にそれを用いる。
Lv.1なので、深く刺された部分は流石に完治しないものの。
目に見えるような浅い傷はどんどん塞がっていき、直ぐに痛みも引いていった。
「……そういうのがあるんなら、先に言って欲しいんだけど」
顔を真っ赤にした逆井は拗ねるように横を向いていた。
……自分が客観的にどういう体勢を取っていたのかを、察したらしい。
「……いや、ほんと、見た目ほど酷くなかったから逆に、逆井達の勢いに押されて、な」
「う、うぅぅぅ……」
ラティアも、俺が【回復魔法】を使えると失念していたようで、恥ずかしそうに顔を伏せて小さくなっている。
俺はもっと恥ずかしがって欲しい部分があるんですが……。
「……何かマズかったの?」
唯一わかっていないようなリヴィル。
常識があるようで、抜けてる部分があるからな、リヴィルは……。
「まあ……それはまた後でな」
俺は未だ少しだけズキズキする肩は無視し、今後どうするか、相談することにした。
スマホを見てみると、もう9時を回っている。
「――流石に、今日はもう引き上げるか。 明日も学校、普通にあるし」
「あ~。そう言えば」
逆井の嫌なことを思い出させないで欲しい、という声はスルーして。
「ってかむしろ明日以降が本番だしな」
「うー。今日が登校日だったもんね。なんか今日一杯あり過ぎて、もう明日がっこ行く気しないんだけど」
全くもって同感だが、無視する訳にもいかないだろう。
それに――
「赤星も気にしてるだろう。俺たちが一向に戻らないとそれはそれで心配させる」
「うん、それはそうだね。ハヤちゃん一人に任せてきたし……ってか、これ以上何かあるの?」
「……」
「えっと、それは……」
逆井の問いかけに、リヴィルとラティアがどう答えていいのかと俺に視線を向けて来た。
「……まあ、まだあるっちゃあるが、攻略した今、急ぐことでもない……――うん、戻ろう」
DPかダンジョン捕獲か、みたいな部分は明日以降にまた来ればいいだろう。
攻略したんだからDD――ダンジョンディスプレイのテレポート機能も使えるし。
「そっか――はぁぁ。でも、また来た道戻るんだよね?」
「行きよりは楽だと思いますよ? モンスターと遭遇することもありませんし」
「ああ、そっか。でももうアタシ足くたくたなんだけど……新海」
ラティアに愚痴を聞いてもらっていたと思ったら、今度は俺に振ってきやがった。
何だか嫌な予感――
「何だ」
「アタシのこと、さ……負ぶってく?」
……それ、言う本人が恥ずかしがってどうすんだ。
俺は気にせずに歩きだした。
後ろから3人が付いてくる。
「えぇぇぇ……――俺ぇぇ、一円玉より重い物、持ち上げたことないんですぅぅぅ」
俺はできるだけウザく聞こえる声でそう言った。
「うっわ! 何その腹立つアイドルみたいなノリ! ってか声キモっ! 裏声キモッ!」
酷っ。
「お前も。これからそのウザ可愛いと自称してくるアイドルと、鎬を削ってかないといけないんだろ? 練習しとけ、俺で」
何とか話を逸らして、先ほどの話題を忘れさせようと努める。
「いや、新海は誇張し過ぎだし!! そんな裏では何考えてんのか分からなそうなアイドル、そうそういないっしょ?」
いや、君、“かおりん”さんって、知ってる?
多分君の想像以上に腹黒いよ、あの子。
「ニシシッ、ってか、新海、照れてんの? アタシを背負うと胸が当たっちゃうから、うんうん?」
そう言って逆井はあえて強調するように、探索士の制服である薄いインナー部分を引っ張って見せた。
そして弾くと、胸に当たって軽く上下にバウンドする。
そういえば、プッチ○プリンを皿に移したら、プルルンって震えるよね。
うん、関係ないけど。
「……そのノリが正にウザ絡みじゃねえの? お前、アイドルになんだろ? 気を付けた方がいいぞ」
一応親切心で言ってやると、途端に逆井の表情が曇る。
「――ってか……そんなにアタシのこと、背負うの、嫌?」
一転して不安そうな表情になる逆井は、自分の制服、肘まで覆うグローブなどに鼻を持っていった。
そしてスンスンと嗅いでみる。
「……いやだから、汗が気になるとか、そういうんじゃなくて――」
「じゃあ何だし!!――」
「だから、そういうウザ絡みが――」
「フフッ……」
「……仲、良いんだね」
ラティアとリヴィルが偶に相槌を打って。
俺と逆井がわーわーと騒々しく話しているうちに。
「――あっ、戻って来た!! おーい、皆ぁぁぁ!!」
いつの間にか、俺たちは外に出る入口まで戻っていて。
そしてそこから出ると、赤星が俺たちを待っていてくれた。
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「おぉぉぉ。これは広いな……」
「凄いですね、このお部屋」
「……この敷物? 良い匂いするね」
「うわぁぁぁ……本当に、これいいの!? 5人部屋だけど、お金、大丈夫!?」
俺たちは今、場所を移して。
旅館の一室へと来ていた。
5人部屋とあって、かなり広い。
畳の部屋以外に勿論、寝室もちゃんとある。
それに部屋に露天風呂が個別についているので、旅館の共用の風呂まで行かなくてもいいのだ。
「え? うん。お金は大分余裕を持って財布に入れてきたし、それにリアも貰ってるでしょ?」
俺たちがダンジョンへ潜った後、役所に行ったり、近くの店に近づかないよう説明に赴いたりと、かなり忙しかったようだが。
赤星は何でもない様にそう言ってのけた。
「え? お金? えーっと……」
「ほらっ、この前まで講習受けてたでしょ? あれもお給金出てるんだよ?」
「え!? あっ、そうか!!」
「それに――」
そこで、赤星はチラッと俺たちを見て、申し訳なさそうに続けた。
「私達、“最初のダンジョン攻略者”ってことで、それでも随分貰ってるから」
「あ、ああ……」
察した逆井もどう反応すべきか困っている様子。
「フフッ……あの時のこと、良い思い出ですね」
ラティアは同じ出来事でも、別のことを思い出して目を細めていた。
「……まあ、な」
良い思い出かと聞かれると微妙だが、まあわざわざ否定することでもないだろう。
「?」
この場でリヴィルだけが、あの時のことを知らないので少し首を傾げている。
「ははっ、すまん、リヴィル、また今度な」
俺はそんなリヴィルの様子がおかしくて、指で額を押す――寸前、切り替えて撫でてやる。
「ん……もう、マスター、さっきからそればっかり」
「は、はは……」
あ、危ねぇぇ……。
一瞬、未来で血だらけの俺がリヴィルを小突いて“許せ、リヴィル、これで最後だ”って言ってる想像しちまった。
何リヴィルの闇落ちっぽい覚醒フラグ立ててんだよ。
俺、何かの犠牲になって死んだりしないから。
絶対だから!!
「――まっ、いいじゃん。今日はゆっくり休んで。明日二人は学校でしょ?」
赤星が仕切り直すようにして、俺と逆井に確認する。
「うん。ってか、新海、本当に明日の朝あっちに戻れんの?」
「ああ、まあ俺の家の近くに移動できるだけだから、そっからは自分で帰ってもらうことになるが」
疑わしそうに聞いてくる逆井に、DDのテレポート機能を念頭に置きながら説明する。
すると、なぜか逆井と赤星が二人だけで一気に盛り上がってしまう。
「えっ、えっ!? なになに、朝帰りですか!? もうそこまで関係を進めたの!?」
「ちょ、ち、違くて!! まだそこまでは――」
「ほほう、“まだ”とな? おじさんそこんところ気になるから詳しく説明を」
「や、だから!! もう、ハヤちゃんのバカ!!」
……何を話してるかしらんが、やっぱ女子は姦しいねぇぇ。
「――じゃあ、俺たちも今回はお言葉に甘えて、ゆっくり休ませてもらおう。温泉もあるみたいだしな」
時刻はもう直ぐ10時だし、言葉通りどこまでゆっくりできるかは分からんが。
「はい!! リヴィル、一緒に入りましょう!!」
「ん。……楽しみだね」
ラティアとリヴィルは、お泊りということでそれぞれリラックスしながらも。
どこかワクワクとした様子で、楽しそうだった。
ふぅぅぅ……今日は一日だけでグッタリするくらい疲れた。
俺も温泉に入って、少しでも休ませてもらうか。
――そんな俺の考えは、直ぐに脆くも崩れ去るのだった。
すいません、今日明日忙しくて……。
感想の返信も明日以降になるかもしれません。
申し訳ないです。




