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350.……じゃあな。

お待たせしました。


ではどうぞ。



「――こんな機会をくれてありがとう、ラティアさん」


「いえ。折角ですので遠慮なく、全力でいらしてください」



 志木とラティアが中央に陣取り向かい合う。

 スペースを空けるため、俺達は隅に移動した。



「じゃあ、5分程外におりますので」


「私も見たかったわ~。二人の手合わせ」



 一方で椎名さんと逸見さんはレッスンスタジオを一時退出する。

 これから、レッスンスタジオ本来の利用法とは異なることをするからだ。


 念のため誰も入ってこないよう、外で待機してくれるらしい。



「まあ大丈夫と思うけど。二人とも、ケガだけは気を付けてね?」


「……いや、颯ちゃん、ケガでは済まないよ。これはお兄さんを巡る女と女の闘い。……死人は覚悟した方が――」  

  

「――ちょっと美桜さん!? さも深刻そうにして適当な嘘吐くのは止めてもらえるかしら!?」



 おぉぉ。


 やるな、空木。

 あの志木にツッコミをさせるとは。


 

 ……まあ流石の志木も、根も葉もないことを言われれば反射的に反応もするか。



 だがこれはこれで、コアなファンでもお目にかかれない貴重な瞬間だった。

“やめて! 俺のために争わないで!!”なんて起きようもないことをネタにしたの以外は褒めてやろう。



「はぁぁ。……まっ、志木の腕試し的な事なんだろ? 素手だし。万が一何かあっても、俺が治すから」


 

 俺が今日来た理由の一つはそれだろうからな。

 それにラティアも志木も、手合わせの趣旨からして相手を本気で傷つけるような攻撃はしないはずだ。


 

「……“グヘヘ、治療費は体で払ってもらおうか!”とか、“治療に必要だから。なんで、さっさと服脱いで。胸も触診するけど、全部治療だからうん”とかですか?」



 ……空木、お前本当にトップアイドルグループの一員か?

 完全に思考がスケベなオッサンのそれなんだが……。



「もう、全く……――じゃあ、ラティアさん、良いかしら?」



 志木は素早く意識を切り替え、ラティアの準備を尋ねた。



 今回、志木はラティアとの手合わせを望んだ。


 それはダンジョン以外での強者への挑戦という意味もあるらしい。

 だが一番は、自分に緊張感・向上心を持たせるため、ということだと話した。


 俺達のパーティー内では、いつもラティアには後衛を担ってもらっている。

 だがそれでも地球に来て、モンスターを何体も倒し、ラティアも普通に強くなっている。

 志木から見たら近接戦闘に限定しても十分に手合わせ願いたい存在なんだろう。

 


「はい。いつでもいらしてください」


 

 そしてラティアも、その申し出を快諾した。

 ……まあライブのチケットとはまた別に、この件の“お返し”があるってことも引き受けた要因の一つだろう。

 

 ただラティアも、志木の願いに応えたいと思ったのが大きいんじゃないだろうか……。

 

 

 そのラティアは準備万端な事を示すように、表情をキリッとさせる。

 ダンジョンに挑む時と同じくらいに気を張って志木を見据えていた。



「……ふぅ。――っ!!」



 それが伝わり、志木も瞬時に雰囲気を変える。

 レッスンスタジオ内に緊張が満ちて行く。


 それが頂点に達した瞬間、志木が駆けた。



 おっ、速いな。

 


 一瞬にして間合いを詰め、ラティアへと突きを放つ。

 速さではシーク・ラヴ一の赤星も、純粋に驚いたような声を上げる。

 

 それほどまでに、志木の動きは洗練されていた。



「――っ、やぁ!!」 



 だがラティアは、それに反応した。

 左腕で軽く拳をいなし、右足を蹴り上げる。



「くっ!――」

 


 志木も反応されて驚きの表情を浮かべる。


 しかし、直ぐに対処する。

 顔に迫るラティアの脚を、左腕でガード。


 受けた肘辺りに衝撃が襲う。

 志木の顔が一瞬険しくなる。


 だがサッと切り替えた。

 防御に使った左腕を動かし、ラティアの脚首を掴む。



「っ!!」

 


 今度はラティアが驚く番だった。

 しかし負けじと、そのまま強引に志木を蹴り飛ばす。


 掴んだ手が離れた。

 

 だが横に長い部屋の殆ど壁際辺りで失速。

 志木は華麗に床に手を突いてバク転し、体勢を整える。



 そこで、一度仕切り直すかの様に、二人は止まった。



 ……おぉぉ。

 ただの純粋な体術のみでの手合わせだが、とても見応えがある。


 やっているのが、誰もが見惚れるような絶世の美少女二人だからか。

 ずっと見ていられるような気さえして来る。


  

「はっ、速いっ!? くっ……花織ちゃんとお姉さんの胸の弾み――いえ。動きしか追えませんでした……」 



 ……空木ぃぃぃ。


 


□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「はっ!!」


「っ! ――ふっ、えぃ!!」



 それから二人の攻防は更に続いた。

 どちらかと言えば若干ラティアが押されている、かな?


 だが近接戦闘においては殆ど差はないように思えた。


 それを示すように、志木もラティアも。

 この拮抗した手合わせが出来る時間を、とても楽しんでいるように見える。



 同年代で、また、波長も合う。

 ライバルでもあり、もっと近しい友人にもなれる。


 この手合わせを通じて、そんな確信でも持てたんじゃないだろうか。


 

「……凄いね。ラティアちゃんがここまで動けるってのもビックリだけど」 


 赤星は純粋に驚きながらも、ずっと目を凝らし続けていた。  

 目の前で繰り広げられる手合わせから、何かを学ぼうとする向上心が実に赤星らしい。



「志木さんも、全然負けてない。……うん、総合力だけじゃなくて、速さも、私と同じかそれ以上かも」


「まあラティアはパーティーの編成の都合上で後衛にいるだけだからな」



 サキュバスで、なおかつ魔法に特化しているから、ラティアは近接戦闘はからっきしダメだという印象があったかもしれない。

 ただ普通に人よりも強いし、その上でモンスターを倒して成長している。


 異世界人と言うこともあって、運動能力も基本的には高いのだ。



「……えー、球審の空木です。全くウチの目では追いきれないんで、リプレイ検証をして欲しいんですが、とりあえず反則とします」



 ……何言ってんだお前は。

 赤星とは違い、空木は淀んだ目でこの模擬戦を見ていた。

   


「いや、花織ちゃんは良いんですよ、前衛だし。……お姉さんは後衛だし、あんまり頑張らないで欲しい。ウチが比較されるじゃないですか」



 あぁぁ……。

 でも、流石にラティアと比較して、空木が働いてないなんて言う奴はいないだろう。

 

 ……ただ、志木に似た意図が無かったわけではないと思う。



 今日どうして事務所が違う空木を呼んだのか。

 そして、同じく違う事務所の逸見さんの厚意には甘え、この場にとどまることを要求しなかったか。


 ……つまり、少しでもこれを見て、空木にも思う所があって欲しいというメッセージじゃないだろうか。



 まあ志木自身がラティアと手合わせして、緊張感・向上心を持ちたいというのも真実だろうが。



「くっ! せめて、あのけしからん4つの胸にペイント弾を放つ許可を!! 何ならお兄さんが手を絵の具に浸して、パイタッチでも可です! そうすれば多分ウチももっと追いかけやすくなるんです!!」


「それをしたら、その瞬間に手合わせは止まって、空木は苦労せずに二人の姿を見えるようになるだろうな」



 おそらく志木とラティア両方から、俺の頬に赤い手形を付けられるに違いない。

  

 

「――あっ、そろそろ3分だね。……二人とも、この辺にしようか」



 赤星が計っていた時間を見てそう告げる。

 あまり長引かせないために決めていた制限時間だ。


 外に音漏れはないし、逸見さんと椎名さんが外で待機してくれている。

 だが、万が一誰か無関係の人に見られては困るためにこうしたのだ。


 志木や空木、それに俺達の時間が合えば、もっとプライベートな場所でやったんだろうが。

 今回はこのレッスンスタジオが、一番時間や場所的な条件で都合が良かったのだ。

  


「はぁ、はぁ……ありがとう、ございました」


「ええ、私も、ラティアさん、ありがとう、とても良い、経験になりました」



 動きを止めた二人は互いに歩み寄り、握手する。

 流石に息が上がっているが、疲れは感じさせず、むしろ活き活きした表情だった。



「あぁぁ……花織ちゃんが、何か今ので気づきを得たような顔してますよ。更に花織ちゃんが強化されてしまった……クッ、止められなかった!」



 いや、ええやん。

 志木が強くなれば、それだけダンジョン攻略も相対的に楽出来るってことだぞ?  



「お兄さんは分かってない! ウチも! そしてお兄さんも!! 今後、花織ちゃんに変な冗談言ったら死ぬ確率がグッと上がるってことですよ!? 良いんですか、それで!?」



 はっ!?

 ……って、いやいや。

  

 まあ冗談の一種なんだろうが、それ以上はやめておいた方が良いと思うぞ……。



「ウチは、花織ちゃんに人殺しなんてさせたくないんです……そして、ウチも死にたくないです……!」



 いや志木を心配してるように見せて結局は保身かよ。

 

 はぁぁ。


 ……そこら辺にしとけ、空木。

 じゃないと――




「――ウフフ。美桜さん……少しオハナシ、しましょうか?」



 わあー。

 志木さん、素敵な笑顔っ!

 


 ……空木、お前のことは忘れないぜ。



「ヒィッ!? あっあわわわわ……違っ、違っ――」

  

「空木、良い妹分・後輩だった……」



 空木の存在に、さよならバイバイ!!

 


「お兄さぁぁぁぁん!? ウチの存在の総括しないでぇぇぇぇ!! ウチの未来を手放さないでぇぇぇ!!」 


「フフフッ……」

 


 ドナドナされていく空木を見送る。

 入れ替わりに呼吸を整えるラティアを迎えた。



「えっと、ご主人様、あの……」


「お疲れさん。帰りまで休んでてくれていいからな。さてっと……逸見さんと椎名さんを呼ぼう」



 まあ空木は……殆ど自業自得だし、仕方ない。

 ラティアには目で、それ以上は語るなと告げておく。


 

 そうして一人の尊い犠牲には目を瞑り、外に待機してくれている二人を呼び戻すのだった。


新海さんを巡る女の闘いの前哨戦(ぜんしょうせん)……ではありませんからね?

ほらっ、もしそうなら、役者が足りないと思いませんか?


謎の勇者「フッフッフ……どんぐりの背比べですか、可愛らしい争いです」

新海「…………(唯一二人に勝てる“戦闘力”の話題だからって、ドヤってやがる)」

織部「“唯一”って何ですか!? 他にもありますよ!! 私にだって、ラティアさん達に勝てる要素!!」

新海「いや、ナチュラルに読心術使わないでくれる!?」


……皆さん、“胸の小ささ選手権”とか“痴女力”とか、そんなワードは知らない、良いですね?(真顔)

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― 新着の感想 ―
[一言] >「……いや、颯ちゃん、ケガでは済まないよ。これはお兄さんを巡る女と女の闘い。……死人は覚悟した方が――」   女と女の闘いにキャットファイトとルビを振りたい。 織部「ネコとネコでは千日手に…
[一言] その二つ以外で織部さんが勝てそうなのといえば… ブレイブ(変態)度とか、ブレイブ(残念)度とかですかね? いや、織部さんの事は一番すきですけどね(
[一言] そろそろ主人公視点以外からの主人公をみたいな。本人の評価は低いけど周りの反応からイケメンなんだろうけどね。
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